学 習 指 導 要 領

職 業 科 水 産 編

 

(試 案)

 

昭和二十二年度

 

文  部  省

 

 

目    次

 

ま え が き

はじめのことば

第一章 水産の教育の目標

第二章 水産の学習と生徒の発達

第三章 水産の教材

一. 教材一覧表

二. 教材配当表

第四章 水産の学習指導法

第五章 学習結果の考査

第六章 第七学年の水産指導

単元1. 私たちは何を学ぶか

単元2. 漁業への準備

単元3. 漁具の作製と手入れ

単元4. いわし漁業

単元5. たい漁業

単元6. かつお漁業

単元7. まぐろ漁業

単元8. ぶり漁業

単元9. 刺し網漁業

単元10. 引き網漁業

第七章 第八学年の水産指導 単元1. 水産物をなまのまま保存することはできないか

単元2. いわしのいろいろな加工

単元3. 節類の製造

単元4. 海そうの利用

単元5. するめと塩から

単元6. 食塩と塩蔵品

単元7. かまぼことつくだ煮

単元8. くん製品の製造

単元9. びんづめとかんづめ

単元10. 水産物のどこも捨てないで役立てよう

第八章 第九学年の水産指導 単元1. 海の資源はいくらとっても絶えないか

単元2. 海そうの増殖

単元3. 貝類の増殖

単元4. 魚類の増殖

単元5. 漁船と機械

単元6. 漁業と気象

単元7. 航   海

単元8. 漁   港

単元9. 漁村の生活

単元10. 私たちの将来

あ と が き

 

ま え が き

中学校の職業科について

 人が社会の一員として,その社会の発展のために力を合わせることは,まことに欠くことのできないところである。このような社会の発展への協力を具体的に考えると,職業生活はじつにたいせつな意味をもっている。人は職業の社会生活における意義と貴さとを自覚し,これに必要な知識や技術を身につけ,そうしてそこに自らのあらん限りの力をつくして忠実にこれを営むことで,りっぱな職業人となり,これによって社会の発展に協力することができるのである。だからこれから,このようなよき社会の一員とならなくてはならない青少年に対して,勤労の精神を養い,職業の意義と貴さとを自覚するようにし,また職業を営むために必要な基礎的な知識や技術を身につけるようにすることは,教育の大きい目標とならなければならないのである。

 このように,職業についての教育はきわめてたいせつであるが,ただこのような教育が効果をあげるためには,青少年が職業というものについてある程度の経験をもち,またこれについて理解し習得する能力の発達が,ある程度とげられていることを条件とする。このような点から,職業科は中学校ではじめて課せられることになったのであるが,なお中学校の生徒は義務教育の修了によって社会に出ていって,職業につくべき時を間近にひかえていることも,この教育が中学校でなされる一つの理由なのである。

 しかし一方からいうと,中校の生徒でもその将来の職業として何を選ぶかという志望は,一部分をのぞいてはなおきまっていないのが普通であるから,ここであるきまった職業についての特殊の教育をすることは適当ではない。そこで,中学校の職業科は,まず生徒が勤労の態度を堅実にすることを第一のたてまえとし,さらに職業生活の意義と貴さとを理解させ,将来の職業をきめることについて,自分で考えることのできるような能力を養うことを主眼とし,そうして,将来の職業のある程度きまっているものや,ある仕事を特に希望するものに対しては,この上にやや専門的な知識や技術を学ばせるようにすべきであろう。必修教科としての職業科は,この前の趣旨により,選択教科としての職業科は,おおむねこの後の趣旨によって設けられたのである。

 中学校の職業科は,このような目標をもっているのであるから,ただある種の観念や知識をあたえるのでは不適当である。どこまでもぢみちな仕事をとおして生徒の経験の基礎をかため,どうしたら仕事がうまくいくか,どういう態度が必要か,どういう考え方がたいせつかといったことをつかませることが,最も肝要である。そうして,その上に広く職業についての展望をもつように導く要があるのである。

 さて,かようにして中学校の職業科は,生徒がその地域で職業についてどういう経験をもっているかを考え合わせて,農・工・商・水産の中の一科——時としては数科——を選んで,これを試行課程として,勤労の態度を養い,職業についての理解をあたえ,その上にいわゆる職業指導によって,職業について広い展望をあたえるように考えられたのである。この行き方については,新しく加えられた家庭科も同じように考えらるべきである。これは女子のみが修めるべきであるとも,また女子にのみ必要だとも考える要はないのである。

 これら農・工・商・水産・家庭の教科と職業指導とをどのような関連で課すかについては,次のような場合が考えられる。

 以上述べたのは必修教科としての職業科の指導についてである。選択教科としての職業科は,まだ志望の決定しない生徒でも特に必要や興味を感じた事がらを選択したり,将来の志望がある程度決定した生徒がその方面の事がらを選択したりして,多少とも専門的な知識や技術を学ぶようにしたい。この場合にも実習を中心として,いつも身をもってこれを学んでいくようにすることがたいせつである。

 教師は以上のような職業科の一般目的をよく理解して,他の教科との関連と,それぞれの指導要領の趣旨とするところをよく考えて,この教科を設けた目的を達するように努められたい。

 

学 習 指 導 要 領 職 業 科 水 産 編

は じ め の こ と ば

 まえがきのところで述べたように,中学校に学ぶころの生徒は体力も知能も相当に発達して来ているから,このころ,具体的な仕事を通して,勤勉に働く習慣を身につけることは,あらゆる職業に向かう者にとって極めて必要なことである。そうして,勤勉に働く習慣は,ただ命令されていやいやながらやるというようなことで身につくものではない。その仕事の個人的な意義,社会的な意義を十分悟って仕事に向かい,しかも,それをいっそうよく,早くなしとげようとしてくふうしたり,興味ある問題にぶつかったら,それを深く研究したりしながら,その仕事にいそしむときにほんとうに身につくのである。したがって,社会科や理科,その他の教科でねらっているような点を実際の仕事の方面から学習することにもなり,すべての職業に必要な知識・技能,日常生活に必要な知識・技能もおのずから身につくようになるであろう。

 また,このような実際の仕事を行うときに,生徒の個性は最もよく現われるものであるから,いろいろな仕事をする間に,生徒は自分の個性を悟り,教師も生徒の個性を見抜く機会が得られる。また,実際の仕事を通して,社会における職業を正しく理解することもできる。この学校に学ぶ程度の生徒の将来の職業や進路は,まだ,きまっていない場合が多く,大部分は,第七学年・第八学年・第九学年と学年が進むとともに,だんだん職業について具体的に考えてみるようになる程度であろう。また,いったんきまったとしても,もっと適当な職業があることに気づく場合もあるし,自分できめた方向にだれもが進み得るとは限らない。したがって,この教科において,生徒が自分の個性を悟り,職業を正しく理解し,教師が生徒の個性を観察する機会を得るということは,生徒のこの後の進路を決定する上に大いに役に立つであろう。

 職業の中には,広い範囲の知識・技能を必要とするものもあるし,専門的な知識・技能を必要とするものもあるが,わが国では,中学校修了者の大部分は直ちに実際の職業につくのが実情であるから,このような知識・技能をこの学校において学んでおくことは,極めてたいせつなことである。水産の体系に従って,いろいろな事がらを学ぶと,水産業や海に関する一般的な理解が得られるし,生徒の興味を感じた特別な仕事や事がらに深入りすると,この学校の程度で相当に専門的な知識・技能も身につけることができるであろう。

 以上の点をまとめてみると,職業科には,一般教育・職業指導・職業教育の三つの任務がある。そうして,この三つの面の必要さと,また,その必要をどの程度まで満たすことができるかということが,どんな内容を,どんな目標に向かって,どんなふうに学ぶかを考える出発点となるであろう。

 上に述べたような職業科の任務を,水産を通して考えてみると,次のような内容を挙げることができる。

 1. 水産ではどんな教育ができるか

 2. 水産はどんな生徒が学ぶか

 純漁村の生徒が職業科として水産だけを選ぶというようなことも少なくないであろうが,漁村の構成,水産の性格,水産を通して職業科の教育をする場合の可能性などの点から,他の科と合わせて学習するようなことも少なくないであろう。たとえば,海浜の村落の多くは半農半漁村であるから,農業と水産との二科を選択して学ぶ生徒が多いであろうし,漁港やその附近であれば,水産と商業を合わせて学ぶのが都合のよい場合もあるであろう。また,水産製造が盛んであったり,漁船の建造修理が行われている地方では,水産と工業とを合わせて選ぶこともあろう。要するに,生徒の進路,学校の設備,適当な教師の有無などの点から,水産による教育の必要性と可能性とを考えて,適当に選んで学習するように導くべきである。