第Ⅰ章 中等教育課程における図画工作教育の目標

 

第1節 図画工作教育の一般目標

 図画工作教育の目標は,教育の一般目標を,造形文化の面から分担して達成することである。特に,日常生活に必要な衣・食・住・産業や,造形文化についてその基礎的な理解と技能とを得て,生活を明るく豊かに営む,能力・態度・習慣を養い,個人としても,また社会人としても,平和的,文化的な生活を営む資質を伸ばすことにおく。

 造形文化の面から生活を明るく豊かに営むためには,次の諸項の目標を達成することが必要である。

1 次の要項の指導によつて生活に必要な造形品を選択する能力を養う。

 1) 色や形に対する感覚を鋭敏にすること。

 2) 造形品を構成している材料の良否,構成方法の適否を判断すること。

 3) 造形品の美しさを理解すること。

 4) 浩形品の用と美との関係を理解すること。

2 次の要項の指導によって造形品を有効に使用する能力を養う。

 1) 浩形品の用と美との関係を理解すること。

 2) 色や形に対する感覚を鋭敏にすること。

 3) 手を器用にすること。

 4) 造形品を用,美両面から見て巧みに配置配合する技能を持つこと。

 5) 実験・実習を通して均衡・変化・統一・調和等を理解し,これを実際のものに適用する技能を持つこと。

 6) 公共物をたいせつに扱う態度・習慣を養うこと。

3 次の要項の指導によって造形品を創造する力を養う。

 1) 観察力を発達させること。

 2) 色や形に対する感覚を鋭敏にすること。

 3) 創造力を発達させること。

 4) 美意識を発達させること。

 5) 表現の材料,用具の使用や,表現方法を理解すること。

 6) 表現技術を発達させること。

 7) 研究的,実践的態度を養うこと。

 8) 共同して仕事をする場合よく他人と協調する態度を養うこと。

 9) 資源を愛護する態度を養うこと。

 10) 表現活動の人生に対する意義を理解すること。

4 次の要項の指導によって,創造的な表現力を適用する能力を養う。

 1) 情緒の過度の緊張を和らげること。

 2) 余暇を有効に過ごす助けにすること。

5 次の要項の指導によって自然のよさや造形品を鑑賞する力を養う。

 1) 色や形に対する感覚を鋭敏にすること。

 2) 美的情操を発達させること。

 3) 作品を構成する材料の良否,構成方法の適否を判断すること。

 4) 自然のよさや,作品に対して,そのよさを味わう態度を養うこと。

 5) 造形品を愛好し,よくできた作品や,すぐれた技術を尊敬する態度を養うこと。

 6) わが国の過去の美術作品を研究し,鑑賞して,いろいろな時代の文化を理解する能力を養うこと。

 7) 外国の美術作品を研究し,鑑賞して,外国の文化を理解する能力を養うこと。

 以上の五つの目標は互に有機的な関連を持っているもので,個々独立したものではない。

 

第2節 中学校の図画工作教育の目標

 前節で述べた図画工作の教育の目標は,小・中・高等学校と通じての目標であるが,中学校における図画工作教育の目標は,この一般目標を達するため,現在の時代と社会とがいだく教育理想に基く中学校の教育目標に基底をおき,小学校の図画工作教育の目標に接続して,次にあげるような諸目標を達成するにある。

1 生徒を個人としてできるだけ完成する助けとして,

 1) 絵や図をかいたり,意匠を創案したり,物を作ったりする創造活動を通して生徒の興味・適性・能力をできるだけ発展させる。

 2) 日常生活を営むに必要な,造形品の実用価値や美的価値を判断し,有効なものを選択する能力を発展させること。

 3) 造形品を有効に使用する技能を発展させる。

 4) 美術品および自然のよさを鑑賞する能力を発展させる。

 5) 前の各項と関連して,余暇を有効に過ごすための多くの興味や技能を発展させる。

2 生徒を社会人および公民としての完成の助けとして。

 1) 創造的な表現力を,社会生活に活用する技能を発展する。

 2) 人間の造形活動の意味を理解し,その価値を理解する能力を発展する。

 3) 造形の用具材料および造形品の使用を通して公民として必要な態度を発達させる。

 4) 生徒の職業的な興味・適性・技能と,経済的生活の能力を発展させる助けとして,

 以上,中学校における図画工作科の目標をあげたが,これらの諸目標は互に有機的な関連を保っているもので,個々に独立しているものではない。

 

第3節 高等学校図画教育の目標

 高等学校図画教育の目標は,高等学校の教育目標に基底をおき,図画工作教育の一般目標を分担して達成するため,中学校図画工作教育の目標に接続し,さらにそれを生徒の興味と適性と必要に適合するよう展開したところにおくべきである。

 高等学校の生徒になると,個性もほぼ固まり,美術の創造に著しい適性を示すものもあり,鑑賞に対して強い興味と適性と必要を示すものもあるというように,興味や適性と必要とに相当の差異を生じてくる。

 高等学校において,小・中学校における図画工作科を,図画と工作との二科に分離した理由もここにあるのであるが,図画科のうちにおいても,それぞれ異なった方面に適性を示すものであるから,生徒の個人個人の性能と傾向とに応じて教師は次に述べる諸目標のうち,重点のおきどころに多少の軽重をつけなければならない。しかし,高等学校の教育は,専門教育でないのであるから,美術文化に対してなるべく幅の広い教養を与えることがたいせつである。

 高等学校図画教育の目標をあげると。

1 生徒が個人としての自分をできるだけ完成する助けとして。

 1) 美術の創造を通して,自己の興味・適性・能力をできるだけ発展させる。

 2) 自然のよさや美術的な作品の鑑賞を通して,生徒の興味や能力をできるだけ発展させる。

2 生徒が社会人および公民としての完成の助けとして。

 1) 創造的な表現力および鑑賞力を,社会生活に活用する技能を展開する。

 2) 美的創造の人生に対する意味および価値を理解する能力を発展させること。

3 生徒の職業的な興味・適性・技能と,経済的生活の能力とを発展させる。

 以上高等学校における図画教育の目標をあげたが,これらの諸目標は個々独立しているものではなく,互に有機的な関連を保っているものである。

 なお高等学校の生徒の中には,前にも述べたように,美術の創造に著しい興味と適性とを示すものもあるから,その才能をじゅうぶんに伸ばすことの必要はいうまでもない。しかし,それは比較的少数の者であろう。大部分の生徒は創作よりもむしろ美術の鑑賞のほうに興味と適性とを示すものであるから,それらの生徒の個性を生かす道も講じなければならない。したがって,前記高等学校の図画教育の諸目標を一律に考えないで,おのおのの生徒の性能に応じて軽重をつけなければならないのである。しかし,なるべく幅の広い教養を与えることは必要であるから,あまり一方的なものにならないように注意することが肝要である。

 

第4節 高等学校工作教育の目標

 高等学校工作教育の目標は,図画教育と同様,高等学校教育目標に基底をおき,図画工作教育の一般目標を分担達成するため,中学校の図画工作教育の目標に接続し,さらにこれを生徒の興味と適性と必要とに適合するように発展したところにおくべきである。

 高等学校の生徒になると,工芸の意匠・創案に興味と適性とを示すもの,製作技術に才能を示すもの,理解と鑑賞とに特性を示すものなど相当個性的特色を発揮するものであるから,次に述べる諸目標も,どの生徒にも一律に適用するのではなく,教師はそれぞれの生徒の個性に応じて重点のおきどころを異にしなければならない。しかし,一般高等学校の教育は専門教育ではないのであるから,あまりかたよった教育目標を選ばないで,なるべく幅の広い工芸文化に対する教養を与えるようにしなければならない。

 高等学校工作教育の目標をあげると。

1 生徒が個人としての自分をできるだけ完成する助けとして。

 1) 工芸の創造を通して自己の興味・適性・能力をできるだけ発展させる。

 2) 日常生活を営むために必要な,工芸品の実用価値や美的価値を判断する能力を発展させる。

2 社会人および公民としての完成の助けとして。

 1) 創造的な表現力および価値評価をする能力を,社会生活に活用する技能を発展させる。

 2) 工芸文化の進歩が,生活の改善・美化のためにどのような価値を持つかの理解を発展させる。

3 生徒の職業的な興味・適性・技能と経済生活の能力とを発展させる助けとして。

 以上高等学校における工作教育の目標について述べたが,これらの諸目標は個々独立したものではなく,互に有機的の関連を持っているものである。