学 習 指 導 要 領
職 業 指 導 編
(試 案)
昭和二十二年度
文 部 省
目 次
まえがき 中学校の職業科について
Ⅰ 総 論1.職業指導の目標
(1) 職業指導の意義と目標
(2) 職業指導の要因
2.生徒の発達段階と職業指導
3.職業指導における教師の活動
4.職業指導単元の構成
5.職業指導の時間の運営の方針
6.指導の方法
(1)教師の活動 (a)予備調査
(b)相談・あっせん
(c)補(ほ)導
(2)生徒の活動 (a)学習の段階
(b)学習の方法
(3)指導結果の考査
Ⅱ 単 元
第一単元 職業に関する理解
第二単元 職業研究
第三単元 職業実習
第四単元 職業選択
第五単元 学校選択
学習指導要領 職業指導編(試 案)
まえがき 中学校の職業科について
人が社会の一員としてその社会の発展のために力を合せることは,まことに欠くことのできないところである。
このような社会の発展への協力を具体的に考えると,職業生活は実に大切な意味をもっている。人は職業の社会生活における意義と貴さとを自覚し,これに必要な知職や技術を身につけ,そうしてそこに自らのあらん限りの力をつくして忠実にこれを営むことにより,りっぱな職業人となり,社会の発展に協力することができる。であるから,これからこのようなよき社会の一員となるべき青少年に対して,労働の精神を養い,職業の意義と貴さとを自覚するようにし,また職業を営むために必要な基礎的な知識や技術を身につけるようにすることは,教育の大きい目標とならなければならない。
このようにして,職業についての教育はきわめて大切であるが,ただこのような教育が効果をあげるためには,青少年が職業についてある程度の経験をもち,またこれについて理解し習得する能力の発達が,ある程度とげられていることを条件とする。このような点から,職業科を中学校で始めて課せられることになったのであるが,なお,中学校の生徒は義務教育の終了によって,社会に出て職業に就くべき時を間近にひかえていることも,この教育が中学校でなされる一つの理由なのである。
しかし一方からいうと,中学校の生徒でも,その将来の職業として何を選ぶかという志望は,一部分を除いてはなお定っていないのが普通であるから,ここである定った職業についての,特殊の教育をすることは適当ではない。そこで中学校の職業科は,まず生徒に労働の態度を堅実にすることを第一のたてまえとし,さらに職業生活の意義と貴さとを理解させ,将来の職業を定めることについて,自分で考えることのできるような能力を養うことを主眼とし,そうして将来の職業がある程度定っている者や,特にある仕事を希望する者に対しては,この上にやや専門的な知識や技術を学ばせるようにすべきであろう。必修教科としての職業科は主としてこの前の趣旨により,選択教科としての職業科はおおむねこの後の趣旨によって,設けられたのである。
中学校の職業科はこのような目標をもっているのであるから,ただある種の観念や知識を与えるのでは不適である。どこまでもじみちな仕事を通して生徒の経験の基礎を固め,どうしたら仕事がうまくいくか,どういう態度が必要か,どういう考え方が大切かといったことをつかませることが最も肝要である。そうしてその上に広く職業についての理解をもつように導く要があるのである。
さて,かようにして,中学校の職業科は,生徒がその地域で,職業についてどういう経験をもっているかを考え合せて,農・工・商・水産の中の一科,時としては数科を選んで,これを試行課程として労働の態度を養い,職業についての理解を与え,その上にいわゆる職業指導によって,職業についての広い展望を与えるように考えられたのである。この点については,新しい職業科の一科として加えられた家庭科も同じように考えらるべきである。これは女子のみが修めるべきであるとも,また女子にのみ必要だとも考える要はないのである。
これら農・工・商・水産・家庭の諸教科と職業指導とをどのような関連で課すかについては,次のような場合が考えられる。
(2)農・工・商・水産・家庭の諸教科と職業指導とをそれぞれ別課程にして,一定の時間をこれに配当して指導する場合,
(3)職業生活に関する社会科の単元を指導するに当って,職業指導の学習指導要領を参照し,これを補って指導し,農・工・商・水産・家庭の諸教科はこの指導と関連を保ちながら,別にこれを指導する場合,
これらは,その地域の事情に即し,生徒の実情に即し,学校の実情によって,どういう関連で指導するかを,校長の裁量によって決定してもらいたい。
以上述べたのは,主として必修教科としての職業科の指導についてである。選択教科としての職業科においては,上述の指導をさらにおし進めると共に,将来の志望がある程度決定した生徒がその方面の事がらを選択したり,まだきまっていない生徒が特に必要や興味を感じた事がらを選択したりして,多少とも専門的な知識や技術を学ぶようにしたい。この場合には,実習を中心として,いつも身をもってこれを学んでいくようにすることが大切である。教師は以上のような職業科の一般目的をよく理解し,他の教科との関係とそれぞれの指導要領の趣旨とをよく考えて,この教科を設けた目的を達するように努められたい。