第6節 芸     術

 

第1款 目   標

 

1 芸術の学習経験を通して,創造性に富む個性豊かな人間の形成を目ざす。

2 芸術の学習経験を通して,美的感覚を洗練し,芸術的な表現力と鑑賞力とを養うとともに,情操の純化を図る。

3 芸術の学習経験を通して,個人生活や社会生活を明るく豊かにする実践的な態度や能力を養う。

4 芸術が,人間性の円満な発達や文化の調和的発展に欠くことのできないものであることを理解させるとともに,国際間の理解や親善に,芸術の果たす役割についても認識させる。

 以上の目標の各項目は,相互に密接な関連をもって,全体として「芸術」の目標をなすものであり,「芸術」の各科目の目標のもととなるものである。指導にあたっては,各科目の目標とともに,教科の目標の達成に努めなければならない。

 

第2款 各 科 目

 

第1 音  楽

 1 目  標

(1) 音楽を表現する喜びと楽しさを経験させ,創造的な意欲を高めるとともに,表現する能力を伸ばす。

(2) わが国および諸外国のすぐれた音楽に親しませ,美的感動を得させるとともに,鑑賞する能力を養う。

(3) わが国および諸外国の音楽の動向を概観し,音楽が文化の中に占める地位を理解させる。

(4) 音楽の学習経験を通して得た音楽的教養によって,うるおいのある生活を営む態度や習慣を養う。

 2 内  容  以下に示す「音楽」の内容は,2単位を標準とし,音楽に関する科目をはじめて履修する際に限り扱うことを前提として作成したものである。

A 表 現

 (歌 唱)

(1) 同声または混声の平易な合唱を中心として,歌い合わせる喜びと楽しさを経験させる。

ア 協同して作りあげる合唱の特性を経険する。

イ 各声部の特色を生かして,均衡のとれた表現をする。

ウ 各自の声種や声質を生かして,音楽的な表現をする。

エ 曲想や歌詞の意味を理解して,それにふさわしい表現をする。

オ 芸術的な愛唱曲を増す。

(2) 歌唱の能力を高めるために,次のような基礎的な技術や態度を身につけさせる。 ア 正しい発声や発音の技術

イ 声部の融合や統一を図り,美しいハーモニーを保った歌い方

ウ 視唱力

エ いろいろな記号や標語に適応した歌い方

オ 曲の感じやクライマックスのとらえ方

カ 指揮を理解し,それに順応する態度や習慣

(3) 歌唱表現に必要な,次の事項を理解させる。 ア 楽典的基礎事項

イ リズム,旋律,和声など各要素の機能やそれらの相互関係

ウ 和声的ならびに対位的な音楽の構成

エ 声楽曲のおもな種類および形態

(4) 教材の範囲や程度は,次のとおりとする。 ア わが国や世界の,親しみやすくすぐれた歌曲

イ わが国や世界の,芸術的にかおりの高い民謡

ウ 合唱曲を主体とし,せい唱や輪唱などの曲を加える。

エ 外国の曲は,原語によってもよい。

 (器 楽)

(1) 平易な合奏を通して,器楽のおもしろさを味わわせる。

ア 音楽的に効果のある編成によって,合奏の楽しさを経験する。

イ 各楽器の特色を生かし,かつ均衡のとれた表現をする。

ウ 歌唱と結合した器楽の効果を経験する。

エ 器楽の持ち味を生かし,曲想にふさわしい表現をする。

(2) 合奏の能力を高めるために,次のような基礎的な技術や態度を身につけさせる。 ア 楽器の演奏技能

イ リズムや速さを合わせる技術

ウ 声部の役割にふさわしい演奏技術

エ 視奏力

オ 指揮に順応する態度

(3) 合奏に必要な,次の事項を理解させる。 ア 楽器の音域,音色,性態など

イ 器楽に用いる記譜法

ウ 合奏の編成と楽器の配置

(4) 教材の範囲や程度は,次のとおりとする。 ア 平易で芸術性のある器楽曲

イ 器楽に適した歌唱教材

ウ 歌唱と結合したもの

 (創 作)

(1) これまでの音楽的経験に基づいて,まとまった創作表現をする。

ア 歌詞や楽器の特徴を生かして,まとまりのある旋律を作る。

イ 速度,調,拍子などを選定する。

ウ 簡単な伴奏を作ったり,合唱の編曲をしたりする。

(2) 創作能力を伸ばすために,次のような基礎的な知識や技術を身につけさせる。 ア 旋律の流れと声との関係の理解

イ 楽節,楽段などの構成の理解

ウ 楽曲内の変化と統一の図り方

エ 記譜力

B 鑑 賞 (1) 音楽鑑賞の喜びや楽しさの経験を通して,音楽の芸術的価値を総合的にはあくさせる。 ア 数多くのすぐれた音楽にふれ,美的体験を深める。

イ 音楽の芸術的価値を感得する力を高め,すすんでよい音楽を聞く。

ウ 音楽を文化的背景との関連において理解する。

(2) 音楽鑑償の能力を高めるために,次のような基礎的な聴取力を身につけさせる。 ア 音楽を形作ってしる諸要素の聴取力

イ 種々の演奏形態の効果の聴取力

ウ 人声や楽器の音色の聴取力

エ 音楽の流れの中における多様性と統一性の聴取力

(3) 音楽鑑賞に必要な,次の事項を理解させる。 ア 楽曲とそれを形作っている諸要素との相互関係

イ 演奏形態の種類

ウ 声や楽器の特徴

エ 基本的な楽式

オ それぞれの時代における文化的背景に基づいた音楽の変遷の概要

カ 地域・民族の音楽の特徴

(4) 教材の範囲や程度は,次のとおりとする。 ア 音楽の表現しようとする内容が感得理解しやすいもの

イ 形式,演奏形態,楽器の特徴などがわかりやすいもの

ウ 音楽の変遷を概観する上に必要とする代表的なもの

エ 民族的な特徴を備えたもの

オ 日本音楽の代表的なもの

 3 指導計画作成および指導上の留意事項 (1) 合唱と鑑賞の学習に重点をおき,器楽および創作の学習は,生徒,学校の事情等に応じて指導するものとする。

(2) 生徒のこれまでの音楽の学習経験や能力にそれぞれ差異のあることを考え,生徒の実態に基づいた指導計画を考慮する。

(3) 音楽的般教養を身につけさせるという見地から,その指導が表現技術を偏重したり知的理解のみに終わったりしないようにする。

(4) 学習が片寄ったり狭くなったりしないようにし,表現と鑑賞の二つの領域の関連性を考慮するとともに,学習量を適正にして,充実した音楽的経験を得させるようにする。

(5) 各領域の第3項に示した理解事項は,常に演奏や聴取などを通して,これを取り扱う。

(6) 現代のさまざまな音楽にもふれ,適正な指導をする。

(7) 合唱や合奏などの集団的な演奏活動にあっては,演奏上の技術的効果を高めることもたいせつであるが,さらに,よい演奏は,規律ある協調的態度によって得られることにも留意して指導する。

(8) 合奏は,中学部で経験したものを基礎とし,さらにこの段階における生徒の興味や関心に応じた編成をする。

(9) 指導の効果をあげるため,放送,録音機,レコードなどを精選し,これを活用することが望ましい。

 

第2 美 術・工 芸

 1 目  標

(1) 美術・工芸の学習経験を通して,創作の喜びを味わわせ,創造的な表現能力を養う。

(2) すぐれた美術工芸作品に親しませて,美術的な鑑賞能力を養うとともに,工芸に対する批判,鑑賞の能力を養う。

(3) 美術・工芸の学習経験を通して,情操を豊かにするとともに,美術・工芸的な能力を生活に生かす実践的態度を養う。

(4) わが国および諸外国の美術・工芸文化の伝統や動向を理解させ,これを愛好し,尊重する態度を養う。

 2 内  容  以下に示す「美術・工芸」の内容は,2単位を標準として,履習させることを前提として作成したものである。

A 表 現

 (彫 塑)

 個性に基づく創造的な表現能力を養い,制作を通して,立体についての表現の楽しさを味わわせ,理解を得させる。

(1) 具象的彫塑

 身近な自然を対象に触覚を通して観察し,立体的な美しさを見いだし,その感動を率直に表現させる。

ア 表現題材は,身近な人物,動物などから適宜選ぶものとする。

イ 表現材料は,粘土,木,石,紙その他から適宜選ぶものとする。

ウ 表現方法は,観察や記憶により,対象をすなおにまる彫り,浮き彫りなどの形式によって表現する。

 粘土を使用した場合は,素焼きや石こうどりをするのもよい。

(2) 非具象的彫塑  抽象形体による立体や構成などの基礎的な表現を主とする。

 表現は,抽象形体を基礎とし,表現材料は,粘土,木,石,金属,紙その他から適宜選ぶものとする。

(3) 上記(1)および(2)の彫塑の制作にあたっては,かたまり,面,量,質などについて,次の事項を指導する。 ア かたまり−立体をかたまりとして見ること。

イ 面−面によって,かたまりの形にまとまりを与えること。

ウ 地−かたまりを量感でとらえること。

エ 質−表現に適した材質を選ぶこと。

 (デザイン)

 用に関するいろいろな条件を考えて,構想を美的かつ創造的に表現する能力を養うとともに,その基礎としての形体,材質などによる構成により,造形的感覚を訓練する。

(1) デザインの基礎練習

 工芸的デザインの特質を考慮して,その要因と表示に関する基礎的事項を,計画的に学習させる。

ア 美的構成

 美的構成に必要な形体,材質などの諸要素の感覚を訓練し,構成力を養う。

(ア) 自然や人工物における形体の観察と発見

(イ) 美的構成−形の構成,材質の構成

イ 材料と構造  材料の持つ特性を研究し,その造形的な可能性を見いだす態度を養う。

(ア) 材 料

 材料の形状,地はだや材質を生かした造形的可能性の発見 (イ) 構 造  材料の成形や組み合わせによる構造
ウ 表 示  構想を的確に表現し伝達する能力の基礎を養う。

(ア) 計画書

(イ) 模型,その他

(2) デザインと製作  創造的な構想に基づき,用途,材料,製作法などの立場から,総合的に計画し,表示する能力と製作する能力を養う。

ア 以下に示すものの中から適宜選んで,デザインさせ,またはデザインして製作させる。

(ア) 家庭,学校その他身近な器物家具など

(イ) 遊具,住宅模型など

イ 上記(1)および(2)による制作に際しては,次の事項を指導する。 (ア) 材 料

(イ) 加工法

(ウ) 用具,機械の扱い方

B 批判・鑑賞  作品に即して美術・工芸に対する批判・鑑賞をさせ,造形的な思考力と美的感受性を養う。

(1) 美術・工芸の批判・鑑賞

ア 美術作品に接して,その作品の美しさをすなおに味わわせる,また作者の精神にふれさせたり,造形的にも考祭させる。

イ 生徒作品,身近な造形品,量産による工芸品,機械や建造物を批判・鑑賞させる。

(2) 美術常識  美術の人生に対する意義や価値に関心をもたせるとともに,美術の表現や鑑賞の活動を進めるのに必要な,美的構成などについて理解させる。

ア 美術と生活

(ア) 個人生活と美術

(イ) 美術鑑賞の態度

(ウ) 美術品の保護活用

イ 美的構成 (ア) 形 体

(イ) 材 料

(ウ) 美の構成要素

(3) 美術変遷の概要  近代美術の動向に関心をもたせ,また,この観点から,日本美術および西洋美術の変遷の概要についても指導する。 (4) 上記(1)のイの扱いにおいては,次の観点から指導する。 ア 工芸の用途,材料,構造,製作過程,審美性,経済性などの要因とその融合

イ 工芸と生活との関係

ウ 時代の動きと作品との関係

 3 指導計画作成および指導上の留意事項 (1) 内容は,表現および批判・鑑賞の二つの領域に大別し表現はさらに彫塑およびデザインの二つに分けてある。指導計画の作成や指導にあたっては,それぞれの特性を生かすとともに,相互の有機的な関連を図るようにする。

(2) 彫塑およびデザインの指導においては,造形の美的な基礎となる要素を,表現の指導と関連づけて扱い,効果があがるようにする。

(3) 批判・鑑賞の指導における造形的な考察を,表現に役だたせるようにする。

(4) 創作活動を主体にする指導においては,生徒の着想を尊重し,その構想を実現させるため,教師は適切な助言をする。

(5) デザイン(1)のウの表示は,一般にはスケッチ,製図などによるが,盲生徒の特性からみて,文章を中心とした説明による計画書を作成させる。

(6) デザインと製作は一貫して行なうことをたてまえとするが,内容によっては,デザインとその表示に終わるものがあってもよい。なお,デザインと製作の指導に際しては,次の点に留意する。

ア 題材については,生徒の興味と理解の程度を考え,身近な生活環境から選択する。

イ 製作完成するものについては,材料は入手しやすく,加工のあまり困難でないものであること。

ウ 製作に際して使用する工具,機械などは,生徒の能力に応ずるものであること。

(7) 必要に応じて共同製作なども課し,学習効果をあげるようにする。

(8) 指導する事項や指導法については,教師の興味に片寄ることなく,多面的な生徒の必要や要求に応ずるようにくふうする。

 また,絶えず新しい科学技術や芸術の動向に留意して研究し,改善するようにすること。

(9) 指導を有効に進めるには,美術・工芸に関する各種の立体的造形など,資料を精選し,これを効果的に活用することが望ましい。

(10) 環境に関心をもつように心がけ,美術館,博物館,美術展覧会,工芸に関する施設や工場の見学など,適宜利用するようにすることが望ましい。

(11) 環境を整備し,安全,清潔,あとかたづけなどに留意し,事故の防止に努めることが必要である。