Ⅰ 相談員の任務
相談にあたるものは担任教師や職業指導担当者や校長あるいは職業相談員などのうち,学校の実情により適切な人が望ましい。相談にあたる者は次のような任務の中で,できる範囲のものをなるべく広く行うことが望ましい。
b.適当な実習(試行課程)の選択について相談する。
c.将来の進学先の学校についての入学の機会を説明する。
d.生徒が将来の職業上の計画をたてるのを援助する。
e.就職希望の生徒を助ける。
f.劣等生や優等生のための特別の職業上の教育計画に参与する。
b.進学や就職に関して,保護者や生徒の集団指導を行う。
c.いろいろな職業情報を集めて,保護者にも生徒にも役立つようにする。
d.特定の職業に興味のある生徒を集めて,職業相談をする。
e.生徒と雇主との面接の機会をあっせんする。
f.相談票の整理。
g.相談結果を関係者と連絡する。例えば,進学相談の結果を上級学校への内申書に記載したり,就職相談の結果を公共職業安定所に連絡したりする。
Ⅱ 相談室について
2.相談室は相談員と来談者とだけが秘密に相談できるようにされていることが望ましい。そのための特別の部屋が用意できなければ,応接室・校長室・衛生室・特別教室(家事室・裁縫室・音楽室・その他の実習室など)や,あき教室(授業をしていないで,一時的にあき室になっている教室)などを利用する。このような場合でも,面談室だけが区切られるように,衝立などを利用して境界をつくるがよい。
3.相談室を特設することができるならば,その室には相談用のいすや机を用意する以外に,相談の結果を記録しておくための相談票を用意するがよい。相談票の形式は学校の実情によって定められるであろうが,来談者の姓名,来談月日,主要相談事項,相談内容など記録しておく。こうした相談票を入れたり,相談に必要な資料などを整理しておくための,かぎのかかる整理箱など用意しておくことが望ましい。
4.学校によって理想的な相談のための諸設備を用意できるところがある場合には,相談室の外に,生徒の適性検査室,資料室などを設けることが望ましい。
Ⅲ 面接相談の技術
個別相談は面接による。面接の真価は,面接の行われる場所や形式に依存するばかりでなく,来談者の気分の転換にも依存する。生徒が自分の問題をはっきり理解し,その効果的な解決のために情報や暗示を予期して相談にくる場合は,気分の転換はほとんど関係がない。相談者が生徒の興味の傾向や生徒の状況に関して理解し,その上に生徒の信頼を得ている場合や,相談が非公式であるほど効果がある。
保護者の要望や態度も重要なものである。偶然に保護者と会って相談したことが非常に効果的である場合もある。ある場合には家庭を訪問したり,個別面談に来校してもらって相談することが効果のあることもある。何か重要な事項については生徒と保護者と一緒に呼んで相談することも望ましい。相談者が効果的な結果を得るための助けになるようなことを次にのべよう。
例えば,秘密にすることを保証するとか,記録を見えないようにするとか。
2.生徒の問題と直接関係のないような事項に生徒の注意を集中させるようにして,生徒との親しみある関係をもつようにする。
3.相談すべき重要事項を発展させる計画をたて,それとなく相談をすすめる。しかし,計画した事項におちのないように処置する。
4.適当な知識を与えたり,発見したりして,生徒の決意に達するのを助けるように相談を進める。生徒が満足感をもって帰れるようにしなければならない。
5.生徒の記録とともに,相談の非公式の覚書を保存する。いずれも秘密に保存され,生徒の指導に必要な時にだけ用いなければならない。
6.指導の結果が満足なものとなるまで,何回でも相談をつづけて,生徒の進歩をうながす。
7.相談員は生徒が自分で解決したい問題を容易に告白しない場合は忍耐づよくその問題の核心にふれるのを待たなければならない。この場合には,生徒の意向を察知して,主要相談事項にふれるように誘導することが大切である。
8.相談者は生徒が決意するのを助けるのであって,自分のために相談しているのでないことを心にとめておかなければならない。生徒に無理を強いたり,生徒の決意の方向を,自分の考えのようにさせようとしたりしてはならない。
生徒は自分でよい計画をもっていることがある。しかしそれを発展させる方法を知らない者が多い。生徒はほとんど学校の課程と職業との関係を知らない。また将来の職業について自分の計画をたてようとしない者すらある。
9.相談者は来談者の主訴にしたがって,自分の用意してある資料の中から適切なものを選ぶことが大切である。相談者は学籍簿や教育記録などを利用して,生徒についての予備的な知識を得ておくことが望ましい。これらの記録によって,家庭状況・学業成績・性行身体状況・職業上の興味・担任教師の所見などを概観し,その特色をつかむことができよう。さらに,知能検査や興味検査,その他の個性調査などの結果が用意されてあれば,それらも利用する。進学相談に応ずるためには,学校調査がされていなければならないし,選職や就職の相談に応ずるためには,職業調査や就職の機会を調査したものが用意されていなければならない。これらの資料は全校の職員ができるだけ調査して準備しておくことが望ましい。学校によっては,検査の種類によって入手できないものもあるかも知れないから,全部の検査結果を用意しておけというのではないが,できるだけ多方面の調査結果を用意しておくがよい。
10.理想的な相談は,来訪者が何か解決したい意欲をもち,相談員がそれについて何かの事実や資料をもっている場合に行われるものであることを忘れてはならない。
ある相談員の一日の活動の例
○月○日 ○曜日 晴
午前8.30
山田(前回,卒業後の職業について相談)きょうは,どんなことをすべきかをたずねられたから,山田がしなければならないことについて説明した。例えば履歴書を用意し,家族の職業について聞かれても答えられるようにしておくことなど。
花井(再相談)母が退学しろといったと語る。花井は退学したくない。父は収入を母親にあまり渡さない。卒業後の職場について話してやり,身体検査をうけておくように,また,母親に来校してもらうように花井に伝言をたのんだ。
福田 卒業後職業に就いてみたいと言いはじめた。両親の意見をもう一度よくきいてくるようにいった。
校長と例の問題を起した戸山について相談した。父の話によると,戸山は学校へ来るのも勤めに行くのもいやだといい,映画館ばかり行っているようだ。校長からこの問題の解決を託された。
午前中 授業二時間,集団指導 質問が多くて予定しただけの教材はすまなかった。
内山に眼鏡を近視の程度に合うのと交換するようにすすめた。
伊藤 職業安定所へ密封の相談票を持参させた。希望通りに時計工になれるかどうか問い合せにやる。明日返答のはず。
Ⅳ 輔導について
相談をした後には,いつもその結果がどうなっているかを調べておく必要がある。特に進学や就職をした後も引き続いて指導をする必要がある。この活動を輔導(Follow-up)ということは,すでに本書において述べたが,詳細の方法については本書11頁C“輔導”12頁“輔導記録”の例を参照されたい。
学習指導要領職業指導編
Approved by Ministry of Education
(Date Oct.8 1947)
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昭和二十二年十月十二日 翻刻発行 (昭和二十二年十月十二日文部省検査済)
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