第Ⅳ章 指導と管理
Ⅰ 施設・用具の充実とその活用
1 施設や用具はなぜ必要か
望ましい発達のために各種の健全な身体活動が必要であるが,こどもたちがどのような身体活動を営むかは,環境的条件によって左右せられる。この環境的条件には,学校の施設・用具のほかに,教師の指導,地域社会の施設や遊びの場所,おとなの態度などが考えられる。これらの条件のちがいによって活動の種類や行動のしかたはちがったものになり,したがって異なった学習がなされるわけである。
施設・用具の有無は直接活動の種類を決定するのであるが,たとえあっても貧弱であれば活動の機会を制約し,望ましい学習効果をあげることは困難になる。これは教科時についてだけでなく,教科以外の活動のすべてを通じていえることで,望ましい学習,したがって望ましい児童の発達のためには,できるだけ施設や用具を充実することがきわめてたいせつである。
2 体育施設や用具の現状とその整備について
体育の施設や用具の種類や量は体育がどのように考えられているか,したがって教育の内容としてどのような身体活動が望ましいと考えられているかによって,左右せられる。わが国の学校体育は長く体操中心に考えられてきたので施設や用具もそのような考えに基いてつくられていた。今日の学校体育は,この指導要領が示すように非常に変ったものになったけれども,施設や用具の改善がこれに伴わないので,新しい考え方によって指導計画を立てたり,具体的指導を行ったりすることが,困難な実情にある。
もっとも施設や用具の改善には広い場所や経費を要するので早急には望み得ないことであるが,こどもたちの活動における環境的条件の重要性を軽視するような考え方を捨てて,新しい考え方によって施設・用具の価値を見直し,そこから充実への努力を始めてほしいものである。学校の体育施設や用具は地域社会の公共施設であるとともに学校社会の公共施設でもある。このような考え方によってその充実や活用を考えるべきで,この指導要領が学習内容において施設や用具をめぐる学習を重要な項目として取り上げた理由もここにある。施設や用具はすべての児童の望ましい学習・たのしい活動のために設けられたものであって,学校の指導はまずすべての児童に活用の機会を与えるようにくふうすべきである。施設や用具は単に教科時の活動のために設けられたものではなく,教科以外の組織的ならびに自由な活動を強く考えるべきである。 特にこどもたちの安全な活動の場所がせばめられつつある今日においては,学校の施設や用具を教科時間外の安全で健康的な活動のために活用することの必要がますます増大しつつある。またこのことと関連して,こどもたちのみならず,地域社会のすべての人々の必要を考えて施設を設け,その活用に便宜を図ることもますます必要になってきた。どのような施設や用具を整えたらよいかは,教科時や教科以外の活動および地域社会の運動場としての必要によって決められるが,中心となるものは児童の活動である。まず教育的に望ましい活動を発達段階や児童数および地域社会の特殊事情と関連して考え,これらの活動が可能なための運動場の広さや施設の種類や数量・体育館やプール・用具の種類や数量が算出される。
主として経済的な事情のために,充実は除々にかつ計画的になされることになろう。このためにはそれぞれの学校に適した年次計画を立て,この計画を実現するために地域社会の理解や協力を求めることが考えられる。そして地域社会の理解と協力をうるためには,適当な資料によることがきわめてたいせつである。
3 設置についてどのような注意が必要か
施設をつくるにあたっては,その効果を高め,よく活用されるために次のような注意が必要である。
b 運動場は排水がよくて,適当なしめりをもっているのがよい。
c 運動場の周囲には樹木を植え,適当な場所にはベンチ・花壇を設け,風致衛生等に注意する。
d 運動場の適当な場所をしばふにするのが望ましい。
e 運動場の一部に適当な広さのコンクリート広場を設け,雨上がりや,霜どけ時の体育学習に支障のないようにするのが望ましい。
(2) 固定施設と用具
b 施設・用具は堅ろうであって,耐久力に富んでいるものがよい。
c 施設・用具は児童の発達に即し,操作が容易で,使いやすく安全なものでなければならない。
(3) 体育館・プール
a 体育館は専用または講堂と兼用で,雨や雪の多いわが国ではぜひ備えるべきである。
b 床は堅ろうで危険性がなく,換気・採光に注意する(照明は120ルックス以上)
c 内壁は平で,柱の突出部なく,ガラスの破損等による危害のないように注意する。
B プ ー ル
d プールは専用または,防火用水池とかねて作ることが望ましい。
e 日当りのよい場所を選び,排水設備を完全にする。
f 時々水質検査を行い,消毒を完全にする。
g 体育館,プールに更衣室・シャワー室・水飲場・便所等の付属施設を考慮する。
(4) そ の 他
a 日当りのよい校舎の入口附近に分散して設ける。
b 構造をくふうし,水の節約,排水とを考慮する。
c 足洗い場から校舎にはいる所には足ふきのマットを備える。
B 水 飲 場
a 室外および室内の適当な場所に分散して設けなければならない。
b 定期的に水質検査を行い,衛生に注意する。
C 手 洗 場
専用または足洗場・水飲場と兼用で設けるのがよい。
D 用 具 室
運動場に面し,体育館にも近い所に設ける。
E 資 料 室
他の教科と兼用で,視聴覚教材を整理しておく。
4 施設や用具を活用するにはどうしたらよいか
よく活用できるように設備することはもとよりたいせつであるが,施設や用具をできるだけ活用することはきわめて必要である。すべての児童がよく使用できるために,また安全に用いられるために,そして適当に補充し,不必要な破損や紛失を防ぐためにどのような注意が必要であろうか,このようなことのためには教師の努力が必要であり,教育的指導によって児童を適当な形で管理に参加させることが学習効果を高めることになる。このためには次にあげるようなことが必要である。
(1) 施設・用具の使用についての安全規則をつくる。
(2) 学年や男女を問わず公平に使用できるように計画的に場所や時間を割り当る。
(3) 用具室を整備し,用具の置場を常にきめておく。
(4) 備品簿を設け,貸出しを明らかにする。
(5) 施設・用具を正しく使い,破損の防止に努める。
(6) 施設・用具の破損個所を発見し,その修理に努める。
(7) 常に運動場内のガラスの破片・鉄くぎ・石ころ等取り除くように努める