学習指導要領

 

職業科商業編

 

(試 案)

 

昭和二十二年度

 

文 部 省

 

目 次

 

まえがき

 

1.商  業

総  論

第一章 はじめのことば

第二章 商業の教育目標

第三章 商業の学習と生徒の発達

第四章 商業の教材一覧表

第五章 商業の学習指導法

第六章 商業の参考書

第七章 商業の学習結果の考査

第八章 商業の指導単元

 

各  論

商業の各単元の指導例

 第七学年

単元一.われわれの日常生活と経済

単元二.ものをつくるには(生産)

単元三.ものが手にはいるまで(配給)

単元四.ものを運ぶには(交通・通信)

 第八学年

単元一.おかね(貨幣)と小切手

単元二.ものの値段(価格・物価)はどうしてきまるか

単元三.おかねの融通(金融)

単元四.保険はどんなにたいせつか

 第九学年

単元一.所得と消費について

単元二.事業はどう経営するか

単元三.国の財政はどうたてるか

単元四.国民経済について

 

2.簿  記

総  論

第一章 はじめのことば

第二章 簿記の教育目標

第三章 簿記の学習指導法

第四章 簿記の教材一覧表

第五章 簿記の学習結果の考査

第六章 簿記の参考書

第七章 簿記の指導単元

 

各  論

簿記の各単元の指導例

単元一.収支計算のやり方

単元二.資本計算のやり方

単元三.簿記の取引とはどんなことか

単元四.勘定について

単元五.帳簿について

単元六.決算のやり方

単元七.その他の特殊事項にはどんなことがあるか

 

まえがき

中学校の職業科について

 

 人が社会の一員として,その社会の発展のために力を合わせることは,まことに欠くことのできないところである。このような社会の発展への協力を具体的に考えると,職業生活は実にたいせつな意味をもっている。人は職業の社会生活における意義と貴さとを自覚し,これに必要な知識や技術を身につけ,そうして,そこにみずからのあらん限りの力をつくして忠実にこれを営むことで,りっぱな職業人となり,これによって社会の発展に協力することができるのである。だからこれから,このようなよき社会の一員とならなくてはならない青少年に対して,勤労の精神を養い,職業の意義と貴さとを自覚するようにし,また,職業を営むために必要な基礎的な知識や技術を身につけるようにすることは,教育の大きい目標とならなければならないのである。

 このように,職業についての教育はきわめてたいせつであるが,ただこのような教育が効果をあげるためには,青少年が職業というものについてある程度の経験をもち,また,これについて理解し習得する能力の発達がある程度とげられていることを条件とする。このような点から職業科を中学校で始めて課せられることになったのであるが,なお,中学校の生徒は義務教育の終了によって社会に出ていって,職業につくべき時を間近にひかえていることも,この教育が中学校でなされる一つの理由なのである。

 しかし一方からいうと,中学校の生徒でもその将来の職業として何を選ぶかという志望は,一部分をのぞいてはなお定まっていないのが普通であるから,ここである定まった職業についての特殊な教育をすることは適当ではない。そこで中学校の職業科は,まず生徒の勤労の態度を堅実にすることを第一のたてまえとし,さらに職業生活の意義と貴さとを理解させ,将来の職業を定めることについて,じぶんで考えることのできるような能力を養うことを主眼とし,そうして,ある特殊な仕事に特に興味をもったものや,将来の職業のある程度定まっている者に対しては,この上に,やや専門的な知識や技術を学ばせるようにすべきであうう。必修教科としての職業科は,この前の趣旨により,選択教科としての職業科は,おおむねこの後の趣旨によって設けられたのである。

 中学校の職業科は,このような目標をもっているのであるから,ただある種の観念や知識を与えるのでは不適当である。どこまでもぢみちな仕事を通して生徒の経験の基礎を固め,どうしたら仕事がうまくいくか,どういう態度が必要か,どういう考え方がたいせつかといったことをつかませることが最も肝要である。そうして,その上に広く職業についての展望をもつように導く要があるのである。

 さて,かようにして中学校の職業科は,生徒がその地域で職業についてどういう経験をもっているかを考え合わせて,農・工・商・水産の中の一科—時としては数科—を選んで,これを試行課程として,勤労の態度を養い,職業についての理解を与え,その上にいわゆる職業指導によって,職業についての広い展望を与えるように考えられたのである。この行き方については,新しく加えられた家庭科も同じように考えらるべきである。これは女子のみが修めるべきであることも,また女子にのみ必要だとも考える要はないのである。

 これら農・工・商・水産・家庭の教科と職業指導とをどのような連関で課すかについては,次のような場合が考えられる。

(1)農・工・商・水産・家庭の諸教科と職業指導とを適当に融合して指導する場合。

(2)農・工・商・水産・家庭の諸教科と職業指導とをそれぞれ別課程にして,一定の時間をこれを配当して指導する場合。

(3)職業生活に関する社会科の単元を指導するに当たって,職業指導の学習指導要領を参照し,これを補って指導し,農・工・商・水産・家庭の諸教科はこの指導と関連をたもちながら,別にこれを指導する場合。

これらは,その地域の事情,生徒の実情,学校の実情によってどういう関連で指導するかを校長の裁量によって決定してもらいたい。

 以上述べたのは,必修教科としての職業科の指導についてである。選択教科としての職業科は,まだ志望の決定しない生徒でも特に必要や興味を感じた事がらを選択したり,将来の志望がある程度決定した生徒がその方面のことがらを選択したりして,多少とも専門的な知識や技術を学ぶようにしたい。この場合にも実習を中心としていつも身をもってこれを学んでいくようにすることがたいせつである。

 教師は以上のような職業科の一般目的をよく理解して,他の教科との関係と,それぞれの指導要領の趣旨とするところとをよく考えて,この教科を設けた目的を達するように努められたい。