第5章 学 習 指 導 法

 

Ⅰ.学習指導法に影響する要素

 こどもが望ましい経験を重ね,有効な活動を行うためには,学習指導の計画だけではじゅうぶんでなく,すぐれた指導法がそれに伴わなければならないことはいうまでもない。有効な学習は,学ぼうとするこどもと,指導する教師との協力によって行われるといってよいであろう。

 次に,このことを念頭において,学習指導に影響する諸要素について考えてみることにしよう。

 こどもが,これまでに経験したことのない事がらや,見たことがあっても,注意しなかったことに出あうと,「なんだろう」とか「なぜだろう」とか疑問を起すであろう。また,経験したことがあっても,まだ解決のついていないことには同じように疑問を起す。このように,こどもが興味をもち,解決の必要を感じている場合は,そのことを問題として解決の活動が始まる。

 このような問題解決の過程中で,

 この二つの目標をもって指導される活動が学習である。

 この学習の効果が,じゅうぶんあがるように指導するには,その方法に,どのような要素が影響するかを,しっかりつかんでおかなければならない。

 

 1.学習するものとしてのこども

 学習を指導するにあたって最も必要なことは,学習するものとしてのこどもの実態を,しっかりつかむことである。それは,次のように分けて考えることができる。

(1) こどものもっている必要と興味

(2) こどもの発達 (3) こどもの過去の経験と知識

 学習は,学習者がすでにもっている経験や知織を土台として発展する。したがって,教師はこどもがすでにどのような知識や経験をもっているかをよく知っていることが必要である。

 これらは,学習の指導法に深い関係をもつばかりでなく,計画をたてるときも,指導に必要な材料を用意するときも,また評価を行いその結果を活用するときも,直接間接に影響をもつものである。

(4) 個 人 差

 こどもの興味・能力・必要・活動の傾向・性格・感受性などには,個人的な差異がある。

 教育は,個々のこどもをできるだけ発達,進歩させることを望んで行われるものであるから,個々のこどものもつ個人差について,じゅうぶん注意を払い,それに適応した指導法をとらなければならない。

 

 2.こどもの学習に役だつ環境と材料

 こどもの外部にある学校や社会の施設・設備・自然界・社会等の環境は,こどもの学習に対し,次のような点で,きわめて密接な関係がある。

(1) こどもが「なんだろう」とか「なぜだろう」とか疑問を起すのは,こどもと環境のつながりの中で行われる。うさぎ・やぎが飼ってあるような学校では,うさぎ・やぎは何を食べるのか,どのようにして世話をするかなど,疑問をもちやすく,また,世話をしたり,観察をしたりすることにも興味をもちやすい。教室を例にとってみても,その教室が暗ければ,何とかして明るく気特よくしたいものだと考えるであろうし,明るくするいろいろな方法も考えだすことであろう。このようにこどもの置かれている環境は,疑問なり問題なりが構成され,学習が発展していく基になるものである。

(2) 環境にある事物は,また,問題を解するに役だつ。「いろいろな動物は何を食べているか」が問題となったとき,学校で飼っているうさぎ・やぎを観察しようと考え,それによって解しようとする。また,「雲はどうしてできるか」が問題となったとき,図書室があれば,そこで読書によって解決しようと考える者もあろうし,気象台が近くにあれば,そこを見学し,所員に話をきいて解決しようとする者もあろう。「どのようにしたら火がよく起るか」が問題となったとき,そこに,こんろや,ストーブなどの道具があれば,それを使って解しようと考えるであろう。

 こどもは環境との交渉のもとに暮しているわけであるから,そこにいろいろな問題をもち,さらに環境にあるものを使って,その問題を解決している。したがって,こどものもつ問題の種類・深さ・解決のしかたなどは,環境にどのようなものがあるか,そのものがどのような状態にあるかによって違うのである。教師は,こどもがどのようなことに興味や関心をもつかを知るとともに,環境にどのようなものがあるかをしっかりとつかんでいなければならない。

 しかし,環境にあるといってもただ近所にあるというだけでは,学習指導にすぐに役だつというわけではない。学習指導に役だてるためには,こどもの近所にあるもののうちで,どのようなものに興味をもつか,どれほど深い関心をもつか,問題解決にどのようなものが役だつかを調査研究しておくことがたいせつである。

 

 3.指 導 目 標

 指導法は,理科の目標に即してくふうされなければならない。第1章に掲げた理科の目標が,その焦点を示している。

 理科の指導法は,理解・能力・態度等がかたよらないで学習できるように,くふうされなければならないことはいうまでもない。これらのねらいは,指導の目標として具体的に掲げられなければならない。

 それでは,単元の学習を指導するときに,どのようにして具体的な指導の目標をきめたらよいであろうか。その手順を示してみよう。

(1) 年間計画の単元のうち,これから指導しようとする単元に,最もよく似ていると思う単元の指導目標を調べる。これらの指導目標のうちから,今度の単元にふさわしいものだけを選びとる。

(2) 年間計画の単元のうち,(1)で調べた残りの単元の指導目標を調べてみる。そのうちに,今度の単元にふさわしい指導目標があれば取りあげて(1)で選んだ指導目標に加える。

(3) 「学習するものとしてのこども」の項にしるしたことから,年間計画に現われていないが,指導目標として新しく加えたほうがよいものがあるかどうかを考えてみる。

(4) 以上のようにして選び出された指導目標について,次のような要素から重要さの違いを考えてみる。

 教師の指導しようとする目標と,こどもの学習しようとする目的とを,むりなく結合させることが,教師の重要な仕事である。これは,教師とこどもの協力によって,はじめてなしとげられる。

 

Ⅱ.これらの要素の指導法への影響

 上に述べた「学習するものとしてのこども」,「こどもの学習に役だつ環境と材料」「指導目標」が,どのように指導法に影響するかを,次に述べてみよう。

 

 1.学習活動の選択

「Ⅳ 理科の学習活動とその指導」の中にある各項(例,観察・実験等〉の意義を参照する。その意義の中から「学習するものとしてのあなたのこども」と「あなたの選ばれた指導目標」と一致するものを探す。

〔例1〕最近,輪ゴムが多く出まわってきて,それがこどもの一つのおもちゃにまで発展した。その遊びの一つとして,非常に興味をもっているのは,ゴムを筆箱などに張り,はじいて音を出すことである。時間さえあれば,これで簡単な曲をはじいては,大騒ぎをしている。

 音の学習は第2学期に行う予定であったが,どのこどもも音の出るものに興味をもって遊んでいるので,予定を変えて,ここで音の学習をすることにした。

 指導のねらいは,おもちゃの楽器を作成しながら,いろいろな実験を行い,音の学習をすることである。一方,制作をとりあげた理由は,こどもの興味が輪ゴムと筆箱の遊びを通して,製作に向っていたからである。(Ⅳ(3)製作 参照)

 指導の順序としては,この遊びから話し合いを始め,もっとよい楽器,もっとほかのいろいろな楽器を作ってみようというところに進んだ。作ってみたいものをいろいろあげさせ,それから作ってみたい物を中心に,グループを作った。グループの人数の多い場合は二つ三つの同じものを作るグループを作り,製作後の比較に希望をもたせた。

 製作にあたっては,必要な材料・道具などを調べ,なるべくもち合せのものを活用するように努めた。

 各グループは,どんなにして作るか相談したり,教科書を読んで考えたりして計画を立てた。また,だいたいできあがったころ,実物と比較して改善をはかったり,根気よく原理を追求したりしたグループもあった。

〔例2〕音の学習にあたり,こどもが日頃疑問をもっている山びこの指導を,どうしたらよいかを考えた。こどもは,静かな廊下や講堂でも,山びこを聞き,また,校庭でも,校舎にぶつかってかえってくる音に関心をもったこともある。

 そこで,室の中で大たいこをたたいて,とびらや窓ガラスに伝わる振動に注意したり,水中に小石を投げ入れて,波紋が池の縁ではねかえってくる様子を見たりする実験をとりあげた。このような簡単な実験と,過去の経験を思い合わせながら,山びこについての本を読んで,学習のまとめをした。

 

 2.学習の順序

 学習活動にはいろいろな種類があるが,それを,どんな順序にするのが,その学習にとって,また,こどものために最も効果的であるかを考える必要がある。順序も考えないで,ただこどものなりゆきにまかせておくのでは,よい指導とはいえないし,多くの場合,目的も達せられない。

 ある事がらを学習する場合に,初め見学をしたほうがよいか,読書したほうがよいか,作をするのがよいか,幻燈や映画を見せるほうがよいか,あるいは,これらは後にまわして,まず実験したほうがよいかなど,いろいろな場合が考えられる。

〔例1〕3年生のわたくしの受持ちのこどもは,岩石に対して,いっこうに興味をもっていなかった。その年の秋,多摩川原に遠足をしたとき,少し刺激やヒントを与えたら,急に関心をもちだし,それ以来,石と見ると集めてきては,さわってみたり,重さを比べてみたり,割ってみたり,色や形を比較してみたりして,自分たちで「これはちりめん石,これはろう石,これはひかり石」などと,自由に名をつけ,興味をもって学習を続け,効果があがった。

〔例2〕こどもは,衛生方面には比較的無関心であるが,これは,多くは知識が乏しいための無関心である。いったん少しでも,からだについて理解してくると,ことに自分のからだのことに関しては,興味をもつものである。校医にやさしく話をしてもらってから,話合いや見学・読書などによって学習をすすめたところ,健康に注意する習慣ができた。

 

例1では,なぜこのような学習順序をとったか。この場合は,3年の理科指導の年間計画の中に,岩石の学習が組み込まれているが,こどもたちは,あまり岩石に興味をもっていなかった。しかし,このこどもたちは「ちょっとした刺激を与えれば,興味をもつ」(Ⅰ・1の(1),b参照)状態にあった。そこで,このちょっとした刺激を何によって与えるかをくふうすればよい。この問題は,遠足をまず第一の指導順序におくことで,うまく解決したのである。

 例2の場合は,衛生方面について,こどもの興味や関心のうすい場合である。専門家の話を聞くことを学習順序の第一におき,これによって興味を引き出す。それに続いて,こどもの興味が一歩一歩深くなるような学習活動を選んだ。それで学習活動の順序を見学・読書ときめて,成功した場合である。

 このように,学習指導の順序は一定の型に捕われることなく,「わたくしがいちばんよく知っているわたくしのこどもたちを,わたくしが指導するのである。」ことを常に念頭におき指導の順序をより適切に計画すべきである。

 

 3.指導する時間

 指導するときに,学習活動をどれほどの時間を続けていったら適当かは,次のような観点に立ってきめるのがよいであろう。

(1) 学習活動の重要差の違い(次の項参照)

(2) 学習活動の種類から

 時間が長くかかる活動——製作・見学・報告書を作る仕事・実験など

(3) こどもの興味の持続から(第2章 こどもの発達 参照)

 低学年のこどもでは,同じことを長く続けていると,すぐあきがくる。こどもの興味のかわるにしたがって,次々と場面とか,することを変える必要がある。一つのことに興味をもっている時間は,だいたい1年では,5〜10分,3年では20分ぐらいであろう。

 高学年では,一つの活動の興味は,比較的長く続くようになる。

(4) 単元の指導時間から

 

 4.力の入れ加減

 単元の学習の中に,次々に展開される各ゝの学習活動に,指導の際の力の入れ加減をどのようにするかは,こどもの興味と必要を感じている度合や,これまでの経験,こどもの発達,単元の含む指導目標によって異なってくる。

(1) 指導にじゅうぶん力を入れなければならない学習活動

(2) 指導にあまり力を入れなくてもよい場合 (3) 特に指導しなくてもよい学習活動  

 5.問題解決のための学級の組織

(1) 各自でやったほうが効果のある場合

(2) グループでやったほうが効果のある場合 (3) めいめいで学習するのと,グループで学習するのとを組み合わせる

 この二つの学習は,一応は別の形式の学習方法であるが,実際こどもを指導する場合には,この二つをまったく別のものとして切り離して行わないで,場合場合に応じて,二つの学習の形式を組み合わせると効果がある,たとえば,めいめいの学習からグループの学習にはいり,あるいはグループの学習の中間にめいめいの学習かはいるようにする。

 

Ⅲ.理科の学習指導法

 1.学習指導の過程

(1) こどもが,うさぎを手に入れて,それをこれから学級で飼育していこうと相談がまとまった。そこで問題になったのは,どのようにして飼うかということであった。このうさぎの飼い方について話し合っているうちに,どのような飼育箱がよいのか,どのようなものをどれだけ食べさせたらよいのか,手入はどのようにしたらよいのか,以上の三つの問題を解決すればよいということになった。

(2) 次にみんなで,これらの問題をどのようにして解決できるかを考えた。すでにうさぎを飼育したことのあるこどもは,これまでの経験を思い起して,いろいろの意見を出した。これまで経験したことのないこどもは,農家を訪問して調べようとか,教科書に書いてあるから,それを読もうとか,うさぎの飼育について書いてある本を探して読んでみようなど,解決の方法をいろいろ考えた。そうしてめいめいの好みに合い,自分にできる方法によって分担し,研究を始めることになった。

(3) あるこどもは本を読んで調べた。あるこどもは農家を訪れ,飼育しているところを見せてもらったり,農夫の話を聞いたりした。またあるこどもは,上級生に聞いたり,両親に聞いたりした。

(4) こうして調べた事がらについて,みんなで話し合った。そのときに農家での調べはまだじゅうぶんではないことがわかったけれども,いちおうそれらの結果をまとめて結論を出した。

(5) こどもはこれらの結論に基いて,飼育箱を作ったり,食べ物を用意してこれを与えたり,手入れをしたりする仕事にとりかかった。

 さて,うさぎを飼いたいというこどもの要求に基いて進められた,これまでの学習およびその指導の過程を要約してみると,おのずから次のような五つの段階に分けられる。

 
 
 
学 習 の 段 階
指 導 の 段 階
1.

2.

3.

4.

5.

学習すべき問題をはっきりとつかむ。

問題を解するために計画をたてる。

計画に基いて,研究や作業を続ける。

研究や作業の結果をまとめる。

まとめた結果を活用し応用してみる。

導 き の 段 階

計 画 の 段 階

研 究 の 段 階

整 理 の 段 階

活 用 の 段 階

 

 こどもたちがうさぎを飼う仕事にとりかかり,その仕事を続けていく間に,うさぎに有害な食物はどのようなものか,食物と成長との関係はどうか,木のようなかたいものをかじることのあるのはなぜか,どのようにして運動するかなどの疑問が,次々に起り,その度に問題が構成され,解決のための活動が展開されることであろう。このときの指導の過程はふたたび上表の1〜5の順序をふむのが一般である。

 このような指導の過程は,問題解決を目ざして行われる指導の特徴であるから,上に示したものよりも大きな問題を解する活動の中においても,あるいは,もっと小さな問題を解決する学習の中においても,同じような過程をたどるということかできる。

 たとえば,一つの実験をする場合を考えてみると,まずこのような段階をふんで,仮の結論を得る。この結論を問題解決に適用してみて,さらに実験をやり直す学習にはいる。このときには,また最初の段階から学習がくり返され,ほんとうの結論を得ることになる。このようにいくたびかこの学習の順序がくり返されながら進んで,ついに単元の学習を終ることになるのが普通である。

 次に,こどもの学習の順序と,それに沿って進められる指導の過程の関係をわかりよくするために,表に示してみる。
 
学習の過程
お も な な 学 習 活 動
指 導 の 過 程
1.問題をつ

かむ

 

 

・生徒や級友と話し合う。

・教科書や参考書を読む。

・映画・幻燈などを見る。

・話を聞く。

・見学する。

 

 

1.指導の段階

・指導前の調査をする。

・経験を思い出させる。

・本の選択・話合いなど

 の学習活動をたすけ,

 問題をつかませる。

・こどもが,どの程度は

 っきり問題をつかんだ

 かを知る。

2.計画をた

 てる

 

・結果の予想について話し合

 う。

・問題を分析する。

・研究の範囲をきめる。

・遊び・研究・作業の方法につ

 いて考えたり話し合ったりす

 る。

・教科書や参考書を読んで,解

 決のいとぐちをつかむ。

・研究や作業の順序や方法をノ

 ートにかく。

・必要な用具や資料を整える。

・仕事の分担をきめたり,グル

 ープを作ったりする。

 

 

2.計画の段階

・結果を予想させる。

・問題を分析させる。

・解決の方法を考えさせ

 る。

・必要な用具の集め方や

 使い方の指導をする。

・仕事の分担をきめる世

 話や,グループを作る

 世話をする。

・こどもの行動を観察

 し,こどもの計画をた

 てるための諸能力の程

 度をつかみ,クラスあ

 るいは個人の指導の適

 正をはかる。

3.研究や作

 業をつづけ

 る

・遊びの活動をする。

・観察をする。

・継続的に観察する。

・実験をする。

・友だちや先生の実験を見る。

・飼育をする。

・栽培をする。

・実験や観察の結果を記録す

 る。

・調査や採集をする。

・見学をする。

・絵にかいたり,工作したりす

 る。

・表やグラフを作る。

・映画や幻燈を見る。

・画や写真・掛図・図表などを

 見る。

・標本を見る。

・模型を扱って調べる。

・教科書や参考書を読む。

・人の意見を聞く。

・問題に答える。

 

3.研究の段階

・個別・班別・組全体の

 び方について世話を

 する。

・個別・班別・組全体の

 研究や作業について世

 話をする。

・こどもの興味が継続す

 るよう留意する。

・環境をこどもの学習に

 最も適するように整え

 る。

・こどもの行動を詳しく

 観察し,目標に照らし

 て,たえず指導の方法

 を評価し,よりよい方

 法をあみすようにす

 る。

・個々のこどもの指導に

 意を用いる。

・研究や作業に使った物

 のあとかたづけを指導

 する。

4.結果をま

 とめる

・まとめ方・研究や作業の結果

 学習過程の反省などに関する

 話し合いをする。

・遊んだこと,見学したことな

 どを文にかいたり,絵にかい

 たりする。

・報告書を作る。

・発表したり,作品を展示した

 りする。

・発表を聞いたり,作品を見た

 りして,質疑応答・批評など

 をする。

・さらに研究すべき問題を明ら

 かにする。

4.整理の段階

・遊びや研究のまとめ方

 を指導する。

・まとめのための絵や文

 のかき方,報告書の書

 き方などを指導する。

・発表や展示の方法につ

 いて指導する。

・発表の聞き方,展示し

 たものの見方,質疑応

 答や批評のしかたを指

 導する。

・指導の目標に照して整

 理のしかたを評価する

・こどもの行動を細かく

 観察し,これに基いて

 指導法の適正をはかる

5.活用応用

 する

 

・まとめた結果に基いて,試み

 たり,日常生活に活用してみ

 たりする。

・問題に答え,学習したことが

 身についたかを自己評価す

 る。

5.活用の段階

・テストをする。

・テストの結果や,こど

 もの行動観察の記録の

 結果をまとめ,指導の

 過程を反省する。

・次の学習への発展を助

 ける。

 

〔注意〕

 

 次に各段階における指導について,もう少し詳しく述べてみよう。

(1) 導きの段階

 この段階の目的は,単元の問題についてこどもの興味を導き,しだいにその問題をはっきりつかませるとともに,学習する意欲を盛んにすることにある。そのためには,話合いや,参考書・教科書を読むことや,映画・幻燈を見ることや,遠足や見学をすることなどの手段が用いられる。

 したがって,模型・標本・実物・写真・図表等の陳列,参考書・雑誌・新聞などの準備が必要になる。

 殊に話合いは,教師にとって,こどもがどのようなことに興味をもち,どの程度に問題をつかんでいるかを知るとともに,それを手がかりとしてこれから後の展開の方法を考えるのには,まことによい手段である。

 これらの問題をつかむ手がかりは,新聞記事・ラジオニュース・時の話題・行事などの社会事象からの場合もあり,大水・火災・地震・伝染病・停電・断水などの偶発的な事象からの場合もあり,また,こどもの生活の直接の経験からの場合もある。

 問題をつかみ,その解決に興味なり,必要感を起すときには,こどものこれまでの経験の深いもの,浅いもの,興味をすでにもっているもの,あまり興味のないものによって,指導に手心を加えることが必要である。

 たとえば,低学年で「ままごとあそび」をする場合は,こどものだれでもが興味をもっているものであるから,特別苦労しなくてもとびついてやる。それで,この場合は,あまり時間をかけなくてもよい。しかし,学年がのぼるに従って,こどもの経験にも差ができ,興味もいろいろ分れてくるとともに,社会性も発達してくるので,指導にも趣向をこらし,時間をかけることが必要になってくる。

 学習する事がらに必要を感じ,興味を起すということは,問題をはっきりとつかみ,これを解決する必要と興味をいうのであって,先生にほめられるとか,点数をもらうとか,試験に出るということのための必要や興味をいうのではない。

 特に,教師の意図をこどもにおしつけるようなことがたびかさなると,こどもは常に命令を待って,はじめて行動を起すようになり,自発的な研究態度を養うことはできない。こどもたちの個々の興味や関心・能力などに目をとめて,それぞれのこどもに適した指導をすることがたいせつである。

(2) 計画の段階

 問題がはっきりとらえられてから,その問題をどのように解決していくかの計画をたてることが,この段階の目的である。

 普通は導きにつづいて話合いが続けられ,解決の方法・順序が定められていく場合が多いが,それとともに,教科書を読んだり,幻燈や映画を見たり,教師の話を聞いたり,教師の実験を見たりするような手段も併用される。

 話合いが進められるにつれて,問題の輪廓もだんだんはっきりし,研究の方法が次々に定められていく。ときには,いくつかの小さい問題に分けられ,グループの研究に移すような計画がたてられたり,また,必要な資料を,みんなで集めたりするような計画がたてられたりすることもある。

 このような計画をたてるいとなみは,いま自分が解決しようとしてたてた計画に従えば,どのような結果になるかを予想することによって,興味深く,また解決に最もふさわしい計画がきめられる。したがって,教師は,こどもの計画をたてる話合いを,いつもこの結果の見通しをもとにして行われるように指導することが必要である。

 予想をもたない試みは,むだ骨おりになりがちである。結果の予想をたてることによって,むだなく,解決の目的に向う学習を発展させることができる。そのためには,まず問題の本質や内容に類似していると思われる過去の経験に照し合わせて,あれこれと結果を予想すべきである。また参考資料によって調べる必要も起るであろう。こうした経験なり,資料なりによって,はじめて,たぶんこうであろう,こうすればよいであろうという予想がつくようになってくる。

 この結果を予想して学習を進めていくということは,次の研究の段階においても重要なことである。たとえば,実験をするときを考えてみると,自然の状態では,はっきりと事実を確かめられない場合に,結果を予想することによって,はじめて,特定の状態のもとでそれを観察し,調べていくことができるのである。

(3) 研究の段階

 問題がきまり,解決の方法について計画がたつならば,その計画に基いて,こどもが力強く研究や作業を続けて,学習の目的を達することのできるように導くのが,この段階の目的である。

 ここでは,表に示したような多彩な活動をとり入れ,こどもが納得できるまで研究するように指導することか望ましい。教師が,自分で考えたコースをこどもに押しつけるとか,また,ひとりのこどもの考え出したコースでしばるというようなことは,学習の発展を妨げることになるから,注意しなければならない。

 この段階でとりいれられる学習活動は,低学年と高学年とでは,おのずから差異がある。自他がまだはっきり分化していない,しかも変化を好み,活動的な低学年のこどもでは,遊びの形態をとり入れ,遊びの間に指導目標にかなう楽しい経験を積んでいくようにはかるべきである。しかし,高学年に進むに従い,注意の集中も可能になり,思考も分化し,やや精密な器械を扱う能力や,継続的に仕事をする能力や,読書の能力などが発達するから,それにつれて,討議(話合い)や見学や,実験や,継続観察や,記録や,工作などの活動を多彩におりこむことができるようになる。その上,自主的な態度もしだいに伸びてくるから,それらの活動の指導も,できるだけこどもの自発性を伸ばすように行うことが望ましい。

 この段階は,教師にとって個々のこどもの能力に応じた指導をする最もよい機会である。考える能力や技術的な能力や,そのほかのいろいろな能力について,おくれているものについてはその原因を確かめ,それに対する指導に力を注ぐとともに,進んでいるこどもに対しても,研究を興味深く推し進めることのできるよう指導を忘れてはならない。

 なお,研究や作業がうまく進行するためには,こどものつきあたるいろいろな障碍を取り除いて,学習の興味を持続させることに,教師は特に力を入れなければならない。また実験や観察に必要であると思われる資料・材料・用具を準備しておくとか,掛図や図表を教室に掲げるとか,適当な参考書を用意するとか,質問に対しいつでも答えられるよう素材について研究をしておくことなどは,こどもの研究の活動を,有効にしかも力強く進める上にきわめてたいせつなことである。

 教科書は,この段階では随時活用されるようにしなければならない。実験の方法に行きづまったとき,技術について不明な点があったときなど,教科書はよい手びきとなるであろう。しかし,教科書を教師がよんで,それで終るようなことがあってはならない。

(4) 整理の段階

 これまでに研究や作業を続けてきたことをまとめるのが,この段階の目的である。

 低学年では,遊んだり観察したりしたことを話し合ったり,作品を展示したり,ときには絵や文にかいたり,歌をうたったり,劇にしくんだりしてまとめるようなことが多い。

 高学年に進むに従って,研究の結果を整理して報告書を作ったり,図や表にまとめたりすることができるようになる。研究によってわかったことをもとにして劇を創作したり,紙しばいに作ったり,絵巻物を作ったりするのもよく,また観察したことや見学したことを文章にまとめるのもおもしろい。グループで行った研究は,まとまるに従って,教室の壁にはったり,机の上に陳列したりしていくのもおもしろい。

 整理ができたら,発表をする。発表の方法には,口頭でする場合もあり,図や絵を掲げて説明をしたり,展示や陳列をしたりする場合もある。いずれにしても,教師や級友や父兄に聞いてもらったり,見てもらったりして,批評を受けるような機会を作るべきである。

 ここで注意することは,とりあげた問題が,全部こどもが満足するところまで解決されるとは限らないことである。それで,じゅうぶん納得するところまで到達し得なかった問題は,それを明らかにして,将来の研究にまつようにすることが必要である。

(5) 活用の段階

 研究の結果得られたことをもとにして,さらに実生活への応用・活用に心がけるのがこの段階の目的である。

 この活用によって理解をさらに確かにすることもでき,また,新しい問題をつかみ,学習の発展を助けることもできるし,また活用応用によって,こども自身が学習の過程を反省し,学習の方法を改善するいとぐちができるのである。

 この段階でとりあげられる学習活動には,次のようなものがある。

 

 2.学習指導全過程を通じての指導上の留意点

 学習指導過程の五つの段階,すなわち導き・計画・研究・整理・活用のそれぞれの段階について,指導上の留意点を1で詳しく説明した。しかし,これらの段階の指導が成功するためには,こどもが問題を解決できるまで興味をもちつづけなければならないし,また,解決のための活動が力強く進められるためには,こどものおかれた環境に目をとめて,それを学習に最もよい環境にすることにも留意しなければならない。また,こどもが観察や実験や製作などを行っている間に,こどもをよく観察し,これをもとにして指導法を評価し,最もこどもに適した指導法をくふうし,指導にあたることもたいせつなことである。

 これらは,どの段階にも通ずる指導上の留意点であるから,次に詳しく述べることにする。

(1) 学習興味の持続をはかること

 学習の過程で,学習することに興味を失い,それ以上学習を続けるのがいやになることがある。その原因をさぐってみると,非常にむずかしいことにつき当ったとか,危険を感じたとか,資料や道具が足りなくて,仕事ができないとか,あるいはまた,グループを作っているめいめいが争うとか,力の強いものに遠慮するなど,いろいろある。

 これらは,学習の進行をはばむ大ききな障碍であるから,教師はたえずこどもの行動を注意深く観察し,このような障碍を取り除いてやるように導き学習の興味を最後まで持続するようにすることがたいせつである。

(2) 常に指導法の適正をはかること

 こどもの学習がうまく進行しない他の原因として,教師の指導が適切でない場合をあげることができる。こどもが必要を感じていないのに,無理に研究をしいたり,学習の計画がじゅうぶんたっていないうちに,次の仕事を導いたりすると,こどもは進んで学習することなく,一つ一つ教師のさしずに従うようになる。

 また,この逆に,こどもが興味にのって,熱心に学習を発展させている場合には,教師がそれにつりこまれてしまうと,重点がどこにあるかわからないような学習をしていたり,指導目標になんらかかわりのない学習活動へ脱線している場合も,ありがちのことである。

 そこで,教師は,こどもがはたして指導目標にかなった活動をしているのであろうか,また,指導に無理がないだろうかなどについて,こどもの行動を常に注意深く観察し,指導法を評価し,指導法の改善にたえず努力しなければならない。

(3) 個人差に応じた指導を心がけること

 こどもの興味・能力・活動の傾向・性格などには,個人的な差異があるから,指導にあたっては,個人個人の傾向をしっかりつかみ,個人差に応じた指導を行わなければならない。

 たとえば,グループの編成にあたって,統率力のあるこどもに,仕事のうまいこどもを配するとか,仕事の早くできそうな個人またはグループに別な仕事を与えるようにするとか,個人個人の活動の型から考えて,なるべく多様の学習活動を導くようにするなど,いろいろなくふうがあるであろう。

 また,おくれているこどもには,おくれている原因を確かめて,そのこどもに合った学習活動を選ぶ。また,進んでいるこどもには,他の問題を与えて,いっそう理解を確実にすることが適当な場合もあるが,このようなこどもを足ぶみさせて,興味を失わないようにくふうすることがたいせつである。

(4) 環境を学習に最も適するように整えること

 ある単元の学習をこどもが行っているとき,教室や廊下に,その単元の学習に関係のある図表や写真などをはったり,学習の進行に従って,次々にできていく成績品を展示・陳列をすると,学習の興味はますます高まり,力強い学習が行われる。

 このように,単元の学習を進めるには,環境をどのように整えたらよいかを絶えずくふうすることは,問題の発見や,学習の興味の喚起や持続,学習の進行にきわめて深い関係があるから,教師は,教室ならびに教室外の環境整備に,不断の関心を払わなければならな

(5) 社会性を活用すること

 学級を作っている個々のこどもは,互に影響し合って,学級の個性を形作っている。研究や作業も,このような学級社会の中の活動にほかならないのであるから,個人またはあるグループで,よい思いつきをしたこどもや,協力の態度のしっかりしたこどもや,実験技術のうまいこどもをほめたり,激励してやったりすると,その賞賛や激励が,他のこどもまたはグループにも,ひびいて研究意欲はますます盛んになり,研究方法にも示唆を与えることなり,教室全体が明るく活動的になってくる。

 また,一つの問題についても,学級全体の問題としたり,グループの研究に移したり,個人の研究に移したりするとか,個人の研究でも学級全体のこどもに報告させ,質疑応答・批評を行わせるなど,学級の民主的組織の活動を推し進めるようにすると,共同・責任・寛容などの影響によって,科学的な能力や態度も,しだいに伸びてくるのである。

 もし学級のこどもたちの間で,成績の点数を争うようなことを奨励すると,学級の空気も級友の成功を喜ばす,級友をおとしいれるというような,暗いものとなるから注意しなければならない。

(6) 家庭との連絡をはかること

 学習したことが身についたかどうかは,学校生活ばかりはわからない。こどもの活動の場は,広く学校・家庭・地域社会全般にわたるのであるから,教師は,学習指導にあたって,努めて家庭と連絡をとり,こどもがどのような生活をしているか,いま行っている学習指導の結果が,家庭生活にどのように現われているかを調べ,指導法をくふうする場合の参考とするようにすべきである。

 

Ⅳ.理科の学習活動とその指導

 理科の学習活動のおもなものをあげると、次のようなものがある。

 これらの活動には,それぞれ異なった意義がある。したがって,その適用の方法も異なっている。これらについてよく理解し,学習活動を有効なものにすることがたいせつである。

 次ぎに,上にあげた学習活動のおのおのについて,その意義・適用・指導方法,その他の注意事項をあげてみる。

(1) 観 察

☆ 継続観察(観察のうち,特に長期間にわたる場合) (2) 実 験 (3) 製作および操作 (4) 飼育および栽培 (5) 材料集め (6) 野外学習 (7) 見 学 (8) 訪 問 (9) 読 書 (10) 幻燈・映画・放送等の利用 (11) 話合い (12) 報 告 (13) 遊 び (14) デモンストレーション