高等学校学習指導要領 芸能科書道編(試案)
文 部 省
高等学校学習指導要領 芸能科書道編
目 次
ま え が き
二 芸能科書道の教育課程の新しい方向
高等学校学習指導要領 芸能科書道編
各学校は、その地域社会の要求を考え、生徒の生活を顧みて、それぞれの教育課程を作らなければならない。その場合、芸能科書道は、各学校の教育計画全体の中に正しい位置を占め、同時に自分の計画をもたなければならない。本書は、各学校がそれぞれの教育課程を作る場合に、芸能科書道として考えなければならない問題を取り上げて、一つの基準を示そうとしたものである。したがって、教育課程の重要問題である。
(2) 芸能科書道学習指導の計画
(3) 芸能科書道学習指導の方法
(4) 芸能科書道学習指導の資料
(5) 芸能料書道学習指導の評価
2 本書は、芸能科書道の教師が実践する学習指導の手びきとなるものである。
芸能科書道の学習指導は、その地域社会の要求と、生徒の必要・興味・能力に即した教育課程を背景にして、豊富な内容を動的に運営しなければならない。土地の事情と生徒の生活に即すれば即するほど、どんな教科用図書も一つの資料としての意味しかもたないことになる。本書は、教師が、学習指導を計画する際の基準を示すとともに、日々の実践の手びきとなることを目ざしている。
3 本書は、芸能科書道の教科用図書を作る場合の基準を示したものである。
教科用図書は、学習指導の中心的な資料であるから、学校は、自分の教育課程に最も適合したものを選ばなければならない。芸能科書道にあっては、教科用図書が特に重要な意味をもつから、その編書者は、学校の教育課程の中でじゅうぶん働きうるようなものを作ることが要求される。したがって、本書に示された教育課程作製の基準を、教科用図書編集の基準にして、さらに編書者の識見によるさまざまのくふうを加えるべきである。
4 本書は、一つの基準を示したものであるから、学校や編書者や教師が、本書に掲げたことを、そのまま用いることを望んでいない。
本書に掲げたことは、教育課程作製、学習指導の計画実践、教科用図書編集にあたって、その一つの基準を示したものにすぎない。たとえば、本書の「単元の例」は、本書中最も実際的なものであるが、これを参考にして、具体的な自分の単元を作ることを望んでいる。その他のことも、これを基本的な方向として、この線に従って、考えてほしいという意味のものである。
教育課程は、生徒の価値ある経験を組織したものと考えられるようになっている。したがって、学校の仕事の全体の計画として、教師と生徒とが行うすべてをその内容としている。これまでの書道教育は、ややもすれば手本や法帖(じょう)を臨書することだけをおもな仕事とするきらいがあった。機械的な練習の結果、身につけた文字書写の技術によって、文字の生活、書道の生活の上に役たてようとしていた。これに対して、新しい教育課程の方向は、われわれの営む文字の生活、書道の生活を広く見わたして、その必要に応ずるいろいろな能力・態度を身につけようとしている。小学校の国語科書き方および習宇が硬筆に毛筆を加味し、中学校の国語科習字が毛筆に硬筆を加味しているのも、その一つの現れである。高等学校の芸能科書道は、毛筆が主になるけれども、なお硬筆を加味しているのは、この新しい方向に沿おうとしているからである。すなわち、小学校・中学校・高等学校を通じて、「正しく」「速く」「美しく」のどれに重点をおくかの違いがあるにしても、社会における書く生活を基盤としていることは同じである。
新しい書道学習指導は、広く生徒の文字の生活、書道の生活を見わたし、そのあらゆる生活の場を、書道学習指導の目標に行きつくために利用し、価値ある文字の経験、書道の経験を身につけさせようとしているから、書道の教育課程は、学校内、教室内にばかりとじこめられた固定的、静的なものでなく、動的で融通性に富んだものであろうとしている。
(2) 芸能科書道の教育謀程は、豊かな文字の経験、書道の経験を与えることによって、書道に対する理解・技術・鑑賞、態度のどれにも偏しない、一体としての能力を身につけ、人間成長や、実際の社会生活に役だつものであろうとしている。
従来の教育においては、教師が、その知識や技術をそのまま生徒におしつけようとしてきたきらいがあった。しかし、生徒は皆が皆その専門家になるわけではない。書道学習指導が専門的な技術教育にとどまるならば、特殊の場合に、ある程度の書道の表現ができるようになっても、その技術が実際生活の中に生きて働かず、したがって、人間成長にも役だつことが少ないであろう。
書道の学習指導において重要なことは、書道に対する正しい理解・鑑賞の力が身につき、書道の技術が伴い、書道をとおして望ましい習慣・態度が確立することである。そのためには、生徒の興味を中心として、価値ある文字の経験、書道の経験を積み重ねて行くものでなければならない。
(3) 芸能科書道の教育課程は、学校の活動が機能的に総合的に展開されるようになっている。
従来の書道教育では、ややもすれば、示範・練習・批正・清書といった手順を形式的に一律にくり返したり、鑑賞と創作が個々別々に行われたりして、固定的、形式的で、その間に有機的な連関を保つことが少なかった。これからの書道学習指導は、それらを一つのまとまりの中にとけこませ、一つづきの価値ある活動として展開させようとしている。どこまでも、実際的、生活的で、それぞれの作業が、それぞれの意味をもって、全体の中に働くように組織だてられようとしている。技術の練習が単なる技術の練習に終ることなく、文字や書道に関する望ましい習慣の確立のために意味をもつというように、理解・技術・鑑賞・態度にわたって、総合的、機能的に、効果的な教育課程を編成しようとしている。
(4) 書道の教育課程は、生徒の個人差に応ずる用意をもたなければならない。
文字を書写する能力は、生徒ひとりひとりで皆違っている。書道に対する理解・技術・鑑賞・態度が、ことごとく違い、その興味においてもさまざまである、これからの書道の教育課程は、個々の生徒の必要・興味・能力を診断して、個人個人に適した目標をたて、個人個人に適した学習活動を展開させるよう、個人差に応ずる用意をもたなければならない。
(5) 書道の教育課程は、生徒の創造力を強めるものでなければならない。
これからの書道学習指導は、一定の型を生徒に強制したり、また手本の模倣だけに終わらせたりするようなことがあってはならない。生徒の必要と興味の上に立って、自発的な学習活動を導き出し、創造的な自己表現を可能ならしめるものでなければならない。かくて、書道の教育課程は、多角的な経験を用意して、創造くふうを引き起すように計画されようとしている。
(6) 書道の教育課程は、評価の体系を備えていなければならない。
書道の教育課程は、従来の教科をもととした教育課程から、経験をもととする教育課程に移行している。教科としての書道を生徒の生活におしつけるのではなく、生徒の生活を整理し組織して、価値ある文字の経験、書道の経験を豊富に与えようとしている。このような総合的、有機的な経験をもととする教育課程においては、一貫した評価の体系のもとに、不断の評価が行われることが、特に重要になってくる。