第四章 水産の学習指導法

 

 学習指導法の一般にあげられた事がらや,他の職業科の学習指導法に揚げられたいろいろな問題は,水産を指導するに当たってもきわめてたいせつである。生徒が真に学ぶように導くためには,その上更に,次のような点が考えられるであろう。

 

 1. 水産の学習にはものごとを科学的に見たり,考えたりすることに興味を持つようにすることが望ましい

 水産の学習の対象となるものの多くは海上の活動であり,海中の動植物の繁殖や成長や運動であって,実際について学ぶことの不可能なものが多い。したがって,単に漁具や漁獲物から想像したり,地図を見て判断したり,沿岸の海況や水族から類推したりしなければならないから,ものごとに対する科学的な見方・考え方が特に必要となるのである。そうして,海洋の性質や,水産生物について科学的に考察して,資源に対する正しい理解ができれば濫獲をいましめ,稚貝・稚魚の成長を楽しむようになるであろう。また漁獲物の生物学的研究にも興味を感じ,漁法もくふうするようになり,潮流や海底の地形や水深の研究から漁法に発展したり,魚・貝・そう類の繁殖の研究からその増殖を考えたり,風波を観測して仕事の計画を立て,操舟によっていっそう海上の位置決定や信号の必要を感じさせ,水温や水質から漁況を予知するなど,そのいずれもが,科学的な物の見方・考え方が基礎となって学習意欲が助長されるであろう。

 

 2. 水産の学習は,その土地の実情を調べてその中に理法を発見するとともに,これをいっそう改良しようとしてくふうするとき,学習意欲はいよいよ高まって来る

 土地土地に発達した水産業のいろいろな方法は,長い間の経験が積り積ってでき上がったもので,一応その土地の自然的・経済的事情にしっくり合ったものであるが,なお幾多の今後改良されなければならない部分が含まれている。したがって,ただこれを習ったり覚えたりしようとするのでなく,まずなぜそのようにするのであろうかを考えたり,更にもっとよい方法はないものだろうかと科学的に研究したり,歴史的な発達経過を調べたり,地理的に他と比較したり,新しい国や社会の要求を調べたりするとき,これが学習意欲はいよいよ盛んになるのである。たとえば,その土地にたい漁業があり,これを,生徒が学習し,更に漁業を改良するためには,他の地方ではどんなとり方をしているか,また他の魚を漁穫するのにたいをとるために使っている漁法が応用されはしないかということが参考になるであろう。

 

 3. 水産の実習については特に生徒の生命の安全を期さなければならない

 このことは,水泳や操舟の基本実習や海洋調査・漁業実習などの際に大きな問題になる。基本実習などにおいて,これに興味を覚えることはたいせつであるが,過労におち入るようなことはさけ,一歩一歩着実に練習を重ねることによって,知らず知らずのうちに上達するように指導しなければならない。未熟の者や未経験の者が調子づいて,熟練者や教師の命令を守らないようなしつけは望ましくないのである。

 

 4. 水産の指導にはゆきとどいた準備と,臨機の処置とが必要である

 漁業では,多くの場合,移動する魚類を追い求め,あるいは,えつきのよい短い時間に漁獲するのであるから,迅速を要することはいうまでもないが,漁獲後も,処理・加工が速かに行われなければならない。水産製造などの実習においても,鮮度が出来・不出来に大きな影響をおよぼすのであるから,実習材料と教材とをよく調べ,十分の準備をすると同時に,かつお節の予定のときにいわしが手にはいったり,さばやあじが手にはいったりするようなこともあろうから,臨機の処置をとれる用意が必要である。

 

 5. むだのない能率的な学習指導体系が必要である

 一つ一つの単元について,そこで考えられるすべての知識・技能・態度をとり上げていたのでは,ある事がらが何べんも重複して,生徒の興味をそぐばかりでなく,既に,学んだことの応用として学習するのに都合のよいようなものが先に出て来たり,基礎的な事項が後になったりして,学習は雑然とした能率の悪いものにおち入りやすい。

 したがって,ある教材については,甲単元ではむしろ触れないでおいて,乙単元できっかけを作り,丙単元ではどんな形で理解し,丁単元ではどんな形でどの方面への発展あるいは応用を取り扱うというような,むだのない指導体系を計画し,指導を進めなければならない。そのためには,次のような点を考えに入れて計画する必要がある。

 

 6. 地方差についてはどう考えたらよいか

 絵とお話だけの学習においては,あまり問題にならないであろうが,郷土の実情にもとづいて調べたり,実習・実験をしたりしながら学習を進めていくのであるから,水産業のように各地方によって著しく実情の違うものについては,郷土にないものはどんなにしたらよいか,郷土の特殊なものについてはどんな学習をしたらよいかということが問題となるであろう。水産の教材は一般教育上・職業指導上・水産教育上必要なものの中から基礎的・一般的なものをとり上げたのであるが,その土地にないものはなぜないか,その土地で特に盛んなものはなぜ盛んであるかを,地理的・歴史的に見たり考えたりすることと実際に即して実習・実験したり,くふうしたり,発見したりすることを組み合わせて,実情に即した具体的な指導計画を立てる必要がある。そうすると,たとえば,刺し網という単元で,刺し網の本質に触れるために,ある学校では,さんまの流し網を大きく取り扱い,ある学校ではたらの底刺し網を重点的に取り扱い,ある地方では,さけ・ますの流し網を取り入れる必要が起って来るであろう。また,人工ふ化の問題にしても,さけ・ますでもよいし,あゆ・いわし・わかさぎなどの魚によってこの問題に触れてもよいのである。

 

 7. 生徒のひとりひとりの違いについてはどう考えたらよいか

 水産の実習には,共同の目標のもとに,生徒がおたがいに協力する場合が多い。

網を取り扱うにも,製造にも,実験にも,漁船を操るにも手分けして行わなければならないことが多い。いろいろな仕事をしている間には,それぞれ長所があらわれて,たとえば,船をこぐことが巧みな者があったり,見張りがじょうずにできる者があったり,指揮をする者が生徒の中から選挙されたりするであろうし,また魚つりが巧妙な者も,網を早く編む生徒も次第にはっきりして来るであろう。教師は,生徒の個性をいろいろな角度から見て,日々の学習に手心を加え,将来の進路決定のために,それぞれの生徒を指導するのは,他の教材と同様にたいせつなことである。

 

 8. 生徒の学習を指導するに当たって,教師の活動する事がらは次のような点であろう

 

 9. 生徒の学習活動について考えてみると,およそ次のようなことが考えられるであろう