第2節 社   会

 

第1 目 標

 広い視野に立って,我が国の国土と歴史に対する理解を深め,公民としての基礎的教養を培い,民主的,平和的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う。

 

第2 各分野の目標及び内容

 

〔地理的分野〕  1 目 標 (1) 日本や世界の様々な地域についての学習を通して,地理的な見方や考え方の基礎を培い,広い視野に立った我が国土に対する認識を養う。

(2) 日本や世界の各地域における人々の生活には,地方的特殊性と一般的共通性のあることに気付かせ,各地域やそこに住む人々の生活を正しく理解するための基礎を培う。

(3) 日本や世界には大小様々な地域的まとまりがあり,それらが相互に関連し合っていることを理解させるとともに,国際社会における日本の役割を考えさせる。

(4) 自然及び社会的条件と人間との関係は,人間の活動によって絶えず変化し,それに伴って地域も変容していることに気付かせるとともに,環境や資源の重要性についての認識を養う。

(5) 地理的事象に直接触れてそれを正しく考察することに必要な能力と,地理的事象を適切な資料に基づいて多面的に考察し公正に判断しようとする態度を育てる。

 

 2 内 容 (1) 世界とその諸地域 ア 生活舞台としての地球  地球儀に親しませ,世界地図に対する正しい見方を育てるとともに,水陸の分布,大陸相互の位置関係,地球上における人口分布並びに主な国の国土の形状と面積及び我が国との関係位置を取り上げて,人間の生活舞台としての地球の様子について理解させる。 イ 世界の自然  世界の地形,気候,植生,海洋などを大観させ,世界は様々な自然条件をもつ地域から成り立っていることを理解させる。 ウ 世界の諸地域  世界の諸地域における人々の生活及び地域の特色を,以下の項目をもとにして理解させる。

(ア) 位置と歴史的背景

 地理的位置の変化,探検や開発の歴史,国家の成立などに関する事柄のうち,各地域の現在の主な生活様式や地域の特色を把握(はあく)するための手がかりとなるものを取り上げて,そのあらましを理解させる。 (イ) 自然の特色  地形,気候,植生,海洋などのうち,各地域の生活や産業と深い関係をもっている事象を取り上げて,地域の自然の特色を理解させる。 (ウ) 住民と生活  人口の分布・増減,住民の民族構成,生活様式にみられる特色などのうち,適切なものを取り上げて,地域の人々の生活の特色を理解させる。 (エ) 資源と産業  主な資源の分布と開発状況,主な産業などを取り上げて,それらを成り立たせている地理的諸条件やそれらが地域において果たしている役割を理解させるとともに,それらの資源,産業などと日本との関係に着目させる。
(2) 日本とその諸地域 ア 国土の成り立ち  国土の位置,領域の特色と変化,人口分布のあらましなどを取り上げて,国土の現状を大観させ,国土が様々な地域から成り立っていることを理解させる。 イ 国土の自然  地形,気候,植生,日本をめぐる海洋,自然の災害などを取り上げて,国土の自然の特色を世界各地域のそれと比較しながら全体的に把握させるとともに,地域によって様々な差異がみられることを理解させる。 ウ 身近な地域  身近な地域における諸事象を取り上げて,縮尺の大きな地図の読み方についても理解させながら解察や調査をさせ,地理的な見方や考え方の基礎を身につけさせるとともに,生徒が生活している土地に対する理解と関心を深めさせる。 エ 日本の諸地域  日本の諸地域における人々の生活及び地域の特色と動向を,以下の項目をもとにして世界や日本の他地域との比較や関連において理解させる。

(ア) 位置と歴史的背景

 地理的位置の変化,開発の歴史などに関する事柄のうち,各地域の現在の主な生活様式や地域の特色を把握させるための手がかりとなるものを取り上げて,そのあらましを理解させる。 (イ) 自然の特色  地形,気候などのうち,各地域の生活,産業,自然の災害などと深い関係をもっている事象を取り上げて,地域の自然の特色を理解させるとともに,自然と人間との関係が人間の活動によって絶えず変化していることを着目させる。 (ウ) 資源の開発と産業  主な資源の分布と開発状況,主な産業などを取り上げて,それらを成り立たせている地理的諸条件やそれらが地域において果たしている役割を理解させ,資源の開発や産業の発展が地域の人々の生活と深くかかわっていることに着目させる。 (エ) 人口と居住  人口の分布・増減・移動,主な都市の発達と機能などを取り上げて,それらを産業や交通と結び付けて考察させるとともに,都市化が進むにつれて現れてきた問題に着目させる。 (オ) 他地域との結び付き  物資や人口の移動現象などを取り上げて,地域は,広く日本や世界の他地域と結び付きながら日本や世界の一部としての役割を果たしていることを理解させるとともに,各地域の結び付きやそれぞれの役割は,産業や交通の発達に伴って変化していることに着目させる。
(3) 世界の中の日本  日本や世界の諸地域の学習によって養われた目で日本を全体的に見直し,世界との比較や関連において,我が国土に対する認識を深めさせる。

ア 世界との結び付き

 交通,貿易などによる世界との結び付きを取り上げて,国際分業の中で果たしている我が国の役割や国際関係の中で我が国が当面している問題に着目させ,国際協力の重要性に気付かせる。 イ 国土の利用と保全  我が国が当面している人口,食糧,資源,産業,都市などの問題のうち,幾つかを取り上げて,国土の利用やその動向について考察させ,国民活の安定と向上を図るためには,国土の合理的な利用と保全が大切であることを理解させる。
 3 内容の取扱い (1) 内容の(1),(2)及び(3)は,この順序に取り扱う必要がある。

(2) 内容の(1)並びに(2)のア及びイの取扱いに当たっては,生徒の発達段階を考慮し,複雑な地域の結び付きや事象などに深入りしないように配慮する必要がある。また,内容の(2)のウ及びエ並びに(3)の取扱いに当たっては,生徒の発達段階を考慮し,日本や世界の様々な地域の相互関連や動向にも触れながら多面的に取り扱うように配慮する必要がある。

(3) 内容の(1)のウの取扱いに当たっては,我が国と政治,経済又は文化の上で関係の深い地域又は国を中心とし,その他の地域又は国については簡略に扱うように配慮する必要がある。

(4) 内容の(2)のウの取扱いに当たっては,指導の観点や学校所在地の事情によって,内容の(2)のエの中の学校所在地を含む地域の学習と結び付けて学習の効果を高めるようにするなど,弾力的に取り扱ってもよい。また,指導に当たっては,歴史的分野の指導との関連を考慮して取り扱う必要がある。

(5) 内容の(2)のエにおける日本の地域区分については,指導の観点,学校所在地の事情などを考慮して適切に決める必要がある。また,各地域の特色については,等質地域と機能地域の両面から考察させるようにする必要がある。

 

〔歴史的分野〕

 1 目 標 (1) 我が国の歴史を,世界の歴史を背景に理解させ,それを通して我が国の伝統と文化の特色を考えさせるとともに,国民としての自覚を育てる。

(2) 歴史における各時代の特色と時代の移り変わりを,地理的条件にも関心をもたせながら理解させるとともに,各時代が今日の社会生活に及ぼしている影響を考えさせる。

(3) 国家・社会及び文化の発展や人々の生活の向上に尽くした先人の業績を学ばせるとともに,現在に伝わる文化遺産をその時代や地域との関連において理解させ,それを愛護し尊重する態度を育てる。

(4) 歴史にみられる国際関係や文化交流のあらましを理解させ,他民族の文化,生活などに関心をもたせて国際協調の精神を養う。

(5) 具体的な事象の学習を通して歴史に対する関心を高めるとともに,歴史的事象を多角的に考察し公正に判断しようとする態度と能力を育てる。

 2 内 容 (1) 文明のおこりと日本  人類が,それぞれの地域の自然環境に対応しながら,文明を築き上げていったことを理解させる。

 また,日本列島に住む人々の生活が狩猟・採集から農耕へと発展し,やがて,東アジアの情勢とも関連をもちながら次第に国が形成されていったことを理解させる。

ア 人類の出現と世界の古代文明

 人類の出現と古代文明を扱い,特に自然環境との関連,技術の発達,文字の使用などに着目させる。 イ 日本人の生活の始まり  繩文(じょうもん)文化と弥生(やよい)文化を扱い,当時の人々の生活のありさまを理解させる。 ウ 国の成り立ちと東アジアの動き  古墳文化を中心に扱い,大和朝廷によって国が統一されていったことを理解させるとともに,当時の人々の信仰に着目させる。また,当時の朝鮮や中国の情勢を簡潔に扱うとともに,大陸から移住してきた人々が日本の社会の発展に果たした役割に着目させる。
(2) 奈良(なら)・平安の都と貴族の政治  大陸の文物・制度を積極的に取り入れて律令(りつりょう)政治による統一国家の形態が整えられ,仏教文化が栄えたことを理解させるとともに,当時の文化に見られる国際的な要素に着目させる。

 また,都を中心とした貴族社会の繁栄と地方における農民の生活に着目させ,律令政治の変質に伴って武士がおこり次第に力を強めていったこと及びその間に文化の国風化が進んだことを理解させる。

ア 聖徳(しょうとく)太子と飛鳥(あすか)文化

 当時の東アジアの情勢のあらましに触れながら,聖徳太子の政治と飛鳥文化の特色を理解させる。 イ 奈良の都と天平(てんぴょう)文化  大化の改新と律令の制定に触れながら,律令国家の組織が整えられていったことを理解させる。また,奈良の都の様子と天平文化の特色を理解させるとともに,遣唐使の派遣に着目させる。 ウ 平安の都と武士のおこり  平安京への遷都,摂関政治及び武士のおこりを扱い,荘園(しょうえん)の発達に触れながら,律令政治の変化のあらましを理解させる。 エ 貴族の生活と国風文化  貴族の生活のありさまと国風文化の特色を理解させる。また,遣唐使の廃止と東アジアの情勢の変化に着目させる。
(3) 武家政治の展開と庶民生活の向上  鎌倉(かまくら)幕府によって武家政治が始まり,次第に武家社会が発展していったこと及び鎌倉時代から室町時代の間に武士や庶民の生活が向上し,武家文化の形成と庶民文化の芽生えがあったことを理解させる。

ア 鎌倉幕府と武士の生活

 源平の戦いの後,鎌倉幕府が開かれ武家政治が成立したことを理解させる。また,武士の生活と鎌倉文化の特色を理解させるとともに,新仏教の興隆に着目させる。 イ 蒙古(もうこ)襲来とアジアの動き  大陸における蒙古民族の活動について簡潔に扱うとともに,蒙古襲来とそれがその後の幕府政治に及ぼした影響を理解させる。 ウ 室町幕府の政治と外交  鎌倉幕府の滅亡から建武の新政を経て室町幕府の成立に至るまでのあらましと室町幕府の政治及び日明(にちみん)貿易のありさまを理解させる。また,応仁(おうにん)の乱の後,各地に戦国大名が台頭してきたことに着目させる。 エ 都市の発達と庶民文化  鎌倉時代からの農業の発達と新しい都市の形成を扱い,畿内(きない)を中心とした農村や都市に自治的な組織が生まれてきたこと及び庶民文化が芽生えてきたことを理解させる。また,東山文化を中心に室町時代の文化の特色を理解させる。
(4) 天下統一の歩み  ヨーロッパ人が我が国に来航した時代的背景に着目させながら,ヨーロッパ文化に初めて接した当時の日本人の対応とヨーロッパ文化の影響について理解させる。

 また,織田(おだ)・豊臣(とよとみ)による国内の統一とその時代の対外政策のあらましを理解させるとともに,時代の風潮を反映した清新活達な文化が創出されたことに着目させる。

ア ヨーロッパ人の来航とその背景

 ヨーロッパ世界の動きを,ルネサンスと宗教改革を中心に扱うとともに,ヨーロッパ人の海外発展について,イスラム世界との接触などに触れながら理解させる。また,ヨーロッパ文化の伝来とその影響について理解させる。 イ 織田・豊臣の国内統一  織田・豊臣の統一事業及び海外との関係のあらましを扱い,この時代の国内の動きと社会の新しい気運について理解させる。 ウ 安土(あづち)・桃山時代の文化  安土・桃山時代の文化を,南蛮文化の受容にも触れながら理解させる。また,武将,豪商などの生活文化に着目させる。
(5) 江戸幕府と鎖国  将軍と大名との関係,身分制度を基礎にした社会,鎖国政策などを通して,幕藩体制の特色を理解させる。

 また,この時代には各地域に特色ある産業が発達したこと,経済の発展に伴い町人勢力が増大し町人文化が都市を中心に形成されてきたことを理解させる。

ア 将軍と大名

 江戸幕府の成立,大名の統制,身分制度の確立及び城下町と農村の様子を扱い,次第に幕藩体制が確立していったことを理解させる。 イ 鎖国と幕府政治の推移  日本人の海外発展と鎖国を扱い,鎖国政策の影響について着目させる。また,享保の改革のころまでの幕府政治のあらましを理解させる。 ウ 産業の発達と町人文化  新田開発,農業技術の発達などによる農業生産の増大と諸産業及び交通の発達について理解させる。また,幕府の学問奨励,町人の台頭などと関連させて元祿(げんろく)文化の特色を理解させる。
(6) 開国前の日本と世界  アジアに進出してきた欧米諸国の動きとその背景にあるヨーロッパの近代社会の発展のあらましを理解させる。

 また,幕藩体制が動揺していった事情を理解させるとともに,そこに新しい思想や近代社会への動きが芽生えていたことに着目させる。

ア ヨーロッパの近代社会と産業革命

 イギリスの革命,アメリカの独立,フランス革命などを中心とする近代民主政治の成立と発達,産業革命と社会の変化,近代科学と文化の発達などを扱い,それらが後に我が国の近代社会の形成や発展に影響を与えたことに着目させる。 イ ヨーロッパ勢力の進出とアジア  ヨーロッパ諸国の進出とアジア諸国の対応を,インドと中国を中心に扱い,そのあらましを理解させる。また,これらを通して,ヨーロッパ諸国の産業革命後の対外進出の動きについて理解させる。 ウ 幕政の改革と対外政策  商業の発達に伴う都市と農村の変化を扱い,幕府財政の窮乏,百姓一揆(いっき)などに触れながら幕政の改革を理解させる。また,欧米諸国の接近に対する幕府の対応策に着目させる。 エ 新しい思想と地方の文化  化政文化を扱い、蘭学(らんがく)と国学を中心とする学問・思想の新しい動きと教育・文化の広がり及び地方の生活文化について理解させる。
(7) 明治維新  内外の複雑な情勢の中で明治維新を実現したことに着目させるとともに,近代国家の形成に当たって新政府のとった諸政策について理解させる。

 また,我が国の独立の確保と国家の発展に尽くした維新当時の人々の努力,生活文化面における西欧化と伝統文化とのかかわりなどに着目させる。

ア 開国と幕府の滅亡

 ペリーの来航,開国による社会の混乱と尊皇攘夷(じょうい)運動及び幕府の滅亡を扱い,開国から維新までの経過のあらましを理解させる。 イ 新政府の成立  王政復古によって新政府が成立し,廃藩置県,身分制度の廃止,学制の頒布,徴兵令の公布,地租改正などの諸改革によって,国家・社会の体制を整えていったことを理解させる。また,朝鮮及び中国との条約締結,領土の画定などを通して新政府の外交に着目させる。 ウ 文明開化と殖産興業  欧米の思想,技術,諸制度,生活様式などを積極的に取り入れ,欧米諸国にならった近代社会をつくることに努めたこと及び政府の富国強兵・殖産興業の政策によって近代工業が育成されたことを理解させる。
(8) 近代日本の歩み  我が国が,明治の初期以来,次第に近代国家の体制を整えるとともに,産業や文化の発展をもとに社会の近代化を進めていったこと及びその間に国際的地位が高まっていったことを理解させる。

 また,急速に列強に追い付こうとしたことから,そこに多くの問題が生じてきたことに着目させる。

ア 大日本帝国憲法の制定と議会政治

 自由民権運動が広がっていった時代の動きを背景に,大日本帝国憲法が制定された経緯のあらましを理解させる。また,この憲法の制定及び議会政治の開始の歴史的意義に着目させる。 イ アジアの国際関係と対外政策  当時の国際環境を背景に,日清(にっしん)・日露戦争及び条約改正を扱い,我が国と大陸との関係に着目させるとともに,欧米諸国との対等の外交関係の樹立に国民的関心が払われたことを理解させる。 ウ 近代産業の発展と社会問題  我が国の産業革命の進行を扱い,近代産業が発達し資本主義経済の基礎が固まっていったこと及び産業の発展に伴い都市や農村に社会問題が起こってきたことを理解させる。 エ 生活の変化と近代文化の形成  都市,農・山・漁村などの生活の変化及び学問,教育,科学,芸術などの発展を簡潔に扱い,生活や文化が次第に近代化されてきたことを理解させる。
(9) 二つの世界大戦と日本  第一次世界大戦と第二次世界大戦を中心として,当時の国際情勢のあらましとそれに対応する我が国の動きに触れながら,その間の国内の政治・経済及び国民生活の推移を理解させる。

 その際,世界の国々の関係がいよいよ緊密となり,国内の動きが国際情勢と深くかかわりをもってきたことに着目させるとともに,近代における戦争が全世界的な規模をもち,多くの人々に惨禍を及ぼしたことを理解させる。

ア 第一次世界大戦と戦後の世界

 第一次世界大戦の勃発(ぼっぱつ)とその背景となった国際関係,日本の参戦,ロシア革命及び戦後の国際協調を扱い,国際関係の推移のあらましを理解させるとともに,民族運動の高揚,アメリカ合衆国やソビエト連邦の動向及び国際平和への努力に着目させる。 イ 政党政治の発達と文化の大衆化  国民の政治的自覚の高まり,政党政治の発達,社会主義運動や労働運動の展開,都市を中心とする文化の大衆化などについて理解させるとともに,民本主義の思想が普及していったことに着目させる。 ウ 激動する世界と日本  第一次世界大戦後から第二次世界大戦にかけての世界の動きを,特に世界恐慌以後の欧米諸国の政治・経済体制の変化を中心に扱い,その特色を理解させる。この間,国内においては,経済の混乱が社会問題を生み,軍部の台頭もみられ,それらが政治・外交に大きな影響を及ぼしたことを理解させる。また,日華事変を,中国をめぐる国際情勢を背景に扱い,中国の民族運動と我が国の大陸進出に着目させる。 エ 第二次世界大戦  第二次世界大戦勃発前後の国際情勢のあらましと国内の動きを扱い,戦争の開始から敗戦までの経過を,戦時下の国民生活にも触れながら理解させる。
(10) 新しい日本と世界  我が国の民主化と再建の過程を,いわゆる冷たい戦争,アジア・アフリカ諸民族の独立,日本の独立と国際連合への加入などと結び付けて理解させるとともに,科学技術の急速な進歩とそれに伴う国民の生活や意識の変化及び国際社会の動きと日本の進展のあらましを大観させる。
 3 内容の取扱い (1) 内容の(1)から(5)までの取扱いに当たっては,生徒の発達段階を考慮し,具体的な事象や事物の学習を中心として,抽象的かつ高度な内容,複雑な社会構造などに深入りしないように配慮する必要がある。また,内容の(6)から(10)までの取扱いに当たっては,生徒の発達段階を考慮し,各時代の諸事象を広く国際情勢などにも触れながら多角的に取り扱うように配慮する必要がある。

(2) 内容の(1)のアにおいてギリシア,ローマなどの古代文化を取り扱う場合には,それぞれの文化的特色に触れる程度とする。また,内容の(1)及び(2)の取扱いに当たっては,考古学などの諸科学の成果をも適宜活用するとともに,神話・伝承などの学習を通して,当時の人々の信仰やものの見方などに触れさせることが必要である。

(3) 郷土の史跡その他の文化財を見学・調査させて,我が国の歴史の発展を具体的に把握させるとともに,特に内容の(5),(6),(7)及び(8)の取扱いにおいては,地理的分野との関連を図り,かつ民俗学の成果を活用するなどして,郷土の生活文化に触れさせることが望ましい。その際,程度の高い取扱いは避けるようにする必要がある。

(4) 内容の(10)の第二次世界大戦後の事項の取扱いに当たっては,特に公民的分野における指導との関連を考慮し,世界の歴史の動きを背景に,日本の歴史の大きな流れが大観できるように簡潔に取り扱う必要がある。

(5) 内容の全般にわたる学習を通して,生徒の歴史上の人物に対する興味や関心をできるだけ生かした指導に努めるとともに,特に郷土の人物を含めて二,三の人物を重点的に取り上げ,これを中心にして学習を展開するなどの工夫も必要である。

 

〔公民的分野〕

 1 目 標 (1) 個人の尊厳と人権の尊重の意義,特に自由・権利と責任・義務の関係を社会生活の基本として正しく認識させ,民主主義に関する理解を深めるとともに,国民主権を担う公民として必要な基礎的教養を培う。

(2) 民主政治の意義,国民生活の向上と経済活動の関係などを認識させ,現代の社会生活における個人の役割についての理解を深めさせるとともに,社会の諸問題に着目させ,自ら考えようとする態度を育てる。

(3) 各国が相互に主権を尊重し,各国民が協力し合うことによって,世界の平和を維持し人類の福祉に貢献できることを認識させ,国際協調の精神を養うとともに,自国を愛し,その平和と繁栄を図り文化を高めることが大切であることを目覚させる。

(4) 社会的事象を確実な資料に基づいて様々な角度から考察し,事実を正確にとらえ,公正に判断しようとする態度と能力を育てる。

 2 内 容 (1) 民主主義と現代の社会生活 ア 人間の尊重と日本国憲法  民主主義の実現を目指す日本国憲法制定の歴史的な意義に気付かせ,人間の尊重についての考え方を,基本的人権を中心に深めさせる。また,国民主権と和主義が基本的原則とされていることを理解させ,日本国及び日本国民統合の象徴としての天皇の地位について理解させる。 イ 個人と社会  家族,地域社会などの身近な社会集団についての機能を扱い,人間は本来社会的存在であることに気付かせるとともに,社会生活における個人の役割とその在り方について理解させる。

 また,現在の家族制度が,個人の尊厳と両性の本質的平等に基づいていることの意味と望ましい家族の人間関係について理解させる。

ウ 現代の文化と生活  現代の社会生活における文化のはたらきとその特色を理解させ,我が国の文化の伝統に関心をもたせるとともに,文化を創造する意義に気付かせる。
(2) 国民生活の向上と経済 ア 消費生活と経済の仕組み  価格のはたらきや物価の動きを理解させるとともに,貯蓄,保険,租税などの意義に着目させ,経済活動のあらましについて消費生活を中心に理解させる。 イ 職業と生産活動  職業が生産活動に果たす役割及び勤労の権利と義務に関連させて,職業生活の意義について理解させる。その際,労働組合の意義及び労働基準法の精神について理解させる。

 また,現代の生産の仕組みと関連させて,社会における企業の役割について理解させる。

ウ 国民生活と福祉  国民生活にとって財政収支が重要な意味をもっていることを理解させるとともに,租税の役割と納税の義務についての理解を深めさせる。

 また,国民生活の向上や福祉の増大のためには,雇用と労働条件の改善,消費者の保護,社会資本の整備,公害の防止など環境の保全,資源やエネルギーの開発とその有効な利用,社会保障制度の充実などが必要であることを理解させる。その際,国や地方公共団体の役割を理解させるとともに,個人,企業などの社会的責任について考えさせる。

エ 貿易と国際協力  国家間の経済の交流を成り立たせている貿易の意義と役割及び我が国の貿易の特色を理解させる。また,国際的な協力が我が国及び世界の経済の発展にとって大切であることを理解させるとともに,世界には資本主義経済のほかに社会主義経済を建前とする諸国があることについても理解させる。
(3) 日本の政治と国際社会 ア 民主政治と法  法の意義について,具体的な生活とのかかわりから扱い,民主的な社会生活を営むためには,法に基づく政治が確立されなければならないことに着目させるとともに,法を守ることが大切であることを理解させる。また,社会の秩序を維持し,国民の権利や義務を守るために,法による公正な裁判の保障があることに気付かせる。 イ 議会制民主主義  地域社会における住民の権利や義務と関連させて,地方自治の基本的な考え方を理解させ,地方自治の発展に寄与しようとする住民としての自治意識の基礎を育てる。

 また,国会を中心とする民主政治の仕組みやはたらき,特に議会制民主主義の意義について理解させるとともに,多数決の原理とその運用の在り方についての理解を深めさせる。

ウ 選挙と政党  国民主権の具体的な現れとしての選挙についてのあらましを理解させるとともに,民主政治における政党の役割についても理解させる。 エ 国際社会と平和  国家の主権,領土(領海,領空を含む。)国際連合などの学習を通して,第二次世界大戦後の我が国をめぐる国際関係の推移のあらましに触れながら,国家間の相互の主権尊重と協力,各国民の相互理解と協力が平和の維持と人類の福祉の増進にとって大切であることを理解させるとともに,日本国憲法の平和主義についての理解を深め,我が国の安全の問題について考えさせる。その際,核兵器の脅威に着目させ,戦争を防止し,平和を確立するための熱意と協力の態度を育てる。
 3 内容の取扱い (1) 内容の取扱いに当たっては,地理的分野及び歴史的分野の学習の成果を活用するとともに,これらの分野で育成された態度や能力が,更に高まり発展するように配慮する。

 また,社会的事象はすべて相互に関連し合っていることに留意し,特定の内容だけを取り上げることなく,分野全体としてのまとまりと筋道のある学習指導の展開ができるようにする。

(2) 内容の取扱いに当たっては,内容の基本的な意味を理解させるように配慮する必要があり,専門用語を乱用することになったり,細かな事柄や程度の高い事項の学習に深入りしたりすることのないようにし,政治,経済などについての見方や考え方の基礎が養えるようにする。

(3) 内容の指導に当たっては,教育基本法第8条の規定に基づき,適切に行うよう特に慎重に配慮して,生徒の公正な判断力の育成を目指すことが必要である。

 

第3 指導計画の作成と各分野にわたる内容の取扱い 1 指導計画の作成に当たっては,小学校社会科の内容との関連及び各分野相互の有機的な関連を図るとともに,地理的分野及び歴史的分野の基礎の上に公民的分野の学習を展開するこの教科の基本的な構造に留意して,全体として教科の目標が達成できるようにする必要がある。

2 第1学年及び第2学年を通じて地理的分野と歴史的分野を並行して学習させ,第3学年において公民的分野を学習させることを原則とするが,学校の実態に即して適切な指導計画を作成することができる。

 各分野に充てる授業時数は,地理的分野140単位時間,歴史的分野140単位時間,公民的分野105単位時間を標準とする。

3 指導の全般にわたって,地図や年表を読みかつ作成すること,新聞,読み物,統計その他の資料に親しみかつ活用すること,観察及び調査したことを報告書にまとめることなど作業的な学習を十分取り入れる必要がある。