要 旨
本単元は一般に帝国主義時代と呼ばれる時代を扱うが,帝国主義というのは,この時代の社会上の一般的な傾向であるから,正確な年代をもって前時代と区切ることはできない。この傾向は大体において1880年代より顕著となるので,本単元もほぼそのころから始まる。
帝国主義は一方においては,列強の海外発展・植民地争奪として,他方においてはそれら列強間の外交戦・国際的対立の激化として現われる。そこでまずアフリカ・アジアなどにおける列強の争いの大要を地域的に取り扱い,ついでヨーロッパにおける同盟・協商関係の発展を明らかにすることが必要である。
この間の歴史は,ビスマルク時代に極めて安全な地位を誇っていたドイツが,しだいに国際的孤立に陥る過程である。
このような帝国主義の必然的帰結として起ったのが,1914年より始まる第一次世界大戦である。この戦争は大体においてドイツの優勢であった前半期と,ドイツが不利となった後半期とに大別され,その中間にアメリカ合衆国の参戦とロシア革命という二大事件がはさまっている。このなかでロシア革命は,世界史の上に全く新しい問題を提起した事件として独立の章で扱わるべきであるが,ここでは便宜上世界大戦の中で取り扱われてもよい。
第一次大戦後の世界は,大戦を導いた原因に対してさまざまな反省が加えられそのために種々の試みがなされた時期である。この試みは戦後しばらくの間は成功したかに見えたが,やがて日本の中国進出が積極化し,ドイツにおいてナチスが政権を掌握するに及んで世界の形勢は一変した。しかしこれらの変化をひき起した最も大きな原因は,1929年以降の世界的な経済恐慌にあるので,ほぼこのころをもって大戦後の時代は二期に分かたれる。前期においては国際連盟の活動や,軍備縮小の漸次的な実施及び各国における民主政治の発展の傾向が顕著である。そのなかで,ソビエト連邦の発展とイタリアにおけるファシストの出現は,後期との連関上極めて重要な意味を持つ。後期はナチス=ドイツの活動を中心としてひき起される,めまぐるしい国際情勢の変化にいろどられ,結局1939年の第二次世界大戦に突入する。
この戦争の過程において独裁主義と民主主義とが顕著な対比を示し,それがやがて今後の世界の方向に対して重要な指針を与えている。
目 標
二.帝国主義の発展とその様相を,できるだけ具体的な史実に基づいて明らかにすること。
三.民主主義諸国と専制主義諸国との間に生じた相違を歴史的に明らかにすること。
四.社会主義運動の発展と変化,各国におけるその特殊性,政治運動と経済的改革の様相を明らかにすること。
五.第一次・第二次世界大戦が世界のあらゆる国民に及ぼした影響とその意義を理解すること。
六.この時代の各国の指導的政治家の個性を明らかにすること。
七.現代における科学技術の進歩と,それによる生活水準向上の可能性を認識すること。
1.資本主義社会の内的矛盾
2.自由競争より独占的段階への推移 3.植民地獲得の必然性
(三)ドイツの進出とモロッコ事件 (四)その他の諸国の勢力
(二)日清戦争と列国の中国進出 (三)日露戦争とその後の形勢
二.国際的対立は,どのようにして増大したか。
(二)オーストリア・セルビアの開戦 (三)世界大戦への発展
三.第一次世界大戦はどのように展開したか。
(二)ドイツの無制限潜水艦戦
(三)アメリ力合衆国の参戦
(三)仮政府の失政 (四)十一月革命
(五)レーニンとトロツキー (六)ロシアの対独講話
(三)同盟諸国の崩壊 (四)ドイツの革命と敗北
四.どのような講和条約が結ばれたか。その意義と条項はどのようなものであったか。また戦後どのような変革が起ったか。
(三)ヴェルサイユ条約 (四)その他の諸条約
(三)内外の諸問題 (四)新経済政策
(五)諸外国への宣伝とその影響
(六)レーニンの死とスターリンの指導権の確立
(三)経済の回復と共和国の安定 (四)国際的地位の回復
(二)ファシスト政権の確立
(二)トルコの革新 (三)その他の諸国
五.民主主義の思想は,どのように成長し国際協力は,どのように発展したか(1930年ころまでの形勢)。
(二)加盟国の移動 (三)連盟の活動状況 (四)国際労働局
(三)不戦条約 (四)ロンドン会議
(三)イギリス自治領の独立化 (四)フランス共和国の状態
(五)ドイツ共和国の復興 (六)アメリカ合衆国の地位
六.独裁主義はどのようにして起り,国際間の対立はどのようにして激化したか。
(三)日本・ドイツ・イタリア間の協定成立と,軍事同盟への発展
(二)ソビエト連邦の躍進
(三)イギリス・フランスの対策
七.第二次世界大戦は,どのようにして展開して行ったか。
(二)西部戦線の停滞とソビエト連邦の勢力伸長
(三)ドイツ軍のノルウェー占領
(四)オランダ・ベルギーの屈服
(五)フランスの敗北とイタリアの参戦
(六)イギリス国民の抗戦 (七)地中海周辺の戦い
(三)日本の東アジア掌握
(三)ドイツの降伏 (四)日本の敗北
八.今日の世界はどのような状態にあるか。
(四)フランス (五)ドイツ (六)その他の諸国
2.スエズ・パナマ両運河の開さく
3.国際的関係からみた日露戦争 例えば,
(二)戦事中のイギリス・アメリカの日本援助
(三)モロッコ事件(1905)との関係
(四)日露戦筆と三国協商との関係
(二)ロシア南下策の原因と歴史 (三)ドイツとトルコとの関係
(二)大戦防止のためのドイツ・イギリス両国政府の努力
(二)参戦前のアメリカ合衆国と連合国及びドイツとの関係
(三)共和国の成立に対しての役割 (四)共産党の分離
(五)なぜ社会民主党がナチスに席を譲ったか。
9.日本における社会主義運動の歴史
10.チェコスロバキア建国の歴史,マサリーク・べネシュの人物
11.ロシア革命の原因と経過
12.スターリンとトロツキーとの対立の原因,五箇年計画
13.ニューディール
14.第二次世界大賊後のキリスト教の新しい動向−キリスト教社会主義
2.ドイツが国際的孤立に陥ったのは,なぜか。
3.第一次世界大戦の責任問題
4.なぜドイツが敗れ連合軍が勝ったか。思想的・経済的原因について考えること。
5.第一次世界大戦の日本に及ぼした影響
6.ロシア革命はなぜ起ったか。
7.ヴェルサイユ条約の欠点と長所
8.世界経済恐慌の日本に及ぼした影響
9.ドイツにおけるナチスの成功の原因
10.ソビエトとナチス=ドイツの支配者と人民の比較
11.イスパニアの内乱と第二次世界大戦の思想上の関係
12.第二次世界大戦はなぜ起ったか。
13.第一次世界大戦と第二次世界大戦とはいかなる点で異なるか。
14.第二次世界大戦におけるドイツ敗北の原因
15.第一次世界大戦より第二次世界大戦に至るまでの,イギリス内閣の変遷と各政党の政策
2.アフリカの地図に,1914年における各国の領土を色分けにすること。
3.アジアの白地図につぎの地名を記入すること。
5.ウィルソンの十四箇条はヴェルサイユ条約で,どの程度実現されたかを調べて学級に報告すること。また十四箇条と大西洋憲章とを比較して報告書を作ること。
6.第一次大戦後1930年に至るまでの国際条約を調べ年表にしてみること。
7.第一次世界大戦後のアメリカ合衆国と,中華民国との関係を調べること。
8.ナチスによりドイツを追われた著名な学者・芸術家の名を挙げ,その業績を調べ,またそれによって,受けたドイツ国民の損失を考えて,簡単にまとめて学級に報告すること。
9.第一次世界大戦後催された国際会議を列挙し,日本の参加の有無を一目でわかるように表にしてみること。
10.国際連合の構成と,その成立以後の活動を,新聞や雑誌によって調べ,研究会を開いて互に意見を発表し合うこと。
11.19世紀末より今日までの世界の代表的作家10名と,その重要作品を挙げ,それらの作品について,批評し合ったり,討論したりすること。
一般的なもの
高木健太郎訳
グーチ 近代歐欧洲史 上・下 改造社
菊地守訳
煙山専太郎 英国現代史 敬文堂
石澤新二訳
レーニン 帝国主義(岩波文庫) 岩波書店
長谷部文雄訳
内山賢次訳
ロイド=ジョージ 世界大戦回顧録 〃
内山・片岡・村上訳
へルへリヒ 世界戦争 〃
安井源雄訳
鹿島守之助 世界大戦原因の研究 岩波書店
大熊 眞 アフリカ分割史(岩波新書) 〃
ジョンフィールド スエズ運河(岩波新書) 岩波書店
福岡誠一訳
ジークフリード アメリカ成年期に達す 那珂書店
神近市子訳
ジーグフリード 英国の危機 先進社
早坂二郎訳
ベネット ヒンデンブルクの悲劇 東晃社
木原尚雄訳
ジュール=ロマン ヨーロッパの七つの謎 六興商会出版部
清水俊二訳
アンドレ=モロア フランス敗れたり 大観堂
高野彌一郎訳
除村吉太郎訳 トルストイ日記抄(岩波文庫) 岩波書店
レマルク 西部戦線異状なし 中央公論社
秦豊吉訳
レマルク 其の後に来る者 朝日新聞社
黒田禮二訳
ショーロホフ 静かなドン(1〜9) 河出書房
上田進訳
ロマン=ロラン 魅せられたる魂(1〜7)(岩波文庫) 岩波書店
宮本正清訳
リベディンスキー 一週間(改造文庫) 改造社
池谷信三郎訳
Approved by Ministry of Education
(Date Sept.30 1947)
昭和22年9月30日 翻刻印刷
昭和22年10月4日 翻刻発行
[昭和22年9月30日 文部省検査済]
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