第三章 芸能科書道の学習指導の具体例
ま え が き  生徒の経験・興味・能力や学校の施設、家庭ならびに郷土の実情・要求などを考慮して、学校独自の具体的目標が確立されると、その目標を達成するためには、いかなる学習内容が適当であるか、それが生徒に学習させ、消化されるためには、どのように系統だてて配列したらよいかが考えられなければならない。この学習内容が適切でないと、いかに努力しても所期の目的を達成することはできない。また、いかに普遍妥当な経験が用意され、適切な単元が設定されても、学習の方法が適当でないと、生徒の健全な成長と発達に資することはできないであろうし、書道の学習効果もあがらないであろう。学習指導の方法論が重要視されるわけもここにある。

 各人が芸能教育の一環としての書道の目標に到達できるように、それぞれくふうすべきであるが、要は教師の人間性と実力とが生徒の学習活動や態度の上に、どんなに強く影響するものであるかという事実を見のがしてはならない。まことに教師と生徒とが一つ心になって学習を進めることはいっさいの方法の要けつである。

 次に示す学習指導の具体例も、単元の例も一試案にすぎない。望ましい学習指導の精神を生かして、その目標を達成できるように、土地の実情に即応して、それぞれくふうすべきである。

 芸能科書道学習指導の具体例 

 目標へ到達するための学習経験のまとまりが単元である。どんな単元を選び、それをどう組織し、それぞれの単元をどう展開するかが、本章の問題である。

 単元を選定するにあたって、教師はまず、生徒の経験・興味・能力や精神的、身体的発段階や家庭状況などをじゅうぶん調査して、その実態がわかっているとともに、生徒が生活している地域社会にある資料・施設・研究機関や年中行事・習慣などについて、広く深い知識を用意しなければならない。

 第二章の二においては、生徒の書道に関する経験・興味・能力の実態を、三においては、書道学習指導の具体的目標をそれぞれあげ、四においては、その目標を生徒の発達段階に応じて具体化しておいたから、これを参考として、さらに、それぞれの学校の実情に即しためやすを立てることが望ましい。そうすれば、現在、生徒は何を必要としているか、何が最も欠陥であるか、それらを満たすためにはいかなるものが必要であるかなどが明らかになり、現実に即した、必要にしてかつ妥当ないくつかの学習経験が予想せられるであろう。これらを生徒の興味や社会的要求に照し合わせて、生徒の立場から取捨選択すると、目標へ到達するために最も効果のある学習経験のまとまりができるであろう。

 たとえば、生徒の日常生活において、手紙を書くことは、その機会が実に多い。その際、少しでも美しく、じょうずに書きたいという切なる願いがあろう。そのためには、手紙の形式を知っていることも、ペンや毛筆で気軽に、しかも美しく書けることも必要になってくる。

 このように、社会的要求からも、生徒の立場からも、必要欠くべからざるものであるから、当然「手紙を書く」という単元が考えられる。(設定の理由)そこで、生徒の経験・興味・能力や前後の単元の連絡などを考えて、何を目あてに、どの程度に学習したらよいかを定めなければならない。(目標)そうすると、実情に即した無理のない学習経験の範囲を規定することができる。(内容)生徒の生活環境には、学習に有効な資料がたくさんあるはである。(資料)それをできるだけ利用して、より効果的な学習を展開するのである。(学習活動)よりよい学習指導をするためには、あらゆる部面を常に注意深く観察し、反省して、改善しなくてはならない。 評価 このように単元を計画し展開するには、一般に(一)設定の理由 (二)目標 (三)内容 (四)資料 (五)学習活動 (六)評価を考えなければならない。

 「手紙を書く」(硬筆)「臨書作品を作る」「かなの書き方」「展示会」などの単元について、次に具体的に例示する。これらの例を参考にして、他の単元についてもくふうしてほしい。

(一) 手紙を書く(硬筆)

一 設定の理由 二 目 標 三 内 容 四 資 料 五 学習活動の例 六 評 価  

(二) 臨書作品を作る。

(三) かなを習う (四) 展 示 会  

二 芸能科書道の単元の例

 芸能科書道学習指導の具体的目標に従って、学習内容が用意されると、これがはたして生徒の学習に適切であるかどうかを吟味してみる必要がある。すなわち、生徒の経験や興味や能力に適合しているかどうか、学校・家庭・地域社会の要求にかなっているかどうかなどを調べた上、利用することのできる資料を参考にして、その学校の教育計画に適応させつつ、芸能科書道独自の単元を設定しなければならない。一度学習した単元をくり返すことも時によっては必要である。

 次に掲げる芸能科書道単元の例は、もちろん一試案に過ぎない。生徒や地域社会の実情に即して、学校独自の理想的なものを作ることが望ましい。しかし、はじめ理想的に思われたものでも、実施してみると、思わぬ不満や無理や支障が発見されることもある。それらは、評価の結果、より適切なものになるための再計画がなされなければならない。表中の単元は、必ずしも全部を履修しなければならないというものではない。生徒の必要と興味と能力とに応じて適宜選択されるべきものである。また、名跡の鑑賞のごときは、随時適宜に行うことが望ましい。

 

初  等  の  段    中  等  の 段  階 高  等 の 段  階
書道と社会生活

手紙を書く

行書を習う

かなを習う

実用書式の書き方

かい書を習う

臨書作品を作る

ポスターの書き方

隷書を習う

書きぞめ

履歴書の書き方

漢字とかなの起原を調べる

記念作品を作る

掲示の書き方

手紙を書く

行書を習う

かなを習う

鑑賞作品を作る

実用書式の書き方

かい書を習う

臨書作品を作る

展示会

日本書道史年表を作る

記念作品集を作る

標題の書き方

手紙を書く

行書を習う

草書を習う

かなを習う

実用書式の書き方

かい書を習う

鑑賞作品を作る

臨書作品を作る

装飾文字の書き方

隷書を習う

中国書道史年表を作る

記念書画帖を作る