生徒の成長発達を望むための教育計画には,直接生徒に接する教師や学校の計画と,全体的な立場から見た教育計画とがある。前者は直接生徒に接するための学校や教師の具体的な計画と,後者は,国や,各教育委員会やその他ほぼ環境を等しくする各地域や研究会などによって計画するものなどがある。
これらの教育計画は,どのような目的をもっているか,その内容はどうであるかさらにたいせつなことは,それぞれの学校や担任の教師によって作成される教育計画に,他の教育計画をどのように役だてるかということである。いいかえれば,それぞれの立場から,それぞれの目的によって作られた教育計画を,実際指導の計画をたて,指導を展開する上に,いかにこれらを参考にし活用すればよいかの教育課程適用の点についてみなければならない。
第1節 教育課程の体系
教育は生活をして好ましい成長発達を望むための営みであるから,直接生徒の指導に当る個々の教師や学校を始め,地域社会や国が,それぞれの立場から,はっきりした教育計画をもっていなければならない。ここにあげるそれぞれの教育計画中,直接生徒の指導のための教師や学校の計画が第一であるが,教育計画が具体的に,時にまた特殊化されると,全体的な関連をともすると失いがちになる。こうなると,全体の見通しが不明りょうになって,結果として,あるいは教育の水準が低まり,教育の機会均等の原則に反した方向に進みがちのものである。
従来の教育は教科の配当時間や内容について大綱が示され,これに基いて教科書が作成され,地域差なども考慮することが比較的できにくい情況で指導が進められていたため,教育の計画も,指導の方法も型にはまったものになってしまった。この弊害を救う道は,直接生徒に接する教師が,生徒の実態や,地域の情況に沿った教育計画をたてて,これを展開することにある。この際,国や地方で作成する教育計画は,現場に即した教育計画を立てるときの一つの有力な参考となる役目をなすわけである。
このように考えると,国や地方で作成する教育計画は,動かすことのできない基準を示すというものではなくて,現場に即し,しかも全体の見通しの上に立つよい教育計画を作成する参考資料の役目をなすわけである。したがってそれぞれの教育計画は,上下の関係にたつ体系をもっているというものではない。またそれぞれの教育計画は,それらが作成されて実施され,その結果を評価し,その結果を相互に反映し合って,おのおの立場における問題点を吟味し教育計画の改善すべきところを改善してよい教育計画を立てるようにしなければならない。このようにすることによって,現場の情況が,他の教育計画に反映して全体として教育計画が向上するわけである。
第2節 国で作成する教育課程
国で作成する教科課程は,地方や学校で作成する教科課程に対して,国としての立場から,現場に即した教育課程を作成する上での有力な参考資料の役目をなすことは,第一節に述ペたとおりである。
国で計画する教育課程は,図画工作教育の水準を維持増進し,また教育の機会均等をはかり,地方や学校の教育計画を援助することが目的である。
この参考資料として学習指導要領が作成されているが,この学習指導要領は全国的に見て,このくらいまでは教育計画の中にとり入れて指導の展開に役だてることができると思われるところに目安をおいて作成されているので,そのためには,豊富な資料を提供し,現場で教育課程を作成するに役立つことがよいわけである。したがって,学習指導要領に示されているものをそのままとって,教育課程にするとしたら,参考資料としての役目を果たすということにはならないのである。
第3節 地方で作成する教育課程
地方で作成する教育課程は教育委員会が主体となろう。そして実際に作成するには,都道府県で作ったり,また地域の条件をほぼ等しくするいくつかの学校や,研究会などが作成する場合が多いであろう。この場合次の事をよく理解しておくことがたいせつと思われる。
教育の対象である生徒を考える場合,かれらは,幼時期においては主として家庭生活にその大半を送り,長じて学校生活が始まり,これと同時に生活環境が広められてくる。この生活環境は,人的・自然的の条件が異なるものであるから,当然かれらが当面する問題はそれぞれ異なるものである。この問題を解決するための生徒の要求に合致する教育課程は,生徒の実態を知る教師や学校によって作成されるのが理想である。この教育課程を作成するには,国としての全体の立場から作成された国の教育課程を参考にして,さらに地方による社会環境・自然環境・文化的指導をほぼ等しくする地方地方の大きなまとまりによって作成された教育課程を参考にすることが考えられる。
国で作成した教育課程は,共通な一般的な事項にわたって述べてある点がその特徴であるが,これを参考にして,自然環境・社会環境・文化的背景の異なった中に育った生徒に適する教育課程を作らなければならない。環境の相違は,図面工作の教育課程作成上にも当然反映されてこなければならない。
地域により,自然の環境に恵まれたところと,恵まれないところで実施する図画工作の教育課程において,とるべき内容や重点の入れどころや強調すべき点が異ならなければならない。このことは他の社会環境・文化的背景の異なる点においても同様である。このことを具体的にいえば,図画工作教育の目標のたて方や,指導内容,およびその展開のしかたなどにおいて,異なってこなければならない。一般に図画工作の教育上,その地域や生徒の諸能力に不足しているところや欠けている点を考慮して全体として,教育目標を達成するように教育課程が作成されなければならないわけである。
第4節 学校で作成する教育課程
1 学校の教育課程
地域差があると同様に,それぞれに異なった条件をもつ学校差がある。その内容は,その学校の教師の素養や経験,教師の数のような人的なものと,学校の施設・設備・備品のような物的なものを考えても相当の差異があるのは当然である。これらの相違は当然教育課程作成の上や,その展開に反映されてくるものであって,これらの人的・物的な相違を考慮し,さらに自然・社会・文化の環境の相違を考慮して,その学校に適用できる教育課程を作成しなければならない。学校での図画工作教育課程を作成する上に留意しなければならない点をあげるとおよそ次の点であろう。
1) 国で作成した教育課程を参考にすること。
2) 地方で作成した教育課程を参考にすること。
3) 近隣の学校や,各種の研究会,公開授業などにおける研究発表や,実際案などを参考にすること。
4) でき得れば広く各国の教育計画などを参考にすること。
5) 学校の属する地域社会の情況や,その要求を考慮すること。
6) 学校の教育目標を達成する上の重要な領域を分担していること。
7) 生徒の成長発達の現状および過程を考慮する。すなわち,生徒の能力・興味・必要・適性などに合致するようにすること。
8) 学校の経済状況や生徒の家庭の経済的負担力,学校の施投・設備・備品などの程度に合致すること。
9) 他教科や他の教育諸活動との関連を考慮すること。
10) 単に学校内における環境の利用にとどまらず,地域社会の施設などを利用して,図画工作教育を立体的に展開できる機会をじゅうぶんに活用するように立案すること。
11) 学校で従来作成し,実施してきた教育課程や,その評価の結果を参考にして,発展的に教育課程を作成するように考慮すること。
12) そ の 他
2 学校の年次計画
1において,学校の教育課程を作成する上に留意すべき点について,その概略を述べたが,具体的な計画をたてる上に考慮すべき問題がある。
まず一貫した教育課程を作成するにあたって,図画工作教育における学校の年次計画がある。
年次計画を作成するにあたっては,学校の属する地域社会のいろいろな行事や季節の移り変りに伴う生徒の生活経験の変化に合わせて,学習活動と生活経験とが食い違いのないようにすることである。このことは,学習は生活経験がその基礎をなしているので,これとは深い関係をもつものである。このように考えると,地域社会の行事や季節の移り変りに伴う生徒の生活経験をよくとらえることがたいせつになる。すなわち年次計画を作成するにあたっては,地域社会の実態,生徒の能力・興味・必要,学校の物的・人的環境をよく調査して,その実態をとらえることが何よりも必要になるわけである。
年次計画は学校における日々の指導の基礎をなすものであり,日々の指導はこの年次計画との有機的関係における一分野をなすものである。年次計画を作る上に留意すべき点をやや具体的に述べると次のようになろう。
1) 学校として,図画工作教育の年次計画をたてるについての理想や,具体案をじゅうぶんにねること。
2) 過去の年次計画や,またそれを実施した結果を,新しく作成する年次計画に反映して継続的に改善進歩をはかるようにすること。
3) 図画工作の特別教室や設備をじゅうぶんに活用することが必要であるが,これがためには,学校の生徒数・学級数などを中心に考えて,使用にあたって混乱をきたさないように年次計画をたてるにあたってじゅうぶんに考慮すること。
4) 学校によっては,きわめて乏しい施設や備品しかないところもあるが,この環境を改善し,じゅうぶんに指導を進めるには,どうすればよいかを年次計画の際じゅうぶんに考慮すること。
5) 学校の行事や,地域社会の年中行事やその他の行事との関係をいかにするか,この点については,図画工作の指導目標を考え,生徒の生活経験に関連を持たせ,計画や指導を有効なものにする観点にたって,両者の関連をじゅうぶんに考える。
6) 指導内容によっては,その取扱の時期に大きな関係をもつものであるから,どんな時期に指導すれば効果があるかをじゅうぶん検討して,年次計画にもりこむこと。
7) 具体的な計画をたてるにあたっては,指導内容のどこに重点を置くか,指導の方法をどんな形態にするかは大きな問題であるから全体的な見通しと相互の関連をじゅうぶん考慮して年次計画を立てること。
8) 学校の年中行事や各種の行事,社会の各種の行事の機会をとらえて指導を展開するに適した指導内容があるので,よく吟味して年次計画の中にもりこむようにする。
9) すべての教育計画がそうであるように,年次計画も実施してはじめて計画に不備の点が発見されるものであるから,絶えず計画に補正を加えて,よりよいものに育て上げる心構えが必要になる。一度決めた計画は動かせないというように考えないことである。
10) 各教科や,他の教育諸活動相互の連絡をじゅうぶんにとって,抜けたところや,またむだな重複のないようにすること。なお,各学年や各学級の具体的な指導が展開されると,実際には相互の連絡がとりにくいものであるから,学校全体の年次計画の段階でじゅうぶん練っておくこと。
11) 年次計画は新学年度に間に合うように前学年度に問に合わせておくこと。
12) そ の 他
3 学級の計画
学校の年次計画の段階では,学校全体の立場から計画されるわけで,生徒の実態その他を考えると,いつも学級の個々の生徒についての詳細な実態は盛り込めないのが普通である。しかし,学級の計画の段階になると,生徒のひとりひとりが具体的に浮び上げられるべき階段で,この段階ではじめて,種々の計画に血が通うことになるので,きわめてたいせつな段階である。
学校はそれぞれの個性をもつ生徒が,同一目的をもって一つの社会を形成しているといえる。この学級内の活動においては,生徒の個性をじゅうぶんに伸ばすと同時に社会生活にりっぱに参加できる資質を育てあげなければならない。
学級といっても,これは固定化された学級と,高等学校のように選択制である図画や工作の学習のときのみ一つの学級が組織される場合がある。
学校の年次計画を学級の計画に移すについての留意点をあげると次のようになろう。
1) 学校の年次計画とじゅうぶん連絡をとり有機的な関連を保つこと。
2) 同一の学級内においても,生徒の能力に差異があるので,これに応ずるためには,学級指導のための計画に幅のある組織をしなければならない。
3) 高等学校においては,生徒の興味・適性・必要に応じて,図画や工作を選択することになっているので,指導内容に重点の置きどころを変えた各コースを設けることが考えられる。しかし高等学校における図画や工作の教育は,この方面に対する一般的な教養を高めるために主眼が置かれているので,指導計画や指導方法で,一つのコースに重点を置くにしても,他の指導内容も適切に織り込んで偏しないようにする必要がある。
4) 生徒によっては,芸術的方面にその適性を示すものには,それらの生徒に対しては,他の大部分の生徒を犠牲にしないように計画をじゅうぶんに考えることがたいせつである。
第5節 地域差による教育課程
前節までは主として,それぞれの立場や見方によって作成される図画工作の教育課程の特質や,相互の関連について述べてきたが,本節では具体的に地域の条件を異にする各地域を例にとって,具体的にその地域に適応する教育課程作成の参考のために設けたものである。
1 都 市
都市における図画工作の教育課程を作成する上にまず問題になるのは,都市における自然環境や人為的環境がどのような特質をもっているかを明らかにしなければならない。都市といっても,大・中・小都市があり,工業都市あり商業都市あり,また都市の主体をなすものが,商工業の傾向をなすものもあり,大都市に接した中都市,農山林に囲まれた都市というように地理的位置からその他の条件をあげると,いろいろな条件のもとにあるのであって,その特質は必ずしも一定はしていないのが実際であるが,これらの都市を,他の農山漁村に比較してみると,そこには次にあげるような特質が見られるであろう。
1) 都市は一般に文化や宗教の中心地である。
2) 文化施設である各種の学校・博物館・図書館,各種の娯楽機関が備っている。
3) 近代的な造形美に恵まれている。たとえば,建築・橋・交通機関その他公園などに多く近代的な造形美が見いだされる。
4) 人工美と自然美の調和に成功しているものを多く見いだすことができる。わが国では古都に多くこれを見ることができる。
5) 人的な面からいえば,都市には,比較的文化人や,それぞれの専門家が多い。
6) 市民の経済的な生活程度の差は,農・山・漁村に比較して一般に著しい。
7) 都市が大きくなると,自然環境と切り離される傾向になる。これは都市生活者の生活様式や,自然に対する感情や態度に影響する。
8) そ の 他
上にあげた特質は,図画工作教育上に直接,間接に大きな関係をもつことは見のがせない。すなわち,そのような環境に毎日生活している生徒の環境からうける影響は大きいもので,また環境に働きかける点からみても,それらの間から出てくる生活の態度・習慣などはおのずから他と異なった形になるのは事実であろう。教育が生徒の置かれている環境を重視して教育計画をたてなければならないとする主張は強いのであるから,図画工作の教育課程を作成する上にも,当然このことは重要視されなければならない。
さて,このような特質をもつ都市に適当する図画工作の教育課程は,どのようにして作成しなければならないか問題になる。次にあげる事項は,都市に限らず,どこの地域で教育課程を作成する上にも考慮すべき点であるが,それらの事項を中心にして,都市の置かれている環境の特質を考慮して教育課程を作成すればよいであろう。
1) その地域社会のもつ課題(教育上解決すべき問題)を調査研究して,その結果を教育課程作成に反映させること。
2) その地域の生徒の実態を教育的な面からいろいろ観察し,調査して,生徒の興味・能力・必要をじゅうぶん理解し,これを教育課程作成に反映させること。
3) その地域や学校に適する教育課程は,その地域や学校の置かれているいろいろな特質をとり入れて教育課程作成の出発とするが,しかし,社会生活は,相互依存の原則によって成立しているのであるから,近隣の地域社会・他の学校・国・世界というように領域が広められていかなければならない。このためには,教育課程は発展的なものでなけれはならない。
2 農山漁村
都市と農・山・漁村は,いろいろな点で常に比較されるが,このことは図画工作の教育課程も都市と農山漁村のそれとは相当の差異があってもよい理由になる。
農山漁村は,これを細かに分ければ,農村・山村・漁村である。農村は主として農業で生計を維持し,山村は林業で生計を維持し,漁村は漁業で生計を維持する。しかし農山漁村のあり方は実際には,一々分離されているのではなくて,農山漁の割合がいろいろに混入されて,農山村,農漁村などの形をとっているのが普通である。
まず農山漁村の置かれている特質をあげると次のようなものであろう。
1) 一般に文化の程度が都市に比較して遅れている。
2) 文化施設である各種の学校・博物館・図書館・各種の娯楽機関に恵まれていない。このため農・山・漁村の文化の中心は学校であるのが一般である。
3) 一般に近代的な造形美に恵まれていない。その反面歴史的な背景にたつ伝統のよさは保持されている長所がある。しかしともすると因習にとらわれやすい欠点がある。
4) 自然環境に恵まれている。
5) 住民の文化の程度は,一般に都会に比較して差が著しくない。
6) 近代的な文化に触れる点では,都会に比較して困難である。
7) 都市には,各種の職業をもつ人が多いので,生徒の家庭環境は,いろいろであるが,農山漁村では一般に類似の職業につく人が多いので,生徒の家庭環境は,いろいろであるが,農山漁村は一般に類似の職業につく人が多いので,生徒の家庭環境は類似している。
8) そ の 他
以上あげた点を考慮に入れて,農山漁村に適応する図画工作の教育課程を作成する上の留意点は,都市のところで述べたとおりである。しかしそれは都市農山漁村をとわず一般的な点について触れているので,1.都市,2.農山漁村にあげたそれぞれの特質を中心にして,その地域に適応する図画工作の教育課程作成上の留意点をやや具体的にみれば,次のものがあげられよう。
1) 図画工作の一般目標や,中学校・高等学校の図画工作の目標に照してその地域社会にかけているところや,生徒の各種の能力などで欠けている点は教育課程作成上強調すべき点である。
2) 修学旅行・見学などを生かして,学習活動を多面的にするように心がけなければならない。このことは,図画工作教育課程作成の上にあらかじめとり入れておくようにすることである。
3) 社会施設などで,図画工作教育上有効であるものは,先方の了解を得て活用すべきである。この点都市は一般に農山漁村に比較して便利である。
4) その地域や学校で作成した教育課程は,その地域や学校に適応するものでなければならないが,たえず他の地域や学校との関連をじゅうぶんにとって,とかく陥りやすい視野を狭くする欠点を補って,発展的なものにしなければならない。
5)作成された教育課程は,実施に移して,絶えず研究し評価して,よりよいものに育て上げるようにしなければならない。
第6節 教育課程の研究
図画工作の教育課程を組織し,これを運営するについて,前節まで,国の計画・地方計画・学校の計画などにわたって述べたが,さらに教育課程の組織や運営および実施後の評価や,またそれらを一貫して教育課程作成の委員会の構成にわたって考えておくことが必要である。
前にもしばしば触れたことであるが,教育課程は主として指導すべき範囲と,その程度を示すものであって,図画工作の教育計画全般における重要な部門を占めるものであるから,しっかりした組織のもとに研究して実施すべきである。これがためには,教育専門家・各界の代表者・地域社会の人々の適切な意見もとり入れるようにして,その地域社会によく適合した図画工作の教育課程を作成しなければならない。
1 教育課程作成の委員会
図画工作の教育課程を作成し研究する委員会の構成は,委員会を構成する委員のそれぞれの専門やまた委員会の人数によって,実際にはいろいろの場合があるが,教育課程作成上必要な部門は,その教育課程の根本原理をどこに置くかを検討する原理的な部門と,それに関連して図画工作の教育目標をどこに置くか,これについては専門家の意見を求めたり,地域社会の人々の意見や希望を考慮したり,生徒の実態をとらえて,具体的な図画工作の目標を確立するような部門がある。このような部門によって整えられた研究や資料によって,図画工作教育においてはどのような指導内容を選択するか,それらの指導内容を生徒の心身の発達によってどんな順序で排列するかを決定するのである。
以上述べた点を具体的にいうと,中学校においては,各学年にわたって,どんな内容をどんな順序で指導するかということであり,高等学校においては,選択制を考慮して,どのような範囲をどんな順序で指導するかを研究するわけである。
この点については,国としての計画を,第2,3,4章にあげてあるわけである。
ある地方や学校における図画工作の教育課程を作成するにあたっては,それぞれの見方や考え方の相違によって作成されている教育課程を参考にする必要のあることはすでに述べたところである。すなわち,国で作成する教育課程は,全国的見地から作成し,地方の教育課程は,国の計画を出発として,地方の環境に適応するように具体化し,学校計画はさらにその学校の置かれている具体的な条件や環境に適応するように作成するのであって,根本は生徒の直接指導にあたる学校で,教師が図画工作の教育課程を作成することを援助するために,国や地方の図画工作の教育課程があるのであるから,それぞれの地域や学校に適する教育課程作成の委員会は,その置かれている立場と,目的とをじゅうぶん理解しておかなければならない。
2 教育課程作成委員会の構成
図画工作の教育課程作成委員会の構成にあたってはおよそ次の点に,注意する必要がある。
1) 図画工作の教育課程作成の委員会構成は,国や地方の計画では教育の原理的な面から,大綱が決められ,それを図画工作の面から具体化するのが一般であると思われるので,国や地方の計画では,原理的な部門を担当する委員は,委員中にはいっていない場合もある。しかし学校における計画では,これらは一体化しているのが普通である。
2) 一つの領域をよく知り,またそれを深く掘り下げていく委員があると同時に縦の関係,たとえば小学校・中学校・高等学校を通して望ましい関連がとれるように委員の編成を考える必要がある。このためには,中等教育全般の上から考えて,中学校の図画工作・高等学校図画・同工作の委員会を一本にして計画を進めることは,すべてに好つごうである。
3) 中学校は従来の図画科と工作科とが一体となっているので,図画工作の全般に通じている委員を選ぶ必要がある。高等学校図画科と工作科とが分れているので,それぞれの分野に通じている委員を選ぶと同時に,また両者は密接な関連があるので,高等学校においても,両科に通じている委員を選ぶことがよい。
4) 小学校と中等学校の委員会は分離して開催されるのが一般であろうが,しかし小学校と中等学校との関連をとる必要のあるときには,二つの委員会が合同して開かれる場合も考えられ,また小学校中等学校のそれぞれの委員会にともに関係する委員を選ぶことも必要である。
5) 委員会は,その主体となるものが,各教育委員会・研究会(たとえば図画工作教育研究会のようなもの),地域のいくつかの学校のまとまりを主体とする研究会や,また学校の委員会などである。これらの委員会の委員は一定しないが,この教育課程作成委員会は,協議決定機関の役目をなすものではないから,落ついて研究できるような委員数と適切な委員を選択する必要があろう。
教育の原理的なことは,一般委員会で決定されるのが普通であろうから,図画工作の教育課程委員会は,その研究や,決定の線に沿って,進められるのが晋通と思われるので,委員の数や構成される委員もおのずから決定され,多くは図画工作の分科会のようになろう。
3 教育課程の作成
1,2においては,教育課程作成までの準備的な事項について述べたが,委員会を運営して教育課程を作成する段階になると,いろいろの場合がある。すなわち,その地方なり学校において,全然新しく,図画工作の教育課程を作成する場合と,またその改訂とではよほど事情の違うものである。改訂も部分改訂か,大改訂かによって,また事情も違ってくる。
実際の原案作成や執事になると,いろいろの方法が考えられるが,一応次に示す方法によることが便利であろう。
1) 教育課程の骨子になる原案,たとえばどのような章や,項目を立て,その中に盛り込む内容を,いかにするかは最初にじゅうぶん,全員によって研究討議し,委員が共通の理解をもつように努めなければならない。
2) むだな重複や,全体として必要な所が抜けるところのないようにすべきである。
3) 原案は生かすように心がけ,足りないところや不備の点は,協力して育てあげるようにすべきである。
4) 全体的な大綱から順次に具体化して最後案をまとめる場合は,全体としてまとまりのある一貫した利点がある。しかし生徒の生活経験を基礎として問題を拾いあげて,それに対する解決を示すようにしていくと,必ずしも論旨が一貫した体裁のものにまとめにくい欠点がある。
前者の方法で進めていくと,まとまったものがただちに適応できにくい欠点をもち,後者の方法で進むと,生徒の実態に沿う利点がある。どんな原案の作成やその後の進め方をするかは,その時の置かれた条件を基礎にして進めるべきであろう。
4 教育課程の実施
新しく作成された教育課程は,予定された年度に実施に移されるわけであるが,この実施にあたっては,時にその管下や,地域の学校に編集の方針や活用の方法について研究協議会を開催することも考えられる。しかし限られた小地域のいくつかの学校や,また学校で作成した教育課程にはその必要は起らないのが普通である。
次にあげる点は,教育課程を適応させる上に注意すべき点である。
1) 作成された教育課程の研究がじゅうぶんになされて,これが指導面によく生かされていかなければならない。
2) 教育課程を中心にして,その学校の年間計画や月次,週などの計画ができていなければならない。
3) 一度作成された教育課程は,動かすことのできないものではなく,実施中においても,改善して,現場に即するようにすべきである。
4) 教育課程は改訂を加えていくべきものであるから,実施中においても絶えず記録をとり,改訂の際の重要資料として役立てる。
5) 各学校において実施した結果をもとにして改訂の資料にするばかりでなく,図画工作教育に関する各種の研究会や各学校の公開授業や研究授業などで得た資料を備えて,改訂の際の重要な資料にすることは重要である。
5 教育課程の評価
前にもしばしば触れたように,図画工作の教育課程は,教師と生徒との現実の展開面においてはじめて血が通うものであるから,教育課程をよりよいものにして生徒に対する指導を効果的に進める上には実際にその教育課程によって指導を展開する道程や,その結果から問題をとらえて,教育課程を評価しなければならない。そしてその結果は,教育課程の改訂や,指導面に生かすようにすべきである。
教育課程を評価するには次の点に注意して評価する必要がある。
1) 評価する人は,どこが主体となるかによって異なるであろう。教育委員会が主体となれば指導主事や教育課程作成に関係をもつものが主体となると考えられる。また研究会が主体となればおのずから評価するものも異なってくるだろう。学校で作成された教育課程は,学校長や教師が主体となって評価するわけである。
2) 評価の方法はあくまで,科学的・合理的な方法でなされなければならない。
次に参考のために教育課程評価の一般的な着眼点をあげておくことにする。
1) 図画工作の教育課程は,使用年度に間に合うように作られたか。
2) 年間および学期の計画がたてられているか。
3) 月や週の計画がたてられているか。
4) 地方の計画の場合は,国の教育課程や都道府県の教育課程が参考として生かされているか。
5) 学校の教育目標が,その学校の図画工作の教育課程作成に生かされているか。
6) 適切な組織と手続によって作成されたか。
7) 地域の人々の意見をとり入れる機会が設けられているか。
8) 専門家の助言をとり入れるようになっているか。
9) 必要な調査がじゅうぶんになされているか。
10) 地方で作成された教育課程は,その条件をほぼ等しくする他の地方との関連がとられているか。
11) 近隣の学校との関連が考えられているか。
12) 中学校の教育課程は,小学校と高等学校との関連がとられているか。
13) 高等学校は,中学校との関連がとられているか。
14) 地方や,学校の観点にあっているか。
15) 生徒の個人差および性別について考えられているか。
16) 図画工作教育の目標がよく生かされているか。
17) 指導内容の構成と配列は適当であるか。
18) 学習指導要領と教科書が適切に利用されているか。
19) 図画工作の教育課程はつねに評価し改善されているか。
20) そ の 他