小学校学習指導要領
理 科 編
(試 案)
昭和27年(1952)改訂版
文 部 省
ま え が き
この本ができるまで
昭和22年に学習指導要領理科編の初版を発行してから,その改定版をいまここに発行する運びになるまでの経過をたどってみよう。
昭和23年に,文部省に理科研究中央委員会を設けた。この会の仕事は,理科の学習指導に関する研究と理科教育を振興するために,有効な忠言をすることにあった。この会の初期の委員が非常に努力をして成しとげた仕事のおもなものは,理科の目標をまとめたことである。この大きな骨のおれた仕事は,出版物として世に出なかったけれども,プリントの形で各地に送られた。現在では,これを基にして研究されたものが,全国に流布しているものを見かける。これで,この委員会の仕事がどんなに役にたったかわかる。また,この改訂版を作るにあたっても,その時の研究が基礎になって,はじめて完成することができたのである。
中央委員会の呼びかけに応じて,同じ年に,各地区ごとに理科研究委員会が自主的に生れた。地区は,北海道・東北・北信越・関東・東海・近畿・中国・四国・九州の九つである。これらの地区委員会は,同じような仕事を目ざしている中央委員会とよく気心を一つにして働き,また,中央委員会の仕事をよく援助してくれた。しかもその間,経費の点で,地区委員会はなみなみならぬ苦心をしておられることを知っている。両委員会を通じて,理科指導にあたる人たちの熱情と持久的態度に接して,心あたたまる思いがするのは,わたくしたちだけであろうか。
改訂版の執筆に着手したのは,昭和25年の始めであった。この時から,下に掲げる委員のかたがたの手を煩わした。基礎の研究ができているから,本にまとめるのはわけないと思っていたが,取りかかってみると,らくな仕事ではなかった。ついに2年近くを費やした。その間,委員のかたがたは,多忙なうちにあって,本書の編集に多大の協力をしてくださった。しかし,なお,すべての委員がもっと研究したいと思う点をたくさんに残している。
改訂の主な点
まず第一に述べておきたいのは,理科教育の根本方針は変わっていないことである。
改めたおもな点は次のとおりである。
(1) 理科の目標 (2) 児童の発達 (3) 指導計画 (4) 指導の方法 (5) 単元の考え方 (6) 理科の体系 (7) 評価の方法 (8) 理科の材料
|
教育の一般目標との関連をじゅうぶんに考えた。整理して,焦点をすぐつかめるように表現を改めた。 その後の研究をとり入れた。 新しく加えた。 前より詳しくした。 初版にあった不統一をなくした。 1年から6年まで,一貫したものがよくわかるようにした。 その後の研究をとり入れた。 新しく加えた。 |
今後の研究を望む点
この本を書き上げたいま考えると,もっと研究して完成したい点はたくさんにあるが,そのうちで特に著しいものだけ述べておきたい。それは,こどもの発達の問題である。理科の体系をたてるにも,指導の計画をするにも指導の方法を考えるにも,相手であるこどもをはっきりつかんでいないことには,すべて砂上の楼閣に終ってしまう。このように,最も重大な問題でありながら,その研究がしっかりしていないのであるから,非常に不安であることを告白して,今後多くの教師の奮闘をお願いする。
この本を使うときの注意
学習指導要領の本質として,この本は教師にこうしなければならないことを命令したものではない。指導の効果をあげる最良の道は,相手であるこどもにいつも接している受持ちの教師が最もよく知っているはずである。その道を見いだす場合の助け手として,この本が役にたてばよいのである。
この本に記したこどもは,きわめて慨括的にとらえたこどもにすぎない。このとおりのこどもを頭の中に描いて,目の前にいる生きたこどもにおっかぶせてしまうような錯覚を起さないでほしい。この本の中のこどもは,どこまでも,あなたの目の前の,学習を始めようとするこどもを見るときの参考にすぎない。
援助をいただいたかたがたへ
この本を編集するにあたって,委員以外に,そのかたがたの属する学校のかたや,その他多くのかたがたの援助をいただいて,初めてこれだけの仕事ができたことに対し,厚く御礼を申しあげます。
この本にのせた写真は東京教育大学付属小学校から提供されたものである。これに対しても厚く御礼申しあげます。
お茶の水女子大学付属小学校教諭 | 飯 島 幸 子 |
文部省初等中等教育局 初等教育課文部事務官 |
岡 現 次 郎 |
横浜国立大学付属鎌倉小学校教諭 | 小 川 浩 |
東京学芸大学付属世田谷小学校教諭 | 加 藤 嘉 男 |
東京教育大学付属小学校教諭 | 近 藤 釧 三 |
文部省初等中等教育局 | 谷 口 孝 光 |
初等教育課文部事務官 東京都杉並区立桃井第二小学校教諭 |
西 沢 二 郎 |
東京都北区立岩渕第二小学校教諭 | 西 野 戌 俊 |
東京都大田区立小池小学校教諭 | 萩 原 茂 子 |
東京都中央区立日本橋城東小学校教諭 | 村 井 ち え 子 |
元お茶の水女子大学付属小学校教諭 | 山 口 愛 子 |
(五十音順 敬称略)
目 次
ま え が き
Ⅰ.科学とは何か
Ⅱ.科学の人生における重要性
Ⅲ.理科教育の重要性
Ⅳ.理科教育における理解と能力と態度
Ⅰ.こどもの発達を考えるわけ
Ⅱ.理科のプログラムに影響する小学校のこどもの発達
Ⅲ.理科教育におけるこどもの発達の適用
Ⅰ.学年の指導目標
Ⅱ.単元の問題と,その目標ならびに学習活動
Ⅰ.指導計画をたてる場合の教師の仕事
Ⅱ.年間指導計画のたて方
Ⅰ.学習指導法に影響する要素
Ⅱ.これらの要素の指導法への影響
Ⅲ.理科の学習指導法
Ⅳ.理科の学習活動とその指導
Ⅰ.評価はなぜ必要か
Ⅱ.何を評価するか
Ⅲ.どのようにして評価を行うか
Ⅳ.評価の処理と反省
Ⅰ.学習指導に必要な装置や材料は,どのようにして備えたらよいか
Ⅱ.学習に役だつ材料・施設とその経営
Ⅰ.理解の目標