第2節 社 会
第1款 目 標
社会生活についての理解と認識を深め,民主的,平和的な国家・社会の有為な形成者として必要な資質を養う。
このため,
1 人間の存在や価値についての思索を通して,人間としての自覚を高めるとともに,自他の人格を尊重して基本的人権や公共の福祉を重んずることが,社会生活の基本であることについての認識を深めて,人間生活の向上を図り,進んで国家・社会の進展に寄与しようとする態度を養う。
2 社会生活の発展を時間的および空間的に把握させ,現代社会に関する基本的事項を理解させて,社会生活の諸問題を正しく批判し,問題を建設的に解決しようとする態度を養う。
3 国際関係と世界におけるわが国の役割を理解させて,国民としての自覚を高めるとともに,国際協調の精神を育成し,世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする態度を養う。
4 社会生活のあらゆる面が急速に変化発展している日本や世界の現状ならびに動向を把握させ,さまざまな情報に対処し,諸資料を吟味し科学的,合理的に研究して公正に判断しようとする態度とそれに必要な能力の基礎を養う。
第2款 各 科 目
第1 倫理・社会
1 目 標
(2) 現代社会について客観的に認識させるとともに,そこにおける人間の生き方について考えさせ,青年期における自己形成の課題を自覚させる。
(3) 人生観・世界観の確立に資するために,人間や社会に対する先哲の基本的な考え方を理解させ,これをみずからの問題と結びつけて,行為の倫理的な価値や基準について判断できる能力をつちかう。
(4) 現代の社会に生きる人間として,常に自己の考え方や行為を反省し批判していく自主的態度や,倫理的実践を高めようとする自覚的な態度と,それらに必要な能力を養う。
2 内 容
現代社会の特質についての認識を深めるとともに,その中に生きる青年としての人間形成の課題を自覚させる。
現代社会と人間関係
組織の巨大化,中間層の拡大,マスコミュニケーションなど,大衆社会・情報化社会における諸問題を取り扱い,あわせて家族や職域社会その他の社会集団における人間関係のあり方について考えさせる。
青年と人間形成
現代の青年の心理的・社会的諸問題を取り扱い,青年期の自覚にも触れて,人生の意義について考えさせる。
(2) 人生観・世界観
人間や社会のあり方について思索するための基本的な問題を取り上げ,さまざまな立場やその考え方について理解させ,みずからの人生観・世界観を確立するための手がかりを得させる。
思想の源流
ギリシアの思想,キリスト教,仏教および儒学などの基本的な考え方を取り扱い,それぞれの性格や意義を理解させる。
現代と思想
人間の尊重,合理的精神,民主社会の倫理などの観点から,現代に生きる世界のおもな思想を選んで取り扱い,現代における思想の諸問題について理解させる。
日本の思想
日本人の古来の考え方や,外来思想を受容し発展させたものを取り扱い,このような日本の伝統思想についての理解を深めるとともに,今後の思想的課題について考えさせる。
上記の事項については,たとえば次のような,ものの考え方の基本的問題についての理解を含めて指導する。
倫理的価値と人格形成(善と実践,など)
芸術と人生(美と崇高,など)
人生における宗教の意味(永遠と信仰,など)
科学的なものの考え方(社会認識の方法,など)
個人と国家(国民としての自覚,人類愛,など)
民主主義の倫理(自由と責任,平等,など)
3 内容の取り扱い
イ 青年と人間形成についての指導においては,現代社会に生きる青年の立場から,切実で具体的な問題を取り上げながら,自己の人間形成の課題について考えさせるようにすること。
ウ 内容の(2)への導入としての役割がじゅうぶん果たせるようにすること。
(2) 内容の(2)の取り扱いに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
○先哲の基本的な考え方を中心にするもの
○内容の(2)で示した,ものの考え方の基本的問題などを中心にするもの
○思想の歴史的な展開を中心にするもの(この場合,西洋,東洋,日本のどれかを中心に取り扱うことも考えられる)
○東西の先哲の著作や言行の一部などとそれに関する設問を中心にするもの
イ 古典などに親しむ態度や習慣を養い,読書によって思索を深める意義を認識させるようにすること。また,思索を深めるためには,読む力,表現する力をつける学習過程が必要である。したがって,学習内容を平易で豊かなものにするとともに,思想的・論理的な文章を読んで理解し,それらの内容に関する自分の考え方を表現できるようにすること。
(3) 内容の(1)と(2)は,この順序に取り扱うことが望ましい。また,特定の事項だけにかたよらないように取り扱う。
(4) 内容の指導に当たっては,次の事項に配慮するものとする。
特に,「倫理・社会」の学習は,「政治・経済」の学習と密接な関連をもつことによって,より具体化されるものであることに留意して指導すること。
イ 社会や文化や人間の見方には異なったものがあることを考慮するとともに,人間のあり方について,広い視野に立っての理解を得させるようにすること。
ウ 政治および宗教に関する事項の取り扱いについては,教育基本法(昭和22年3月31日,法律第25号)第8条および第9条の規定に基づき,適切に行なうよう特に慎重に配慮して指導すること。
エ 生徒の手記や作文などの利用,各種の統計,新聞などの資料の検討・利用,討議などを適宜実施したり,必要に応じて見学,調査などを実施することによって,学習効果をあげるように努めること。
第2 政治・経済
1 目 標
(2) 日本国憲法のもとにおける民主政治についての理解を深め,特に基本的人権と議会制民主主義を尊重し,養護することの意義をじゅうぶん認識させて,民主政治のよりよい実現のために努力しようとする態度を養う。
(3) 産業・経済の急激な変化発展および日本経済の国際化など時代の進展を背景として,日本経済の特質と問題点とを総合的に理解させるとともに,労働関係の改善や社会福祉の増進などを通して,国民福祉の向上を図ることの必要性を認識させ,国民経済の発展とその民主化に貢献しようとする態度を養う。
(4) 国際関係の基本問題および国際政治の特質を理解させ,国際社会におけるわが国の地位の認識とその使命の自覚を得させ,国際協力を進め,世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする態度を養う。
(5) 客観的な資料を選び,これを正しく利用して,現実の諸問題を科学的,合理的に研究し,多面的な考え方を理解したうえで,公正に判断しようとする自主的な態度を養い,それに必要な能力を高める。
2 内 容
民主政治の基本原理
国民と政治
政治社会特に国家の特質と機能を明らかにし,国民の参政の意義について認識させる。
政治と法
政治権力と国民の自由・権利について考えさせ,近代法治主義ないし法の支配の意義を理解させる。
国民主権と民主政治
世界のおもな政治体制(西欧民主政治,社会主義国家の政治など)について,成立の歴史的条件にも触れながら,その特質を明らかにし,特に議会制民主主義の本質を独裁政治との比較において理解させる。なお,直接民主制,議院内閣制,大統領制についても取り扱う。
日本国憲法と民主政治
日本国憲法の基本的性格
日本国憲法の基本的性格を帝国憲法などとの比較において理解させる。
基本的人権の保障
自由権的基本権と生存権的基本権,基本的人権と公共の福祉などについて理解させる。
政治機構と政治の運営
国会,内閣,裁判所の機構と機能を明らかにするとともに,政治の民主的な手続きの意義について理解させる。
日本の政治の現状と課題
政党政治と選挙,行政機能の拡大と民主化,地方自治と住民福祉,世論と現代政治などを取り上げて,国民の政治意識や参政のあり方について考えさせる。
(2) 日本の経済と国民福祉
経済活動の進展と現代経済の働き
経済社会の変容
経済社会の変容を19世紀と20世紀または第二次世界大戦の前と後(あと)というような比較でとらえさせる。
現代の企業
生産に果たす資本・労働・技術の役割について理解させる。
現代の市場
現代の市場における労賃・利子率・価格・為替率などの決定のされ方や,その変化,さらに管理価格などについて理解させる。
金融・財政の役割
現代の経済に果たす金融や財政の役割について考えさせる。その際,財政の調整的機能についても理解させる。
国富と国民所得
経済の調和ある発展について,国民所得の見地からだけでなく,国富や国民福祉の観点からも理解させる。
経済成長と景気
景気変動とその対策,さらに経済成長とそのための政策について理解させる。
日本経済の現状と課題
日本経済の発展とその諸条件
日本の産業構造についても考えさせる。
日本経済の課題
たとえば,経済成長と国民福祉,都市問題,社会資本の問題,農業と農村の問題,中小企業の問題,物価問題,消費者保護の問題などを取り上げて考えさせる。
国際経済の動向と日本経済
国民経済と国際経済
貿易の成立する基本条件や国際経済の変化などについて理解させる。また,経済統合や発展途上国の諸問題,国際通貨体制なども扱う。
経 済 体 制
資本主義経済と社会主義経済およびそれらの変化などについて理解させる。
日本経済の国際化と発展方向
貿易や資本の自由化の意義,国際経済における日本の役割,国際収支の動向などを理解させる。
国民生活の向上と福祉の実現
公害と国民生活
公害の特質について認識させるとともに,公害の防除には,人間尊重,自然的条件への配慮および国民福祉の立場に立った企業や行政の努力,科学技術の成果の利用ならびに国民の協力などがたいせつなことを理解させる。
労働関係の改善
流動する労働市場について理解させ,賃労働や労働条件の意味,労働組合の存在意義を認識させるとともに,労働関係の改善について考えさせる。
国民福祉の向上
所得・消費の水準や格差,成長経済下の社会的消費・社会資本の状況,社会変動などの観点から,社会的緊張の発生する理由と社会保障の必要性について理解させ,おもな国々の社会保障制度にも触れながら,福祉国家の実現について考えさせる。
(3) 国際関係と国際政治
国際社会と国家
国際関係の基本的要因
国際関係の基本的要因(政治的,経済的,思想的要因など)を明らかにしながら,国際社会の特質を理解させる。
国際政治と国家
国際政治の特質を国内政治との比較において理解させるとともに,国際法の意義について認識させる。
国際政治と国際協力
国際連合などの意義と役割に対する理解を通して,平和の維持と国際協力について考えさせる。
国際政治の動向と日本
国際政治の現状と課題
第二次世界大戦後の国際政治の動向をとらえさせ,集団安全保障,軍縮問題,原子力問題,民族問題などについて理解させる。
国際政治と日本
現代の国際政治における日本の地位と役割を理解させるとともに,国際平和と人類の福祉への寄与について考えさせる。
3 内容の取り扱い
イ 日本国憲法と民主政治の指導に際しては,日本国憲法のもとにおける法の支配(憲法の最高法規性,違憲立法審査権を含む)についても理解させるようにすること。
ウ 政治機構と政治の運営の指導に際しては,特に議事手続きや裁判手統きなどの民主的手続きが重要であることを理解させるとともに,これを日常の生活の諸分野に生かそうとする態度を養うようにすること。
(2) 内容の(2)の取り扱いに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
イ 労働関係の改善や国民福祉の向上の指導に際しては,現在のわが国で実現されている法的,制度的な基本理解のうえにたって,国民経済との関連を図るようにすること。
(3) 内容の(3)の取り扱いに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
イ 国際政治を取り扱う場合,特に国際経済との関連を図るようにすること。
(4) 内容については,特定の事項だけにかたよらないように取り扱う。
(5) 内容の指導に当たっては,次の事項に配慮するものとする。
イ 社会生活の理想や価値が,政治的,経済的,社会的な事象を通して具体化されるものであることに留意して指導すること。
ウ よりよい社会の実現を目ざす科学的な探究心に裏づけられた建設的な態度を育てるようにすること。その際,内容と関連のある現代の諸問題や時事的事象の取り扱いにおいては,教育基本法第8条の規定に基づき,適切に行なうよう特に慎重に配慮して指導すること。
エ 各種の統計,年鑑,白書,新聞,その他の資料を検討・利用しながら,主体的に考えていく習慣を養うこと,諸資料の見方,扱い方に慣れさせ,有効に活用する能力と,それらを批判的に見る能力を養うことなどに留意すること。また,見学,調査などを適宜実施することによって,学習効果をあげるように努めること。
第3 日 本 史
1 目 標
(2) わが国の歴史に関する基本的事項を理解させ,歴史的思考力をつちかい,各時代の性格や時代の推移を把握させて,それぞれの時代のもつ歴史的意義を考察させる。
(3) わが国の歴史にみられる国際関係や文化交流のあらましを理解させ,世界の歴史におけるわが国の地位や文化の形成過程を考察させて,国際協調の精神を養う。
(4) 文化の創造,発展および伝播(でんぱ)に関する祖先の努力や,文化の伝統についての理解を深め,文化遺産に親しみこれを尊重する態度を育て,さらに新しい文化を創造し発展させようとする意欲を高める。
(5) 資料をも利用し,史実を実証的,科学的に理解する能力を育て,歴史的事象を多角的に考察し,公正に判断する態度を養う。
2 内 容
民族の起源
農耕文化の発生
日本列島の地理的位置,自然環境にも触れ,原始社会の生活と文化が,農耕の開始や金属器の使用によって変化発展したことを,東アジアの動きと関連させて理解させる。原始信仰にも触れる。
(2) 古代文化の形成と展開
国家の統一と大陸文化の摂取
律令(りつりょう)体制の成立と古代文化の形成
摂関政治と院政
荘園の発達
国風文化の展開
大陸文化の摂取については,中国,朝鮮などとの交渉,帰化人や留学生の活動に着目させる。古代文化の形成については,時代的背景を考察させながら古代の伝承や天平(てんぴょう)文化の特色に触れる。 国風文化については,大陸文化が消化されて日本人の生活や思想と融合し,宗教,文学・美術などに特色のあるものが生じてきたことを理解させる。荘園の発達・変化,武士の発生とその中央進出に着目させる。
(3) 中世文化の形成と展開
武家政権の成立と文化の傾向
南北朝の争乱
幕府の政治と社会の動き
武家文化の形成と文化の庶民化
平氏の政権に触れたのち,鎌倉幕府の成立から室町時代に至る間の中世文化の形成と展開を,武家社会の進展と関連させて理解させる。鎌倉時代の文化の傾向については,鎌倉仏教,学問・文学・美術などを中心に考察させる。武家の規範にも触れる。武家文化の形成については,公家文化と融合し,禅宗その他の中国文化の影響を強く受けて成熟したことを理解させ,文化の地方への伝播・普及に触れる。庶民の文化については,郷村の成立や庶民の社会的・経済的地位の向上と関連させて理解させる。戦国大名を取り扱い,町衆にも触れる。
(4) 近世文化の形成と展開
国内の統一と文化の形成
幕藩体制の成立と鎖国
産業経済の進展と元禄(げんろく)文化
幕政の推移と化政文化
封建社会の動揺と新しい学問・思想
安土(あづち)桃山時代の文化の形成については,宗教的拘束から離れた新鮮な文化が生まれたことを,国内の統一の進展と関連させながら理解させる。南蛮文化に触れる。幕藩体制の成立については,身分制度の確立,幕府と藩との関係などを取り扱う。元禄文化については,儒学を中心とする学問の発達や上方を中心とする町人文化の興隆を,経済の発展や社会の安定と関連させて理解させる。化政文化については,江戸を中心とする文学・美術・芸能の発達,教育の普及,庶民の信仰生活の動向などに触れる。国学・洋学などの新しい学問・思想については,封建社会の動揺と関連させて取り扱うとともに,それらが後の政治や社会に及ぼした影響を理解させる。
(5) 近代国家の成立と近代文化の発達
幕府の衰亡と国際環境
明治維新と西洋文化の摂取
自由民権運動と議会政治の開始
対外政策の展開
近代産業の発展
近代文化の発達
19世紀の中ごろから20世紀の初めにかけての世界の動向の中で,わが国が独立を保ちながら明治維新を達成し,欧米諸国に対する立ちおくれを克服することに努め,近代国家を形成していった過程を理解させる。その際,封建的身分制度の廃止,政治思想の展開,対外政策の展開,近代産業の発展,社会問題などに着目させる。西洋文化の摂取については,江戸末期におけるそれらにも触れる。近代文化の発達については,外来文化と伝統文化との関連に着目させる。
(6) 国際情勢の推移と日本
第一次世界大戦と日本
国民生活と文化の進展
経済界の不況と軍部の台頭
第二次世界大戦
第一次世界大戦から第二次世界大戦の終結に至る過程を,国際情勢の推移の中で理解させる。その際,日本の対外政策,国内の政治の動き,経済問題,社会問題などの相互の関連に着目させて取り扱う。国民生活と文化の進展については,大正デモクラシーと市民文化,政党政治の発展などを中心に考察させる。文化の大衆化に気づかせる。
(7) 現代の世界と日本
国内の諸改革と日本の再建
国際社会への復帰と経済の復興
世界における日本の地位
第二次世界大戦後の国内の民主的な諸改革,国際社会への復帰,経済の復興,議会制民主政治の進展,国民の生活と意識の変化などの大要を理解させるとともに,世界における日本の地位の変化を世界の動向とも関連させて考察させ,国際社会に生きる国民としての自覚を深める。また,特に原子力時代といわれる今日では,戦争を防止し,民主的で平和な国際社会を実現することが,わが国民にとっても,また人類全体にとっても,重要な課題になっていることを考えさせる。
3 内容の取り扱い
イ 地方の文化については,中央の文化の地方への伝播・普及という視点にとどまらないで,地域ごとに特色あるものを形成した地方の文化を,地域社会のありさまと関連させて取り扱うこと。
ウ 史跡その他の遺跡,遺物,道具,民間風俗などの具体的な文化遺産を取り上げ,われわれの祖先が文化の創造,発展および伝播に努力したことを具体的に理解させること。
(2) 「日本史」の目標を達成し,生徒の歴史的思考力をいっそう深めるため,歴史的な流れの学習の中で,適切な主題を設けて指導することが望ましい。その際,次の諸点を考慮して取り扱う。
b 外来文化の摂取や日本人の文化的創造について総合的に学習できるもの
c 衣・食・住などの生活の発展を,ある程度大きくまとめて学習できるもの
イ 「日本史」を3単位で履修させる場合は最低1主題を,また,4単位以上で履修させる場合はそれぞれの単位数に応じて適切な数の主題を設けて学習させることが望ましいこと。
ウ 二つ以上の主題を取り上げる場合の主題の配当については,観点の異なるものを取り上げ,また,特定の地域や時代にかたよらないように留意すること。
(3) 内容の指導に当たっては,次の事項に配慮するものとする。
イ 目標を達成するのに必要な基本的で発展的な指導事項を重点的に選び,枝葉末節にわたる細かな事がらや程度の高い専門にわたる事項は避けること。
ウ 近・現代史の指導に当たっては,特に慎重な態度の臨み,客観的かつ公正な資料に基づいて,歴史の事実に関する理解を得させるようにすること。その際,「世界史」,「倫理・社会」,「政治・経済」および「地理A」または「地理B」との関連を密にするとともに,内容の取り扱い上の重複を避ける必要があること。
エ 歴史的事象を常に時間的,空間的に正しく位置づけ,時代的背景や地理的条件との関連を考察させるため,年表,地図,絵画,写真などを活用すること。また,その他の身近な資料などを活用して歴史的事象の具体化に努めること。
オ 見学,調査,読書,討議などによる生徒の自発的な学習の展開など,さまざまな学習活動をくふうして,学習効果を上げるように努めること。
第4 世 界 史
1 目 標
(2) 世界の歴史における各地域,民族,社会,国家の発展には,それぞれの特殊性やそれらを通ずる普遍性があることを理解させるとともに,世界の歴史におけるわが国の地位と役割を考察させて,国際協調の精神を養う。
(3) 各時代における人々の努力の集積によって,社会,文化などが発展してきたことを理解させ,歴史の発展における個人や集団の役割について認識させる。
(4) 世界のおもな文化遺産を,それらが生み出された社会の背景や文化交流の史実を通して理解させ,これを尊重して,さらに新しい文化を創造し発展させようとする意欲を高める。
(5) 資料をも利用し,史実を実証的,科学的に理解する能力を育て,歴史的事象を多角的に考察し,公正に判断する態度を養う。
2 内 容
オリエント文化の成立
地中海文化の成立
インド文化,イラン文化の成立
中国文化の成立
原始社会と文化の発生に触れ,自然的条件や民族固有の宗教・慣習・社会などによって,各地域ごとに独自の文化が成立していったことを理解させる。アジア,ヨーロッパなどの古代社会の比較,ヘレニズム時代の歴史的意義,ギリシア・ローマの発展による地中海世界の成立やキリスト教成立の意義に着目させる。インド文化では,主としてカースト制と仏教の成立・発展を,また,イラン文化では,ササン朝ペルシアを中心に取り扱い,中国文化では,漢代までの社会や思想を明らかにする。シルク−ロードの役割にも触れる。
(2) 東アジア文化圏の形成と発展
北アジア諸民族の活動
中国の社会と文化の変遷
漢の崩壊から宋(そう)・元に至るまでの中国を中心に取り扱い,東アジア文化圏が形成され発展していったことを理解させる。中国文化が日本およびアジアの諸民族に与えた影響,特に唐文化のもつ国際性に留意する。また,唐から宋にかけての社会的な変化,遊牧民族の活動に着目させる。
(3) 西アジア文化圏の形成と文化の交流
イスラム世界の形成とイスラム文化
東西文化の交流
イスラム教の成立,カリフ帝国の発展などを中心に取り扱い,西アジア文化圏が形成され,東西文化の交流もさかんに行なわれたことを理解させる。その際,セルジュク−トルコの活動に触れる。イスラム文化については,その特色とインド・東南アジアなどの広い地域にわたって大きな影響を与えたことに留意する。なお,東西文化の交流については,海陸両路における交通の発達にも着目させる。
(4) ヨーロッパ文化圏の形成と発展
西ヨーロッパ封建社会とカトリック教会
東ヨーロッパの社会と文化
キリスト教および封建社会の成立を中心に取り扱い,西ヨーロッパの社会と文化が形成され発展していったことを理解させる。また,封建社会が都市の発達や十字軍の遠征によって動揺・崩壊し,国王による集権化が開始される過程を明らかにする。ビザンチン帝国を中心とする東ヨーロッパの社会と文化については,西ヨーロッパとの違いや,相互の歴史的な関係に着目させる。
(5) ヨーロッパ市民社会の成立と発展
近代ヨーロッパの誕生
ヨーロッパ世界の拡大
市民革命と市民社会の成立
産業革命と資本主義経済の発達
自由主義・国民主義と社会主義運動
ヨーロッパ近代文化の発展
近代ヨーロッパの社会と文化および諸国家の成立と発展を,ルネサンス,宗教改革,絶対主政と啓蒙思想,議会政治の進展,市民社会の人間像に触れながら理解させる。その際,イギリスの革命とフランス革命の異同,産業革命の歴史的意義,アメリカ合衆国の独立・発展とヨーロッパとの関係に着目させるとともに,さらにロシアやラテン−アメリカの動向を明らかにする。16世紀以後のヨーロッパ世界の拡大については,世界の諸地域がヨーロッパ人によってしだいに結びつけられ,これまでと違って,世界におけるヨーロッパ人の優位が急速に確立していったことに着目させる。その際,スペイン,ポルトガル,つづいてオランダの活動とそれに対する日本の対応に触れる。
(6) アジアの専制国家とヨーロッパ勢力の進出
アジア専制国家の盛衰
ヨーロッパ勢力の進出と世界の分割
アジア諸国の動向と日本の近代化
明(みん)・清(しん),チムール帝国・ムガール帝国およびオスマン−トルコ帝国を取り扱い,ヨーロッパ勢力がアジアに進出する前後のアジアの専制国家の特質や東南アジアの情勢を理解させる。また,ヨーロッパ勢力の進出と世界の分割については,イギリスのインド支配,アヘン戦争,太平天国の乱,ヨーロッパ列強の帝国主義政策,アフリカ分割などを中心に明らかにする。その際,アジア諸国の動向と日本の近代化とを比較考察させる。また,国際情勢の推移と日露戦争,中国社会の動揺と辛亥(しんがい)革命,太平洋地域の開拓にも触れる。
(7) 現代世界の成立と展開
第一次世界大戦とアメリカ合衆国の発展
ロシア革命と社会主義運動の推移
世界恐慌と全体主義の台頭
第二次世界大戦
第一次世界大戦後,民主政治の進展とアメリカ合衆国の著しい発展がみられ,また,ベルサイユ体制のもとで国際協調のための努力や軍縮会議などが行なわれたが,世界恐慌を境として,諸国家間の対立が深まり,ついに第二次世界大戦に至ったことの大要を理解させる。その際,欧米諸国における政治・経済体制,特に資本主義経済の変化に着目させるとともに,アジアにおける民族運動の展開,国際連盟成立の歴史的意義,ワシントン会議以後の日米関係,ロシア革命以後におけるソ連邦の社会主義国家の建設,ドイツ,イギリスなどの社会主義運動,ワイマール体制下におけるナチスの台頭などの事情を明らかにする。
(8) 今日の世界と日本
国際連合の成立と冷たい戦争
アジア,アフリカ諸民族の独立と国家建設
国際情勢の推移と日本
国際連合の成立によって国際協調が進められてきたが,米ソ両国の対立の後,国際情勢の著しい変化もみられ,今日もなお緊張が続いている現状に気づかせる。その際,第一次世界大戦後の現代文化の特色に触れるとともに,第二次世界大戦後の中国の動向に着目させる。また,戦後の世界における日本の地位の変化に着目させながら,広い視野に立って,国際社会に生きる日本人としての自覚を深めるとともに,特に原子力時代といわれる今日では,戦争を防止し,民主的で平和な国際社会を実現することが,わが国民にとっても,また人類全体にとっても,重要な課題になっていることを考えさせる。
3 内容の取り扱い
(2) 「世界史」の目標を達成し,生徒の歴史的思考力をいっそう深めるため歴史的な流れの学習の中で,適切な主題を設けて指導することが望ましい。その際,次の諸点を考慮して取り扱う。
b 世界の歴史上の事象について,地域ごとの比較考察的な,あるいは地域相互の関連的な学習のできるもの
c 世界の歴史上の事象の発展を,時代別,地域別にある程度大きくまとめて学習できるもの
イ 「世界史」を3単位で履修させる場合は最低1主題を,また,4単位以上で履修させる場合はそれぞれの単位数に応じて適切な数の主題を設けて学習させることが望ましいこと。
ウ 二つ以上の主題を取り上げる場合の主題の配当については,観点の異なるものを取り上げ,また,特定の地域や時代にかたよらないように留意すること。
(3) 「世界史」に対する生徒の関心を高め,学習効果を上げ,地域や時代における社会と個人の関係を朋らかにするため,世界の歴史上の人物を適切に取り上げることが望ましい。また,主題として人物を取り上げ,人物とその時代的背景との関連などを考察させることも考えられる。
(4) 内容の指導に当たっては,次の事項に配慮するものとする。
イ 目標を達成するのに必要な基本的で発展的な指導事項を重点的に選び,枝葉末節にわたる細かな事がらや程度の高い専門にわたる事項は避けること。
ウ 「世界史」の指導に当たっては,必要に応じて,世界の歴史上の事象と日本の歴史上の事象とを比較させたり,関連させたりするなどして,世界の歴史におけるわが国の地位を明らかにすること。
エ 近・現代史の指導に当たっては,特に慎重な態度で臨み,客観的かつ公正な資料に基づいて,歴史の事実に関する理解を得させるようにすること。その際,「日本史」,「倫理・社会」,「政治・経済」および「地理A」または「地理B」との関連を密にするとともに,内容の取り扱い上の重複を避ける必要があること。
なお,欧米関係では18世紀以後,アジア関係では19世紀中ごろ以後の内容については,各時代における日本やアジア,アフリカ諸国などの動向を正しく位置づけて考察させるとともに,日本と関連の深い事項を重点的に取り上げるように留意すること。
オ 歴史的事象を常に時間的,空間的に正しく位置づけ,時代的背景や地理的条件との関連を考察させるため,年表,地図,絵画,写真などを活用すること。また,その他の身近な資料などを活用して歴史的事象の具体化に努めること。
カ 見学,調査,読書,討議などによる生徒の自発的な学習の展開など,さまざまな学習活動をくふうして,学習効果を上げるように努めること。
第5 地 理 A
1 目 標
(2) 社会環境および自然環境と人間との関係は,人間の活動によって絶えず変化していること,ならびにそれに伴って,国土の再開発や地域空間の再構成が世界各地で進行していることを認識させ,資源を有効に利用し,自然を愛護保全し,生活環境を整備することがたいせつであることを理解させる。
(3) 個々の地理的事象またはその複合の状態を世界的視野に立って探究する学習を通して,それらの事象の分布・配置,相互の関連に関する法則性と類型,事象の成立をめぐる因果関係,地域による個性・差異・類似性などを理解させる。
(4) 地図を有効適切に利用し,地図による表現力を身につけさせ,統計その他の資料を活用する能力と習慣を養うとともに,野外調査・見学などの際に直接触れる具体的な事象に対する考察力を育成して,地理的事象を科学的,総合的に探究していこうとする態度とそれに必要な能力を養う。
2 内 容
イ 地図とその利用
地図の種類と用途
読図と地図作業
ウ 野外調査
(2) 居住と環境
気候と生活
地形と生活
水と生活
世界の自然地域
イ 自然環境と社会環境
ウ 世界の人口
人口分布と人口密度
人口の増減と移動
エ 村落・都市
村落の立地
都市の機能
都市の分布と配置
都市化現象
(3) 資源と産業
農牧業の基本的性格
世界の農牧業地域
林業と森林の分布
水産業と漁場の分布
イ 鉱工業
鉱工業の基本的性格
動力資源の開発
鉱産資源とその開発
世界の工業地域
ウ 商業・交通
商業の機能と生活
交通の機能と生活
消費とその地域的特色
(4) 国家と世界
国家と民族
国家の領域と国境
イ 国土の開発と保全
資源の開発と保全
水の利用と統制
社会開発と生活環境の整備
国土の再開発
ウ 世界の結合
交通・通信の発達と世界の縮小
世界の貿易とその動向
国家群の形成と国際協力
エ 世界と日本
3 内容の取り扱い
イ 内容の(2)のアについては,自然環境のおもな要素に対する基本的な見方・考え方を養うとともに,自然環境を総合的かつ地域的に把握することによって,人間に対する自然環境の意義を理解させること。
ウ 内容の(2)のエの「都市化現象」については,都市化に伴うおもな問題を取り上げること。
エ 内容の(3)のイの「動力資源の開発」については,「鉱産資源とその開発」および(4)のイの「水の利用と統制」との関連を図るとともに,原子力の利用にも着目させること。
オ 内容の(4)のイについては,産業技術の発達によって地表の利用にこれまでにない様相が見られること,それに伴って公害をはじめさまざまな問題が発生していることに着目させること。
カ 内容の(4)のイの「資源の開発と保全」については,海洋の開発にも着目させること。
キ 内容の(4)のエについては,世界の文化圏や政治・経済的地域構造を背景にして,日本の地位と役割を考察させること。
(2) 内容の指導に当たっては,次の事項に配慮するものとする。
イ 指導の全般を通じて,読図,描図,統計その他の資料の図表化,報告書作成などの作業的な学習を取り入れること。なお,地図については,独立の事項として指導するだけでなく,内容の各事項と関連させ,その取り扱いに習熟させること。
ウ 野外調査については,指導計画の中にそのための時間を設けて実施すること。その場合,形式的な取り扱いに流れたり,また,過大な計画に陥ったりすることのないようにすること。
エ 4単位以上で履修させる場合は,内容の「(2)居住と環境」,「(3)資源と産業」および(4)の「イ 国土の開発と保全」の指導を拡充深化するとともに,地域に即した知識・理解の充実を図ること。
第6 地 理 B
1 目 標
(2) 社会環境および自然環境と人間との関係は,人間の活動によって絶えず変化していること,ならびにそれに伴って,国土の再開発や地域空間の再構成が世界各地で進行していることを認識させ,資源を有効に利用し,自然を愛護保全し,生活環境を整備することがたいせつであることを理解させる。
(3) 世界の諸地域の実態を広い視野に立って探究する学習を通して,それぞれの地域の環境,構造,機能などに基づく個性や特色を地域相互の比較関連において把握させ,各地域が果たしている役割を理解させる。
(4) 地図を有効適切に利用し,地図による表現力を身につけさせ,統計その他の資料を活用する能力と習慣を養うとともに,野外調査,見学などの際に直接触れる具体的な事象に対する考察力を育成して,地理的事象を科学的,総合的に探究していこうとする態度とそれに必要な能力を養う。
2 内 容
生活舞台としての地球
世界の拡大と縮小
地図の利用
イ 居住と環境
世界の人口分布
人類の諸集団
生活基盤としての自然
ウ 地域と地域区分
生活と地域
地域区分の意義
さまざまな地域区分
エ 地域の調査
(2) 世界の諸地域
世界をいくつかの地域に区分し,それぞれの地域で取り扱う内容については,以下の諸項目を考慮して適切に構成すること。
位置・領域の特色
歴史的背景
地域の構成
イ 自然環境の特色
ウ 住民と人口
住民とその民族構成
人口の静態と動態
村落・都市
生活,社会,文化の特色
エ 産業・経済の現状と動向
資源とその開発
おもな産業
交通と貿易
地域開発とその動向
オ 日本との関係
(3) 世界の結合
国家と国家群
世界の交通・貿易
国際協力
イ 世界と日本
3 内容の取り扱い
イ 内容の(1)のアの「生活舞台としての地球」または(1)のイの「生活基盤としての自然」においては,世界の自然地域の大要にも触れること。
ウ 内容の(1)のウの「生活と地域」については,人間の生活は,地域と密接に結びついていることを理解させるとともに,地理的事象を地域現象として把握する見方・考え方を養うこと。
エ 内容の(2)の各項目は,世界の各地域を取り扱う際の観点を示したもので,そのままが各地域の内容となるものではないこと。また,取り上げる内容については,各地域の実態や動向を把握するのに適したものを精選すること。
なお,日本については,下記のオの(ウ)の趣旨に留意して,内容を構成すること。
オ 世界の地域区分については,次の諸点を考慮して適切に取り扱うこと。
(イ) 地域区分には,自然,政治,経済,文化などの指標によって,さまざまなものがあることに着目させ,それらを比較対照することによって,地域の概念,地域区分の意義および地域区分に関する考え方の発展のあらましを理解させること。
(ウ) 最初から世界を細分した取り扱いは避けるとともに,主要な地域や国については,それを含む広域圏の一環もしくは中核として取り扱うこと。
カ 内容の(2)のイについては,各地域の自然環境を個々の要素別に取り扱うのではなく,人工の加わった総合的な自然環境の観点に立って指導すること。
キ 内容の(2)のエについては,各地域が当面している地理的問題を適宜取り上げること。
(2) 内容の指導に当たっては,次の事項に配慮するものとする。
イ 内容の各事項の指導を通じて,常に日本と比較,関連させて考察する態度を養うこと。
ウ 指導の全般を通じて,読図,描図,統計その他の資料の図表化,報告書作成などの作業的な学習を取り入れること。なお,地図については,独立の事項として指導するだけでなく,内容の各事項と関連させ,その取り扱いに習熟させること。
エ 野外調査については,指導計画の中にそのための時間を設けて実施すること。その際,内容の(1)のエとの関連を考慮するとともに,形式的な取り扱いに終わったり,また,過大な計画に陥ったりすることのないようにすること。
オ 4単位以上で履修させる場合は,内容の「(2) 世界の諸地域」の指導を拡充深化して,各地域の個性や特色を世界的背景の中でいっそう明らかにするようにすること。
第3款 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取り扱い
1 「倫理・社会」,「政治・経済」および「日本史」は第2学年または第3学年において,「世界史」,「地理A」および「地理B」は第1学年または第2学年において,定時制の課程にあっては,それぞれこれらに相応する学年において履修させることが望ましい。
2 指導計画の作成に当たっては,社会科の教養がなるべく全分野にわたるよう適切な配慮を加え,社会科全体として調和のとれた指導が行なわれるようにすることが必要である。