小学校学習指導要領

 

体育科編

 

(試 案)

 

昭和28年(1953)改訂版

 

文 部 省

 

 

ま え が き

 

 この本ができるまで

 昭和22年に学校体育指導要綱が発行され,さらにそれを発展して昭和24年に小学校学習指導要領体育編が発行されたが,改訂の準備は,その直後から着手された。その間,全国的に体育科の学習指導に関する研究が進められ,自主的に有効な調査書や研究資料が作成された。これは,小学校体育科教育の振興のために役だったと同時に,文部省が,体育編を改訂するのに有力な資料としてまとめるのに多くの便宜を与えた。すなわち,この訂版の完成のために,それらの資料が,多くの貢献をしたといってよいであろう。ことばをかえていえば体育関係者のかたむけた熱情と,なみたいていでない苦心とが,実を結んだものが,この本の基盤的役割を演じたというべきであろう。

 この本の執筆に着手したのは,昭和27年の春であった。それ以来,会合を重ねること数十回,委員のかたがたは,1年数カ月の間,多忙のうちにあってこの本をまとめることに多大の協力をしてくださった。

 改訂のおもな点

 改訂のおもな点については,次のとおりであるが,それにさきだって,まず述べておきたいことは,教科としての体育の根本方針は,少しも変っていないということである。

(1) 体育科の目標 教育の一般目標との関連を考慮しつつ,教育課程における体育科の役割に応じて整理し,焦点をはっきりつかめるように表現した。

(2) 児童の発達と必要 児童の発達について具体化し,学習内容との結びつきのため児童の必要について明らかにし,目標・発達・必要・学習内容間に一貫性をもたせた。なお,運動群について,新たな観点から特徴によってまとめた。

(3) 学習内容 学習目標ともいえるものを,児童の発達と必要から考えて具体的な形で,学習内容としてあらわし,目標が容易に指導計画につながるように考慮した。

(4) 指導計画 地域的特徴を考慮した具体例を,いろいろと観点をかえて掲げた。

(5) 指導の方法 体育の学習指導に生かされるように,記述を具体的にし,また生活へのつながりを考慮することに努めた。

(6) 集団的行動のしかた 学習指導を展開する上に,必須の準備的動作についてふれた。

(7) 評価の方法 その後の研究を取り入れ,さらに具体的に示した。

(8) 運動の解説 単なる方法の解説にとどまらず指導計画や実際指導上の便宜を考えて述べた。

 今後,特に研究すべき点

 この本については,さらに研究して,完成したい点が多い。その中で,特に必要と考えられるものは,学習内容の間題である。体育科の体系を立て,指導の計画を立て,指導を進めるために,学習内容の妥当かどうかは,きわめてたいせつであるが,その点,特にその表現についての研究がじゅうぶんでないことは率直に認めなければならない。したがって,今後多くの教師の協力をお願いしたいと考えている。

 この本の使用についての注意

 この本は,学習指導要領として,教師に対して,こうしなけばならないと命令するものではない。指導の計画を立て,その効果をあげる最良の道は,こどもにいつも接している教師が最もよく知っているはずだからである。教師は,まず,この本について,そのようなはっきりした立場を与え,自分の接するこどもたちが,どのように,どうして学習を進めたらよいかを考える場合に,この本に述べたことがらを参考として活用していただきたい。

 その他

 この本の編集にあたって,委員はもちろんのことに,多くのかたがたの援助をいただき,そのおかげで,完成を見るに至ったことに対し,厚く御礼を申し述べたい。

  東京教育大学教授        阿部三亥

  東京学芸大学附属幼稚園教諭   安藤寿美江

  神奈川県教育委員会指導主事   石井宗一

  文部省初等中等教育局文部事務官 井上一男

  東京教育大学助教授       宇土正彦

  文部省初等中等教育局文部事務官 梅本二郎

  東京都台東区立金龍小学校教諭  小原 保

  東京学芸大学教授兼文部事務官  佐々木吉蔵

  東京学芸大学附属小学校教諭   片峯三雄

  東京学芸大学助教授       佐藤 正

  東京教育大学附属小学校教諭   高田典衛

  東京教育大学助教授       竹之下休蔵

  東京都港区立桜田小学校教諭   沼館定康

  お茶の水女子大学附属小学校教諭 古江綾子

  東京教育大学教授        前川峯椎

  東京教育大学講師        松本千代栄

  聖心女子大学助教授       水谷 光

  文部省初等中等教育局文部事務官 山川岩之助

                  (50音順)

 

目   次

 

第Ⅰ章 体育科はどんな役割をもつか

1 体育科の位置

2 体育指導の中心点を児童におく

3 他教科との関係

第Ⅱ章 体育科の目標

1 目標設定の立場

2 体育科の一般目標

3 具体的目標

第Ⅲ章 発達上の特性と学習内容

1 児童の発達について

2 学 習 内 容

    1 発達上の特性

    2 発達上の特性に応ずる必要

    3 学 習 内 容

第Ⅳ章 指導と管理

Ⅰ 施設・用具の充実とその活用

    1 施設や用具はなぜ必要か

    2 体育施設や用具の現状とその整備について

    3 設置についてどのような注意が必要か

    4 施設や用具を活用するにはどうしたらよいか

Ⅱ 指導計画の立て方と年間計画例

    1 誰が計画を立てるか──計画委員会

    2 年間計画の立て方

    3 年間計画例

    大都市の学校の例

    中都市の学校の例

    南方農漁村の学校の例

    北方農山村の複式学校の例

Ⅲ 学習をどのように指導したらよいか

    1 体育科の学習指導

    2 指導計画と指導法

    3 指導にあたるとき留意しなければならない諸点

    4 学習内容とその指導

    5 学習活動の展開

    6 指導の形態

    7 指 導 案 例

      第1学年4月の学習指導案例(固定施設を使って遊ぶ)

      第2学年2月の学習指導案例(リズム遊び)

      第3・4学年(複式)2月の学習指導案例(力試しの運動)

      第4学年9〜10月の学習指導案例(運動会)

      第5学年6月の学習指導案例(徒手体操・スタンツ)

      第6学年11月学習指導案例(ボール運動・力試しの運動)

Ⅳ 虚弱者の指導

    1 虚弱者体育の必要性

    2 虚 弱 者

    3 虚弱者の発見

    4 虚弱者の体育指導

Ⅴ 評   価

    1 評価とはどんなことであり,どんなねらいをもっているか

    2 何をどのように評価したらよいか

    児童はどのようにしたらよいか

    教師はどのようにしたらよいか

(付  録)