Ⅰ 運動の特性と指導
この指導要領では第Ⅲ章で述べたように,これまで教材と呼ばれていた各種運動種目を学習内容の重要な部分として取り上げることにした。したがってこのような考え方に慣れない人々にとっては不便な点があり,またもっと具体的に述べることを希望される向きもあるかもしれない。このような点や各種運動が体育学習の場となるその重要性を考えて,さきに学習内容で示した各種身体活動の部分を特に取り出して,必要と考えられる事がらについて述べ,指導の参考に供することにした。
この章の一般的なねらいは,各種の身体活動を基点に体育の学習指導全般の見通しをたてようとした点にある。すなわちそれぞれの運動種目(群)は,体育の学習活動をどのように方向づけたらよいかを明らかにしようとするものである。
このためにまず,この指導要領における各運動群についてふれ,次に目標や学習内容との関連を考えてその特性を導き出し,さらに指導の具体的的内容や発達との関係における内容の学年による排列にふれ,そしてまた各種目の一般的な方法や指導上の注意とともに,必要と考える場合にはその取扱例についても述べることにした。
各活動群にはそれぞれの特性があって,一様な取扱は困難な点もあり,また教科内容として取り入れられた歴史的事情も異なるので,一般的には上のように考えながら,特に必要と思われる点を重視して述べることにしたので,その取扱方におのずから違いのあることを了承されたい。
紙数の制限があり,またそれぞれの運動群や種目の方法や指導を扱った参考文献も少なくないので,ここでは特に必要と思われる事がらについてだけ述べることにした。
(Ⅰ)固定施設を使って遊ぶ運動と力試しの運動
1.この指導要領における考え方について
「力試し」という観点からながめれば,すべての運動をそのように考えることができるし,また指導上の立場からもそれは望ましいことである。このような理由から,他の運動群と重複する点も生じ,まとめ方には多少の困難があるが,こどもたちがかなり強い欲求や興味をもっているところの比較的単純な未組織的な自然運動で,しかもその運動のそのままで自己の力や進歩も試しやすいような活動群を概活して,「力試しの運動」とした。
この運動群に比較して,いっそう形式的な運動である徒手体操は一応これから区別され,中学年以上になるとかなり組織的に発展する走運動は,「リレー」として分離した。また,発達上の必要から低学年における「固定施設を使っての遊び」は単に「力試し」という観点からだけでなく,人間関係の学習の場としても特に重要な役割をもっているので,一応分離して考えた。これらの分類は,要するに,学習指導の計画や実際にあたっての便宜から考えられたものである,ということができよう。
この活動群の内容を技術系統の角度からながめてみると,おおよそ次のようになろう。
(2) 第2には,未組織的で,形式が比較的単純ないわゆる走跳投の運動であって,前の指導要領で「かけっこ・リレー・陸上運動」と呼ばれたもののうち,リレーを除いた大部分はこれにあてはまるであろう。
(3) もう一つは,器械器具を使わずに,個人的あるいは少人数で比較的簡単に試みられる巧ち運動の系統がある。これらは器械器具を用いないで行うスタンツと呼んでもよい。前の指導要領で,「体操」の「2人以上で組んで行うもの」にはこのスタンツに含まれるものが少なくないし,「器械遊び・器械運動」に含まれていたマットを使っての運動(たとえば前まわり後まわりなど)はむしろこの群に含まれることになうう。
前に,かけっこ・リレー・陸上運動と呼ばれていた走跳投などの運動や器械遊び・器械運動と呼ばれていたものなどが,この指導要領で力試しの運動としてまとめられたのは,組織的活動として発展させるというよりも,どちらかといえば,体育の立場から,個人的発達を促す上に特に効果的で欠くことができない活動としてとりあげられ,しかもこれらが他の活動とよく調和して計画され指導されやすいようにという配慮からである。
この活動群に特別に期待するねらいは,身体的発達,基礎的運動能力の発達,施設の活用のしかた,安全に関する態度や能力の発達であって,いっそう具体的にいうならば,一般に次の事がらが重要であろう。
(2) 筋力・持久力・柔軟性・敏しょう性・器用性・平衡能力あるいはいろいろの状況での正確な反応などの向上を図る。
(3) 安全に対する態度や能力を身につける。特に固定施設,器械器具を使っての運動ではそうである。
(4) 他の活動の間にさしはさむことによって,身体的あるいは心理的な解緊や調整をはかる。
(5) 自己の現状や進歩への関心を高めるために,有効な基本的な学習の場を提供する。
(6) 低学年において「固定施設を使っての運動」を特にとりだしたことは,さきに触れたとおりであるが,このような施設を利用する場合には,上に述べたねらいとともに,お互が仲よく安全に活用し,たいせつに扱うように,そしてそれらの態度が自由時間における遊びの生活によく発展されるようにというねらいが,重視される必要がある。
一般的に言って,指導上最も重要なことは,個人的能力をいかににしてじゅうぶん伸ばすかに留意することである。そのためには次の事がらに留意しておく必要があろう。
このような観点から,他の活動群の場合に比べれば,教師が活動の中心とならなければならないことが多くなるであろうし,また児童の日常の遊びや自由時間の活動にはそれほど期待できないところから,この群の運動は教科時間に多くを望まざるを得ないだろう。
(2) この活動群は,まとまった長い時間をかけて学習しなければならないというよりも,児童の発達や指導上のねらいからすれば,むしろ短い時間での学習を数多く考えることもできるので,全般的な立場からすれば,他の活動群の学習の間にはさんで計画し指導することが多くなろう。
しかし,高学年に進めば,まとまった長い時間をかけての,いわゆる単元的取扱(たとえば,体力テスト)もできるし,また有効でもある。特に評価の計画との関係をよく考えて,たとえば「児童のもっている進歩の可能性」や「一般的基礎的運動能力」の測定は,このような「力試しの運動」の学習において扱われるほうが便利であり,指導上からも効果のあることである。
(3) 「力試しの運動」は,一つ一つの運動それ自体が児童の自己評価や相互評価に関して最も好つごうな学習の場であるから,児童みずから自分の進歩を知り,成功を喜び,そして次の進歩を考えるように指導することがたいせつである。そのためには,記録の指導が必要となるし,多くの力試し運動を用意し,それによって具体的に活動目標をはあくさせ,児童が常に「努力しよう」とする気持を起すようにくふうすることがたいせつである。走跳投などの運動の場合は距離や時間,回数などて考えるのが,好つごうであろう。固定施設や器械器具を使っての運動,徒手でのスタンツ系統の運動の場合には,それ以外のくふうがいっそう必要である。次のような様式て活動目標をあげるのもその場合の一例となろう。
C級の目標(或いは初級の目標)
b 三つの組(ふたりあるいはそれ以上で行う)スタンツができる。
c 前ころび,後ころびができる(マットの上で)
d 三つの簡単なピラミット運動ができる。
e 腕立て伏臥で5回の腕屈伸ができる。
f 3mの高さまでのぼり棒を登りおりできる(手と足を使って)この場合一定の時間を決めるのもよい。
g 70㎝の高さのとび箱(縦)を両手をついてとび越すことがてきる。
h 鉄棒を使用して「足かけ上がり」ができる。
i ………………………………
j ………………………………
b C級bのほかに,さらに一つの組スタンツができる。
c 前ころび,後ころびをつづけて3回できる。
d C級dのほかに,さらに一つのピラミット運動ができる。
e 腕立て伏臥で7回の腕屈伸ができる。
f ………………………………
g ………………………………
h ………………………………
b B級bのほかに,さらに新しい組スタンツが一つできる。
c ひざを伸ばしたままで,前にろび,後ころび,ができる。
d B級dのほかに,自分たちで(教師の指示なしで)新しいピラミット運動を一つ行うことができる。
e …………………
f …………………
g …………………
(4) 学習にあたっては,また能力による組分けをくふうすることも忘れられてはならない。組分けは,それまでに行われたテストの結果や児童の記録などによって,いくつかのグループに分けるのが望ましいが,必要な資料がない時は教師の判断によるのも有効な場合があろう。要はそのグループをあまり固定しないようにし,客観的な児童の能力によって,好ましい変化修正をいつも考えておくことがたいせつであろう。なおグループ学習で児童のリーダーを適切にとりあげることは重要なことである。
この能力別によるグループ学習では,さきにあげたような児童の活動目標を適切に示すようにすることが望ましい。 4.技 術 指 導
運動技術や能力の問題を中心におきながら,指導上の要点を述べてみよう。
力試しの運動は,前にも述べたように,おおよそ三つの群別に分けて考えるのが好つごうであるが,一般的に活動の学年による発展については,次のような原則を考えることができよう。
すなわち,低学年ほど身体の動きが自然的,全身的,個人的,活動的な運動で,単純な型のものがよく,商学年に進むに従って人工的形式的な面が加えられ,部分的分化的(たとえば腕の運動とか,力技的運動とかのような)運動,何人かが組んで行う運動,平均運動のような,あるいは他人の演技を鑑賞したり評価したりするというような静的な活動,さらにはやや高次の神経一筋肉的熟練を要する複雑さを増した型のものが取り上げられることになる。また,自己評価の指導から考えれば,低学年では,上述のことから当然であるが,できたか,できなかったかの最も単純な評価が大部分を占めるであろうし,高学年になるに従って,回数や時間や距離などで実際に測定をしたり,「じようずにできた」「普通だった」「あまりじようずにはできなかった」というようなあるいはそれ以上のやや複雑な尺度または標準尺度を用いての評価をとりあげるように,活動の内容もそれに応ずる指導も考慮されるべきであろう。
低学年では,学校に備えられている固定施設を利用し安全に楽しく遊ぶことができるように慣らして,自前な時間の遊びや公園などにおける遊びにまでその成果が発展するとともに,中・高学年における器械,器具を使っての運動の基礎が作られるところに一つの要点がある。
もう一つは,走ったり,とんだり,投げたりなどの基礎的な運動と,ころころまわり,あひるやにわとりのまねをして歩いたりとんだりなどのスタンツ系統の運動を含んだ「力試しの運動」がある。どちらかといえば,低学年では前者に重点をおくほうが望ましいが,いずれにしてもそぼくな自然運動の形で取り上げ,児童の活動欲求をじゅうぶん満たしながら,身体の調和的発達をねらうようにしなければならない。
中学年になれば,走跳投などの基礎的運動でも単に走ったりとんだりではなく,まとまった活動としての幅とび,高とび,ボール投げなどへ進めることができる。自分の記録に対する興味も強くなり,進歩への関心も積極的となるので,それらを正しく伸ばすように努めることが重要であろう。
スタンツ系統の運動でも,転向とびや体起しなどのように,自分の力がはっきりわかるような,しかもやや困難であり努力を要するような運動に進めるのがよい。
器械器具を使っての運動は,低学年での固定施設による経険を発展させ,器械や器具を用いてのまとまった運動の初歩的なもの(たとえば,抵鉄棒でのとび上がり,前回りおり,とび箱のとび越しなど)に進められよう。
スタンツの場合は特にそうであるが,器械器具器を使っての運動においても,適当な運動の種目をできるだけ豊富に用意して,児童の変化を求める活動欲求にも応ずる必要があろう。また,たとえば,チェックリストを作って自己の進歩を記録するように指導するのはたいせつなことである。
高学年になれば,相当に形式のととのた運動に進めることができ,自己評価についても客観的な資料を用いたり,主観的な評価も単に「できたか,できなかったか」でなく,「非常にじょうずだったか,普通にできたか,普通よりへただったか」などのようにいくらか複雑な尺度を考えることができるようになろう。
スタンツはやや形式だった転回,支頭倒立などに進め,また数人で組んで行う運動も指導するのがよいだろう。
同じように,器械器具を使っての運動も,とび箱での転回や鉄棒での足かけ上がり,回転のような相当に技功を要するものに進めることができるし,しかもきれいにじょうずにというねらいを求めることも有効となろう。
5.力試し運動の具体例
走跳投などの運動や器械器具を使っての運動については,前の指導要領においても多く具体例が示されてあるので,ここでは器械や器具を用いないで,徒手のままで行うスタンツ系統の運動についていくつかの例を示すことにする。
低学年(第1・2学年)の場合
(1) あひる
あひるのまねをして歩いたり走ったりする。その場合体を前に曲げ,両手で両足首を握らせるがよい。また両ひざを曲げたままでするのもよい。同じような要領で,にわとりのまねも考えられよう。
(2) くも
くものまねをして歩く。腕立て伏臥をして歩く
(3) 犬(あるいはねこ)
犬(あるいはねこ)のまねをして歩いたり走ったりする。これは両手をついて四つばいなり,歩いたり,走ったりする。
(4) かに
仰向けになり両手・両足を使って前後左右に歩く。
(5) あざらし
両足を引きずって,両うでを交互に前に出して歩く。
(6) とび上がり両手(足)打ち
その場で高くとび上がり,空間で両手を,あるいは両足を打ち合わせる
(7) ゆりかご
腰をおろし,ひざを曲げて両手でもち,休を丸くして,「ゆりかご」のように体を前後に揺する。(マットを使用する)さらには,前のほうに「ころころまわり」を行う。
(8) くまおどり
片ひざを曲げ,他の片足を伸ばして前方に出す。これを左右交互にくり返す。
両手を横にあげて立ったり,体側につけて立ったり,一定の時間動かないでその姿勢を保つようにする。
(2) 片足とび
片足で立って,いろいろの力向へとぶ。
(3) その場転向とび
その場でとび上がり,1/2転向して着地する。前力にとびながら1/4転向する。
(4) かに
「かに」のように,腕立て伏臥で横に歩く。あるいはあおむきで両手を後について行う。
(5) 体起し
仰臥の姿勢から上体を起す。
(6) 背合わせ立ち上がり
ふたりが背中合わせになって,ひじを互に組み,同時に立ち上がったりすわったりする。
(7) 人運び
ひとりを他のふたりが選ぶ
(8) 手押し車
ひとりが腕立て伏臥をし,その両足を他のひとりが持ちあげ「手押し車」のように歩く。
(9) 腕組起上がり
腕を組んで仰臥し,組んだ腕はそのままで起き上がる。
(10) ひざ腕立て腕屈伸
ひざをつけて腕立て伏臥の姿勢をとり,腕を曲げたり伸ばしたりする。
片足で立って,その足を曲げたり,伸ばしたりする。その場合,他の足を地・床につけないように努力する。
(2) 腕立て腕屈伸
腕立て伏臥の姿勢をとり,腕を曲げたり伸ばしたりする。
(3) 体屈伸歩(尺取り虫)
腕立て伏臥の姿勢から手と足を交互に前方(あるいは後方)に進める。
(4) 人倒し
からだを強直させたひとりを他のひとりがささえる。あるいは静かに寝かせたり起したりする。あるいはまた,ふたりで押し倒したり支えたりする。
(5) 転向とび
とび上がって,その場で体を1回転させる。
(6) かえるさか立ち
両手を地・床につけ,両ひじに両ひざをのせてさか立ちし,両腕で体重をささえる。
(7) 腕立て体前出
腕立て伏臥の姿勢で,両腕はそのままにしておいてその両腕の間に,とんで両足をとおして体を前方に突き出し,仰臥の腕立て姿勢となる。
(8) かえるとび
ひとりが体を前に曲げて両手を両ひざ(あるいは足首)につけた姿勢をとり,他のひとりがその相手の背に手をついてとび越す。
(9) かつぎ合い
ふたり一組を作り,互に背中合せになって相手をかつぎ合う。
(10) 支頭倒立
両手と頭で体を支持して倒立する。(マットを使用する)
1.この指導要領における徒手体操の取扱について
いままての体育において体操の果してきた役割はかなり大きいと思われるが特に身体の調和的発達についてはそうであった。この指導要領においてはこの体操の特徴を他の運動との相互関連の上に立って,できるだけよく生かすように努力されているわけである。
体操の概念や考え方については必ずしも一定のものはないが,この指導要領においては,小学校で普通に考えられているものを一応の手がかりとして,(昭和24年度発行,小学校学習指導要領体育科篇),一部を「力試しの運動」に含めそれらに比べてどちらかといえばいっそう形式的な,主として生理学や解剖学の原理に基礎をおいたところの,身体を部分的にあるいは総合的に意図的に動かすことによって身体の発達に資そうとする徒手で行う一群の運動を徒手体操として取り上げることにした。
ここでいう徒手体操のこのような性格から考えれば,児童が,何のために,どのように身体を動かしたほうがよいかということについて理解することができ,かつそれを実行しうる力を獲得できるかどうかの見通しを立てて,その上で体育計画に取り入れるほうが望ましい。この指導要領で,高学年の学習内容として徒手体操を取り上げたのは,主として児童の知的発達から見て,一般にそれが適当であろうと考えたからである。
しかし,体育計画において占める役割には,他の運動のそれぞれと同じように,徒手体操にもおのずから限界がある。ひとしく身体の発達に資するといっても,ある場合には他の運動のほうが必要であり効果的であろうし,ある場合には他の運動と徒手体操の両者の協同が重要であろう。低・中学年の学習内容として扱われていないのもそうであるし,高学年において全体の5〜10%の比重が考えられているのも,そのような事情からである。いうまでもなく,この比軍(5〜10%)は,一般的な場合の一つの例であって,ある学校にとっては少なすぎるし,ある学校の場合には多すぎることもあろう。
なお,またラジオ体操その他と関連して,実際には中・低学年の児童についても,徒手体操を扱うことがあろうが,それまでもここで否定しょうとしているのではなく,徒手体操の持っている本来の意味から学習内容として期待できるのは,一般に高学年からであろうとしたわけである。
2.徒手体操の特性
徒手体操の特性を体育の目標や学習内容の立場から考えるとき,この指導要領で最も重視しているのは,児童の身体的発達に及ぼす効果と,健康習慣に関するものとがある。
身体の各部分を合目的に適切に動かすことによって,全身の均整な調和のとれた発達と内臓の機能を促進する。特に身体各部の動きを柔軟にするには好つごうである。
(2) 健 康
他の激しい運動をめぐっての準備運動や整理運動として,あるいは補助・補償・調整・きょう正などの意味をもった,しかも実施上簡易な合理的運動として徒手体操がもっている健康生活上の意義を理解させ,正しい姿勢に対する関心を高め,それらを実践に導く。特に将来の生活で起りやすい固癖や運動不足の問題を合理的に解決できる能力を育てるのに役だつ。
運動の仕方に関して一般的に必要な指導内容は,少なくとも上下肢・くび・胸・背腹・体側・胴体の各部の運動あるいはそれらのいくつかの総合的な運動である。さらに必要に応じては,ひとりで行う体操のねらいをいっそう強めるために,その形式や要領をそのまま生かしながら,他人の協力を得て行う場合も考えられる。
次に示すものはいくつかの具体例である。
上下肢の運動は,腕と脚を別々に,あるいは同時に,屈伸・挙振・回旋・跳躍して行う。
B 手をひざに当て,あしを屈伸する。
C 片あしを交互に前に振る。
D 腕を前・横・上・斜め上・後に振る。
E 腕を前後・内外に回す。
F 片あしでその場とびをする。
G 両あしでその場とびをする。
H 腕を前と上に振りながら,かかとをあげ,ひざを屈伸する。
I 腕とあしを横に振る。
J 腕を横・上にあげ,あしを横に開閉してとぶ。
くびを前後左右の各方向に屈・転・回旋する。
B 頭を左右に側転する。
C 頭を前左(右)・後・右(左)に屈転しながら回す。
胸を伸展する。
B 頭を後に曲げながら,胸をそらす。
C 腕を斜め上にあげ,胸を伸ばす。
D 腕を前にあげ,横に開いて胸をそらす。
体を前後に屈,倒する。
B 腕を前と後に振りながら,からだを前と後に曲げる。
C 開脚してからだを斜め前に倒し,腕を前と上に振る。
体を横に屈,倒する。
B あしを開いて,片腕を曲げながらその手をわき下にすりあげ,からだを横に曲げる。
C 腕を曲げて手を肩にとり,片足を横に出して(そのひざを曲げ),からだを横に倒す。
体を側転・回旋する。
B 開脚して,両腕を前にあげ,横に振ってからだを横に側転する。
C 開脚して,腕を上にあげ,からだを前後左右に曲げながら回旋する。
徒手体操の体育計画における特性は,個人の身体的発達および将来の生活で考えられる固癖の予防きよう正,運動による健康の保持によく貢献できるというところにある。したがって,具体的な計画や指導の実際にあたっては,徒手体操のその特性をじゅうぶん生かすくふうをしなければならないし,その意味で徒手体操そのものの技術的要点も児童がよくはあくできるように指導しなければならない。
体操の必要がどこにあるかをよく理解させ,目的を意識して行うように指導しなければならない。そのためには,体操を他の運動や生活と切り離して行うだけよりも,たとえば他の運動の前後あるいは間に入れ,他の運動と関連して体操がどのような意味(準備・補助・補償・調整・整理など)をもっているかを意識して学習できるようにし,健康な生活を営むために,いろいろの活動と関連してもっている体操の価値を理解させ,それを実践に導くように配慮することが有効であろう。すなわち生活能力としての体操にまで高めることが重要である。
そのためには,生活上の問題を解決するという学習指導が伴わなければならない。
ところが,その解決のしかたは,徒手体操の場合には,もともと児童たちの活動欲求を基礎にしているよりは,健康やからだをよくするねらいから,生理学や解剖学などの科学的原理に多く根ざしており,そのことと児童の発達や能力とを結びつけて考えてみると,他の運動とはいくらか異なった指導過程を必要とする場合も多かろう。終極の形では決してないが,教師のいっそう積極的な,ある場合には教師がむしろ中心的存在となっての学習指導は考えられうる一つの方法となろう。
B 個別指導は重要な一つの要点である。
徒手体操の特性から考えれば,その指導にあたってひとりひとりの児童を問題にしなければならない必要はますます強くなろう。少なくとも,この場合に限っては,集団は学校教育における学習指導の便宜上のものと考えたほうが有効であろう。そのように考えるときは,したがって,個別指導にいちばんつごうのよいように集団を構成するくふうがたいせつとなろう。全体の児童をいっせいに指導することは,教師にとっては安易な方法であるが,それはしかし全体の児童が共通にもっている必要を能率的に満たすとか,個人差を発見するとかなど,やはり個人指導を助けるのに便利なものとして考えられなければならない。班別指導も,徒手体操の場合はそれと基礎を同じくした考え方から発展しなければならないであろう。たとえば,技術の進歩程度や健康状態などによるグルーピングは,その観点からの個別指導に便がある。
具体的な学習(到達)目標(たとえば柔軟さの基準を具体的な運動の形で設定する)をはあくさせることは,児童の学習をいっそう活発なものにし,進歩の自己評価や児童相互の反省や評価の指導上にも有効となるが,グループ編成をそれに関連させて考えることもできよう。
徒手体操は他の運動に比べれば形式的な特徴がある。しかし,形式を究極のねらいとしてではなく,徒手体操の運動を有効なものにするための一つの手がかりと考えるべきであり,その意味において形式は重要なものである。すなわち運動は,形式を重要な手がかりとしながら,できるだけ自然な動きで行うよう指導するのがよい。緊脹・解緊をほどよくして律動的に行う,身体各部分を可能な極限まで大きく力強く動かす,呼吸作用や身体構造の原理によって行うなどは,自然な動きと関連した指導との要点であろう。
B 身体の局部的な分解的運動と全身的な総合的運動。
ある特定の運動の要領を身につけさせるとか,局部的な必要を補い満たすためにとかなどの場合に,適当な局部的分解的運動が利用されることもあろう。しかし,一般的には全身的な総合的運動をねらうほうが望ましい。それは自然な運動に導くという意味において重要であるばかりでなく,前者の局部的分解的運動においてねらいとされるものを果すのに,むしろ全身的総合的運動のほうが有効な場合も少なくないとされているからである。
C 運動の形式や要領を徒らに複雑にすることは望ましくない。
1.この指導要領におけるリレーの取扱について
リレーは,体育科における団体的な教材のひとつとして,古くから行われてきたし,またこどもたちが,日常手軽に遊んでいる遊戯の一つとしても親しまれている。
この指導要領においては,各学年を通じて取り扱うことにしたが,低学年においては,これを,「力試しの運動をする」の運動群に入れ,中学年と高学年においては,「リレーをする」の運動群として独立させるという分類のしかたをしている。これは,低学年においては,団体的な運動としての取扱よりは,むしろ,個人的走運動の「かけっこ」が形をかえたものとして扱うのが適当であると考えたからである。リレーは団体運動であるが,ボールゲームのように複雑なルールや人間関係を必要とするほどのものではない。したがって,個人的なものと団体的組織的活動の中間にあるような種目として考えて指導したらよかろう
2.リレーの特性
リレーは,一般に,個人の競走が集合されて,団体として勝敗を決する活動であるが,これを,この指導要領に示された目標や学習内容との関係で考えるとき,特に重要なものは,(1)発達上の効果(2)人間関係(3)健康や安全に対する態度と知識理解(4)レクリェーシヨンとしての活用(5)進歩の評価の五つである。
リレーは,走ることを主として,それに,蛇行,回旋,バトンの受け継ぎ,ものの置きかえ,障害の突破など,いろいろな動作を伴うことが多い。それゆえ,走力や器用さを高めて全身支配の動作になれさせ,内臓の機能を促進する。
(2) 人間関係
B リレーは,能力の高いものも低いものも,一様に同じ距離を走って,チームのために一定の量しか果すことができない活動であるから,だれもが全力を尽さなければならない。リレーは,このように,チームに対して自己の全力を尽す態度を育成するのに役だつ。
C リレーは,走っている途中に転倒したり,失敗したりしても,運動を中止することは許されない。それゆえ,リレーは,自己の集団に対して最後まで責任を果す態度を育成するのに役だつ。
D リレーは,わずかな失敗によっても勝敗が逆転しがちな活動であるがこどもたちによっては,勝敗にとらわれず,スタート,バトンタッチ,その他の動作にりっぱな態度を示すものがある。それゆえ,リレーにおけるこの点を適切に指導するときは,フェアプレーの態度を育成するのに役だつ。
B リレーは,陸上競技の種目にもある運動であるから,スタート,バトンのもち方,バトンタッチ,走法などの理解を与えることによって,スポーツに対する正しい知識を持たせることができる。
B リレーは,人数の多少にかかわらず行うことができるから,日常の遊びにとりいれやすい。
リレーは,能力差が判然としている走運動が主となっているから,こどもたちが他人と能力を此較したり,自己の向上を反省したりしやすい活動である。それゆえ進歩を評価する態度や技能を養うのに役だつ。 5.指導の内容
リレーの指導にあたって考えられる重点的な指導の内容は,(1) リレーのいろいろな形式(2) 健康や安全に対する態度(3) 対人関係や運動に対するよい態度(4) 走法,バトンタッチの技術や走の規則などである。
リレーには,各種の形式と数多い種目がある。
折返しリレー・回旋リレー・円形リレーなど。
B 走ることに他の動作を伴うもの
置換えリレー・ボール投げ越しリレーなど。
C ものを運搬するもの
大玉送りリレー・背負いリレーなど。
D 障害を克服しつつ走るもの
障害リレー・輪くぐりリレー・盲人と唖者のリレーなど。
E 特殊な移動形式によるもの
なわとびリレー・二人三脚リレーなど。
この指導要領においては,児童の発達,ならびに施設用具,指導の時間などの現状から考えて,これらのうちから,比較的簡単で行いやすく,かつ,よく知られているものを5種目選んだ。
低学年 折返リレー 置換リレー
中学年 回旋リレー 折返しリレー 障害リレー
高学年 回旋リレー 障害リレー 円形リレー
教科時や教科時外の活動としては,これらの種目でじゅうぶん必要な学習内容をもることができると考えられるが,運動会その他の行事においては,さらにこれらにくふうが加えられたものが必要であろう。なお,「円形リレー」というのは,前の指導要領に示されたサークルリレー,継走を含めたものである。
リレーの多くは,短距離走運動が多いから,他人と接触して転倒し,けがをすることがないとは限らない。それゆえ,リレーにおいて転倒を防ぐためには,他人と接触しないことをぜひ指導しなければならない。また,こどもたちは,リレーが脚の筋肉や内臓諸器官に強い刺激を与えるものであることを体験している。それゆえ,これらの理由を教師が説明したり,児童に考えさせることによって,リレーをするときは,準備運動や整理運動が必要であることを理解させることができるし,また,どんな準備運動や整理運動が適しているかも理解させることができる。
このような観点を深めていけば,リレーはどんなときに適当な運動であるかも理解するようになる。このようにして,健康や安全に対する態度を養うことは,リレーの指導において欠くことのできない内容である。
(3) 対人関係や運動に対するよい態度
リレーは勝敗がはっきりあらわれ,感情を強く刺激する運動であるから,こどもたちはとかく熱狂しがちである。なかにはおそいものを非難したり,規則を犯したり,相手方の走者をやじったり,相手方と言い争ったりするこどもも少なくない。それゆえ,リレーの指導にあたっては,勝敗に対する正しい態度,よい観衆となる態度,すなわち,フェアプレー,スポーツマンシップなどの指導は欠くことのできない内容である。
(4) 走法,バトンタッチの技術や走の規則
前項で述べたように,リレーはこどもたちの最も熱中する活動のひとつであるから,走者になったものや次走者に当っているものは,興奮していることが多い。そして,腕を伸ばしたまま大きく振ったり,風車のようにまわして走ったりして,相手に危害を加えることがある。あるいは,次走者と衝突することもある。それゆえ,リレーの指導においては,正しい走り方(特に腕の振り方)走るときのいろいろな規則(追い越すときの規則,コーナートップなど)バトンタッチの正しい方法(バトンの持ち方,受継ぎの方法,持ちかえなど)などについて指導することを欠くことができない。 4.指導の順序
リレーは,特にはっきりとした段階的系統をもっているわけではないが,一般に,低学年は,折返しの直線走に若干の他の形式を加えたものでよい。走距離は,種目によるが50メートル以内に止めるのが適当である。
中学年になれば,巧ち的な身体支配力が相当高くなるから,曲線走も可能である。走距離も50〜70メートルを走れるし,4年においては障害を置いた種目も可能となる。なお,4年からは,バトンタッチの正しい方法も必要を感ずるようになるし,基本的な点(たとえば,左手に持って右手に渡す,など)は学習できる。
高学年においては,走距離1OOメートルぐらいが適当で,各種の技術や規則も正しく行えるようになる。
5.指導上の注意
以上のようなリレーの指導にあたっては,特に留意すべきこととして,次のような諸点をあげることができる。
(2) 1チームの人数は15〜20人ぐらいが適当であるが,4組以上(1回の走者,4人)になると数が多く,こどもたちには混乱して適当でない。
(3) 各チームの力が平均するように編成しなければならない。競争前に勝敗が判っているような組分けは,学習の効果を少なくする。チームの力が平均するように分けるには,測定の結果に基いて行うことが望ましいが,中学年,高学年においては,子どもたちが納得するような同程度の能力の者を組ませ,それをジャンケンなどで分けてもよい。
(4) 競争のしかたは,低学年においては,ふつう身長順に低いものから走らせるのがよいが,中(4年)高学年においては,チームのキャプテンを選ばせ,その子を中心に,走順を相談して決定し,走らせるとよい。
(5) 競走にあたっては,各チームがはっきり識別できるように,鉢巻,帽子または,たすきなどで色わけするとよい。特に低学年においては混乱を防ぐためにかならず必要である。
(6) 走者および次走者以外は,決められた位置をみだりに立って歩かず,きちんと整列しているようにしつけなければならない。
(Ⅳ) ボール遊び,ボール運動
1.ボール遊び・ボール運動の特性と指導のねらい
この指導要領で取り扱うボール遊び,ボール運動は,各種のボールによって行われる運動で,普通は集団で,またはチームを作って行われるものであり,組織だったグループ活動として発展しやすいものである。
このボール遊びやボール運動を目標との関係で考えてみるとき,特に重要なものは,好ましい人間関係(社会的態度)の育成である。この好ましい人間関係の育成を中心にして,さらに施設や用具をたいせつに扱い,また健康習慣を身につけることがらもたいせつになってくる。そして体育科の学習は,当然運動を学習の場として展開されるのであるから,これらの目標に達する過程においてボールを扱ういろいろな技能を向上させ,また身体的発達上の効果も期待できることになる。
ボール運動を指導する場合のおもなねらいをあげれば次のとおりである。
B リーダーを選び,よく協力する。
C 活動に必要な規則をつくり,これを改善し,よく守る。
D 正しく勝ち,敗けたことを認める。
E グループ活動の計画ができる。
F 審判ができる。
G 審判や相手に対して礼儀正しく行動する。
B 施設やボールの破損に注意し,簡単な修理ができる。
C ボールをよく手入れする。
D 用具の取扱に責任を持つ。
E 運動のコートを作ることができる。
B 運動と休養の調和を保ち過労をさける。
C 軽い服装で運動する。
D 季節や天候に合った運動を選ぶ。
B 身体の支配力を発達させる。
C ボールを扱う各種の技能を発達させる。
体育科の学習内容については,本文第Ⅲ章に述べてあるが,その中のボール遊び・ボール運動は,普通一般の学校において指導できるものと考えられる。
次にボール運動を指導する場合の順序を,児童の発達に即して考えてみることにする。
低学年(第1, 2学年)
またこの時期の児童は,共通の目標に協力したり,役割を分担し責任を持つことができるようになる。また秩序ある行動を好み,自分で計画をたてることができる段階になるので,ボール運動の指導にあたっては,技能の上達をはかって自信を持たせるように努め,また人員や施設用具に応じて適宜規則をきめて,それをよく守り,みんなで楽しく運動できるようにグループ活動の指導に重点をおく。
ここでは,いろいろな種類の運動を経験させ,技能の向上を図りながら,しかもみんなが楽しくゲームができるように指導することがたいせつである。
そのためには,協力の態度や責任ある行動をいっそう助長し,秩序ある学習を指導し,好ましい人間関係の育成に注意を払い,グループ学習を中心として進めることがたいせつである。
ボール運動は,先にも述べたように好ましい人間関係(社会的態度)の育成が最も大きなねらいである。
社会的態度を育てるには,組織的なグループ活動を通しての学習によってその効果は期待できる。ボール運動の指導では何よりもまずこの社会的態度を育てることの目標をはっきりとはあくして指導することがたいせつである
(2) グループ活動と重視して指導すること。
ボール運動の学習では,好ましい人間関係を育てることがたいせつなねらいであり,このねらいを果すための学習ではグループ活動が指導されなければならない。
すなわちまずチームを作り,それぞれのメンバーは,チームの共通の目標に達するためには,それぞれのメンバーは,役割を持ち,その役割を果すことによって真の協力ができ,好ましい人間関係も育成される。
チームの編成にあっては,児童の発達を考え,能力の異なった児童がいっしょになってチームを作り,各チームの能力が平均するようにくふうするのがよい。
次に各チームの練習の計画をたて,各人の役割を決定する。
各チームの練習の計画にあたっては学級全体で,または各チームごとに話合いをして計画をたてる。その計画に従って各人の役割を決める。役割の決定にあたっては,児童の能力に応ずるようにし,児童の意見をじゅうぶん参しゃくして決めるのがよい。この場合,身体的に欠陥のある児童に対しても能力に応じて運動に参加できるような考慮を払い,また審判・記録・計時等それぞれの能力に応じて役割を与えることがたいせつである。
(3) 教科以外の組織的な活動と関連して指導すること。
ボール運動は組織的な活動に発展しやすいものであるから,教科時の指導は教科以外のグループ活動とじゅうぶんな関連を考え,これらのチーム活動経験が他の学校生活や家庭,社会生活での問題を解決するように方向づけることがたいせつである。
(4) 基礎的技能の指導を考慮すること。
ボール運動の指導では社会的態度を育てることがたいせつなねらいであるが,そのねらいを果すためには,グループ活動がよく行われなければならない。ボール運動でのグループ活動は,チームとしての活動であり,チームプレーがよくできるためには基礎的な技能を身につけることによってのみグループ活動が円滑に行われる結果になることを忘れてはならない。
このような基礎技能の学習は高学年になるに従ってその必要を増してくる。
これらの基礎技能の学習は,チームプレー全体との関係において,チームプレーを行うための困難点をとり出し,それらの技能を反復練習することによって身につき,正しく行うことができるようになる。
またチーム・ゲームでは作戦がたいせつであり,これがチーム・ワークをつくりあげるのにたいせつな役割を果すものであるから,児童の能力に応じて作戦を指導することがたいせつである。
作戦指導にあたっては,児童の話合いによって作戦をたてたり,また他のよいゲームを見学するなどして,それを理解し,練習することが必要である。
また正しいモデルを示したり,正式のゲームに移る前にリードアップゲームを行うなどして興味をもって学習するように指導することがたいせつである。
(5) 能力に応じて規則を決め,それをよく守るように指導すること。
ゲームを楽しく行うためには規則が必要であり,この規則は児童の能力に応じて決められなければならない。また施設や用具との関係も考慮に入れることも必要である。
この規則は児童が自主的に決め,児童の発達に応じて順次改善して行くのがよい。
そしてゲーム時にこれらの規則をよく守るように指導し,守ったかどうかについて反省を加えながら,これらの態度の向上をはかるように努める。
(6) 進歩の評価について指導すること。
ボール運動がよくできるようになったかどうかを,児童の過去の状態と現在とを比較反省し,また将来どのような計画をたてて学習したらよいかなどを考えることを指導するのは,きわめてたいせつなことである。
基礎的な技能については,測定の結果を記録させ,その記録を通して過去のものと比較したり,また他人と比較したりしてその進歩を評価するように指導する。
また協力する態度など数量的に結果の出ないものについては自己反省や相互評価をさせ,チームとして,また級全体として,話合いによって改善し,さらによい学習を進めるような指導を忘れてはならない。
さきにボール運動を指導する場合のねらいや指導上注意すべき事がらについて述べてきたので,ここでは主として運動の方法をしるすことにする。
ボール運動にはいろいろの種類があるが,低・中・高学年に分け,各段階で3〜4種目程度をとりあげ,その方法をしるすことにした。
実際の指導にあたっては,これらのボール運動を学習の場として先に掲げたねらいを果すようにすることを忘れてはならない。
低学年(第1・2学年)
(1) 準 備 ボール(ドッジボール)たすき,笛など。
(2) 方 法
紅白2組に分れ,一方が円の中にはいり,他方が円の周囲に位置する(下図参照)
円外のもの(外野手)は円内のもの(内野手)にボールを投げ当てる。ボールを投げ当てられた内野手は円外に出て待つ。一定時間投げ当てることを争い,円内に残った者の多い組を勝とする。
(3) 規則の概要と指導上の注意点
B ボールは肩より下に投げ当てること。
C 投げ当てられた者は円外の一定の場所で待つように指導する。
D 攻撃の交代は敏速に行い,規則を守り,秩序正しく行うように指導する。
(1) 準 備 ボール
(フットボール)
たすき・笛など。
(2) 方 法
数組に分れ,各組それぞれ円陣をつくって向かい合い,互にボールをけり合うことを競争する。
(3) 規則の概要と指導上の留意点
B ボールは足だけで扱う。
C 円外にボールがころがり出たときは,ボールを自分の位置まで持ち帰って続いてけりはじめる。
D 最初は円を小さくして,列の間隔を狭くし,ボールが円外に出ないようにするのがよい。
E ボールは高くあげないように指導する。
F きまりを守り,秩序正しく行うように指導する。
(1) 準 備 長さ2.5mぐらいの竹棒,かご2個,紅白球若干
(2) 方 法
竹の棒の先にかごをつけそれを2か所に立て,そのまわりに紅球,白球をそれぞれ散らしておく。紅白2組が,かごの周りに円陣をつくり,合図によって各組同時に球を拾い,自分の組のかごに投げ入れる。一定時間内に球を多く投げ入れた組を勝とする。
(3) 規則の概要と指導上の留意点
B はじめと終りの整列は秩序正しく,敏速に行う。
C 運動会の種目として適したものであるから,運動会と関連して指導する。
(1) 準 備 ドッジボール・たすき・笛など。
(2) 方 法
紅白2組に分れ,各組はそれぞれ内野と外野に分れて,下図のように位置する。センタージャンプによって競技を開始し,内外野から相手方の内野手にボールを投げ当て一定時間競技を続け内野に残った者の多い組を勝とする。
(3) 規則の概要と指導上の留意点
B 内野のものが,かってに内野外に出たときはアウトとする。
C 外野の投げたボールが一度地面や他の者にふれてからあたったときはアウトにならない。
D 外野のものは,ころがるボールを円内にはいってとったり,円内に足をふみ込んでボールを投げてはならない。
E 外野のものはボールを持って歩いてはならない。
F 最初に外野に出る者は適当な時に内野にもどることができる,また外野で相手側にボールをあてたものは内野に帰りうるようにもしてもよい
G 内野からパスをした場合,外野線を外野手の手にふれることなくでたときは,パスボールとして相手側にボールを渡す。
H ボールは手で受けるように,また全身をつかって正しく投げるようにする。
I 強いものだけがボールをとらないようにする。
(1) 準 備
ゴムまり,ソフトボール,べース4個,笛など。
競技場は右図に示すように,ダイヤモンドの一辺の長さは10m〜15m程度とする。
ファウルラインは,本塁と1塁,本塁と3塁とを結んだ線およびその延長線である。投球場所は本塁から5〜8m位はなれたダイヤモンドの中央につくる。
(2) 方 法
紅白2組に分れ,一方は攻撃組,他の組は守備組となり,上図のような配置につく。各組は投手1人,捕手1人,塁手3人,内野手5〜6人,外野手5〜6人で,守備は攻撃側の打者および走者をアウトすることに努め,3人アウトにすれば,攻・守を交代する。攻撃側は所定の場所から投手の投げた球を打撃順に手で打ち,1塁から2,3塁と順次塁をふんで途中アウトされることなく,本塁に走りもどると1点となる。
各組攻守交代してこれを数回(5〜7回)くり返し得点の多い組を勝とする。
(3) 規則の概要と指導上の留意点
投球の方法はアンダースローでもよいが,1回地面にバウンドさせて投げる方法でもよい。
B 守備と攻撃の交代を敏速に行うようにする。
C 審判はなるべく児童が交互に行うように指導する。
(1) 準 備
フットボール,べース4個,笛など。
競技場は右図に示すようにダイヤモンドの一辺の長さを14〜18メートル位とする。パスラインは本塁を中心としてべースラインの2分の1(7〜9メートル)を半径とする4分の1円孤を描いてつくる。ファルウラインは本塁と1塁,本塁と3塁とを結んだ線とその延長線である。
(2) 競技方法
紅白2組に分れ攻撃側と守備側を決める。守備は上図のように本塁手,1,2,3塁手,内野手が5〜6人,外野手が5〜6人としそれぞれ配置につく攻撃はキックする順番を決め,所定の場所においたボールをけり,第1塁から2,3塁を順次踏んでアウトされることなく本塁に走りもどると1点となる。
守備側はボールをける者および走者をアウトすることにつとめ3人アウトにすれば攻守を交代する。これを数回(5〜7回)くり返して行い,得点の多いほうが勝である。
(3) 規則の概要と指導上の留意点
規則はソフトボールを準用すればよいが,異なるおもな点は次のとおりである。
次の場合はファウルとなる。
(A)けったボールがパスラインを越える前にパスラインからでたとき。
(B)けったボールがパスライン内に止まったとき。
(C)けったボールが1塁または3塁をこす前にファウルライン外に出たとき。
B 走者が各塁に達する前にボールにあてられたときは,アウトである。
C 塁にいる走者は,次の者がボールをけるまで塁をはなれてはいけない
D ボールが本塁にもどされたら塁間にある走者はもとの塁にもどらなければならない。
E 守備側は本塁を守る者のほか,パスライン内にはいってはならない。
F 足のつめをよく切らせておく。
G 守備と攻撃の交代を敏速に行うように指導する。
(1) 準 備
ボール・たすき・笛など。
(2) 方 法
紅白2組に分れ,(1組約10名くらい)味方同志でボールをパスし,相手をさけながら進んで,台上に立っている味方のものにボールを渡して得点するゲームである。
(3) 規則の概要と指導上の留意点
B ボールを持って走ってはならない。
C 1回だけボールを地面に打ちつけてもよい。(ドリブル)
D 乱暴な行為のあったときは相手のボールにする。
E 台上のものがボールを受けとっても,台上から落ちた場合には,得点にならない。ただし相手に押されて落ちた場合は得点とし,さらにペナルテイ,スローを与える。
F ボールが場外に出た場合は,出した反対側が境界線外から投げ入れる
G 得点した場合はエンドライン外から反対側がボールを投げ入れてゲームを続ける。
H 規則は能力に応じて適宜変更する。
I 各人のポジションをきめ,自己の責任をじゅうぶん果すように指導する。
J ゲームを楽しく行うために,パスや動きの基礎技術の練習もとり出し指導する。
(1) 準 備
バレーボール・ネット・笛など。
(2) 方 法
紅白2組に分れ(1チーム9〜12名位)じゃんけんでサーブを先取した側から,うしろのライン外からボールをネットを越して相手方に投げ入れる。ボールを投げ込まれた組はだれかがこれを受けとめ,その場所からネットを越して相手側に投げ込む。ボールを落した場合は相手側に1点を与え,得点した方がサーブする。このようにして一定の得点(21点)に早く達した方が勝である。
(3) 規則の概要と指導上の留意点
B ボールがコート外に出たときは,出した反対側の得点となり,サーブ権を得る。
C サーブは順番は決めて行う。
D ボールを地上に落したときボールをネットにふれさせたとき,ボールを持って歩いたときは反対側に1点を与える。
E ボールのとんでくる方向を早く判断して動くように指導する。
F 各自の責任範囲をよく守るように指導する。
G ボールは胸で受けとめないで手で受けるように指導する。
(1) 準 備
ソフトボール・べース・バットなど。
(2) 方 法
紅白2チームが攻撃と守備に分れる。
攻撃側は投手の投げた球を打ち,アウトされることなく1,2,3塁を次次とふんでホームに走りもどる。
守備側は打者および走者をアウトすることに努め,3人アウトにすれば攻守を交代する。これる数回くり返して得点の多い組を勝とする。
(3) 規則の概要と指導上の留意点
B フェアとファウルは,打者の打ったボールが最初に地上に落ちた点で決定する。
C 投手がボールを持って投手板に立ったら走者は塁をはなれてはならない。
E 規則は野球とだいたい同じであるから能力に応じて適宜変更するのがよい。
F 適宜ポジションを交代して指導するのがよい。
(1) 準 備
ゴール・ネット・フットボール・たすき・笛など。
(2) 方 法
紅白2チームに分れ,一方のチームが中央からボールをけって,ゲームを開始する。手や腕を使用することなく,主として足でボールをけり,味方同志で連絡をとり,相手をさけながら進み,相手ゴールにけり込み得点する。
一定時間ゲームして得点の多い組を勝とする。
(3) 規則の概要と指導上の留意点
B ゴールキーパーは手,腕を使用してもよい。
C ボールがサイドライン外に出たときは,出した反対側チームがサイドライン外から両足を地面につけて頭上より投げ入れる。
D ボールがゴールライン外に出た場合は,防御側が出したときは攻撃側がコーナーキックを,攻撃側が出したときはゴールエリア内から防御側がける。
E 乱暴な行為のあったときはフリーキックを相手側に与える。
F ボールに密集しないで各自のポジションを守り責任を果すように指導する。
G キック,ドリブル等の基礎的技術は必要に応じて指導する。
1.この指導要領におけるリズム運動(リズムや身振りの遊び)の取扱について
リズミカルに行われる表現は人々を美しい心情に導き,リズミカルに行われる遊びは楽しく,人々を融合させる。しかしわが国では生活の状態や,歴史的事情にはばまれて,それがじゅうぶんに生活にとりいられるにいたっていない。学校体育ではこの点を考慮し,表現を楽しみ,それに関連する諸種の能力の発達をはかるとともに,それが生活にとりいれられるよう方向づけようとする。
小学校期はこの種の活動にとっては,最もたいせつな時期であるから,偏することなく欠けることなく指導されることが望ましい。しかし,現状には施設や指導力などの差があるので,そのおのおのに応じて適宜活用されるよう,内容を考慮したい。
リズムや身振りの遊びとリズム運動の区別は,発達上の変化を示すもので,さまざまな活動を含め分化しない状態のものから,しだいに一つの方向をとって,将来のダンスヘ発展していく過程を示したものである。
2.リズム運動(リズムや身振りの遊び)の特性
リズム運動を目標や学習内容との関係で考えるとき,次のような特性があげられる。
B リズムの感覚・協応性・平衡性・持久性などを発達させる。
B 鑑賞の楽しみを深める。
C 年令の面識をこえて和し,また年令や体力に応じて長く楽しめる。
B 自己をすなおに表現し,他人を受け入れる。
C 協同して一つの目標を達成する態度を身につける。
D 男女が協力する。
学習内容では,その内容を二つに大別している。
一つはフォークダンス(歌を伴う郷土的遊び)で,児童が日常生活の中にもっている遊びからはじまり,主として遊び仲間や家庭での生活を楽しくするために,そのまま遊びの材料となる性質のものである。これらはだいたい定まった型をもっており,その型をおぼえることによって日常生活の遊びとして活用されるものである。
他の一つは,経験の表現と基礎リズム(模倣と基礎リズム)で,児童の日常生活の経験をとりあげ,美的表現の経験と,その技能を深めるものである。基礎リズムは,リズム運動における基礎的技能をさすものであるがそれは基礎的技能のみをとりだして鍛えるというよりは,主として表現と結びついて,よりよい表現を生むための手がかりとするものである。しかし,歩いたり,走ったり,ころがったりすることは,児童にとっては意図的な表現を伴わなくてもリズミカルな活動の楽しみがあるから,時に応じて適宜とりあげ,その正しい要領を学ばせることもある。
附言すると,学校によっては施設や指導力などの差があるから,次のような指導内容の変化も考えられる。
B フォークダンス(歌を伴う郷土的遊び)と基礎リズムを主たる指導内容とするところ。
C フォークダンス(歌を伴う郷土的遊び)と,経験の表現と基礎リズム(模倣と基礎リズム)を指導内容とする望ましい条件のところ。
指導の内容が施設や指導力などに左右されるように,学年的段階も一様には決めにくい。
一般的に言って,低学年ではリズミカルで活発な個人的活動が主となり,題材は実際に見たり行ったりできる動的なものから選択する。またこれらは楽しく自由に模倣し,あるいは物語風にくりひろげられていく活動で,必ずしも一つの作品としてのまとまりを要求しない。
中学年では,リズミカルで活発な個人的活動が充実してくるとともに,集団的活動が可能になる。したがって題材は個人的に行うに適したものと,集団で構成するに適したものとの両方から選択する。いずれも実際に見たり行ったりできる動的なものを中心に取材する。これらは主として自由に,スケッチ風に展開するが,ときにはごく簡単なまとまりをつけることも試みるように導く。
高学年では,技術や表現に関するかなり強い関心をもち,また個性的な傾向が現れ始めるから,それに応ずる指導の変化が必要になる。したがって題材で行う場合や,各自自由に選択して行う機会も与える。また,作品としてほぼまとまりをつけられるようになるから,ときにはかなり念入りに指導して完成の満足を得させる。
さらに,運動会・学芸会・学級会・学年コンクールなどの行事にあたっては,児童が自主的に計画に参加し,役割を分担し,作品をまとめるよう指導する。
なお,各学年を通じて,たれでも楽しくいっしょに行うことができるように,フォークダンス(歌を伴う郷土的遊び)を適宜とりいれていくのはいうまでもない。
基礎リズムは表現をささえるものであるから,表現の発展に応じてそのとりあげ方も変化していく性質のものである。すなわち,低学年では主として児童の表現を誘発し,暗示する役目を果し,その題材が自然に導きだされ,変化をもち,よい身振りとなるように用いられる。高学年では,主として児童のもっている技能を抽出し,表現がより確かに,より豊富になるようにくふうし助成する役目を果すように用いられる。 4.指導上の一般的注意
(2) 題材は児童の生活経験の拡大にそって選択し,指導者の好みのみに偏することを避ける。
(3) 表現は実際によく観察し,個性的な表現方法を見つけ,育てるようにつとめる。
(4) できあがった結果の良否よりも,思うことを表わし,くふうする活動やよいグループ活動を重んずる。
(5) 表現に伴う技能は,活発なリズミカルな活動が自由にできることを第一にし,技巧にとらわれない。
(6) よい作品を鑑賞する機会を与える。
(7) 他人の作品は主として,その児童の学習の進歩に必要な時に,参考として取り上げる。
(8) 個人差に応ずる指導をくふうする。
(9) 児童の生活に取り入れられるよう,生活との関連を考えて指導する。
(10) 常に明るく温い態度で指導する。
低学年(第1・2学年)
1 歌を伴う郷土的遊び
○じゃんけん遊び
(1) 目 的
B 遊び仲間の楽しい遊びをくふうする。
自由(ふたりまたは数人)
(3) 方 法
各地方の児童のもつじゃんけんの歌を歌いながら,手や足でじゃんけんをして遊ぶ。たとえば次のようにもできるだろう。
B 歌をうたいながらじゃんけんを行い,歌の最後のじゃんけんで敗けたものが勝ったものを背負って歩く。
C 図のようにうず巻の中心と入口との2組に分れ,同時に走りだし,であったところでじゃんけんし,負けたものははじめの出発点へもどり,その組は次の走者が走って相手方の勝者を迎える。これをくり返して早く相手方の出発点にはいった方が勝となる。
B いろいろの遊びを児童にくふうさせてもおもしろい。
(1) 目 的
A 生活の中にもっている楽しい遊びをとりあげ,だれとでも遊べるようにする。
(2) 隊 形
円形,ひとりの鬼が円内にしゃがんで目を閉じている。
(3) 方 法
各地方の歌を歌いながら,円周上をスキップまたは歩いてまわる。たとえば「かごめかごめ かごの中の鳥は,いつでてねむる。鬼さんのうしろはだあれ」などである。歌い終ると円周のものはしゃがんで円心にむき,鬼のまうしろにあたったものが,自分の好きな動物の鳴き声をまねる。鬼は声から判断して,その相手の名を言いあてる。あたったら鬼と交代する。あたらない時は,「うしろの正面だーれ」という部分から以下の動作をあたるまでくり返して行う。
(4) 指導上の注意
B 鬼があまり長くなったら適当に交替する。
C 小円にして行う。
こんにちは皆さん(How do you do my Partner)
○こんにちは皆さん(アメリカのリズム遊び)
(1) 目 的
外国のリズム遊びを楽しみながら,新しい男女関係の基礎をつくる。
(2) 隊 形
二重円,女児は外側,男児は内側に向い合って位置する。
(3) 方 法
B 3〜4小節 男児は立ったままで軽く会釈する。
C 5〜8小節 男児と女児はスキップしながら近よって,進む方向(女児から見て右側)を向きつつお互の内側の腕を組む。
D くり返し,1〜8小節,各組腕を組んだまま円形にそってスキップで進む。
B 一回終ったならばパートナーを変えて行わせる。
かりにいきましょう
○かりにいきましょう(イギリスのリズム遊び)
(1) 目 的
外国のリズム遊びを楽しみながら,新しい男女関係の基礎をつくる。
(2) 隊 形
8人組とし,男女各4人づつ相対して並び,先頭から番号をつける。
(3) 方 法
全体をスキップで行う。
B 3〜4小節 1組の男女は互に内側のほうへ半回転し,さらに左手をとり,もとの方向へもどる。他の組は拍手を続ける。
C 5〜8小節 さらに一組の男女は男児の列の後を通って,4組の後に止まり,両腕をあげてアーチをつくる。他の組は拍手を続ける。
D 1〜8小節 2組の男女は互に左手をとってアーチをくぐり,4呼間おきに3組,4組とアーチをくぐる。くぐり終えた組は手をはなして左右に分れて進み,もとの位置より一つ前の位置に止まる。4組がくぐり終えた後,最後の4呼間に1組も外回りに分かれて回りながら,もとの4組の位置に止まる。
E 以上の動作を1組がもとの位置にもどるまで,くり返して行う。
B 8人よりも多い人数で行ってもよい。その時は,アーチができた時を合図にくぐる者が出発する。
C 列の後を通らずに,2人組で自由に,立っている他の組の間をぬっていってもよい。
(1) 目 的
児童の知っている植物や,それに関係の深いこん虫などをとりあげ,観察をいかして身振りを楽しみながら,動植物に対する愛情ややさしい感情を持つようにし向ける。
(2) 隊 形
自由。
(3) 方 法
たとえば次のようにも行えるだろう。
次に季節の植物や自然の様子を問う。
児童は,音と指導のことばに誘発されて,すぐ草木になってゆれたり,そよ風になって吹き渡ったり,あるいは土の中にねむっている動物になったりするだろう。
B ふわふわと柔らかく,だんだん軽くはずんだ音へと変化させる。
ちょうがとんできたことを告げる。児童は軽くとびまわったり,蜜を吸ったりするだろう。児童の身振りが発展しにくい時は,「身体の重さがないようにふわふわとんできました」とか「二匹が追いかけっこしたり,羽を休めて仲よくお話したりしていますよ」などと情景や動態を思い起すように誘導する。
C ぶん,ぶん,ぶん, ぶん,ぶん,ぶん と細かく早く低い音を続ける。
何がきたかを問う。児童ははちや黄金虫などになり,前よりもすばやく元気に腕を後に伸ばし,胸をつきだして,うなり声をたてながらとびまわるだろう。
D 明るく静かな音をゆっくり奏する。
きれいな花畑にきたことを告げる。季節の花を思い起させる。児童はひとりでしやがんでチューリップの花びらを形づくり,数人で腰を下ろして体を曲げたり,起したりしながら,たんぽぽの花になったりするだろう。「花びらが4枚,菜の花かしら」「何の花に似ているかしら」などほんとうの花を思い浮かべて行わせるように方向づける。
E 児童の知っている花やちょうの歌を奏する。
花組と動物組にわかれ,一曲ごとに動物は花に止まるから地上に休み,次に花になり交代して仲よく,楽しく遊ぶ。児童は,太陽になったり,ありになったり,青虫や毛虫になったり,想像の世界をくりひろげていくだろう。
B 自分の思うことをすぐ身振りに移すようにし向ける。
C 観察や身振りをとおして,こん虫や植物を愛するようにし向ける。
(1) 目 的
絵巻物をくりひろげるように展開される短い物語の中で,空想の世界に楽しく遊びながら,やさしい感情や,思うことを即座に,卒直に表現する態度を育てる。
(2) 隊 形 自由。
(3) 方 法
たとえば次のようにも行えるだろう。
○ある日,にわかに大風が吹いた。
○どんぐりのこどもが,うっかりして落ちた。
○お山の坂道をころころところげて落ちた。
○とうとう下のお池にはまってしまった。
○お池に浮いた葉っぱの舟でようやく岸にたどりついた。
○お山の坂道はのぼれない,困ったな。
○どこからかはとがとんできた。
○赤いくちばしでどんぐりをつまんで,山のお家へつれていってくれた。
○どんぐりの家では大喜びでどんぐりのこどもをむかえた。はとさんありがとう。
B 以上のように物語をとったとすると,一つの話のきれめに,その情景を暗示し,助ける音を用い,音が続いている間はそのものになり続ける。音がやんだ時は,そのもののフォームで止まって,次の話をきくことを約束して物語を運ぶ。物語は,話と音と身振りでつながれて,一連のふんいきをもつようになる。
B はじめは個人で動作をさせ,慣れてくると,内容に応じて自由に即座にグループになって行ってもよいように指示する。(たとえば木になる時,おのおのが枝や幹や根になって一本の木をつくるなど。)
C 児童のつくった物語もとりあげる。
D 物語を運ぶ指導者のことばを,簡単でしかも内容の豊かなものにする。
E 物語の気分になりきって行うようにさせる。
(1) 目 的
児童に最も親しみの深い動物の模倣を取り上げ,身振りを楽しみながら観察を深め,動物に対する愛情と美しい感情を育てる。
(2) 隊 形 自由。
(3) 方 法 一例をあげると次のようにも行われるだろう。
○たん た たんた とはずんだリズムを聞かせて,何がいるかを問う児童はうさぎや,カンガールや,小馬などとびはねる動物になるだろう
○おいしいごちそうをやりました,よろこんでいます,と言う。児童は動物のうれしそうな様子をするだろう。
○にょろ にょろ にょろ にょろ すーっ と言う。児童はへびになり2〜3人つながって腹ばいになったり,ぐるぐる丸くなったり,高いところへのぼっていったりするだろう。
○チチチ チチチ チッチッチと鳴き声をリズミカルにまねる。児童は小鳥になり指導者の鳴き声をまねたりしながら小首をかしげたり,餌をついばんだり,とまり木をあちこちうつったりする。
B 児童の身振りが未熟であっても,外形から批正したり,一つの形をしいたりすることなく,動態や気持を助言して変化を与え,その気持になりきって身振りをするように導く。
1 歌を伴う郷土的遊びとフオークダンス
○どこの国から
(1) 目 的
生活の中にもっている身振りの遊びを取り上げ,だれとでもじょうずに遊べるようにする。
(2) 隊 形
数人のグループとひとりの鬼が向かいあう。
(3) 方 法
数人のグループはあらかじめ自分たちの仕事を相談してきめておく,次に旅人と鬼は次のような問答と身振りをする。
旅人 (南)の国からきました。
鬼 御商売は何ですか。
旅人 これでございます。と答えて無言で身振りをはじめる。
旅人の身振りをみて,鬼はその仕事を言いあてる。あたらない中は旅人は次次とその仕事を続け,あてられたら即座に逃げる。鬼は追いかけてだれかをつかまえる。つかまったものは鬼になり,新しい仕事をきめてくり返し遊ぶ。
B 狭い場所で行う時は,言いあてたあとの鬼ごっこのかわりに,鬼が指名して交代して行う。
きつねとがちよう
○きつねとがちょう(スエーデンのリズム遊び)
外国のリズム遊びをおぼえさせ,自由な時間の遊びを豊かにし,また新しい男女関係の基礎をつくる。
(2) 隊 形
図のように一列につながったがちょうと一匹のきつねが向いあう。
(3) 方 法
がちょう 今日は,きつねさん。
きつね 今日は,がちょうさん。
がちょう あなたは何をしていらっしゃいますか?
きつね 今,ごはんを食べているところだ。
がちょう ごはんですって,あなたはおなかがすいていますか?
きつね とっても。
がちょう 何が召上がりたいんです?
きつね お前のこどもだ!
といってきつねはがちょうの後の小さいこどもを捕えようとする。
・ 4時間
B 1回終った後,きつねはがちょうの最後のこどもになり,がちょうの母親がきつねになってくり返し行う。
C リズミカルに行う部分と,自由に追いかけてよい部分の区別をはっきりして行う。
ロンドンブリッジ
○ロンドンブリッジ(イギリスのリズム遊び)
(1) 目 的
外国のリズム遊びを楽しみながら,だれとでも遊ぶようにさせる。
(2) 隊 形
2人が向いあって両手をつないで橋をつくり,他の8人位は1列の円になり手をつないでその下をくぐれるようにする。
(3) 方 法
円のものはスキップで橋をくぐってとぶ。一曲の終りの,とリズムの変化しているところで,橋はつないだ両腕を下ろして,通っているだれかをつかまえる。つかまえられたものは交代して橋をつくり,くり返して行う。
(4) 指導上の注意
B つかまったものが自分の好きな身振りをし,他の者がそれをまねて後に続き,ひと回りしてからふたたびはじめの遊びをくり返してもよい。
(1) 目 的
印象の深い体験をとらえ,観察した動的なものを楽しく身振りにうつしながら,思うことを率直に表わし,また人と協力して行う態度を育てる。
(2) 隊 形
内容に応じて個人又はグループになる。
(3) 方 法
たとえば次のようにも行えるだろう。
○重そうな荷車がやってきた。(数人で手助けする)
○坂道になった。(2,3人助け合って)
○峠にきた。白雲が流れている。(個人)
○下の方にいろいろなものが見える。(自由な題材をとらえる)
○目的地についた。いろいろの遊び道具がある。(かわりあって仲よく飛行塔やぶらんこにのる様子)
B 短い時間に特徴をとらえて行わせる。
C 児童のつくった物語によっても行う。
(1) 目 的
各自が積木の材料になり,動く積木の組立を行うことによって,ものの構造に対する興味を深め,グループ表現の手がかりを得させながら,美しい感情や協力して一つの目標を達成する態度を育てる。
(2) 隊 形
数人または10人くらい。
(3) 方 法
たとえば次のようにも行えるだろう。
とけい。
B グループのひとりが走っていってとけいの部分品になる。たとえば指をひろげて両腕を斜め上にのばし歯車の様子をする。次のものがそれを見て自分の部分をきめ,その形をとり,任意の場所に位置する。続いて次々とひとりづつ走りでて,ぜんまいや針や振子や文字盤などを組立てていく。
C 全体の構成ができあがると,カッチン,カッチンというリズムを与えてしばらく自由に動かしてみる。児童は歯車をかみあわせるようにふたりでまわったり,はとどけいになってとびでては鳴いたり,やすみなく左右にとんで振子になったりするだろう。それらは,自分の部分の動きをしながら自分たちの組立てたとけい全体の働きを考えて行われるだろう。
B 日常,いろいろな題材を見つけておくように指導する。
C 組立の時,走る時は細かく速い音を奏し,停止の時は強い和音をもって身振りを助ける。指導は題材にふさわしい音色をくふうする。
(1) 目 的
身振りを楽しみながらいろいろなおもしろい遊びをくふうするよう,その手がかりを与える。
(2) 隊 形
B 曲が終って皆が円心に集まったとき,びっくり箱になった児童は「ぼーん」と大きな声を出してとび上がり自分の好きなものの形をとる。円のものはびっくりしてもとの円周まで逃げてかえる。
C 円周のものはしゃがんで拍手し,びっくり箱からでてきたものの形や,動作を見て,その名称を言いあてる。
D あてたものが中にはいつてびっくり箱になる。大ぜい同時にあてたときは,大ぜいの中にはいって小さく丸くなり,他のものが歌いながら最初の動作でながめている間に,題材を相談して決める。
B 身振りの遊びをいろいろ考えさせる。
C 名称を言いあてられた後,鬼ごっこになってもよい。
ま り つ き
○ま り つ き
(1) 目 的
まりのつき方をくふうし,個性的なまとまりをもたせながら,美しい感情や創造的な態度を育てる。
(2) 隊 形
自 由。
(3) 方 法
B 教師がまりをつく人,児童がまりになる。児童はつく人の手をよく見ながら動きに合わせて動く。
C 2人組になって,まりをつく人とまりになり,いろいろなつき方とそれに応ずる動き方をくふうする。
D 3人組でひとりがまりになり,他のふたりがまりをつきくらする。
E ひとりまたはふたり以上が組になり,幾つかのつき方を組み合わせて,一つのまとまりを持ったものをつくりあげる。
B 一つあるいは二つのつき方だけをとらえて,いろいろに変化させることも考えてよい。
C 最初から適当なリズムを与えて,その中でリズムにのるつき方を考えさせてもよい。
D 示してある曲は,まりつきに適当と思われる一例である。全部を一曲として用いてもよいし,分割して用いてもよい。aとdの部分は普通につくつき方に適し,bの部分は足の下をくぐらせるつき方に,cの部分は大きくついて回るつき方に,eの部分は大きくついて小さくつくつき方に,fの部分はふたりで交互につき合うつき方に適する。
E 感情をこめて行わせる。
1 フォークダンス
○バージニア・リール(アメリカのフォークダンス)
B 外国の風俗,習慣のちがいを知り,その国民性や生活に対する理解を深める。
C 日本の民踊と比較し,ふり返って見させる。
8人組とし,男女各4人づつ相対して並び,先頭から番号をつける。
(3) 方 法
全体をスキップまたは軽いウォーキングで行う。
・4小節 各組の男女は3歩前に進み,おじぎをして前向きのままもどる
・4小節 前に進み右手を肩の高さにつなぎ,一回りして手を離してもとにもどる。
・4小節 前に進み,左手をつないで回ってもどる。
・4小節 前に進み,両手をつないで回ってもどる。
・4小節 前に進み,腕を組んで背中合わせに回ってもどる。
B リール
1組の男女は前に進み,右腕を組んで1回半回る。次ぎに1組の女子は2組の男子の方へ,1組の男子は2組の女子の方へ進み,左腕を組んで1回回る。再び1組の男女は列の中央へ進み,右腕を組んで1回回る。以上の動作を3組,4組に行い,最後に1組は半回りして,両手をつなぎ列の間をスライドしてもとの位置にもどり,ふたたびスライドして4組のほうにもどり,さらに自分の位置にもどる。この間他の者は拍手を続ける
C マ ー チ
1組の女子は右回り男子は左回りをして列の終に向って進む,みんなそのあとに続く,1組は列の最後まで行ったら止まって,両手をあげアーチをつくる。他の者はアーチをくぐって列の先頭のほうに進み,2組は1組の,3組は2組の,4組は3組の位置につき,1組は最後の組になる。
次に2組が1組と同様,リール,マーチの動作をくり返し,3組4組も同様に行う。
B 10人または20人くらいのグループで行ってもよい。
C 示してある楽譜以外の音楽を使用してもよい。たとえば,オ・スザンナなど。
○困った小人(デンマークのフォークダンス)
B 外国の風俗,習慣等のちがいを知り,その国民性や生活に対する理解を深める。
C 日本の民踊と比較しふり返えって見させる。
図のように4人組ふたりずつ反対のほうを向く,中の男どうしは左腕を組み,右腕は外側の女子の腰に回す。女子は左手を男子の右肩におき,右手を腰にとる。1組だけふたりの組をつくっておく(これが困った小人の組である)
(3) 方 法
B 4小節のくり返し,男子どうしは組んでいた左腕を放して手をとる。女子も肩から腕をおうして手をとる。そしてふたりの男子の連手の下をくぐり左に回って顔を向け合わせ,女子どうし右手をとる。
C 5〜8小節のくり返し,下図のような図形のままで手を引き合いながら左のほうに円をかいて回る。
D 9〜16小節 男子と女子ふたりずつに分れて内側の手をとり,バランスステップで先頭の方へ進む。
E 曲のくり返し,新しい組をつくって男の子は先頭のほうを向き,ふたり向き合って,ワルツステップで進む。
題材の特徴をとらえて表現をくふうし,一つのまとまりある構成に仕上げさせながら,創造的な態度(または協力して一つの目標を達成する態度)を養いかつそれらの美的表現を通じて美しい感情を育てる。
(2) 隊 形
自由(ひとりまたはグループ)
(3) 方 法
3/4拍手 大波のリズム
一回の動作
小波のリズム
一回の動作
波が砂浜にくずれては引く様子のリズム
一回の動作
B 同じことをグループで表現した場合にはいっせいに行う場合や,ひとりずつ2時間ぐらいおくれて連続する場合など考えるであろう。その他たとえば岩に打ちあたってくずれる様子を,からだを前に深く曲げぐっと上体を起し,指を開き腕を上にあげてふたたび急にからだを前に曲げることで表現するなど,児童は種々なくふうをすることであろう。
岩にくだけるリズム
C 次に,グループによって,たとえば,小波がゆれる,やや大きい波が砂浜にくずれては引く。大波がどんどん押しよせてくる。岩にくだけて散るうずをまいて流れる,しだいにおさまってふたたび小波がゆれるというような一つの構想をもたせ,その構想に従ってみんなで即興的に踊る。そして踊りにくいところ,表現のまずい部分などについて話合いをして改めたり,へたな運動を取り出して部分的に練習するように導きながら,一応のまとまりを持たせる。
D 打楽器または音楽の伴奏で,各グループの作品を発表させ,鑑賞させる
B 打楽器またはピアノによって動きに応ずる適当なリズムを組み合わせて与える。
C 鑑賞の際は,全体の統一,選ばれた運動,リズミカルな動き,頂点の場所,感じなどについて考えるように指導する
D 感情をこめて行わせる。
観察をもとにして表現をくふうし,いろいろの簡単なまとめ方を考えさせながら,個性を発揮させ,(あるいは集団にとけこむ態度を養い)かつそれらの美的表現をとおして美しい感情を育てる。
(2) 隊 形
自由(ひとりまたはグループ)
(3) 方 法
(B)水滴がだんだん集まって大きくなる感じをとらえる。たとえば,腕を横から回して上にあげながら小走りに斜め前に進み,体を斜め前に傾けながら,両腕を斜め前に伸ばし,手首をたれ,次に軽くとびながら腕と上体をゆるめ,さらにとんで小さくうずくまるかもしれない。このような時はなどのリズムが適当だろう。
(C)ぽたぽたと水たまりに落ちてははねかえる感じをとらえる。たとえばひざを高く上げて駈け足しながらくるくる回り,次に両足を縮めて大きく2回とぶかもしれない。この時は
のようなリズムでもよいだろう。
C あるいは,4人が1組となり,2人づつA組とB組とに分かれて,輪唱のように行ってもよい。たとえば,Aの部分→合Bの部分→Bの部分→Cの部分→休みとの全体の長さを決め,各部分はおのおの8呼間の長さにして動作を始める。A組はB組より一つの部分だけ先行し,B組はたえずC組の後を追っかけていく形になる。
D あるいは,動作はほぼ同一にし,グループごとに隊形の変化をくふうさせる。たとえば児童は次のようにも行うだろう。4人が四方にわかれて位置する。真中に集まってくる。まん中で回りながら動作する。もとの四方へとび散っていく。ふたたびまん中に集まって,終止の動作をする。
B 感情をこめて行わせる。
日常生活に関係深い収穫をとらえて,グループ表現の経験を得させながら,自分たちの生活を支える社会構造に対する理解を深め,協力して一つの目標を達成する態度を育て,かつそれらの美的表現を通して美しい感情を育てる。
2 方 法
(2) 各グループはそれぞれ実現をくふうする。たとえば,稲の組はまっすぐ青々と伸びた稲(腕を交互に直線的に伸ばしながらからだをゆり動かすかもしれない)雨風にたたかれながら根強く伸びる稲(折れるように激しくからだを曲げ伸ばし,また回旋したりするだろう),だんだん豊かにこがね色にみのった穂波(手首,頭,胸としだいに重そうにたれ,時々波うってゆらぐだろう)の3つの部分に構成するかもしれない。
農夫の組は,刈る,たばねて運ぶ,積む,重い荷車を押して家路につくなどの部分にとらえるかもしれない。
収穫の喜びの組は,拍手や,盆踊ふうな手ぶり足どりで輪になって踊るだろう。
(3) 各グループの構想が決まった後,主になるリズムや動作をくふうし,さらに一連の長さを定める。
(4) 各グループがほぼできあがったとき,A,稲の生涯 B,働く農夫 C,収穫の喜び と順序を定め,最初と,ABC各組の間と,最後に,とりいれの主題を暗示する短い音楽を奏し,全体を続けて行うと,「とりいれ」を題材にした組曲ふうの作品ができあがる。
B 実際の作業をよく観察させ,心をこめて行わせる。
C 自分たちでくふうして伴奏するようにさせるといっそうおもしろい。
D 他教科と連関して指導する。
1.この指導要領における鬼遊びの取扱について
鬼遊びは,「おにごっこ」「おにご」「おにさん」など,ところによりその呼び方にいくらかの違いがあるが,古くからわが国のわらべあそびとして伝えられてきたもので,いまでもこどもたちに親しまれている。このような遊びは外国でも行われ,従来,体育科の教材として取り入れられていたものの中には外来のものも相当ある。
この指導要領では,鬼遊びを,各学年を通じてとりあげることにしたが,これは,前記のようにこどもたちの日常生活の遊びとして無視できないし,また施設用具のふじゅうぶんな現状では,行いやすい活動であると考えたからでもある。要するに,こどもたちの運動的遊びを健全に豊かにすることがおもなねらいである。
2.鬼遊びの特性
鬼遊びは,多く追うこと,逃げることから構成されている単純な遊びで,そこから生ずるこどもらしい好奇心や競走心が興味の中心となる。しかも,施設や用具をほとんど必要としないし,人数や時間にもあまり制限されないから,児童の遊びに対する配慮の貧弱なわが国においては,こどもたちがとりつきやすい遊びとなっている。
このような鬼遊びを目標や学習内容との関係で考えるとき,特に重要なものは,(1) レクリエーションとしての活用 (2) 発達上の効果 (3) 人間関係の三つである。
B 鬼遊びは,方法が簡単で,年令や能力を問わず,グループを作って遊ぶことができるから,地域のこどもたちの遊びとして取り入れやすい。
C 地形・樹木,その他のものを利用して遊びをくふうできるし,歌を挿入することもできるから,遊びに変化をつけることができる。
B 刺激に対して敏速に反応し,それに適応して巧みに行動しなければならないから,注意の集中・正確・敏速などの身体支配力を高める。
B いつでも団体の一員として行動しなければならないから,協力・礼儀快活などの態度がつちかわれる。
鬼遊びの一般的な指導内容としては,(1) こどもたちが生活に取り入れやすい鬼遊びのいろいろな形式 (2) 健康や安全に対する態度 (3) 規則を守る態度 (4) 遊びをくふうする態度などである。
鬼遊びには,数多くの種目があり,呼び方も,人により地方により異なっていることが少なくない。この指導要領においては,これらのものから,適当と考えられるいくつかを,例としてあげることにした。
低学年 ひとり鬼・子ふやし鬼・場所とり鬼・ねことねずみ・けん鬼
中学年 子ふやし鬼・からかい鬼・場所とり鬼
高学年 子とり鬼・陣取り
もちろん,これら8種目を指導すれば,これで満足だというわけではないし,また,これだけは必ず指導しなければならないという意味でもない。地方によっては,もっと適当なものもあるであろうから,適宜加除することが必要であろう。
(2) 健療や安全に対する態度
鬼遊びは,少数のものだけが疲労することになったり,また,つまずいたりころんだりすることが,他の活動に比べて比較的多い。それゆえ,適宜機会を利用して,渦度の疲労を避ける遊び方,運動場の整備,けがの原因の手当などについて適当な指導を加え,こどもたちが日常生活に適用できるように,健康や安全についての心得を指導することが必要である。
(3) 規則やきまりを守る態度
鬼遊びには単純ではあるが,それぞれ遊びを構成する規則やきまりがある。特に低学年のこどもたちの中には,これらの規則やきまりを破って,そのために興味が薄らいだり,遊びが続けられなくなったりすることが多い。それゆえ,規則やきまりに対する指導を徹底させることは,鬼遊びの指導において欠くことができない。
規則やきまりに対する指導では,これを守るという態度を指導することはいうまでもないが,しだいに,こどもたちが自分で規則やきまりを作るという態度も指導していきたい。特に低学年で,鬼遊びのような単純な遊びにおいてこうした態度を指導すれば,中学年や高学年のボールゲームなどにおける組織的態度にまで発展させることも容易である。
(4) 遊びをくふうする態度
前項の規則やきまりを作ったり,守ったりする態度は,これを,遊びの構成の立場から見れば,こどもたちが,だんだん自分たちに興味あるように,遊び方を自分たちの条件につごうよく作りかえ,しだいに新しいものに変化させていくということになり,鬼遊びのようにレクリエーションとしての活用をねらう活動においては,特にたいせつな指導の内容である。
この指導要領では,一応8つの例だけしかあげていないのであるが,これらは,それぞれ基本的なものをあげたのであるから,これらの活動に対して本項のような指導を加えるときは,各種の遊びに発展するはずである。たとえば,子ふやし鬼というのは,一般には,ひとりの鬼を決め,他は全部逃げ手となって逃げ,つかまえられたものが鬼になって,次々鬼がふえる遊び方であるが,このとき,鬼を識別するために,鬼になったものが片手や頭や背中において追いかけるようにくふうすれば,片手鬼となるであろうし,鬼が手をつなぐことに決めれば,手つなぎ鬼となるであろう。
鬼遊びは,もともと,未組織で自然発生的な遊びであるから,特に発生的・段階的な系統をはっきりさせにくい。それゆえ,学年的な指導の順序も,特に初歩的なものとか,高度な段階のものとかの区別がつけ難い。学年に応じた身体的,心理的特性を考えて,数多い種目の中から,適当なものを選択することが必要である。すなわち,低学年は,規則も簡単で,体力も多く必要とせず,歌なども挿入できるようなものがよいであろうし,中学年や高学年においては,強い走力や器用さを必要とするもの,こどもたちの冒険心を満足させるもの,規則も複雑なもの,などがよいであろう。
この指導要領においても,このような基準で前記の種目を選択したわけである。
5.指導上の注意
以上のような鬼遊びを指導するにあたって,特に留意すべきこととしては,次のような点をあげることができる。
(2) 時間を長くせず,かつ,特定のこどもだけ鬼としないようにし,また疲労しすぎないように注意する。
(3) 時間中継続して行うより,適宜他の類型の種目と結合して指導する。
(4) 季節に応じて種目を選択する。
(5) 危害の予防には特に注意する。
(6) 決められた規則やきまりは確実に守らせる。
(7) 必要以上に騒がしくならないようにする。
1.この指導要領における水泳(水泳び)の取扱について
水泳は夏のスポーツで,暑夏水にひかれるのはこどもだけでない。水に恵まれたわが国に水泳の普及しているのはきわめて自然なことで,学校体育は,生活に取り入れられるスポーツの芽を育てながら,鍛えようとする。
泳ぎの上達のためには,小学校期に始めるのが最もよいとされている。しかし,水泳場に恵まれない学校が,水泳を教育内容に取り入れるのは困難であるので,この指導要領では,「条件の許すかぎり」という制約をつけて学習内容に取り上げることにした。近くに水泳場を持たない学校では,もし事情が許せば,臨海学校その他の計画によって指導されることが望ましい。
水遊びと水泳の区別は発達上の変化を示すものであって,指導の内容は水泳場の条件によって,各学年一様に考えるわけにいかないが,最大の努力を払わなければならないことは,事故の防止である。
2.水泳の特性
水泳を目標との関係で考えるとき,特に重要なものは発達上の効果,レクリエーションとしての活用,健康と安全に関するものの3つである。
B 全身的な運動で身体の平均した発達と内臓の機能を促進し,特に水圧を押しのけて大きな呼吸を連続することによって,呼吸器を強くする。
C 水に対する恐怖心を除き,自信を持つようになる。
B 自然に対する親しみと理解を深める。
B 危険防止に対する態度を養い,安全についての能力を高める。
学習内容の一般的事項は前に述べたので,ここではなるべく重複を少なくしたいのであるが,まず問題となるのは,運動としてどのような内容(泳法やとび込みなど)があるか,ということと,水泳と健康習慣(水泳心得)との関係が重要で,施設用具や人間関係についての学習内容も,それぞれの学習場面で考えることができる。
(2) 指導の内容
ここで特に取り上げる指導の内容としては,ふつうの条件を備えた学校を対象に考えるとき,基礎的泳法,とび込みの初歩,水泳心得の3つを取り上げることが適当であろう。このほか潜水(潜行)や水中遊戯などもあるが,これらはむしろ基礎的泳法と関連して考えることがよかろう。
泳法は日本泳法と競泳法に区別するしかたもあるが,一般的には基礎的泳法として,
(B)扇(あおり)足泳法(横泳ぎ,扇足平泳ぎなど)
(C)蛙(かえる)足泳法(平泳ぎ)
(D)ふみ足泳法(立泳ぎ) の4つに区別して考えられることが便利である。このうちふみ足泳法を小学校で習得させることはなかなか困難であるが,他の3つについてひととおりできるようにすることは,比較的容易である。
スタートと結びつけたさかとび込みを主とし,直立の姿勢で水に入る直(ちょく)とび,前傾姿勢で扇足を使う平(ひら)とびなどがある。
C 潜水・水中遊戯・遠泳
潜水は基礎泳法の応用といえるもので,水底に向かってもぐるのと,水面に平行して潜行するものとの2つの形がある。
水中遊戯は石拾い・鬼遊び・水上野球・水球遊びなどがある。
遠泳は,距離泳に適した平泳ぎを正しく泳ぐことができ,かつ練習を積んだ後に,泳力を試し,自信をつける意味である。
D 水泳心得
水泳によって期待される効果をあげ,楽しい運動とするためには,次のような水泳心得を守ることが何よりもたいせつである。
(B)食事の直後,空腹や疲労時,発熱や睡眠不足のとき,ひどく汗のでた直後,月経のときは泳がない。
(C)耳あかをとる。
(D)水にはいる前に大小便をすませ,はなをかむ。準備体操を忘れす,必ず人員点呼を受ける。
(E)水にはいるときは,いきなりとび込まずに徐々にはいる。水中では自分勝手な行動を慎み,きまりをよく守る。
(F)時々頭を水で冷やして日射病を防ぎ,水中でも目をあける習慣をつける。
(G)時々水から出て休む。
(H)水を出たら必ず人員点呼を受ける。ひどく日焼けしないように気をつける。ながく水着をつけたままでいないようにする。
(I)川じりやどろのあるところ,不潔な場所,水底に危険物のあるところ,荒れた海や潮流の早いところ,流れの早い川などでは泳がない。
(J)決してひとりでは泳ぎに行かない,友だちといっしょに出かけたら揃って帰る。
(K)プールの清潔に注意し,また海岸をよごさない。
(L)わるふざけしない。
(M)おぼれかけた人を見たり,けいれんを起したりしたら,大声で助けを求める。人を助けるときはできるだけ大ぜいの協力を求め,なるべくさおやひもや板などを使って助ける。
指導内容が水泳場に左右されるように,内容の学年配当も一様に決めにくい。一般的にいって,水泳心得は低学年からよく徹底させることがたいせつで,その他の内容については,低学年では石拾い・ならびっこ・面かぶり・犬かきなど,ごく初歩のもので,水に慣れさせ,親しませることに重点をおく。
中学年になると水にも慣れ,かなりまとまりのある動きができるようになるから,犬かきからクロールの初歩へ進め,また横泳ぎや平泳ぎの初歩・ごく初歩のとび込みなどを,適宜水中遊戯と関連させながら指導する。
高学年になると,やや形の整ったクロール・横泳・平泳ぎ・潜水の初歩・立とび込みの初歩・水中遊戯・500mから2キロぐらいまでの遠泳は期待できよう。技術の上達や競泳にかなり強い関心を示すようになるから,校内水泳大会や適当な距離の遠泳を計画し,危険のない範囲で役割を分担させる。 4.技術指導と指導上の注意
泳ぎの上達よりはまず安全に注意する。そのためには水泳心得が学習時だけでなく,日常生活の中でよく実践されるところまで具体的に指導する。水にはいる前と水から出た直後の人員点呼は,そのたびごとに励行する。技術指導はまず水に対する恐怖心を除くことからはいる。個人差がかなり大きいから,泳力に応じた組分けをし,さらに個別指導を加える。他の種目と同様,技能のすぐれた者よりも,劣った児童に対してより大きな努力をなすべきである。技術の上達の基礎は正しい泳ぎの動作(フォーム)を習得することであり,また個人やグループの能力に応じた身近な目標を与えて練習させるとよい。
(2) 技術指導の要点
泳法については,まず恐怖心を除くため浅い所で顔を水に入れ,水中で目をあけることに慣らす。(洗面器を利用するのもよい)
次に浮くこと沈むこと,短い距離の面かぶり(顔を水に入れたままのバタ足)犬かきなどを,石拾いやバタ足競争(ふたり組にしてひとりに手を引かせてもよい)などと結合して学習させる。
犬かきができるようになったところで,蛙足の泳法に進めるのであるがこの場合物や人にささえられたり,また砂浜や浅い所などで,呼吸や腕や脚の動作などを個々に取り出して練習させるとよい。技術の上達には,それぞれの泳法の正しいフォームに導くことがたいせつである。
第1図 初歩の練習
第2図 クロール(速泳ぎ)
第3図 横 泳 ぎ
第4図 蛙足と平泳ぎ
第5図 とび込み
潜水の腕の動作は,水を下から上に押し上げる動作を加えて,からだが浮かないようにする。また水の濁って水底がはっきり見えない場合には,じょうずなものが潜行者の近くの水面をついて泳ぎ,万一に備えることがたいせつである。
遠泳を実施する際には,参加者の泳力や健康状態によく注意し,潮流や水温を調べて,泳力に合った距離を定める。舟や救急用具,薬品や毛布などを用意する。隊形が乱れないように注意し,日射病を防ぐために時々頭を水で冷やさせ,時々点呼をとるなどして,たえず人数に注意する。
1.この指導要領におけるスキー・スケートの取扱について
スキー・スケートは,わが国の積雪地方では,こどもたちの生活の中に広く取り入れられている。したがって,冬季積雪地方における学校では,この活動を重視して,子供たちの発達が目ざされる。
スキーやスケートは,幼児にとっては,積雪や結氷などの自然環境条件で遊ぶことから始められるが,身心の発達が進むにつれて簡単なスキーやげたスケートを利用して,技術の向上を目ざそうとする。そこで,学校体育としては,低学年では,自然に親しむ遊びを,中学年になって,スキーやげたスケートやそりを利用する斜面の滑降や氷すべりなどを中心として学習を進め,しだいに系統的発達を目ざすのがよいと考えられる。
スキー・スケートは,多くの学校の体育学習で取り上げることができないので,この指導要領では,水泳と同じように,「条件の許すかぎり」という制約をつけて学習内容に掲げたが,その実施が可能な状態にある学校では,それらのすぐれた価値を認め,実情にふさわしい内容を学習計画の中に取り上げて指導することが望ましい。
2.スキー・スケートの特性
スキー・スケートの特性を,目標との関係で考えると,次のようになろう。
B,筋神経の調整力を発達させ,機敏・器用・正確に動作できる身体をつくる。
C,協力・積極性・勇気・自制・忍耐・同情・公共物をたいせつにするなどの態度を高める。
B,自然に対する親しみをもち,自然と生活との関係についての理解を深める。
B,危険防止に対する態度を養い,安全についての能力を高める。
スキー・スケートの特性から指導内容(運動の内容や心得など)を一般的に考えてみると,次のようになろう。
(A)スキー遊び
雪遊びとしての遊戯(鬼遊び,雪合戦,的あて,だるまつくり,汽車ぽっぽなど)は,それ自体の目的のみならず,スキー遊びへの導入方法としても考えられるので,スキー遊びの内容として取り上げてもよいであろう。スキーをつけての遊びとしては,跡追い,遠足ごっこ,旗回り競争などの平地のものと,のぼりっこ,すべりっこなどのゆるい斜面を利用するものとがある。これは,いずれも低学年で,主として自然に親しむことを目ざして行われる。
(B)基礎的技術
技術は,滑走,滑降,回転,飛躍,登山などに区別して考えることが便利であるが,これらのうち飛躍・登山などについて習得させることは,適当ではないと考えられる。いずれにせよ,小学校では,簡単な山巡りに参加できる程度の技能の向上というねらいで考えるのがよい。
(C)スキー心得
スキーによって,期待される効果をあげ,楽しく運動をするために,また安全にやれるために,小学校ではおおよそ,次のようなスキー心得が理解され,守られる必要がある。
b,ろうの塗り方を,じゅうずにする。
c,かぜをひいているときや睡眠不足のときなどは,すべらない。
d,凍傷,雪目の予防と手当,汗が出たときのしまつのしかたを知り,実行する。
e,ひとりでは,人のいないところへ行ってすべらない。
f, 友だちといっしよに出かけたら,みんなそろって帰る。
g,わるふざけをしない。
h,けがをしたときは,すぐに助けを求める。
i,自分がうまくすべれてふ他人をばかにしないで,いつでも気持をひきしめてすべる。
(A)スケート遊び
スケート遊びには,すべりっこ,跡追い,旗回り競争・片足すべり・各種リレー競争などがある。これらは,スキーの場合と性格が異なり,一般に中学年から取り上げられてよいものである。低学年では,主として自然に親しむことを目ざし,平均がとれて,知らす知らずのうちにすべる基礎ができるように指導するのがよい。なお中学年からは,次の基礎的技術との連けいを目ざすことが必要である。
(B)基礎的技術
スケートは,技術の点から,滑走(スピード・スケーティング),フィギュア・スケーディング,アイス・ホッケーなどに区別されるが,そのうち,アイス・ホッケーは,球技系統の運動としてもあげることができる。
これらのうち,一般的にいって,小学校では,スクールフィギュアやアイス・ホッケーについて学ぶことは困難であろう。したがって,フリー・スケーティングを,おもに,安全で早くすべる技能の向上を目ざして指導するのがよい。
(C)スケート心得
スケートは,原則として平地で行う運動であるが,危険を伴うおそれがあるので,やはりじゅうぶん指導する必要がある。小学校で,スケートについての心得として取り上げて指導しなければならないことは,氷上の清潔,氷の厚さの見方,結氷と気温の関係についての判断など,主として安全に関する心得である。その他は,だいたいスキー心得に準ずる。
指導内容は,自然環境に左右されるので,一様に学年配当を決めることは困難であるが,一般的には,おおよそ次のような順序で考えるのがよい。その場合,スキーやスケートの心得については,運動の内容にふさわしい順序で,徹底させるようにすることが必要である。
(A)低学年では,各種の雪遊びから始め,簡単軽便なスキーをつけての歩行緩斜面での滑降など,初歩のもので,斜面に慣れることを重点とする。
(B)中学年では,かなり斜面に慣れ,動きもまとまってくるので,登行・滑走・諸種の滑降および基礎回転などの初歩へと進め,さらにスキー遠足などによる総合を考えるように指導する。
(C)高学年になると,一応系統的な段階を踏みながら,登行・滑降・回転の一般および6〜8キロメートルぐらいの山巡りができる程度まで指導する。なお,その技術の程度に応じて,校内大会を計画する。
B,スケート
(A)低学年では,雪上や氷上での遊びを主体とし,氷上での平均がとれて運動できることを重点とする。
(B)中学年では,スケートをつけて氷上を歩くことから始め,しだいに滑走に進める。一応初歩的な滑走ができるようになったら,滑走による跡追いなどの遊戯を中心として進め,さらに技術が進んだならば,一定距離の継続走(300mぐらい)や一定時間内の継続走などを指導する。
(C)高学年では,距離競争(100mを30秒以内)とそのリレーおよび時間走などの滑走中心とし,カーブの曲がり方やストップなどの技術についても指導する。さらに後進する,円を描く(片足・両足)手をつないでいっしよに滑り方をそろえるなど,フィギア的なものを指導する。なお,特に技術がよく発達した場合は,アイス・ホッケー的なものをくふうするように進めてもよい。
スキーもスケートも,まず安全に注意することがたいせつで,そのためにはスキーやスケートの心得が日常生活で実行されるように指導する必要がある。
雪遊びは,それがスキーに,あるいはスケートに分化して発展するのであるから,低学年では,無理に分けず,綜合的取扱で,もっぱら安定した滑走や滑降ができることを重点として指導することがよい。そのためにまず基本動作としてのころび方・おき方・用具の着脱・携行などについての指導や,スキーの場合,しだいに傾斜を深くするなどの考慮が必要である。
なお,能力別組分けをし,さらに個別指導を加え,またこどもたちが目標をめざして練習するように指導する。
(2) 技術指導の要点
滑降,回転を間わず,スキーの技術では,バランスとスピードに対する自信が基盤である。そして,それらは,段階的な基礎練習と,全習的な練習法の功みな組合わせによって,身につけられる。したがって,いずれにもかたよらない指導がたいせつであるとともに,練習場の設定にじゅうぶんな考慮を払うことが必要である。なお技術指導上の重要な観点は,重心の安定したスムーズな移動である。
滑降では,足首・ひざ・腰が弾力的にやわらかく保たれること,重心がわずかに前に落されること,両ストックが斜め前下にやわらかに保持されることが指導の重点である。なお全制動滑降では,直滑降つ姿勢をそのままでスキーの後を開き,意識的にひざの弾力性を増すこと,ひざを内側に曲げることによって,スピードのコントロールができるかどうかを見ながら指導する。半制動滑降は,全制動滑降が両足制動であるのに対し,片足制動といえるものであるが,いずれの足に荷重しても制動できる技術を指導することがたいせつである。
滑降が一応できるようになると,回転へと進めるのであるが,たいせつなことは,回転理論からはいるのではなくて,まずよいフォームを見せ,視覚に訴えて感得させることである。基礎回転・ボーゲン・クリスチャニアをそれぞれの滑降に結びつけて練習させ,スウィング(ひざを前内方に圧してねじる)や荷重の変化について体得するよう指導するのがよい。
山巡りや,校内大会は,それまでの練習で一応の技術が,一般的に身につけられた運動の範囲内で行われるが,その実施にあたっては,気象やワックスの簡単な塗り方,スキー衛生などの心得の理解を確かめるとともに,それらが実践されるように指導する。
B,スケート
スケートの技術では,重心のなめらかな移動が最もたいせつである。そして,それほ,段階的な基礎練習と能力に応ずる遊戯的取扱による練習の綜合によって自然に身につけられる。すなわち,分習的な練習に全習的な練習を加味することによつて,技術的に高められる。
まず,氷上の歩行では,上半身を少し前に傾けるようにして,ひざの屈伸をゆるやかに,重心を低くするとともに,両手を軽く握る程度で,ひざを曲げ,足もとよりやや前方を見る姿勢を身につけさせるように指導する。
氷上の歩行が一応できるようになると,初歩の滑走に進める。滑るためには,片足で氷を外後方に押すようにけり,片足に体重を移すが,その際,順序よく交互に,片足に移らないと不安定になって,ころぶ。したがって,けってから滑り足に重心がよく移せるかを観察して,指導するのがよい。
スピードをつけての滑走では,上体を前方に曲げ,両ひざをくの字に曲げ,ひざはバネのように弾力をつける屈身姿勢をする。その際,一方の足で氷をけると同時に上体を進行方向に投げ出し,他方の滑り足に体重を乗せていくことがたいせつである。上体が投げ出されすぎると,スケートのつまさきに重みがかかり,かえって,進行がにぶくなる。また投げ出しが遅れると,逆にぐらついてころぶ原因となる。そこで,滑り足をけり足にかえるときに,スケートの刃を平らにもってきておろし,重心をそれに移行することと,足首だけでなく下肢全体でけることを指導する。
スピードをつけての滑走に関連して,カーブのまがりかたやストップしかたを学習させるが,特に前者については,肩を内側に入れてエッジをよく使うことを,後者については,上半身が直角になるように腰を入れて止まることを指導する。
なお,足首をじょうぶにするための補助運動の練習をすることや,スケートが足にぴったりついていることは,技術上達の条件であるから,重視すべきであろう。
(1) ス キ ー
B図 登 行 法
C図 直滑降の基本姿勢
D図 不整地滑降
E図 全制動滑降
F図 半制動滑降
G図 回転(基礎回転)−左回り−
H図 回転(クリスチャニア)−左回り−
I図 回転(ボーゲン)−左回り−
B スピード滑走−フォーム−
C 直線路の滑走−足の変化−
D コーナーの滑走−足の変化−
E ストップ
F 後進
Ⅱ 施設・用具の標準
施設の大きさ・種類・数量,用具の種類・数量などは,各学校に応じて詳細な標準を設けることは,なかなか困難である。小学校体育の立場から,一般的に必要と考えられるものの具体的な表を,次に一応の標準例として掲げることにする。
施設用具名 規格の参考 数量(学級数) 備考
1 7 13 25 | | | 以 6 12 24 上 |
運 動 場 120m×70m 100mの直線コースをとる |
コンクリート広場 500㎡ |
体 育 館 500㎡ 高さ7m |
プ ー ル 25m×10m 深さ80cm〜110cm |
足 洗 場 2m×3m 1 2 3 4 |
水 飲 場 1 2 3 4 |
用 具 室 4m×8m |
す べ り 台 高さ2.0〜2.5m スロープ3.4〜4.2m 1 1 1 2 |
遊 動 木 地上45cm以上 長さ4〜5m 1 1 1 2 |
ぶ ら ん こ 支柱の高さ2.5〜2.8m 4 4 6 6 ○ |
上幅と下幅の差O.1m |
シーソー(懸垂) 高さ1.3〜1.5m 長さ2.1〜2.3m 4 4 6 6 ○ |
登 り 棒 高さ3m 10 10 20 20 ○ |
ジャングルジム 底辺2.5〜3m 高さ2.5〜3m 1 1 1 1 △ |
回 旋 塔 支柱3m にぎりの高さ0.9〜1m 1 1 2 2 |
雲 梯 高さ1.5〜2m 長さ5〜6m 1 1 2 2 |
固定円木(平均台)高さ0.3m 長さ4〜5m 2 2 3 3 ○△ |
低 鉄 棒 太さ25〜28mm 幅1.8高さ0.8〜1.2m 5 5 10 15 ○ |
高 鉄 棒 太さ25〜28mm 幅1.8m高さ1.3〜2m 1 1 2 2 ○ |
砂 場 5m×6m×0.3m 1 1 2 2 ○ |
と び 箱 長さ 高さ 幅 2 2 4 6 |
小0.8m 1.0m 0.35m |
大1.0m 1.2m 0.4m |
踏 切 板 長さ0.9m 幅0.6m 高さ0.1m 2 2 4 6 |
マ ッ ト 幅1〜1.1m 長さ2〜2.2m 2 2 4 6 ○ |
ドッジボール 1学級1〜2個 |
バレーボール 5 5 10 10 |
ソフトボール 10 10 15 15 |
ゴムボール 数量はダース 2 2 3 4 |
フットボール 2 3 4 6 |
軟式野球ボール 数量はダース 1 1 2 2 |
卓球ボール 数量はダース 1 2 3 3 |
紅 白 球 多 数 |
バレーボール用支柱 高さ2.3m(調節式) 1 1 2 3 ○ |
バスケットゴール 高さ2〜2.75m 1 1 2 2 ○ |
ソフト用バット 2 3 6 6 |
ソフト用べース 2 3 3 3 ○ |
ポートボール用台 上50×50cm 高さ5020cm 1 2 2 4 ○ |
卓 球 台 長さ2.5m 幅1.3m 高さ66cm 1 2 2 4 |
卓球用ラケット 4 8 8 16 |
高とび用スタンド 高さ2m 1 1 1 1 ○ |
バ ト ン 1号,2号,3号 8 8 12 12 ○ |
綱 引 用 綱 長さ30m〜40m 1 1 1 1 |
旗 大小色各種 若 干 ○ |
旗 立 台 若 干 ○ |
なわとび用なわ 短なわ2.3〜3m 50 50 50 50 ○ |
長なわ4.5〜6m 5 5 10 10 |
ピ ア ノ 1 1 1 1 体育用 |
オ ル ガ ン 1 1 2 2 体育用 |
蓄音機(電蓄を含む) 1 1 1 2 ○ |
レ コ ー ド 若 干 |
タ ン バ リ ン 1 2 3 5 |
録 音 機 1 1 1 2 |
空 気 入 れ 1 2 2 3 |
ひ も と お し 1 2 2 3 |
ラ イ ン 引 き 1 2 2 3 |
出発用ピストル 1 1 2 2 |
笛 若 干 |
採点用小黒板 2 3 4 5 |
シ ヤ べ ル 2 2 4 4 |
く わ 2 2 4 4 |
砂 な ら し 1 1 2 2 ○ |
ストップウオッチ 1 1 2 4 |
巻 尺 1 1 2 4 |
肺 活 量 計 1 1 1 1 △ |
背 筋 力 計 1 1 1 1 △ |
握 力 計 1 1 1 1 △ |
体 温 計 2 3 5 6 |
身 長 計 1 1 1 2 |
座 高 計 1 1 1 2 |
体 重 計 1 1 1 2 |
胸囲測定巻尺 1 1 2 2 |
視 力 表 1 1 2 3 |
色 神 表 1 1 2 2 |
救急用具一式 1 3 6 6 |
備考 1.規格の参考は,児童の発達に即した,おおよその基準を示したものである。
2.数量は学級数に応じて示した。
3.○印は自作可能なもの,△印はできれば備えることが望ましいものである。
施設用具の配置図(例)
1.のぼり棒 2.バックネット 3.低鉄棒 4.ゴール 5.シーソー 6.ぶらんこ 7.すべり台 8.遊動木 9.運梯 10.回施塔 11.ジャングルジム 12.砂場 13.バレーボールコート 14.バスケットボールコート 15.200mトラック 16.野球場 17.サッカー,ハンドボール場 18.すもう場 19.べンチ 20.足洗場 21.コンクリート広場 イ.体育館兼講堂 ロ.ステージ ハ.控室兼更衣室 ニ.シャワー室 ホ.便所 ヘ.用具室 ト.体育教官室 A.プール B.便所 C.シャワー室 D.更衣室
Ⅲ 学校体育に関係のある法規
民主的な社会を実現するためには,各種の定められた法規を尊重することは欠くことのできない要件である。
学校体育を正しく振興するためには,学校体育に特に関係深い法規を研究しその定められたゆえんをじゅうぶんに考えて,これを活用することがたいせつである。
次に学校体育に関係の深い法規を掲げることにする。
1,教育基本法(昭和22年3月31日法律第25号)
第20条(教科)小学校の教科に関する事項は,第17条及び第18条の規定に従い監督庁が,これを定める。
学校教育法施行規則(昭和22年5月23日文部省令第21号)
第24条,小学校の教科は国語・社会・算数,理科,音楽,図画工作,体育及び自由研究を基準とする。
(注)自由研究は教科以外の活動に改められた(学習指導要領一般編昭和26年改訂版) 第25条,小学校の教科課程,教科内容及びその取扱いについては,学習指導要領の基準による。
教科についての時間配当の例
学年
教科 |
1・2 | 3・4 | 5・6 |
|
|
|
|
備考
(b)教科と教科以外の活動を指導するに必要な一年間の総時間は,基準として次のように定められる。
第1学年および第2学年 870時間
第3学年および第4学年 970時間
第5学年および第6学年 1,050時間
学校教育法施行規則
第26条 児童が身体の状況によって履修することのできない教科は,これを課さないことができる。
4,体育施設
学校教育法施行規則
第1条 学校には,別に定める設置規準に従い,その学校の目的を実施するために必要な校地,校舎,校具,体操場,図書館又は図書室その他の設備を設けなければならない。
日本建築規格木造小学校建物(昭和24年4月10日文部省商工省告示第1号)
第1表
学校の規模別 | 児童1人当り面積(単位㎡) |
12学級以下 |
|
12学級以上 |
|
同解説(技粋)
3,屋外運動場面積は校地に含まれるものとし,この規格から除いているが,1校について70m×120mを下らないような運動場を持つことが望ましい。
2,片側廊下の幅員はロッカーの施設を設ける場合と,寒地および多雪地方において規模の小さい学校で屋内運動場を設けない場合は増加することとした。
5,身体検査および衛生養護施設
学校教育法
第12条(身体検査・衛生養護施設)学校においては,学生・生徒・児童及び幼児並びに職員の健康増進を図るため,身体検査を行い,及び適当な衛生養護の施設を設けなければならない。
第1条 学校教育法(昭和22年法律第26号)第12条の規定による身体検査はこの省令の定めるところによる。
第2条 この省令で学徒身体検査というのは,学生・生徒,児童及び幼児に対して行う身体検査をいい,職員身体検査というのは,学校の職員(学校に勤務する常勤者,非常勤者を含む)に対して行う身体検査をいう。
第3条 この省令で定期身体検査というのは,第9条(第14条で準用する場合を含む)の規定による身体検査をいい,臨時身体検査というのは他の身体検査をいう。
第8条 学徒身体検については身長,体重,胸囲,坐高,栄養,せき柱,胸,郭,眼,耳,鼻及びいん頭,皮ふ,歯牙,「ツベルクリン」皮内反応その他疾病及び異常について検査を行わなければならない。
第19条 臨時身体検査は,左の場合は,学生,生徒,児童及び幼児並びに職員に対して行うことがきる。
2,長期にわたって授業を行わない場合の直前,直後。
3,結核,寄生虫,その他の疾患について精密検査を行う必要のあるとき。
4,就学,入学は卒業のとき。
5,その他校長が必要と認めたとき。
6,異常者の取扱い。
第75条(特殊学級)小学校,中学校,高等学校には左の各号の一に該当する児童及び生徒のために,特殊学級を置くことができる。
2,精神薄弱者
3,ろう者及び難聴者
4,盲者及び弱視者
5,言語不自由者
6,その他の不具者
7,身体虚弱者
② 前項に掲げる学校は,疾病により療養中の児童及び生徒に対して,特殊学級を設け,又は教員を派遣して,教育を行うことができる。
体育科編
MEJ 2123
昭和28年11月20日 印刷
昭和28年11月30日 発行
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