第Ⅷ章 図画工作教育と他の学習との関連
第1節 関連の必要
学習指導は,生徒の興味・能力・必要をもとにして,知的・情緒的・社会的・身体的の各種の能力を円満に伸ばし,個人としてじゅうぶんに成長発展を遂げさせると同時に,社会人として好ましい資質をもつようにしてやることが,そのねらいであることはしばしば述べた。
教育の一般目標に示されているところに,生徒が到着するためには,さまざまの経験を積むことが必要であるが,このために学習経験を組織して,計画的に学習指導をしやすいようにまとめたものがおのおのの教科や特別教育活動の組織である。
図画工作教育は,主として色や形を通して,個人のもっている思想感情を表現し,また他人が色や形を通して表現したものや,自然の美しさを対象にして,創造的な表現力や鑑賞力を養い,知的・情緒的・社会的に円満な発達をさせることが,そのねらいである。
しかし,生徒が色や形による表現力や鑑賞力のみを身につけていただけでは人として円満な発達を遂げたとはいえない。このため当然他の教科や特別教育活動のねらう目標によって,学習経験を積む必要がある。ここで,図画工作の教育計画をたて,これを実施し,生徒に有効な学習経験を積ませるには,他の教科や特別教育活動の教育目標を理解し,これを教育計画や指導の実際面に生かして,図画工作教育を望ましいものにすると同時に他の学習にも協力して一体としてよい結果に到達しなければならない。このためには,他の教科や特別教育活動とじゅうぶん関連をとり,不必要な重複や,抜けたところのないようにして,一体として教育を有効に進めなければならない。
第2節 関連の実際
図画工作の教育計画をたて,これを展開していくとき,他の教科や特別教育活動などと関連をとる必要は,前節で述べたが,関連の実際については,教育計画の作成,教育計画の中にはいってくる教育内容,関連の時期の問題,方法上の問題,さらに地域差による問題,生徒の能力の問題などいろいろの場合を考慮して関連をとらなければならないが,以下主として,図画工作教育と他の教科・特別教育活動との関連についてみよう。
1 関連について
1) それぞれの教科や,特別教育活動などで扱う指導題目が,図画工作で扱う題目と同一であり,また取り扱う時期も同一であるため,一体として指導する場合があり得るが,このようなときは,図画工作の指導目標やその他の教科や特別教育活動の指導目標によって指導計画や具体的な指導についてじゅうぶん検討し,重複したり,偏したり,抜けたところのないように関連をとる必要がある。
2) 他の教科や特別教育活動の指導によって生徒の得た経験や能力をもとにして,図画工作の学習指導が進められる場合がある。すなわち,他の教科や特別教育活動で指導した経験や,それによって得られた能力が図画工作の指導に動機づけとなり,学習を有効に進める上に助けとなることが多いので,この点からも図画工作の教育計画をたて,指導を展開していく上には,じゅうぶん相互の関連をとることがたいせつである。
3) 教育計画をたて,学習指導を展開するとき,他の教科や,特別教育活動で関連のある指導題目や内容を分担して指導する場合があるが,このとき図画工作で分担する題目や内容をいつ,どんな機会に指導するかは,指導計画の全体や,生徒の興味・能力・必要を考えて,適切な時間と機会をとらえて指導するようにすることがたいせつである。
4) 図画工作の学習から発展して,他の教科,特別教育活動の指導目標を達成する内容に進む場合があるが,このような場合は,他の教科・特別教育活動の指導目標や,内容を理解して,指導者相互にじゅうぶんな関連をとることがたいせつである。
5) 教育計画をたて,学習指導を進めていく上には,年次計画・月次計画やその他の細かい計画をたてるが,このときは学校全体の計画や,他の教科や特別教育活動とじゅうぶんに関連をとることがたいせつである。
6) 1)〜5)までにあげたことは,主として教育計画をたて,学習指導を展開する上に必要な点について関連をとらなければならないことを述べたが,さらに学級あるいはその他のグループ指導において,指導結果をもとにして関連をとり将来有効な指導を進める上で考慮しなければならない。このためには,学級ごとの指導記録簿や,グループごとの指導記録簿を,他の教科や特別教育活動と関連をとって作成することは,望ましいことである。
2 他教科との関連
前項1において,図画工作の指導と他教科・特別教育活動との関連の一般について述べたが,本項では,その考えに立って,他の教科との関連を具体的に述べる。
1) 社会科との関連
社会科で指導する内容のうち,図画工作に関連の多いものとしては,中学校・高等学校の一般社会・日本史,高等学校の世界史・時事問題である。
社会科で扱うこれらの内容の中には,美術の部門を,あるときは,文化遺産として,また,地域地域の交流の文化財として,また,国際理解の資料としたり,レクリエーションの対象とするなど,広く指導するようになっている。
たとえば,中学校一般社会,第一学年単元Ⅳ「世界の諸地域は,どのように結びついてきたか」の取扱として東西両文明とわが国との関係や,さらにこれを具体化して,東洋の文明地域はどのようであったか,わが国とどのような交渉をもっていたか,また中学校第二学年単元Ⅱ「近代工業はどのように発達し,われわれの日常生活に,どんな変化を与えたか」の取扱として,手工業と機械生産との相違,近代工業はどのようにして始まったかなど,中学校第三学年単元Ⅳ「われわれは文化遺産をどのように受けついでいるか」の取扱として,文化財の保護鑑賞・新しい文化の創造・芸術と人生との関係などについて,図画工作の指導に直接関係してくる造形文化の面にも密接な関連をもって扱われることが理解できる。
また高等学校一般社会の単元Ⅴ「われわれの生活には,外国の文化や物資がどのように取り入れられているか」の取扱として,文化の世界性や国際性,わが国文化と外国の文化と関係,日本と外国との貿易の発達など広い範囲にわたって歴史的・地理的に扱うことになつているが,これらの中で,造形文化を扱うことが多いのである。
中学校日本史においては,当然,原始・古代・封建・近代社会における美術工作についての造形的なものも,その対象になるわけである。たとえば,中学校の単元構成参考目標として「日本文化の発達には,外来文化の影響に負うところが多いこと」「封建社会の文化・芸能を理解,鑑賞する態度を養うこと」などに見られるように,造形文化の分野が多く扱われることを知るのである。
高等学校日本史では,中学校の段階を高めて,指導するようになっているが,造形文化の分野を扱うことも中学校同様である。
高等学校世界史においては,世界における造形文化の起りや,その発展,またそれぞれの造形文化が各地にどのような影響を及ぼしたかなども取り扱い,またその見地から,わが国の造形文化にも触れることになっている。
高等学校の時事問題では,単元Ⅴ「文化はわれわれの生活の向上にとってどういう意味をもつか,また文化を高めるためには,どんな努力が必要か」の中で,造形文化の面にも当然触れてくるのである。
以上述べたことでも明らかのように,社会科で扱う造形文化は,これが発展して,図画工作科で扱う分野とも,深い関係をもってくるのであるから,教育計画をたてたり,指導の展開においても,両科はじゅうぶん関連をとり,互いに協力して学習効果をあげるようにする必要がある。
2) 家庭ならびに職業に関する教科との関連
家庭ならびに職業に関する教科の教育目標は,実生活に役だつ仕事を中心にこれらに関連する家庭生活,職業生活に必要な知識・理解・技能などを養い,家庭生活や職業生活をじゅうぶん発展させようとするもので,中学校では職業・家庭科となり,高等学校では中学校における学習内容が専門化して,農業・工業・商業・水産・家庭・家庭技芸に分かれている。
図画工作と主として関連するものは,中学校の職業・家庭科である。職業・家庭科においては,便宜その学習内容を次に示す4類を12項目に分けている。
第2類 手技工作・機械製図・製図
第3類 文書事務・経営記帳・計算
第4類 調理・衛生保育
上にあげたもののうち,図画工作の教育計画をたて指導を進める上に関係の多いものは第二類の手技工作・機械操作・製図である。
これらの指導内容には,図画工作で指導する内容と同一のものや類似のものが多いが,職業・家庭科が生徒の生活に即した各方面の仕事を中心にして計画をされているのであるから,当然図画工作の指導内容と密接な関係が出てくるわけである。このため図画工作科と職業・家庭科との指導内容のあるものははっきり区別することは困難である。しかし,図画工作科では,だれにも必要な色や形を通しての表現力・理解力・鑑賞力・技術力を身につけさせ,これを現在および将来の生活に役だつ造形的教育を高めるための指導がそのおもな目的であるに対して,職業・家庭科は生徒にいろいろな仕事を中心にする経験を積ませ,有能な職業人としての基礎を養い,生徒の適性によって,専門的に伸びうるような方向に指導を進めるのであるから,たとえ同一の題材を扱うにしてもそこに難易や重点の置き所その他について一応相違が出てくるのである。
指導の実際にあたっては,指導者の問題,指導題材,指導の機会,指導の場所(おもに教室)などについて,種々の点に考慮を払わなければならないが,要は,重複を避け,抜けたところのないように指導計画をたて,指導を進め,両科の目標を達成するようにじゅうぶんな関連をとることがたいせつである。
3) 理科との関連
このような点を強調してとりあげられる理科の学習内容や,指導の機会をみると図画工作と関連の深いのを見るのである。試みに理科でとりあげて図画工作の学習との関連のあるものをあげてみると,
(1) 自然の偉大さや,美しさおよび調和を感得する。
(2) 科学の原理や,法則を日常生活に応用する能力をもつ。
(3) 科学的な態度とは,どのようなものであるかを理解する。
(4) 正確に観察し,測定し,記録する習慣を形成する。
(5) 道具を巧みに使いこなす技能をもち,機械その他科学的に作られたものを正しく取り扱う習慣を形成する。
などの目標は,図画工作においても,造形文化の面から当然とりあげられるべき目標や重要事項であって,この目標を達成するために,必要な指導内容が考えられる。
理科で以上あげた目標を達成するための学習内容や,その学習によって身につけられた各種の能力は,図画工作の指導の上にも,とり入れられなければならない。また図画工作の指導において養われた各種の能力は,理科の学習の上に生かされなければならない。たとえば,図画工作の指導で養われた各種の表現力は,理科学習を豊かに進める上に役だつものであり,また,理科の学習の内容や機会から図画工作の教育計画の題材を発見し,また,理科において,つけた合理的な態度や実践力は,それがそのまま図画工作学習を進めていく上に,直接役だつわけであるから理科と深い関連がある。
4) 国 語 科
(1) 聞くこと・話すこと。
国語科では,聞くこと・話すことの能力をつけるため,各種の方法や機会があげられているが,図画工作と関連のあるものは,演劇である。演劇は各種の表現形式によってなされるが,色や形による表現力もはいってくるのが普通である。図画工作の学習で身につけた能力を生かすよい機会であり,したがって互に関連をとって学習を進めることがたいせつである。
(2) 読 む こ と
芸術一般や,造形美術の問題を扱って表現された各種の形態の文章を国語科では読む機会が多いわけである。これによって,図画工作の目標とする美の表現形式や鑑賞などにも関連があることが理解される。
(3) 書 く こ と
記録・手紙・日記・硬筆習字・毛筆習字などの指導においては,図画工作の表現と関連をもってくる。
記緑・手紙・日記・文集・学校新聞などの作成の際には,その中に絵画的表現やその他造形的表現をとり入れて,その表現を豊かにする場合がある。このようなときは,図画工作の表現力を生かすよい機会でもあるわけである。
硬筆習字・毛筆習字で習得した能力は必要に応じては,絵日記・絵巻物などの作成に,またさらに,ポスターなどの作成にその能力をじゅうぶんに生かす機会がある。
5) 音 楽 科
上にあげた音楽科のねらいをみると,これは図画工作の目標に置き換えられることを理解できよう。これは図画工作の成立と音楽の成立とを比較して考えればわかることである。すなわち,図画工作の教育内容とするものは色や形を通して表現したり,また表現されたものを鑑賞するに対して,音楽は音を通して表現し,また表現されたものを鑑賞するもので,前者は空間的な広がりをもつ芸術であるに対して,後者は時間的な広がりをもつ芸術であるからである。
次に実際の関連をみると,たとえば音楽のリズムは,色・形・線をもって,その感情を表現することもできる。さらに両科の関係を歴史的な見方からすれば,同一思想や時代の背景に造形的な美術が生まれ,音楽が生れていることは歴史によって理解することができるわけである。
さらに,学習と具体的な関連を考えると,生徒の特別教育活動中に行われる学芸会・劇,その他の催しものでは,造形な表現や,音楽的な表現を総合して計画し,実施する場合などである。
このように図画工作と音楽とは関連があるのである。
6) 書 道
書道が平面に表現する芸術とすれば,これはまったく絵画と同様で,書画一体とは,昔からよくいわれることで,主として東洋絵画の表現には両者が一体となって,効果のある表現がなされていることは多く作品で理解できることである。これは図画工作の表現と書道の表現とが密接な関連のあることを一つの面から見たのであるが,次に図画工作と書道とが共通の表現目標と形式・方法などで関連のある点を見ると次のとおりである。
(1) 絵画的表現や各種の表現と,書道における表現は,主として平面的な表現をとっている。
(2) 絵画や各種の図の表現で線の美しさをもとにしている様式,方法がある。これは,書道の造形美および線の美をもとめて,表現することと一致している。
(3) 図画工作の指導で,主として図案に取り扱う,平面や空間を美しく装飾する美の要素と,書によって美的に平面に表現したり,表現されたものの中に美しさが感ぜられる要素を見ると一致するもののあることが理解できる。
(4) 絵画的,図的な表現と書の表現とを関連させて効果ある表現をするものにポスターなどがある。
(5) 歴史的に見て,同一思想,時代背景の上に表現された美術品と,書の芸術とは共通のものを見いだすことができる。
以上図画工作と書道との内容上の関連を見たのであるが,これらの点は相互の教育計画をたて,指導を進める上にじゅうぶん生かすことが望ましい。
7) 数 学 科
このような数学科は,その学習内容で図画工作の扱うものと関連があるが,そのうち特に関連のあるものは次に示すものなどである。
(1) 図画工作教育を進める上でも,数量形を無視して実施することはできないので,じゅうぶんに関連をとることがたいせつである。
(2) 数学科で指導する各種の図形は,直接に図画工作の教育を進める上に関係があるので,その取扱の難易の程度や内容については,数学科で扱う基準に合わせて計画をたて,指導を進めることが必要である。しかし,図画工作で扱う内容や取扱の方法については,必ずしも数学科の基準に合わせることができない場合も起りうるので,この点は,あまり窮屈に考えなくてもよいわけである。
(3) 投影図法の原理やその応用は,数学科にも出てくるが,数学科で扱ってつけた理解力などと関連をとって,図画工作の計画を立てて指導を進めることがたいせつである。
(4) 形のおもしろさや,美と感ずるものを分解して考え,美の規則性を発見して学習を進めることが数学科で扱われるが,図画工作では,これらの原理をも使って,創造的な表現にまで導くことができるわけである。
(5) 数学科で立体感を養う題材中には,図画工作で扱うものと共通のものが見られるので,関連をとって指導を進めることがたいせつである。
8) 体育・保健体育科との関連
(1) 図画工作教育のおもなねらいは,創造的な表現力や鑑賞力を身につけることであるが,この表現力を身につける表現活動中には保健・衛生上考慮しなければならない問題が多いのである。たとえば,いろいろな実習を行う場所は,換気よく,適度の採光のできる場所や教室を選定するとか,特に工作的の実習の際は,危害を避けるために,安全教育を実施するとか,また作業時間を適当にしたり,作業後休息をとるとかのようなことは,保健・衛生上きわめて重要であるから,体育・保健体育科のねらう目標や指導内容と関連をとることがたいせつである。
(2) レクリエーション活動の内容となるものは,きわめて広い範囲にわたるものであるが,余暇を有効に過し,また教養を高めるレクリエーション活動中で,造形的な表現活動や鑑賞活動は,大きな価値を持ち,また多くの人々に親しまれるのである。図画工作教育の立場から造形的表現活動や鑑賞活動を指導する場合は,レクリエーション活動の主旨をよく理解して,計画をたてたり,指導をすることがたいせつである。
3 特別教育活動との関連
特別教育活動は,教科の領域内で行われる以外の学校内外の諸活動をさすもので,これは学校における重要な活動の一環をなすものである。すなわち,特別教育活動は生徒が率先して自主的に諸活動を行うようにすることが本来の姿であるから,生徒の個性を好ましい方向に伸ばすには,限られた教室内におけるよりも多くの指導に適切な機会に恵まれている。
このような意義をもつ特別教育活動では,次のような生徒の能力・態度・習慣や,社会性の発達を期待することができる。
(2) 生徒の興味を促進し,学習活動を豊かにすることができる。
(3) 生徒の相互の計画と実践によって,その責任を分担させることができる。
(4) 生徒をしてよりよい社会人としての資質を養うことができる。
(5) そ の 他
特別教育活動は,以上あげたような各種の望ましい特質をもっているので,これを伸ばすには,当然他の学習活動とも密接な関連をもって進めなければならない。
図画工作の教育課程を作成し,これを展開していく上にも,特別教育活動で図画工作教育上,いかなる指導の面を分担することができるか,またこの特別教育活動との関連をどのように計らなければならないか,特別教育活動にはどのような図画工作教育を徹底させる機会があるかをじゅうぶん検討して置くことがたいせつである。
まず特別教育活動で,主として図画工作の指導上おもに関連あるものを取り出してみる必要があろう。
特別教育活動としては,ホームルーム・生徒集会・クラブ活動・全校集会・生徒自身の地区活動(出身の町や村,部落など)などが考えられるが,これらのまとまりにおける活動中で,図画工作教育活動に関連をもって活動が展開されるものとしては次に示すものをあげることができる。
(1) 生 徒 集 合
(2) 年 中 行 事
(3) クラブ活動
(4) 演 劇
(5) 学 芸 会
(6) 校内展覧会およびバザー
1 生 徒 集 会
生徒集会は,学校を運営していく上に,集団的に生徒が集合するものをいうものであるが,その集合の機会には次のものがあげられる。
(2) 学級および学年の集会
(3) 全 校 集 会
(4) 各種の学芸会
(5) 各種の展覧会
(6) 各種の研究発表会
(7) 各種の運動競技会
(8) その他必要な諸会合
などである。
図画工作の指導上注意すべき点は,これらの諸会合を機会に,図画工作教育の徹底を計ったり,また生徒の研究の成果を発表する機会としたり,またこれらの会合を図画工作の面から分担して,諸会合を成功させることにある。
このような観点から効果ある指導をすることによって,生徒の興味と適性に沿って,望ましい結果が得られ,また生徒の好ましい社会性の助長に役だてることができるわけである。
以上あげた機会を通して,主として図画工作の指導上注意すべき点をあげると,次のものがあろう。
(2) 生徒の知識・理解・態度など,各種の能力の統一をはかる機会を得られるようにする。
(3) 図画工作の学習を動機づけ,またその補充の機会をうるように心がけなければならない。
(4) 生徒集会などにおける図画工作の学習の結果の研究発表などあるときは生徒の興味を増大するようにしなければならない。
(5) 品位があって,美的情操を高めることのできる計画や実施でなければならない。
(6) 自己表現を得させ,また自己表現を養うことのできる機会を提供しなければならない。
(7) 観覧者としての正しい態度の養成に資するようにしなければならない。
(8) 各種の生徒の研究発表や行事であるため,生徒個人やグループの研究成果を認める機会が得られ,またこの機会を通して生徒各自の個性を指導者は的確につかむよい機会ともなるので,この点に注意する必要がある。
(9) そ の 他
などをあげることができる。要は,生徒の自発性を主体として,教師はそのよい相談相手や助言者としての役目を果すようにしなければならない。
2 年 中 行 事
年中行事は,地域社会の年々行われるものや,学校の行事をいう場合とがある。
社会の行事に対しては,この機会を通して,学校が社会の行事に協力して,学校と地域社会との関連をはかるよい機会であり,また学校内での行事には,職員生活が全員参加できる機会が多いので,全校が一致して行事に対して検討を加え,これをよりよく発展させるための基礎にする機会ともしたり,また生徒が自主的に行動できる機会に恵まれるようにすべきである。
図画工作の指導の面からいうと,年中行事を成功させるために協力したり,また自主的に創案し,計画を実施する場合も多いことが考えられる。
学校を主体にした年中行事としては,図画工作の面からそれをあげてみると次のものがあろう。
(2) 校内の各種の展覧会およびバザー
(3) 運 動 会
(4) そ の 他
ここにあげた行事には,それを計画し実施する上に,図画工作の指導上,適切な指導の要素と機会がある。
学芸会は,その実施する目的や形式によって必ずしも一定はしていないが,普通舞台の装置と,演出とに大きく分けられる。
舞台の装置は図画工作の立場から直接関係するものである。すなわち,舞台装置の良否が,各種の催物の成果に非常に大きな関係をもつものである。
従来の学校で行う催し物は,その学校に,その方面に興味をもち,特別な指導力のある教師のいる場合は,相当の成果を納めているのであるが,その教師が他に転出して後継者のない場合は,急に低調になるのが事実であった。このことは教育の全体的な発展の立場からいって,望ましくないといえよう。この弱点を救うには,教師がその方面に関心をもって指導を進めると同時に,クラブ活動などを通して,生徒にその方面に関心をもたせ,継続的に研究を進めて効果ある表現ができるようにすることが望ましい。この目的を達するには教師が急所急所を指導して,生徒にむだなところに力を入れる労力を省くようにさせなければならない。
校内の各種の展覧会およびバザーなどの計画や実施にあたっては,直接図画工作の作品の展覧会やこれに関係の深い作品の展覧会もある。これらの展覧会については会場の選択・会場の準備・展示方法,会場における各種の用品の配置配合,展覧会の通知のための方法(ポスター作成・看板の準備)など準備に必要な要件をじゅうぶんに研究し,実施することがよい。
これらは直接展覧会の成果に及ぼす影響が大きいから,じゅうぶんの計画と,ぬかりのない実施がたいせつである。
運動会やその他各種の競技を実施する場合でも,たとえば運動会のアーチを設け製作するとか,会場全体の配置をどのようにするかというようなことにも,直接図画工作と関連して,生徒がこれに積極的に参加協力したり,あるいは自主的に計画実施する面が多いのである。
3 クラブ活動
1) クラブ活動の種類
クラブ活動は,このような基礎的な考えを出発として計画されるもので学校における生徒の活動中重要な地位にあるものである。
クラブ活動のおもな教育的価値は次のものがあげられる。
(1) 生徒は多人数と学ぶことによって,生徒に好ましい能力の発達を期待することができる。
(2) 責任を重んじ,自分の立場を全体に関連づけて行動ができるようになる。
(3) 寛容を学び,他人と仲よくやっていく方法を身につけることができる。
(4) 自分の興味は,どの点にあるかを見いだし,またその深化と拡充の機会を得られる。
(5) りっぱな教養に富んだ活動や,娯楽活動を発達させ,これがひいては将来の生活の方向を決定する助けとなること。
クラブ活動の特徴は,同好の士が集まり,その組織や活動がくつろいだ環境のもとで行われるところにはじめて好ましい発達が期待される。
クラブ活動の種類は,図画工作の正課の発展と見られるもの,また他教科の指導内容と図画工作の指導内容と関連をもつもので,それらの関連した正課の発展と見られるもの,どの教科の発展ということはできなくてもその活動中に,図画工作のねらう目標や指導の要素が多分にはいってきているものなどを中心にして,クラブ活動が展開されよう。これを具体的にみると,次に示すものがあげられる。
(1) 絵 画 製 作
(2) 美 術 鑑 賞
(3) 図案製作(服飾研究・ポスター作成など)
(4) 木工および金工その他
(5) 手 工 芸
(6) 建 築
(7) 写 真
(8) 生 花
(9) 映画鑑賞
(10) 演 劇
(11) 学 校 新 聞
(12) 学 級 雑 誌
(13) そ の 他
以上あげたものは,クラブ活動の要素として考えられるものであるが,具体的な組織をもち活動が実施される場合には,学校や生徒の状況によって単独あるいは,いくつかが組み合わされ,それぞれのまとまりにふさわしい名称がつけられるのが普通である。
次に一例としてあげること,
(1) 美術クラブ
(2) 工芸クラブ
(3) 演劇クラブ
(4) 生花クラブ
(5) 写真クラブ
(6) そ の 他
などに分けられよう。
2) クラブの運営
生徒の個性に添った活動は,特別教育活動中のクラブ活動に多く見られる。したがって,特別教育活動としての成果のいかんは,この活動の成果にまつところが多いということができる。しかしクラブ活動の前身とも見られる従来の校友会の活動の運営については,いろいろな問題があった。
従来の校友会は,校友会としての各部の形は一応整っていて,学校の組織としては外見上みごとであったが,生徒の興味や適性や必要などを無視する傾きが多く,ために実際の運営の面では,必ずしも成功していたということはできなかった。これらの陥る悪い傾向を反省し,クラブ活動としてのあり方を検討して,そこに好ましい運営のしかたを発見しなければならない。
次に好ましい運営と思われる要件を次にあげてみよう。
(2) クラブ活動では,教師は顧問として指導の責任をもつように計画されなければならない。このためには,指導者の数とクラブの数との関係を無理のないようにする必要がある。
(3) 生徒ひとりひとりが参加活動するクラブの数をどのようにするかは,初めにじゅうぶん検討することがたいせつである。たとえば,生徒は一つのクラブに参加することを原則とするか,あるいは,二つのクラブに参加することができるかなど。
(4) 生徒にとっては,初めに自分の好みや必要によって参加したとしてもそのクラブの内容がしっくりしなかったり,また在学中にいろいろ経験をしたいと望む生徒のあることも考えられるので,クラブの編成替えを適切な時期に考えることも好ましい運営をしていく上にたいせつな要件となる。
(5) クラブにまったく生徒の自由気ままで参加したり,退会したり,また出席に対する認識を欠く生徒も起りうるので,生徒にクラブ活動は,学校の教育計画の重要な一環であることを認識させ,出席をルーズにしないように,また折々のクラブ活動の実体が判明するように,クラブ日誌を作成させるようにして,事務的な面からの手ぬかりから,クラブ活動が活発に展開するのを妨げないように考慮することも一つの方法である。
(6) クラブ活動を有効に進める上には,学校の環境や物的施設に左右されることが多いので,たとえ乏しい施設であっても,これを着々と改善して,生徒に豊富な環境を提供して,活発な活動ができるようにすべきである。
(7) 学校全体のクラブ活動の組織や年次の計画を初めにじゅうぶん立てると同様に,各クラブにおいても,年間計画をじゅうぶんに立てて,有機的に,しかも継続的に運営のできるように,あらかじめじゅうぶん用意することがたいせつである。
(8) 学校のクラブ活動に対する根本的な考えにもよるが,生徒によっては同時に二つのクラブに参加する希望をもつ生徒もあるので,このような生徒に満足を与えるには,クラブ活動の期日を一週に二回とかのようにする考慮も必要である。
(9) 生徒に自主的な計画を立てるように指導する。計画としては,クラブの規約を設けたり,クラブ活動の時期を決めたり,年間計画を立てるようにして,生徒に積極的にこれにはいりうる意欲をもたせるようにすべきである。
(10) クラブ活動の結果を生徒集会などで全校に発表するときは,それがよい結果に終るように,研究発表の方法・その時期・発表する場所などについてじゅうぶん研究することがたいせつである。
ここにあげたいくつかの要点はクラブ活動全体の指導に関連するものであるが,図画工作に関連するクラブ活動の指導では,ここを出発点として,さらに具体的な点にまではいって,解決しなければ問題を見つけて合理的な計画と指導が望まれるわけである。
4 演 劇
劇化はこれを大きく二つに分けられる。すなわち正式劇化と略式劇化である。
正式劇化は,演劇における正式の手続や方法をとるものである。この方法をとって学校で上演する場合は相当の準備が必要となるが,略式劇化は,日常の学習活動の一部やもしくはこの発表で特別な衣装や装置は準備しなくて行うことができるものである。すなわち教室が舞台であり,級友が観衆である。
劇化が中学校・高等学校における生徒の学習や指導で,どのような意義をもっているかを最初に検討して,図画工作教育上考慮すべき点に触れることにする。
1) 劇化の効用
(2) 演劇したり,観劇したりすることによって,人生を知る上によい方法である。
(3) 生徒が将来社会人として活動する基礎を指導するに有効な手段である。
(4) 生徒が望む理想を,小規模ではあるが,劇化によって,生徒の要求に満足を与えることができる。
(5) 生徒の劇化の活動は,余暇を有効に過ごすための一つの手段として適切である。
(6) 劇化は一種の芸術的創造にまで発展して成功するものであるため,この過程によって,生徒の感情にしみこむ効果がある。
(7) 劇化に参加することによって,互に教えたり,学んだりする立場に置かれるので,よい態度が養われる機会が多い。
(8) 劇化に参加するには生徒のそれぞれの得意とするところで協力することができるので,教師は生徒の適性を発見する機会を作ることができる。
(9) 劇化に参加することによって,学習の効果をいっそう明確にすることができる。
2) 劇化の種類
中学校・高等学校に利用できる劇化の種類は普通次のようなものがある。
(2) 公 共 劇
(3) 紙しばい
(4) 人 形 劇
(5) 黙劇および活人劇
以上のあげた劇化は,図画工作の面から見て,計画したり,演劇したり,また協力参加する面が多く,効果のあるものであるから,一応それぞれについて簡単な説明を加えておく。
3) 普通の劇化
普通の劇化といわれるものは,学校でしばしば行われるもので,演劇と演出者からなっている。
演出は舞台に劇を創造して見せる技術をさしている。すなわち脚本をもとにして演技者とその演ずる技,舞台装置(大道具・小道具など),証明効果(音響・音楽もともに)舞踊など演技に結びついて,演劇を完成する助けをして,劇を舞台に創造して,観客に見せ,感動を与えるものである。
この普通の劇化は,限られた図画工作の面が強調されるというよりは,統合的表現であるため,演出準備としての諸計画中に,図画工作の色や形の面からの参加が考えられる。これらについては,後で述べることにする。
4) 公 共 劇
公共劇は,大多数の観客のためにするもので,学校で実施するとすれば特別な催し物である。
公共劇はおもに,動作・対話・仮装行列・舞踊・仮面・黙劇,合唱や朗読などから成り立っている。
公共劇は一種の見世物であり,普通の劇化に比較して,せりふよりも,動作のほうがたいせつである。
普通の劇化は,いくつかの場合が結合して一つの有機的な全体を構成しているが,公共劇は,各場面のふんい気や,ねらいどころの統一はなければならないが,場面と場面との間にそれほど緊密な結びつきは必ずしも必要とはしない。
おもな目的は,公民精神の発揚,社会人としての望ましい態度の養成および,地域社会の文化の向上などである。
5) 紙 し ば い
紙しばいは,絵画と演技者のせりふと物語りから成り立っている。
紙しばいは実際の姿をはっきりと表わすことができ,たやすく資料が得られ,また取扱も便利で,準備に要する費用もやすく演技は何度でもこれをくり返すことができる。
紙しばいによって,視覚に訴えるどんなものでも,世界のどんな遠隔の地方の事物でも表わすことができるから,普通の劇化では取り扱うことのできない題材や,簡単であるが,実験ができないような題材でも紙しばいとして劇化することができる。
紙しばいによって時間を節約したり,生徒の興味を起したり,指導の方法に変化を与えることができる。紙しばいによって事物の正確な基礎概念を与え,学習活動を豊かにし,学習や指導に活気を与えることができる。
また生徒の研究調査などを紙しばいに仕組むことによって,その研究発表をいっそう興味深いものとして,生徒に深い印象を与えることができる効果をもっている。
6) 人 形 劇
人形劇は価価のある娯楽の方法でもあり,またこの実演には創造的で実際的な学習活動の機会に恵まれている。
人形劇によっては実在の人間では演ぜられないようなもの等でも演ずることができる特色をもっている。
人形劇には,次に示す種類がある。
(2) 手づかい式および指づかい式
(3) 手とおさを使うもの
(4) 糸あやつり
7) 黙劇および活人画
この二つの劇はもっぱら視覚と情緒に訴えるものである。
黙劇の俳優はしゃべらないから,その効果は俳優の律動的動作によるものであって,人間のこっけいな動作や,さまざまな性格や気分を表わすことができる。
黙劇を引き立たせるためには,色彩と音楽を用いることが望ましい。
活人画は適当な背景の前でまねごとをしたり,また一定時間,無言で静止して,あたかも絵画中の人物のように見せるものである。活人画は暗示的・象徴的であるから,歴史や伝説や文芸・科学の中の有名な場面を表わすに使うがよい。
また時としては黙劇や活人画によって,歴史上,地理の有名な場面やできごとを題名を示さすに表わし,見物人に想像させることもおもしろいものである。
以上あげたいくつかの劇化の種類は,主として,図画工作に関係あるものをあげたのであるが,図画工作の学習を進め,また指導にあたって,注意すべき点をあげてみよう。
(2) 紙しばいを作成するには,紙しばいの絵と,わくの製作などが直接指導内容としてあげられる。
紙しばいを作成するには,普通脚本によって作画するのであるが,この際どのように作画することが適切か,作画の枚数をどのようにするかまた作画の効果的方法や,その技術についても適切に指導することがたいせつである。
わくは既製のものを使用する場合もあるが,生徒に自作させるもよい。材料・大きさ・組立方法なども生徒に創造させることもよい。
(3) 人形劇には前にも述べたようにいろいろの劇化の方法があるので,それらに適した方法を研究することである。
普通工作実習で製作されるものは,人形の面(紙・粘土・その他の材料による),附属する簡単な衣装や,おさなどである。舞台は演技者がつかれないようにするため,舞台の大きさや,その構成方法を適切にすることがたいせつである。人形劇の舞台は有合せの机やいす・つい立て・幕などを利用すると手軽にできることも注意したい。
(4) スライドの製作は,おもに幻燈スライドを製作することが,学校においては中心になろう。その形式・作画方法など適切に指導することである。
なお,スライドは,自作するとともに,他のフイルム・写真乾板を利用することなども効果のあるものであるから,目的によって他の材料をじゅうぶんに利用することがよい。
5 学 芸 会
学芸会は,一つの教科指導の立場から計画されたり,また各教科に関連して計画されたり,またこれらとは,別個に学校の行事の一つとして計画されたりする。いずれによるにしろ,舞台で演ずるのが普通である。
この学芸会は,最も準備を必要としないものであっても,舞台と他の物的環境との関係を適切にするために,色や形の点から考慮することによって,学芸会の成果を高めるものである。たとえば,指導をちょっとくふうすることによって全体のふんい気を引き立ったり,背景に幕を張ることによって全体が落ち着くということなどはよくある例である。また学芸会を開くにあたって,報道用のポスターを作成したり,会場の準備で,図画工作の指導上,考慮すべき問題が多いのである。
6 校内展覧会およびバザー
校内展覧会にもその種類や開催方法にいろいろあるが,主として図画工作に関連する校内展覧会について指導上注意すべき点を述べる。
1) 校内展覧会
図画工作の時間における指導や,クラブ活動を通して作成された図画工作の作品や,これに関連の深い手芸作品などの校内展示について,注意すべき点をあげることにする。
(2) 展覧会場の位置や場所を,生徒に観覧しやすいように,また外来者の観覧の便も考えて,適切なところに決定すること。
(3) 展示する作品は,生徒や職員のものが中心になることもあるが,時には鑑賞に主眼をおいて,郷土出身の作家の作品を展示したり,地域社会の人々や,父兄の所蔵する作品を借用して展示することも効果のあるものであるから,いつも生徒の作品を展示するというだけではなく,変化のあるように心がけることがたいせつである。ことに美術館などで観覧の機会の得られにくい地域ではこのことはいっそう必要である。
(4) 展覧の準備・開催期間中の配慮・後始末など生徒が協力して事にあたるよう注意すべきである。
2) バ ザ ー
バザーは,商品陳列場・市場・商店街などということばにあたるが,普通には,社会公共の福祉や,慈善事業のために市場を開いて,物品を販売し,その利益をその方面に活用するのがその本来の姿である。
しかし最近は,学校の復興とか,その内容の充実をはかるための資金をうることを目的として,学校で行われるのを見るのである。
学校で行われるバザーは,その販売される対象品が,生徒の家庭や,地域社会の人々によって学校に寄贈されたものや,あるいはやすく学校に譲り渡された手技工作品・郷土の名産品・日用品・高級品・書画骨とうなどその数はきわめて多くのものがある。また生徒の製作品である手技工作品をその中に入れたり,また学校の復興や充実を望む熱意に出た同窓生の寄贈品や製作品などもその中に数えることができる。
バザー実施にあたって,次の点を生徒に徹底しておく必要がある。
(2) 各係はその責任をじゅうぶん認識して,会期中事務が円滑に進むようにすること。
(3) 会計については,完全な明細書を作るようにする。
なおバザー実施にあたっては,職業・家庭科との関連をじゅうぶんにとって,バザーの実施によって,その主旨が実現されると同時にこのバザー実施によって,他の方法では得られない経験を積ませるようにすべきである。