(b)高等学校 世界史

 

Ⅰ 世界史の特殊目標

 

 世界史の指導に当たっては,これが社会科の一科目であることに留意し,まず社会科一般目標をできるだけ達成することを目ざさなければならない。この場合,世界史として特に強調されるべき特殊目標は,次のようなものであることをあわせて考慮すれば,その指導計画および指導法は,いっそう適切になるであうう。

 

Ⅱ 世界史各時代指導上の参考目標および参考内容

 

 世界史の時代概念としては,いろいろな区分が考えられるが,ここでは一応,「近代以前の社会」と「近代以後の社会」の二大区分を採用することにした。

しかし,世界史の指導計画をたてるに当たっては,われわれが住んでいる現在の社会を生き生きと浮び上らせるために,下現代の社会」を別に抜き出した方が教育上有効であろう。

 

A.参考目標

 「近代以前の社会」

1.近代以前の社会と現在の社会生活との本質的な相違を理解し,よりよき社会建設への意欲をたかめること。

2.近代以前の社会の遺制・遺産が,今日の社会にどのように残存しているかを理解し,これに対する正しい態度を育てること。

3.近代以前の社会の発展の普遍性と特殊性を理解すること。

4.近代以前における歴史的展開が,現在社会に対し,どんな意義をもっているかを理解すること。

5.文化の交渉の社会発展上における意義を理解し,外来文化に対する正しい態度を養うこと。

6.文化遺産を正しく評価する能力を育てること。

 「近代社会」 1.近代社会が,それ以前の社会の必然的発展の所産であることを理解し,近代精神を体得・向上させること。

2.近代社会の本質を理解し,公民的態度を養うこと。

3.近代社会発展における普遍性と特殊性を理解すること。

4.ヨーロッパ社会の世界的発展を理解すること。

5.アジア社会の近代化の遅れた意義を理解し,民主主義への熱情をたかめること。

 「現代の社会」 1.現代社会の諸問題を総合的,発展的に理解し,これに対する正しい判断力を養うこと。

2.現在世界に起りつつある国際問題に対する歴史的理解により,世界平和と国際協力とを推進する態度を養うこと。

3.将来の世界史の方向ならびに日本の地位について考え,わが民族使命の自覚をたかめること。

 

B.参考内容

 

 「近代以前の社会」

 

1.原始社会の発展

          a人類の出現

          b原始生活の展開

          c原始宗教の性格

          d民族制度

          e文明の発生

 

2.古代国家の形成

          a古代オリエントの統一

          bギリシアのポリス

          cローマの世界帝国

          dインドの統一国家

          e中国の統一国家

          f日本古代国家

 

3.古代文化とその特色

          a文字の発達とその伝藩(ぱ)

          b生活技術の向上

          c古代芸術の性格

          d古代法制と社会組織

          e古代の思想と学問

 

4.西欧封建社会の成立と発展

          a民族移動と諸王国の形成

          b大土地所有制の発達と身分制の確立

          c教会権力の拡大

          d中世文化の特色

          e中世都市の発達

          f封建貴族の没落

 

5.アジアにおける専制国家の変遷

          a王朝の交替

          b武人政治の出現

          c中国官人制の成立

          d文化内容の変遷

          e社会経済の発達

          f農民の反抗

          g専制政治の没落

          h日本封建制の特色

 

6.民族と文化の接触交流

          aヘレニズム

          bシルクロード

          c十字軍

          d東方文化の西方伝播

          e中日文化の交流

          f征服王朝

 

7.宗教と生活文化

          aキリスト教の発展

          bイスラム教の拡大

          c仏教の流伝

          dヒンズー教の特色

          e道教と民間信仰

 

 「近代社会」  「現代の社会」
Ⅲ 世界史の参考単元例

 1.参考単元題目例

 

 世界史の学習に有効な単元組織としては,いろいろなものが考えられる。しかし,注意しなければならないことは,世界史の内容を,単に幾つかの適当な大さに区分し,まとめたのでは,よい単元はできないことである。どこまでも,問題を中心として,構成されなければならない。問題の選び方には,一定の型があるわけではないが,世界史学習指導要領委員会としては,高等学校世界史の単元として,一応次のような諸系列を考えて,参考に資することにした。

 

(A案)

 

 第1単元

 アジアの社会とヨーロッパの社会の発展にはどのような相違があるか。

 目  標

 内  容  第2単元

 世界はどのようにして一体化したか。

 目  標

 内  容  第3単元

 現代の世界にはどのような問題があるか。またそれはどのようにして起ったか。

 目  標

 内  容  

(B案)

 

第1単元 どのようにしで近代以前の社会は発展し,今日のわれわれの社会に影響を与えているか。

第2単元 世界における主な文化はどのようにして生まれ,今日の社会にどのような文化遺産を残しているか。

第3単元 近代社会はどのようにして発展したか。

第4単元 近代文化はどのように発達し,現代社会にどのような役割をもっているか。

第5単元 世界各国相互の密接な交渉により,どのような問題が生じたか。

第6単元 世界平和の維持と民主化のためにどのような努力がなされたか。

 

(C案)

 

第1単元 大昔の人たはどのようにして生活を切り開いていったか。

第2単元 生活にほとんど自由のなかった社会で人々はどのような暮しをしたか。

第3単元 人々はどのようにして生活の自由を得ようと努力したか。

第4単元 人々の自由はどのようにして確立されようとしているか。

 

(D案)

 

第1単元 国家と社会主活とはどのようなつながりで発展してきたか。

第2単元 市民の活躍は社会の発展にどのような役割をつとめたか。

第3単元 世界平和はどのようにして求められてきたか。

 

2.世界史への導入

 

 世界史の学習に当たっては,まず生徒の学習意欲を喚起し,さらに問題解決の手がかりをうるために,各単元の学習に先だち,世界史学習全体への導入を試みることも,以後の学習活動にきわめて有効であうう。

 その方法として,たとえば,最初に社会科世界史の学習つ目的として,われわれと歴史とのつながり,さらにわれわれと世界の歴史がいかに密接不離の関係にあるかを理解させ,生徒の興味と関心をじゅうぶん喚起し,以後の世界史学習への意欲をもりあげることである。また,生徒の世界の歴史上,地理上についての既知の知識を一応整理しておくことが必要である。かくすることにより,漸次世界史の概要を確実にするよう留意しなければならない。この方法としては,教師の講義によることは,努めて避け,生徒自身にまとめさせる方法をとり,その間において,以後の学習活動の方法を習得させることも必要であろう。したがってここでは,単に生徒の興味・関心を呼び起す程度にとどめ,歴史学序説にならぬよう留意すべきである。

 「世界史への導入」の学習活動の例

 

(D)案の展開例

 

 前記の(A)案の例では,すでにかなりの程度まで展開が進んでいるが,ここではさらに,(D)案の詳細な展開例を示す。各教師は,単元諸系列および展開例を参考にして,最も教育効果があがるような,すなわち,社会科としての世界史の目標が最も達成されやすいような指導計画をたてられることを希望する。

 なお,(D)案の学習活動の例には,おもに 話し合い・発表・作文などの形式のものをあげたが,実際の指導に当たっては,この他にも,種々な活動形式のもの,特に,教科書の中の必要な箇所をよく読む,教師の話を聞く,などのものが当然含まれなければならない。そして断片的ではなく,全体として系統だった学習活動の計画がなされることが望ましい。

 参考資料表は,昭和26年春,東京都歴史教育研究会が作成したものから転載した。これはただ単元としての形式をととのえることを目的としたものであるにすぎない。

 

 第1単元

 

 国家と社会生活とはどのようなつながりで発展してきたか。

 

 要  旨

 われわれの社会生活は,国家を離れては存在しない。しかもわが国ほ民主国家建設を目ざして発足このかた,いまだ日浅く,民主化の前途はもとより,現実的にも山積する諸問題を控え,国家の再建もまた多難である。よってこれらの問題解決の手ががりを,いわゆる近代以前における人類の歴史発展過程に求めつつ,他方,先史時代における人類の出現より,世界の一体化を導引するに至った。15,6世紀に及ぶ史的展開を,世界的視野のもとにはあくして,現代の正しい理解を助成することが必要である。

 一方,本単元の学習でより,生徒は国家の歴史的役割と,近代国家の意義を認識して,正しい民主国家樹立への情熱を高めるように指導されることが望ましい。また本単元学習の内容から,従来の歴史学の成果をじゅうぶん駆使し,生徒のいだく興味を育成するとともに,世界史的考察の能力を高め,真に科学的な歴史解明の方法を習得し,物事を合理的に判断する態度を育てたいものである。あるいはまた,われわれの生活文化は世界史的所産に負うところが多いことを理解することにより,それぞれの歴史的役割を反省し,各時代・各地域における民族や国家の文化的貢献と正しく評価し,自己の生くべき方向を見いだすようにしたいものである。

 目  標

 内  容  学習活動の例

1.

a 最近の新聞記事によって,わが国が政治・経済・社会・文化などの各分野にわたって,それぞれどのような事業を遂行しようとしているか話し合うこと。

2. 3. 4. 5. 6.

「われわれは文化遺産や社会遺制にどのような態度でのぞんだらよいか」について作文して,提出すること。

「われわれは学校や家庭の生活で,どのような態度をとったらよいか」について討論すること。

 評価の例 (例) ○原始社会の本質

○古典文明の性格

○ローマ帝国の歴史的意義

○アジアにおける専制国家の変遷等。

参 考 資 料(生徒用の一例)(東京都歴史研究会作成)

       世界歴史(10巻)        河出書房

       世界の歴史(6巻)        毎日新聞社

       世界歴史大系(25巻)      平凡社

       世界文化史大系(24巻)     誠文堂新光社

       世界思潮(12巻)        岩波書店

       東洋思潮(18巻)        岩波書店

       世界美術全集(刊行中)      平凡社

       世界歴史事典(刊行中)      平凡社

       京大西洋史(10巻)       創元社

箕作元八   西洋史講話            開成館

市村■次郎  東洋史統(4巻)         冨山房

和田 清   中国史概説(上・下)       岩波書店

       人物世界史(東洋・西洋)     毎日新聞社

亀井・三上・児玉 世界歴史地図         吉川弘文館

箭内・和田  東洋読史地図           冨山房

京大西洋史研究室 世界歴史大年表(上・下)   目黒書店

映画

スライド

文部省     図画工作科鑑賞資料     大日本図書株式会社

 

 第2単元

 

 市民の活躍は社会の発展にどのような役割をつとめたか。

 

 要  旨

 われわれの社会生活の基盤は,近代民主主義の発展過程に求められる。資本主義の発展に伴い,市民階級はしだいに社会に重要な役割を演じ,かつ合理的思惟の生長は,たくましい実践とあいまって,従来の封建的身分的な束縛を解体させた。近代市民社会の形成により,人類の社会生活は飛躍的発展を遂げたのである。

 現代社会は多く市民社会の発展成長の過程にほかならない。したがってその実体をはあくすれば,そこにはあらゆる分野にわたって,不完全な様相を見いだすであろう。つまり,われわれは市民社会そのものの未然な問題や,近代化の不徹底に伴ってもたらされた幾多の問題に直面している。かかる現代社会にはぐくまれたさまざまな問題の歴史的意義をはあくし,ことに近代社会成立の中にその由来を求め,もって解決の方途を考えることは,重要な意味を持つ。

 前単元に基いて設定された,発展的な本単元の学習により,生徒はより直接的であり,かつ深刻化した社会的課題の追求と,変化に富む世界史の流れに,深い興味と高い情熱とを傾けるであろう。また市民社会の世界史的発展を認識することにより,世界史的視野に立って,物事を判断し,処理する能力を養うように指導されなければならない。

 目  標

 内  容  学習活動の例

aブルジョアの語源を調べ,現代の市民とどのような違いがあるが話し合うこと。

bわれわれはどのような人々をさして,普通,ブルジョアとか,プチブルというのだろうか。またそれらの人々はどんな職業に従事し,どのような社会的地位にあるのだろうかみんなで話し合うこと。

cアテネ市民の政治上・経済上・社会上のあり方を話し合い,現代の市民生活との違いを指摘すること。

2. aヨーロッパ封建社会で,商工業の発達を妨げていた諸要因をあげ,これがどのような事情のもとに取り除かれていったか,自由都市を例にとって調べること。

bルネサンスとはどんなものか調べ,それがなぜイタリア都市に起ったかを討論すること。

c「ヴェニスの商人」を読み,ルネサンス時代の市民の生活を報告すること。

d宗教改革について調べ,市民階級の発展とどのような関係にあるかを考えること。

eコロンブスやマジェランのような大航海は,どのような社会的,政治的事情のもとに行われたかを調べ,報告すること。

fコペルニクス・ガリレイ・ベーコン・デカルトなどが,科学精神の発達にどのように尽したかを調べること。

g宋代における商工業発達の状態を調べ,ヨーロッパのそれと比較すること。

h15,6世紀における日本の自由都市(堺など)の様子を調べ,ヨーロッパのそれと比較すること。

3. a市民勢力の勃興をとおし、次の関係はどのように変化したかを,イギリス・フランスなどを例にとり,調べること。

(1)市民と封建領主 (2)君主と封建領主 (3)市民と君主

b絶対主政はどのようにして生まれたか,そしてどのような政策を行ったか,イギリス・フランス・ロシア・プロシアなどを例にとり調べること。

(1)政治 (2)外交 (3)殖民(経済) (4)文化

c宋・元・明・清の政治組織のあらましを調べ,君主権を中心として,それらに共通する性格を選び出すこと。

d日本史上,天皇の政治的役割はどのように推移したか,簡単にまとめ,発表すること。

4. a君主の専制政治は,一般民衆の生活にどのような脅威を与えることになったかを,おもな専制国家について調べること。

b次の事項について調べ,その歴史的役割について話し合うこと。

(1)マニェファクチェア (2)問屋制度

cイギリスでは,「国王は君臨すれど統治せず」といわれているが,その事の歴史的意味を調べて学級で話すこと。

dロック,ヴォルテール,モンテスキュー,ルソー,アダム・スミスはどのような説を主張したか。またなぜかれらがそのような説を唱えるようになったかを調べること。

eアメリカの独立宣言を読み,これを中心として当時の事情について討議すること。

fフランスの「三色旗」ば何を意味するがを考え,その精神がフランス革命をとおし,どのように実現されたかを調べること。

gナポレオンの業績について調べ,これを民主主義の立場から批判すること

5. a.ウィーン会議はどのような精神により貫かれたかを調べ,それがどのように実現されたか,おもな事件をあげて報告すること。

b次の事項について調べ,その背後の社会の事情を検討すること。

(例)(1)ギリシア・ラテンアメリ力の独立 (2)七月革命および二月革命 (3)ナポレオン三世の第2帝政の成立と没落。

cドイツ・イタリア統一の事情を調べ,その要因と意義について考えること。

dロシアの農奴解放とアメリカの南北戦争について調べ,それらがそれぞれの社会にどのような影響を与えたかを考えること。

e産業革命について調べ,なぜ最初にイギリスに起ったかを討議すること。

fどのような社会的,経済的事情のもとに,汽車・汽船が発明されたかを調べ,話し合うこと。

g産業革命が人間の社会生活にもたらした影響について調べ,みんなでまとめること。

h19世紀は「科学の世紀」といわれるのはなぜか。科学の進歩をもたらした要因について調べ,学級でその話をすること。

i19世紀を中心とした文芸思潮を調べ,それが社会の動きとどのような関係にあるかを討論すること。

j次の人物の伝記を調べ,文化史上の役割を箇条書にすること。

(1)カント (2)マルクス (3)ダーウィン (4)パストール (5)ランケ (6)コント

6. a20世紀初頭のアジアの独立国・植民地を示す地図をかき,次のことを調べること。

(1)領有国名 (2)領有年代 (3)領有事情

bアフリカ大陸が,ヨーロッパの列強により,なぜ分割されたか,当時の国際情勢と関連して考えること。

cヨーロッパ勢力の進出により,次の諸国では 政治的,経済的,社会的にどのような変化が起ったか,おもな事象をあげて発表すること。

(1)日本 (2)中国 (3)インド (4)朝鮮その他

d産業革命以前と以後とで,ヨーロッパ勢力のアジア進出には,どのような相違があるか調べること。

e第一次大戦前,約半世紀間の列強の経済力伸展に関する次の統計図をつくること。

(1)鉄・石炭の比産高 (2)国内および海外の投資額 (3)人口の増加表 (4)鉄道延長および船舶保有量 (5)貿易額

f第一次大戦の起った原因について,政治・経済などの点から調べること。

gサラエボ事件がなかったら,大戦が起らなかったかどうか,みんなで話し合うこと。

 評価の例  第3単元

 

 世界平和はどのようにして求められてきたか。

 

 要  旨

 現代ほど全人類が平和を熱望している時代は過去にはなかったであろう。もともと戦争は人間の本性に根ざすものであるとの証拠はない。したがって,人類はいかなる時代にも,おのおのの立場で,平和を欲してきたはずである。このような平和を求める人類の要望にもかかわらず,われわれは,われわれの生涯にすでに二度も世界戦争を経験しなければならなかった。ただしそれは近代社会発展の経過であったとはいえ,何人もその悲惨な現実には目をそむけ,「戦争は文化の墓標」であることを痛感した。われわれはここに,なぜこの世界戦争が起ったのか,換言すれば,「世界平和」はなぜ維持することができなかったかを歴史的に究明し,世界平和樹立に対する方途を見いだすことに切実な関心をいだいている。それはただに,われわれの社会的課題であるのみならず,また世界的課題でもある。

 戦争の惨渦を体験した生徒にとっても,平和こそ最も関心の深い問題であろう。生徒は本単元の学習により,現実の社会の動きを歴史的にはあくすることによって,平和実現へのかれらの情熱と決意を,いよいよ固めるように指導されることが望ましい。このようにして民主主義が世界戦争に対処して発展した世界史の過程をとおして,高貴な人間性の価値を認識し,憲法精神を体得して、社会の実践者となることを期待しうるであろう。

 目  標

 内  容  学習活動の例

1.

2. 3. 4.  評価の例