中学校 高等学校 学習指導要領

社 会 科 編

Ⅲ(a)日 本 史

(b)世 界 史

(試  案)

昭和26年(1951)改訂

文 部 省

 

目     次

まえがき(高等学校社会科における歴史教育)

(a)高等学校 日本史

Ⅰ.日本史の特殊目標

Ⅱ.日本史各時代指導上の参考目標および参考内容

Ⅲ.日本史の参考単元例

(b)高等学校世界史

Ⅰ.世界史の特殊目標

Ⅱ.世界史各時代指導上の参考目標および参考内容

Ⅲ.世界史の参考単元例

 

まえがき(高等学校社会科における歴史教育)

 社会科という教科は,現代社会を理解させるとともに,民主的社会人として望ましい態度・能力・技能などを育成することを目的とした教科であるが,現代社会を理解させるということは,現代社会に生活する人々との人間関係・社会生活,そしてそれらに見られる人間性を理解させるということである。したがって,社会科は現代社会をいっそうよい社会に形成させるに必要な知識や態度・能力を養うことがその最大目的である。

 しかし,現代社会を理解して,将来に向かい有為の社会人を形成させるためには,単に,みずからをとりまく周囲の社会を知るだけではふじゅうぶんであり,時間的・空間的に視野を広げて,さまざまな異なった社会生活を学ばせなければならない。この時間的視野の立場に立って歴史を学ぶのが,社会科における歴史教育なのである。すなわち,社会科における歴史教育は,現代社会の理解のために,常に現実の社会生活に立脚しながら,過去の社会にさかのぼり,そこに展開された人間関係・社会生活・人間性を知り,これを基礎として,正しい民主的生活のあり方を理解し,さらに,民主的社会の進展に寄与する有能な社会人を育成しようとするものである。一般社会科にあっても,現代社会の理解のために,各学年ともそれぞれの段階に応じ,各単元に即して,歴史的なものの見方,考え方を行うよう,活動が試みられてはいる。しかし,わたくしたちの今日の日本および世界が,どのような歴史的位置にあるのか,ということ,すなわち,日本が今日置かれている世界的立場と,その日本に生活しているわたくしたちの行動が,どのようなものであり,いかに過去につながり,将来に関連するかということを,はっきりととらえるには,今日の日本の社会の姿をつくり出してきた歴史発展の姿を,じゅうぶんに知らなけれはならない。このためには,歴史の学習は,有効な結果を生むであうう。

 上に掲げたような性質をもつ社会科歴史は,どのように学習されなければならないか。現実の社会の中に存在する種々の課題に対し,それぞれの生徒が歴史的に,総合的・発展的に,これを考え、やがて,これを解決するに必要な能力と知識・態度を養成するように,一言にしていえば,歴史的思考力を養成するという方向に,学習をくふうすべきである。こうした目的達成のためには,生徒自身が,自分を含めた社会の中に存在する問題を,みずからの力によって,理解し,解決する能力を育成するための学習でなければならず,そのためには,生徒の自主的活動をじゅうぶんに取り入れるべきであって,かってのように,教師が生徒に歴史事実の暗記をおしつけるだけのような学習態度は,当然否定されなければならない。たとえば,「封建社会」について学習する場合でも,いきなり封建社会の学習講義にはいってはならないのであって,封建社会が歴史的に発展して今日の社会が形成されていること,しかしながら,今日の社会は,決して封建社会とは,まったく無関係のものではなく,種々の形をとり,姿をして,わたくしたちの社会生活の中に存在することなどを,生徒をして,それぞれの経験領域の中から発見させてから,それをもととして,はじめて封建社会の学習にはいらせうるのである。しかし,ここで注意を必要とすることは,どこまでも 生徒の各自が,みずからの問題解決としての,封建社会の学習であること,封建社会が,現代社会とは,本質的には異なっていることを理解するための学習であるべき点である。

 このような社会科歴史の学習が行われるためには,教科書以外の資料も,できるだけ活用させることが望ましい。それも単に歴史書として書かれたものではなくして,文学作品・音楽・映画・絵画・建築物その他いわゆる遺物・遺跡・風俗習慣等の文化財のすべてが資料であるということであって,生徒のもつ全感覚を使用して学習するように向けなければならない。したがって,生徒自身が,自己の思索と,合理的方法をもって,できるだけ正しい推論を出すことができるよう指導せねばならず,この意味で,生徒の史観も,歴史学習を進めていくうちにみずからの力で作り育てていくように指導しなければならない。

 以上を要約すれば,次のようになるであろう。すなわち,歴史学習は,単に歴史学そのものではなく,どこまでも教科としての社会科歴史の学習であり,したがって,生徒の経験領域をもとにして,現実に立脚し,世界的視野をもって,自主的に学習させ,その結果として,現代社会の歴史的位置を発見させ,もって将来の社会建設に働きうる知識と能力と態度とを兼ね備えた,有為の民主的市民の形成を目的とした歴史教育でなければならないというととである。

 社会科歴史の学習目標が以上のようなものである点から,その達成のための学習形態は、一般社会科や社会科の他の科目のそれと,本質的に相違するものではない。これについては,中等社会科学習指導要領第Ⅰ巻「中等社会科とその指導法」の中に,くわしく説明してあるから,これを参照して,効果のある指導をされることを希望する。

要するに,歴史の学習は,現在を知るために歴史を学習するものであって,歴史のために歴史を学ぶのではない。もしも教師が,教科書に示されているような歴史事実を,ただページをおって講義し,与えるといった方法をとるならば,歴史はいわゆる過去の歴史となり,したがって,生徒の興味は著しく減殺され,現在の生活をよりよくする手ががりを,その学習から発見することはできないであろう。生徒の使用する教科書は,従来のごとく,教師が,これをページをおっていちいち講義するものではなく,その内容は,そのまま生徒の学習内容となるものではない。現在の教科書は,生徒が,問題解決の学習のため、各自必要に応じて,使用するものである。したがって,教科書全部を教師が講義するものではなく,生徒は教科書全部を暗記することを要求されているものでもない。