第3節 数  学

第1 目 標

事象を数理的にとらえ,論理的に考え,統合的,発展的に考察し,処理する能力と態度を育成する。

このため,

1 数量,図形などに関する基礎的な概念や原理・法則の理解を深め,より進んだ数学的な考え方や処理のしかたを生み出す能力と態度を養う。

2 数量,図形などに関する基礎的な知識の習得と基礎的な技能の習熟を図り,それらを的確かつ能率的に活用する能力を伸ばす。

3 数学的な用語や記号を用いることの意義について理解を深め,それらによって数量,図形などについての性質や関係を簡潔,明確に表現し,思考を進める能力と態度を養う。

4 事象の考察に際して,適切な見通しをもち,論理的に思考する能力を伸ばすとともに,目的に応じて結果を検討し,処理する態度を養う。

 

第2 各学年の目標および内容 [第1学年]  1 目 標 (1) 数を正の数と負の数にまで拡張して,数の概念の理解を深め,それらの数を用いて数量を統一的に表現し,ものごとを広く考察し,処理することができるようにする。

(2) 文字を用いることによって,数量などの間の関係や法則が,一般的に,かつ簡潔に式に表現でき,形式的に処理できることを理解させる。また,方程式や不等式について,その中の文字や解を集合の考えをもとにしてみることができるようにし,それらを用いる能力を伸ばす。

(3) 事象における変化の考察において,変数や対応についての見方や考え方を深め,関数関係を見いだし,それを用いる能力を伸ばす。

(4) 図形をいろいろな観点から分類したり,図形を移動したり,条件を満たす図形を考えたりして,図形についての理解を深める。また,広く直観的な見方や考え方を伸ばすとともに,筋道を立てて考察することができるようにする。

(5) 統計的な事象について,度数分布,代表値などを用いて,その傾向をとらえる能力を伸ばす。

 2 内 容

  A 数式

(数)

(1) 整数を位取り記数法によって表わすことについての理解を深める。

(2) 整数が,素数の積として表わされることを明らかにし,整数の性質についての理解を深める。

ア 整数を素数の積として表わすこと。

イ 約数および倍数の性質。

(3) 正の数と負の数の意味を理解させ,その四則計算ができるようにするとともに,式がより広い意味に用いられることを理解させる。 ア 数を正の数と負の数にまで拡張すると,減法が常に可能になること。

イ 正の数と負の数についても,これまでの数の四則の意味を払張して,四則の計算をすることができること。

ウ 正の数と負の数についても,加法・乗法に関して交換,結合および分配の法則が成り立つこと。

(4) 近似値について理解させ,それぞれの場面に応じて,近似値を適切に扱うことができるようにする。 ア 誤差と有効数字の意味および近似値の表わし方。

イ 計算尺による乗法と除法。

(5) 次の用語および記号を用いることができるようにする。 自然数,有理数,2乗(平方),3乗,累乗,指数,素数,因数,最大公約数,最小公倍数,正の数,負の数,符号,絶対値,||,項,加法,減法,乗法,除法,交換法則,結合法則,分配法則,近似値,誤差,有効数字 (式)

(6) 文字を用いることによって,関係や法則が一般的に,かつ簡潔に式に表わされることを理解させ,それらを式に表現する能力を伸ばす。

(7) 文字が数を表わすとき,その文字を用いた式が,数と同じように操作できることを理解させ,簡単な式の計算ができるようにする。

ア 文字を用いた式における乗除の表わし方の規約。

イ 一次式(一つの文字について。)の加法と減法。

(8) 方程式や不等式について,その中の文字や解の意味について理解させる。

(9) 等式の性質を理解させ,それを用いて一元一次方程式を解くことができるようにする。

(10) 次の用語および記号を用いることができるようにする。

代入,一次式,等式,係数,不等式,方程式,一次方程式,解,≧,≦

 

  B 関数 (1) 二つの集合について,その要素の間の対応関係を考え,関数についての理解を深める。 ア 変数と変域の意味。

イ 関数の意味。

(2) 関数を表わすのに,表,グラフ,式などが用いられることについて理解させ,それらによって表わされた関数の特徴を調べることができるようにする。 ア 関数を表わすのに式が用いられること,および式の中の文字を変数や定数とみて,変数の間の対応関係について考察すること。

イ 座標の意味。

ウ 関数について,対応する値の組を表やグラフに表わすこと。

エ 関数のとる値の増加や減少。

(3) 次の用語を用いることができるようにする。 変数,定数,変域,関数,座標,座標軸,原点,比例定数
  C 図形 (1) 図形をいろいろな観点から考察し,図形についての理解を深める。 ア 直線と直線,平面と平面および直線と平面との位置関係。

イ 直線が,円との位置関係によって分類されること。また,平面と球との位置関係についても同じように考えられること。

ウ 基本的な平面図形と空間図形,およびそれらの間の関連。

エ 合同などの関係による類別。

(2) 図形の移動により,図形の相互関係や性質を見いだしたり,合同条件などを用いて,図形の性質を確かめたりする能力を養う。 ア 平行,対称および回転の移動によって,図形の相互関係や性質を見いだすこと。

イ 平行線の性質を用いること。

ウ 三角形の合同条件を理解し,それを用いて二等辺三角形などの基本的な性質を確かめること。

(3) 与えられた条件を満たす図形を作図したり,それを確かめたりする能力を伸ばし,図形についての理解を深める。 ア 一つの直線に平行な直線,角の二等分線,線分の垂直二等分線,円などが,ある条件を満たす点の集合であるとみられること。

イ 基本的な図形を作図し,それを確かめること。

(4) 図形の計量についての能力を伸ばす。 ア おうぎ形の弧の長さと面積。

イ すい体や球の表面積と体積。

(5) 次の用語および記号を用いることができるようにする。 線分,中点,垂線,対頂角,錯角,同位角,鋭角,鈍角,頂角,底角,内角,外角,斜辺,弧,弦,接点,接線,ねじれの位置,正多面体,面対称,
  D 確率・統計 (1) 目的に応じて資料を収集,整理し,表,グラフ,代表値などを用いて,その資料の傾向を知ることができるようにする。 ア 度数分布の意味とヒストグラムの見方。

イ 相対度数の意味。

ウ 代表値の意味。

(2) 次の用語を用いることができるようにする。 度数,分布,階級,ヒストグラム,相対度数,累積度数,代表値

 

  E 集合・論理 (1) 集合の意味について理解させ,数量,図形などに関する概念を理解するのに,集合の考えによって考察することができるよらにする。

(2) 集合の間の基本的な関係について理解させる。

ア 集合の包含関係。

イ 集合の交わりと結び。

ウ 集合とその補集合。

(3) 一つの集合について類別を考えたり,類別してできたものの集合を考えたりして,集合についての見方を深める。

(4) 「かつ」,「または」「…でない。」,「…ならば,…である。」などの論理な用語の意味について理解させる。

(5) 推論の方法について知らせ,それを用いることができるようにする。

ア 帰納と類推の方法。

イ 演えきの方法。

ウ 定義の意味。

(6) 次の用語および記号を用いることができるようにする。
 3 内容の取り扱い  

(1) 内容のAの(1)については,二進法,五進法の程度を取り扱うものとする。ただし,それらの計算については深入りしないものとする。

(2) 内容のAの(2)のアについては,整数を素数の積に表わすときの一意性を証明することは取り扱わないものとする。

(3) 内容のAの(4)のイについては,主としてC尺,D尺およびCI尺を用いるものとする。

(4) 内容のAの(6)については,2乗比例,3乗に比例,積に比例,2乗に反比例などの比例関係および利率に関するものを式で表わすことも取り扱うものとする。

(5) 内容のBの(2)のアについては,式の形からみた比例および反比例の特徴についても取り扱うものとする。

 

[第2学年]

 1 目 標

(1) 数の集合のもつ構造に着目するなどして,数の概念の理解を深める。また,文字を用いた式を計算する能力を伸ばすとともに,式についての見方を深め,数量などの関係を一般的,能率的に考察し,処理することができるようにする。

(2) 変数や対応の見方や考え方をいっそう深め,関数を広く用いる能力を伸ばすとともに,一次関数の特徴を理解させる。

(3) 図形を変換の考えで考察することができるようにするとともに,相似の概念を理解させて図形の性質を明らかにする。

(4) 確率の意味を理解させるとともに,確率の考えを用いて,統計に対する見方や考え方を深める。

(5) 直観的な見方や考え方をさらに伸ばし,また論証の意義と方法を理解させるとともに,論理の進め方を表現する能力を養う。

 2 内 容

  A 数・式

(数)

(1) 数の集合のもつ構造について理解させる。

ア 演算について閉じていることの意味。

イ 演算について,交換,結合や分配の法則が成り立つこと,および単位元と逆元の意味。

ウ 大小関係。

エ 整数の集合が離散的であり,有理数の集合が稠密(ちゅうみつ)であること。

(式)

(2) 事象の中に数量関係を見いだし,それを文字を用いて式に表現する能力をいっそう伸ばす。

(3) 文字を用いた簡単な式の四則計算ができるようにする。

(4) 不等式の性質を理解させ,それを用いて一元一次不等式を解くことができるようにする。

(5) 方程式や不等式を連立させることおよびその解の意味について理解させる。

ア 二元一次方程式について,その中の文字や解の意味を明らかにすること。

イ 簡単な一次方程式や一元一次不等式の連立したものを解くこと。

(6) 次の用語を用いることができるようにする。 二次式,同類項,単項式,多項式,連立方程式
  B 関数 (1) 関数についての理解をいっそう深めるとともに,それを広く用いる能力を伸ばす。 ア 関数を表わすのに,fなどの記号が用いられること。

イ 二元一次方程式は,二つの変数のの関数関係を表わすものともみられること。

(2) 一次関数の特徴について理解させ,それを用いる能力を伸ばす。 ア 一次関数を表わす式の形とグラフの特徴。

イ 対応する変数のとる値の変化の割合が一定であること。

ウ 事象の中には,一次関数を用いて近似的にとらえられるものがあること。

(3) 次の用語を用いることができるようにする。 一次関数,傾き(こうばい),切片
  C 図形 (1) 変換の考えを用いて,図形の性質を考察することができるようにする。 ア 図形についての相似の意味。

イ 合同変換,相似変換などの意味。

(2) 三角形の相似条件を明らかにし,合同条件や相似条件を用いて,図形の性質の理解を深める。
     ア 三角形の相似条件。
  イ 平行線および平行平面に関する線分の比についての性質。

ウ 三角形および平行四辺形の性質。

(3) 縮図や立体図形の相似を通して,相似についての理解を深める。 ア 簡単な立体図形の相似,および相似形の相似比と面積比・体積比との関係。

イ 高さ,距離および方向を測量や縮図によって求めること。

(4) 次の用語および記号を用いることができるようにする。 相似,∞,内分,外分,相似比,相似の位置,相似の中心,中線,外心,内心,重心
  D 確率・統計 (1) 多数の観察や多数回の試行によって得られた結果について,頻度(ひんど)の傾向を表わすのに,確率が用いられることを理解させる。 ア 確率の意味。

イ 順列と組合せの考え方。

ウ 簡単な場合について,確率を求めること。

エ 期待値の意味。

(2) 次の用語を用いることができるようにする。 確率,順例,組合せ,期待値
  E 集合・論理 (1) 論理的な用語および命題についての理解を深める。

(2) 図形や数・式について,帰納や類推の方法によって推測した事がらが正しいかどうかを確かめるために,根拠とする事がらを明確にし,演えき的な推論を用いることの意義や方法について理解させる。

ア 論証の意議。

イ 命題の真偽とその証明。

ウ 仮定と結論。

(3) 次の用語を用いることができるようにする。 定理,証明,仮定,結論,逆
 3 内容の取り扱い (1) 内容のAの(1)については,剰余系についても取り扱い,構造についての理解を深めるものとする。

(2) 内容のAの(3)については,公式の変形や連立方程式を解くのに必要な程度を取り扱うものとする。

(3) 内容のAの(5)のイの「一次方程式」については,二元と三元の連立方程式を取り扱うものとする。ただし,生徒によっては,二元の連立方程式の程度にとどめてもさしつかえない。

(4) 内容のCの(2)のウの「三角形の性質」に関して取り扱う外心,内心,重心については,生徒によっては,それらの一部にとどめてもさしつかえない。

 

[第3学年]

 1 目 標 (1) 数の平方根について理解させ,有理数と合わせて,数の概念の理解をいっそう深める。また,それらの数を用いて,ものごとをいっそう広く考察し,処理することができるよにする。

(2) 式を扱いやすい形に変える方法を理解させ,式について見通しをもって能率的に扱うことができるよにする。また,二次方程式および二元一次不等式について理解させ,式についての見方を深める。

(3) 簡単な関数について,その特徴の調べ方を理解させ,関数についての理解を深める。

(4) 直角三角形や円の性質についての理解を深め,それらを図形の性質の考察や計量に用いる能力を伸ばす。また,図形を位相の考えによって考察することができるようにし,図形や空についての見方を豊かにする。さらに,見通す力や論理的に考察する能力をいっそう伸ばす。

(5) 統計的な事象について,その全体としての傾向をとらえる方法についての理解を深め,統計に対する見方や考え方を深める。

 2 内 容

  A 数・式

(数)

(1) 正の数の平方根の意味とその必要性を理解させ,それを用いることができるようにする。

ア 方程式の解が存在するように,数が拡長されていくこと。

イ 数の平方根には有理数でないものがあること。

ウ 数の平方根の近似値を,数表や計算尺を用いて求めること。

エ 数の平方根を含む簡単な式の計算ができること。

(2) 次の用語および記号を用いることができるようにする。 平方根,根号,√,無理数,実数 (式)

(3) 文字を用いた簡単な式について,式を文字で置き換えたり,公式を用いたりして,展開や因数分解ができるようにする。

ア 簡単な一次式の乗法。

イ 次の公式を用いる式の展開と因数分解。

(a+b)2=a2−2ab+b2

(a−b)2=a2−2ab+b2

(a+b)(a−b)=a2−b2

(a+b)(a+c)=a2+(b+c)a+bc

(4) 二次方程式の必要性を知らせ,その解の意味を理解させるとともに,二次方程式を解くことができるようにする。 ア 文字が数を表わし,ab=0のときは,a=0またはb=0であること。

イ (χ−a) (χ−b)=0の解の意味。

ウ 次の二次方程式の解法。

ax2+b=0    (a,bは整数で,実数の解をもつ場合。)

2+px+q=0  (p,qは整数で,実数の解をもつ場合。)

(5) 二元一次不等式について,その中の文字や解の意味を理解させる。

(6) 次の用語を用いることができるようにする。

展開,因数分解,二次方程式
 B 関数 (1) 簡単な二次関数などの特徴について理解させる。 ア 次の式で表わされる関数のグラフの特徴。 y=ax2,y=ax3 (数係数の場合。) イ 上記アに示す関数について,対応する変数のとる値の変化の割合が一定にならないこと。 (2) 簡単な関数について,逆関数の意味を理解させる。

(3) 次の用語を用いることができるようにする。

二次関数,放物線,定義域,値域,逆関数
 C 図形 (1) 直角三角形について,三平方の定理を理解させ,それを平面図形や空間図形の性質の考察や計量に用いることができるようにする。(2) 円の性質についての理解を深め,それを用いて図形の性質を考察することができるようにする。 ア 円と直線,二つの円に関する性質,およびそれらから類推される球の性質。

イ 円における円周角と中心角との関係。

(3) 点,線,面のつながりに着目して図形を考察し,また直線,平面および空間の広がりについての理解を深めて,位相的な見方など図形や空間についての見方を豊にする。 ア 平面は,その平面の上にある閉じた曲線(多角形,円など。)によって,内部と外部とに分けられること,および空間は,その空間にある閉じた曲面(多面体,球など。)によって,内部と外部とに分けられること。

イ 多面体の頂点,辺および面の間の関係。

(4) 次の用語を用いることができるようにする。 円周角,大円,小円
 D 確率・統計 (1) 簡単な場合の統計的資料について,散布度や相関の見方を理解させる。 ア 標準偏差の意味。

イ 相関表および相関図の見方。

(2) 標本調査の考えの基本になる事がらを理解させる。 ア 簡単な場合に,標本における比率などから,母集団における比率などが推定できること。 (3) 次の用語を用いることができるようにする。 標準偏差,相関表,相関図,標本,母集団,標本調査
 E 集合・論理 (1) 論理を進めていく方法や考え方についての理解を深める。 ア 証明の方法として,直接証明法のほかに間接証明法(脊理法)があること。  3 内容の取り扱い (1) 内容のAの(1)に関連して,生徒によっては,集合{a+b√2|a,bは有理数}などの構造について取り扱ってもさしつかえない。

(2) 内容のAの(4)のウの「二次方程式」については,生徒によっては,整係数で因数分解できる程度のものにとどめてもよいし,あるいは,係数が有理数で実数の解をもつ一般の二次方程式まで取り扱ってもさしつかえない。

(3) 内容のAの(5)に関連して,生徒によっては,連立二元一次不等式まで取り扱ってもさしつかえない。

(4) 内容のBの(2)については,生徒によっては取り扱わなくてもさしつかえない。

 

第3 計画の作成と各学年にわたる内容の取り扱い

1 第2の各学年の内容のEは,他のA,B,C,Dの内容を表現したり考察したり,思考を進めたりする際に多く用いられるものであるので,それらと密接な関連を図って,指導計画を作成し,指導することが必要である。

また,第1学年のEの内容については,それを第1学年で一応指導するものであるが,第2学年および第3学年においても,引き続いて関連のある内容の指導に当たって,特に配慮することが必要である。

なお,学習の遅れがちな生徒によっては,第1学年のEの内容の一部を,第2学年または第3学年で取り扱ってもさしつかえない。

2 第2の各学年の内容を取り扱うに当たっては,地域や学校の実態および生徒の能力・適性等に応じて,その程度や進度を考慮し,適切に指導することが必要である。

3 第2の第2学年および第3学年の3に示す「生徒によっては」とあるのは,学習の遅れがちな生徒あるいは学習の進んでいる生徒ということを意味しており,生徒の実態に応じて,適切に指導するように配慮する必要がある。

さらに,第1学年または第2学年において,学習の特に遅れがちな生徒については,学年の目標の達成に支障のない範囲内で,当該学年の内容の一部を軽く取り扱い,それを次の学年で指導することはさしつかえない。また 学習の特に進んでいる生徒については,学年の目標を逸脱しない範囲内で,次の学年の内容の一部を加えて指導することもさしつかえない。

4 数の計算に当たっては,必要に応じて,そろばん,計算尺や計算機を使用させて,学習の効果を高めるように配慮するものとする。