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学習指導要領 |
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図画工作編
(試 案)
昭和26年(1951)改訂版
文 部 省
ま え が き
1 学習指導要領編修の主旨
この学習指導要領は,中学校図画工作科・高等学校芸能科図画・工作の教育課程を作成する上の基準として編修したものである。
教育課程は,生徒が学習を進めていく上に適したものでなければならない。そのためには,生徒の実態や学校の属している地域社会の情況を知って,その生徒たちに適したものとすると同時に,全体的立場からみて,発展的に考慮されなければならない。このような条件を備えた教育課程は,常に生徒に接している学校や教師の創意くふうによってはじめて望ましいものが作成されるわけである。
中学校図画工作科や高等学校芸能科図画・工作の教育課程を作成するには,まず何をいかなる範囲から,どのような観点から選択し,生徒たちに適した組織にするかが問題になる。本書はそれらの基準として示したものである。
2 各章の概観
本書は,次に示す10章と付録からなりたっている。各章や付録にわって,概略について述べよう。
教育の具体的な計画はすべて教育の目標より導き出される。
中学校・高等学校の図画工作教育は,生徒の心身の発達の相違や,学校の性格によって,おのずからそこに教育の目標にも,重点のおきどころが変ってくる。しかし,そこに一貫した背景をなすものは,図画工作教育がなぜ必要か,どのように教育するかということである。これを支持するものが図画工作教育の一般目標である。この一般目標を出発として,中学校・高等学校の生徒の心身の発達や,この期の生徒に期待される図画工作面からの成長発達を望む目安として,中学校図画工作教育の目標・高等学校芸能科図画教育の目標・高等学校芸能科工作教育の目標が述べてある。
中学校の図画工作教育課程を作成するには,どのような範囲から,どのような観点で,どんなものを選択し,教育課程を作成すればよいかをまず考えなければならない。
この選択にあたっては,それによって生徒が好ましい経験を積むために適切なものでなければならない。このような考えで選択されたものが指導内容である。中学校生徒は,小学校の児童に比べて,心身が発達しているので,図画工作教育課程を作成し,それを展開する上にも一般に差違が認められる。すなわち,小学校の図画工作教育の段階では,比較的総合的な取扱が多いが,中学校の段階になると,分化した取扱が多く含まれてくる。このため小学校においては,指導内容を便宜次に示す。
「描画」「色彩」「図案」「工作」「鑑賞」の五つであるのに対して,中学校では「描画」「色彩」「図案」「配置配合」「工作」「鑑賞」の七つのまとまりに分けてみた。
この七つの指導内容を中心にして,図画工作の経験を通じて生徒に好ましい能力の発達を期待するものに,表現力・鑑賞力・理解力と,表現に必要な基礎的の技術力の大きな四つの面がある。七つの指導内容は,この生徒のたいせつな図画工作の四つの行動の面からながめておくことは,教育課程を作成し,これを展開していく上に便利であると考えたので,指導内容と,行動の面とを関連づけて,指導内容を第1学年・第2学年・第3学年に分け,これをまとめて一覧表とした。
高等学校芸能科図画は,生徒の興味・適性・必要によってこれを選択することになっているので,この生徒の要求に応ずるために,指導内容の範囲も相当の幅を持つようにしてある。しかし高等学校芸能科図画は,一般的な造形的教養を身につけるところにその主眼がおかれているので,生徒の好みによって選択するといっても,全体からみてかたよらないようにすることがたいせつである。
指導内容はこれを便宜次に示す「絵画」「彫刻」「図案」「色彩」「図法・製図」「鑑賞」「生活の美化」「美術概論」の八つに分けてみた。また選択による学習コースの立て方も参考として示した。
なお,各指導内容にわたつて,その目標,指導上の注意を述べ,さらに,各指導内容に属する指導項目を取り上げ,これについて,それぞれ指導すべき着眼点などを一覧表とし,図画教育課程を作成する上の参考として示した。
高等学校芸能科工作に対する見方や,考え方は前章の高等学校芸能科図画におけると同様である。
指導内容はこれを便宜次に示す「工芸」「彫刻」「建築」「図衆」「色彩」「図法・製図」「鑑賞」「生活の美化」「工芸概論」の九つに分けてみた。また選択による学習コースの立て方も参考として示した。
なお,各指導内容にわたって,その目標,指導上の注意を述べ,さらに,各指導内容に属する指導項目を取り上げ,これについてそれぞれ指導すべき着眼点などを一覧表とし,工作教育課程を作成する上の参考として示した。
青年期にあたる中学校・高等学校の生徒は,心身の発達に一般にどのような特徴を示すか,それが図画工作の実際面にどんな傾向として現われるかを理解しておくことはたいせつであるが,その概略について述べてある。
適切に取り入れられた指導内容は,これによって生徒に望ましい図画工作の面からみた諸能力や態度・習慣が身につくように,指導を継続しなければならない。ここに学習指導の問題が重要になってくる。
図画工作の学習指導要領は,主として図画工作の教育課程を組織する上の参考資料を提供する立場をとっているので,図画工作の学習指導についての具体的な個々の問題には触れないが,しかし,図画工作の教育課程を組織するには当然図画工作の学習指導を考慮して,これと密接に関連を考えられなければならないので,本章では,図画工作学習指導にも一応触れることにした。
教育が定まった教育課程や教科書によって機械的に進められるとしたら,問題はないがこれでは生徒に望ましい成長発展を期待することはできない。このように考えると,教育は社会の進展を絶えずみつめ,これらの中に適切な資料をみつけ,これを図画工作教育課程中に組織立てて,基礎となる生徒の諸能力を望ましい方向に伸ばすものでなければならない。
学習が効果あるように進められるには,生徒が直接当面する生活経験の中に解決すべき問題をみつけ,これを巧みに組立てなけれはならない。生徒が当面する生活の場面は,中等学校の段階になければ,相当の範囲にわたるものであり,さらに生徒の成長発達を望めばその範囲はいっそう拡大されて,環境と密接に関連づけられなければならない。
このような生徒の学習に適した図画工作教育課程を作成するには,広く環境からそれに適した資料を選択しなければならない。本章はその参考のために示したものである。
教育は,生徒の望ましい個人的な資質と社会的な資質の成長発達を望むための一体となった教育活動である。この教育活動を適切に進めるには,いろいろな観点から選択した,いろいろな指導内容によって生徒の指導を考えなければならない。しかも選択した資料は,相互の関連をじゅうぶんに考えて,一体として指導面に生かされ,生徒の望ましい経験として組織立てられるようにしなければならない。
図画工作教育においても,指導の根本である教育課程を作成するにあたってこの点にじゅうぶん注意を払うことがたいせつである。
本章は図画工作の教育課程を作成する上に図画工作教育と他教育のとの関連の概略をみるための参考として役だてようとしたものである。
教育は生徒が好ましい経験を積む連続した過程が重要になる。この過程におけるよい経験を積ませるためには,指導者はその過程における要所要所に立みてっ‘せま生,生徒の生活経験の結果過程をながめ,さらによりよい経験を積やそ徒の望ましい能力のじゅうぶんな成長発達を期待しなければならない。
本章は,その生徒の経験の過程や結果を評価し,これをいかに図画工作の教育の実際面に生かさなければならないかの手続と方法について述べてある。
教育課程は,生徒のおかれている環境の条件を考慮した地域差に応ずるものでなければならない。したがってその主要部分をなすものは,学校や教師によって作成されなければならないが,しかし,国とか地方による全体的な立場からながめた教育課程も必要になる。
本章はそれぞれの立場によって作成された教育課程の特質や,教育課程作成の手続・方法および改善を,主として図画工作教育の面からみたものを示している。
本文は主として図画工作教育課程作成の基本になる要素を,各章にわたって示しているが,付録はさらに図画工作教育課程作成上参考にすべき点を次の三つの項にわたって示している。
1 図画工作教育の材料選択の基礎
図画工作の指導では,具体的な表現材料が必要になる。この材料も単に販売されているものを購入するだけでなく,指導上適切なものを購入したり,研究したり,また研究して間に合わせることがたいせつである。このようにして適切なものを選択したり,研究する上に参考に示したものが本項である。
2 設備・備品
図画工作教育の成果は,物的環境に支配されることが大きい。この物的環境を絶えず改善していくことはきわめてたいせつであるが,そのため,普通の物的環境はどのようであるか,望ましい物的環境はどのようなものであるかを参考のために示している。
3 参 考 書
参考書はこれを教師用と生徒用に分けた。
あげられるものだけが重要であるということではなく,指導や学習が進めばさらにいろいろ参考書が必要になろう。
4 美術館・博物館その他
目 次
ま え が き
1 学習指導要領編修の主旨
2 各章の概観
第1節 図画工作教育の一般目標
第2節 中学校の図画工作教育の目標
第3節 高等学校図画教育の目標
第4節 高等学校工作教育の目標
1 図画工作指導内容の範囲
2 図画工作の指導の順序
3 本課程の扱い方について
第1節 表 現 教 材
1 描 画
2 図 案
3 配置配合
4 工 作
5 製 図
第2節 鑑賞教材
第3節 理解教材
1 表現に即した理解教材
2 その他の理解教材
第4節 技術熟練の教材
第1節 高等学校生徒と図画教育
第2節 生徒の編成
第3節 学習のコ一ス
第4節 指導内容
1 絵 画
2 彫 刻
3 図 案
4 色 彩
5 図法・製図
6 鑑 賞
7 生活の美化
8 美術概論
第1節 高等学校生徒と工作教育
第2節 生徒の編成
第3節 学習のコ一ス
第4節 指導内容
1 工 芸
2 彫 刻
3 建 築
4 図 案
5 色 彩
6 図法・製図
7 鑑 賞
8 生活の美化
9 工芸概論
第1節 青年期の特徴
第2節 中学校生徒の発達と図画工作
1 表現力の発達
2 知識や理解力の発達
3 鑑賞力の発達
4 技能の発達
5 態度および習慣の発達
第3節 高等学校生徒の発達と図画工作
1 表現力の発達
2 知識や理解力の発達
3 鑑賞力の発達
4 技能力の発達
5 態度および習慣の発達
1 図画工作学習指導の目標
2 図画工作学習指導の過程
3 環境の整備
4 図画工作学習指導の要点
第1節 図画工作教育課程の資料選択
第2節 図画工作教育課程作成の資料
1 教科用図書
2 参 考 書
3 図書館および参考図書や各種の資料
4 新聞・雑誌および定期刊行物
5 美術表現に必要な用具・材料
6 鑑賞の資料
7 地方の風景や建物
8 美術館・博物館
第1節 関連の必要
第2節 関連の実際
第1節 評価の意義
第2節 評価の目標
第3節 評価の方法
第4節 評価結果の処理
第1節 教育課程の体系
第2節 国で作成する教育課程
第3節 地方で作成する教育課程
第4節 学校で作成する教育課程
第5節 地域差による教育課程
第6節 教育課程の研究
1 図画工作教育の表現材料選択の基礎
2 設備・備品
3 参 考 書
4 美術館・博物館その他