学習指導要領
西洋史編
(試 案)
昭和二十二年度
文 部 省
目 次
はじめのことば
単元一 どのようにして人間が発生し,文明状態にまで達したか。
要旨 目標 教材の範囲 学習活動の例 参考書の例
単元二 古典文明はどのようにして発生したか。また,それはどのようなものであったか。
要旨 目標 教材の範囲 学習活動の例 参考書の例
単元三 西欧中世世界はどのようにして形成され,また,どのように展開していったか。
要旨 目標 教材の範囲 学習活動の例 参考書の例
単元四 どのようにしてヨーロッパの人間精神は解放され,ヨーロッパ世界は拡大されたか。
要旨 目標 教材の範囲 学習活動の例 参考書の例
単元五 近代民主主義はどのようにして発生し,また発展したか。それは国々においてどのように現れ方が違っていたか。また,それはどのような結果をもたらしたか。
要旨 目標 教材の範囲 学習活動の例 参考書の例
単元六 帝国主義とは何か。それはどんな原因によって形成され,世界史の上でどんな結果を生んだか。
要旨 目標 教材の範囲 学習活動の例 参考書の例
は じ め の こ と ば
歴史を学ぶ目的は,一口にいえば,今日の文明の由来を知り,現代文明を理解することにある。即ち,人類がいついかにしてこの地上に現われ,そのつくり上げた文明がどのように発展して今日に至ったかを,さまざまの土地において,かつ時の流れに従って認識することにある。それは結局われわれが今日いかに生くべきか,明日の世界はどうあるべきかということにつながって来る。それ故歴史を学ぶ関心は,あくまで現代から生ずるのであって,そこには歴史観・世界観の問題が重要な意義を持って来る。これまでわが国においては,偏狭な自国中心主義の観点から世界の歴史が眺められる傾きがあったが,今日このような態度は,排除されなければならない。
しかしこのことは,決してその時々の流行やイディオロギーによって勝手に歴史がつくりかえられるということを意味するものではない。歴史はあくまでも客観的に,公平に学ばれねばならない。そしてそのことによってはじめて正しい歴史観や世界観が育くまれるのである。歴史を学ぶために,世界観が必要だということは,広く現代社会の発展を理解するために,現代の問題に関心を持ちつつ歴史を学べということであって,決してなんらかの先入観を特って,歴史を眺めよというのではない。
人類の歴史は全体として一つの統一ある発展をなしているが,その発展は地域に応じて差異を生ずる。東洋史と西洋史とが世界史の二大区分をなすのはそのためである。東洋史はわれわれがその一部をなしている東洋の特殊性を知る上に重要であるが,しかも今日の世界の主流をなしているのは,西洋文明であるから,東洋の歴史を知るためにも,西洋史の知識が絶対に必要である。
今日のわれわれの生活からも知り得るように,人間の社会生活は非常に複雑であり,人間の心理は極めて微妙であるから,歴史の様相もまた極めて複雑多岐である。しかしその根底には,おのずから一個の必然的な傾向が存在するのであって,このことを見落とすならば歴史の学習は無意味な事実の暗記となってしまう。従来の歴史教育の陥りやすい弊害はここにあった。人類の歴史は根本的には野蛮から高度の文明への進歩であり,人間の絶えざる向上のための努力の結果であったことを認識することが必要である。しかしまた,他面においてこのような歴史の傾向を一般的・抽象的に解することは,決して歴史学の方法ではない。歴史の学習は,あくまでも具体的な史実とそれらの間の関係との究明を通してこのことを明らかにすることである。進歩とか向上とかいってもそれは決して平たんな一本道ではなくて,そこには多くの停滞や退化もあり得る。現在におけるわれわれの存在は,過去に起ったできごとによって,厳格に制約せられている。しかし明日の歴史は,単に過去によってのみ支配されるものではなく,われわれの意志と行動がこれを変更して行く。歴史は常にこのようにして与えられた過去に対する人間の新たな努力によって創造されて来たのである。そのさまざまの変化を見落としてはならない。歴史を抽象的な公式や理論に還元してしまうことは,最も警戒すべきことであって,それはまた生徒の歴史に対する興味を失わせ,ひいては誤まった考えを与えることになる。
従来の歴史においては,あまりに政治史に重きがおかれ,王朝の興亡や戦争が歴史の主要対象であるかの観があったが,今後は民衆の経済生活や社会制度の変遷にも,十分の注意がなされなければならない。ことに西洋史はこの方面の発展が顕著な姿をとっているので,この方面の勉強は現代の政治問題・社会問題,更に民主主義や社会主義その他いろいろの思想や,異なった政治形態の理解に資するところが多い。また学問・芸術といったようないわゆる精神文化は,人々の生活状態や,また人間精神の最も深奥の動きを伝えるものであるから,その学習には特に力を入れなければならない。
学習活動の例
学習活動の例はただ要領を示しただけであるから,教材によって適当に取捨選択を行い,あるいは新たな項目を加えることは自由である。
学習効果の判定
学習効果の判定については「学習指導要領一般編」を参照せられたい。なおこの西洋史は,社会科の選択科目の一つとして学習せられるものであるから,社会科の内容と西洋史との関係については,「社会科学習指導要領(二)」及び附録「高等学校における社会科の選択教科について」を参照せられたい。
一般参考書の例
教科書は歴史の概略を述べたものであるから,その理解をいっそう深めるためには種々他の参考書を見る必要がある。個々の時代・項目についての参考書は,無論このほかにもあるが,急いだ際とてこの指導書には一応定評のあるものを挙げてみた。生徒は,各自その中から,適当なものを選択することができる。ここで全般にわたるものを挙げるならば,まず古くは,
箕作元八 西洋史講話 開成館
瀬川秀雄 西洋通史 冨山房
は,定評のあるものであるが,共に政治史中心である。やや下って,
坂口 昂 概観世界史潮 岩波書店
大類 伸 西洋史新講 冨山房
は文化史的なものを取り入れ,かつ総合的な歴史の見方を試みている。更に専門的なものとして,
原 隨園 新義西洋史 日本図書株式会社
があり,近年に出た標準的な概説書としては,
長 壽吉 西洋史概観 同文書院
山中謙二 最新西洋史概説 至文堂
尾鍋輝彦 西洋史概説上 中文館
などがある。
叢書としては,
世界歴史大系(全25巻) 平凡社
世界文化史大系(全24巻) 新光社
世界歴史(全10巻) 河出書房
世界思潮(全12冊) 岩波書店
世界美術全集(本巻全36巻・別巻全18巻) 平凡社
世界美術図譜 東京堂
がいずれもすぐれたものである。更に,
ヴァン=ルーン 人類文化史物語 上・下(改造文庫) 改造社
神近市子訳
コフマン 世界人類史物語 上・下(岩波文庫) 岩波書店
鈴木厚訳
は共に世界的な名著で,人類文明の発展を大づかみに知るためには,必読の文献である。また唯物史観の立場から書かれた,
ポチャロフ・ヨアニシアニ 唯物史観世界史教程6巻 白揚社
早川二郎訳
なども参照の要がある。各国史には,つぎのようなものがある。
グリイン 大英国民史 上・中・下 国民図書株式会社
戸川秋骨訳 (泰西名著歴史叢書)
スペンダー 現代英国史 冨山房
中村祐吉訳
平田禿木 英国史 研究社
アンドレ=モロア 英国史 上・下 白水社
水野・浅野・和田訳
高市慶雄 仏蘭西史(列国史叢書) 三省堂
山中謙二 独逸史 〃 〃
大類伸・平塚博 伊太利史 〃 〃
ファランド アメリカ発展史(岩波新書)上・下 岩波書店
名原・高木訳
齋藤清太郎 露西亜史講話 明治書院
クリュチュフスキ ロシア史1.4. 目黒書店
外務省調査局訳
ポクロフスキー ロシア文化史概論 岩波書店
深見尚行訳
今井登志喜 米国史 研究社