第1 目 標
1 自他の人格や個性を尊重することが社会生活の基本であることについての理解をいっそう深め,また民主主義のあらましの基礎を理解させ,これを日常の生活に正しく生かしていく態度や能力を養う。
2 人間生活と自然との関係,地域相互の関係を考えさせ,国民生活や文化をささえるおもな産業の発達と現状を理解させ,広い視野に立って,郷土や国土に対する愛情を育てる。
3 われわれの社会生活は長い歴史的経過をたどって今日に及んでいることを理解させ,歴史の発展における個人や集団の役割を考えさせ,よい伝統の継承や社会生活の進歩に対する責任感を養う。
4 いろいろな社会集団の機能やそれらにおける人間相互の関係を理解させわが国の政治・経済のしくみ世界の国々の概要をはあくさせるとともに,社会生活に適応し,さらにこれを改善していこうとする積極的な態度や能力を養う。
5 世界におけるわが国の立場を正しく理解させ,国民としての自覚を高め,民主的で文化的な国家を建設して,世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする態度を養う。
以上の目標の各項目は,相互に密接な関連をもって,全体として社会科の目標をなすものであり,主として2,3または4のいずれかにかかわる指導においても,常に5をあわせ考慮する必要があり,さらに,すべての指導の根底に,1を考慮しておかなければならない。
第2 各学年の目標および内容
〔第1学年〕
1 目 標
(2) わが国における工業生産の現状やその発達が国民生活全般に及ぼした影響等について理解させ,わが国の発展と科学・産業などとの関係について考えさせる。
(3) わが国の地理的環境の特性をはあくさせるとともに,国内各地における生産活動の条件として重要な役割を果たしている交通,商業,貿易などについても目を開かせる。
(4) 自然を利用して国民の生活を向上させるためには,自然を深く理解し,その愛護に努めるとともに,適切な利用と開発の方法を創意し,くふうすることがたいせつであることを理解させ,国土に対する愛情や国民的自覚の基礎を養う。
(2) わが国では地形その他の条件のため,国土の2割たらずの土地が耕地として開かれているにすぎないが,この狭い耕地でできるだけ生産を高めなければならないので,わが国の農業には他国にみられない特色があり,いろいろな苦心が払われてきている。
(3) 夏の温度が高く,雨量の多い気候を生かしたり,その他種々の努力を重ねたりして発達させてきた米の生産は,農業生産の基幹になっており,その生産高の多少が農業ばかりでなく国民生活に大きな影響を与える。また麦類,野菜,果樹,工芸作物の栽培,養蚕,酪農等もそれぞれ重要な役割を果している。
(4) 農家の人々の労働やこれに伴う苦心は,土地の条件によって異なるが,一般に各種の災害対策,土地の改良,土地に適した品種や肥料や進んだ農機具の導入,経営のしかたなどについて払われる苦心が大きい。
(5) 現在のわが国では,いっそう農業生産を高める必要があるので,個々の農家の努力ばかりでなく,国の立場からも,新しい土地の開発,土地の改良生産技術や経営の改善などの仕事が進められている。
(6) わが国の工業は,国民の衣食住や産業の基礎になる資材の生産などの面ばかりでなく,貿易の上からもきわめて重要な役割を果たしている。
(7) 今日の工業は,一部の特殊な手工業を除いて大部分が機械生産に移っているが,機械生産は手工業生産と比べて新しい動力や機械の利用,分業のしくみ,大量生産などの点で著しい特色をもち,わが国では明治以降特に発達したものである。
(8) 明治以後,最初は繊維工業などを中心に発達したわが国の工業は,しだいに重工業方面にも及び,アジアにおける重要な工業国としての地位を高めてきたが,この間,新しい技術の導入や改善発明や発見,その他生産の向上のために払われた努力はきわめて大きかった。
(9) わが国の四大工業地帯やその他の工業地域はそれぞれ日本全体において重要な地位を占めており,すぐれた工業製品を生産することによって,国の経済力を高め,国民生活の向上に貢献している。
(10) 産業の発達に伴い国内国外各地からの原料の入手,あるいは製品の販売等が重要になり,市場,問屋,小売り店などがたいせつな働きをしているが,このような商業のしくみはしだいに発達してきたものである。
(11) また国内の陸上交通や海上交通もしだいに整備発達し,今日では主要な鉄道幹線や国内航路,さらに航空路等が国内各地の生活をますます緊密に結びつけ,国民生活全般のたいせつな基礎となっている。
(12) わが国の工業は,多くの原料を外国から輸入し,また製品の市場を広く海外に求める必要があるので,諸外国との貿易が行なわれており,そこにはいろいろな苦心が払われている。
(13) 国民生活の発展は科学の進歩や産業の発達などにまつところが大きいから,それらに深い関心をもつとともに,その成果を国民全体の福祉のために役だてようとすることがたいせつである。
(2) 特にこの学年ごろから,各種の統計資料やグラフを利用する学習の機会が多くなる。したがって,その際に必要な基礎的知識や技能については,他教科との関係などを考えながら,適切な指導を行なうべきである。
統計やグラフの利用にあたっては,あまり細かな数字にとらわれず,統計が示している意味や傾向などを大きくつかませることがたいせつである。
(3) また,利用する地図の種類もふえ,地球儀を使う必要性も多くなる。このようなことと関連して,たとえば等高線,等温線,経度,緯度などのおおまかな意味や分布図の読み方等の指導についても留意し,単なる知識の習得に終ることのないように努めることがたいせつである。
特に映画,スライド,写真,新聞,テレビなど効果的な視覚教材を活用して,有効な学習ができるよう配慮することがたいせつである。
(4) 内容の(10)に関連した学習においては,この学年の生徒の能力をじゅうぶん考え,詳細な商業史にわたることのないように特に留意すべきである。
1 目 標
(2) わが国の政治のしかたや国民生活は,それぞれの時代の特色をもちながら今日に及んでいることを具体的に理解させ,国家や社会の発展に貢献した人々の業績などについて考えさせる。
(3) わが国の近代化を政治の歩み,近代産業の発達文化の形成を通して明らかにするとともに,現代社会の成立をはあくさせ,社会の発展に対する正しい判断力を得させる。
(4) わが国の文化や伝統に対する正しい理解やこれを尊重する態度を養い,わが国を愛する心情をつちかうとともに,人類の福祉や平和に貢献しようとする意欲を育てる。
(2) やがて地方に起こった武士が政治の実験をにぎり,その政治は,鎌倉幕府の創立,蒙古聾来等を経て室町幕府に及んだが,その間武士は農村に住んで地方の開発に努めた。また,一方商業も盛んになり村や町も発達し,都の文化も地方に広まった。
(3) 戦国の世の中がほぼ統一された前後には,ヨーロッパと交渉が始まり,日本人の海外発展も盛んになった。やがて江戸幕府が武士を中心とする社会のしくみを固めたり,鎖国を行なったりしたので,わが国は世界の進展から遅れることになったが,その間,国内の諸産業や都市が発達し,町人の経済力や文化が高まり,武士の支配はしだいに弱くなっていった。
(4) 開国後やがて明治維新が行なわれ,四民平等の世の中に移っていったばかりでなく,その後の政府や民間の先覚者たちの非常な努力によって,欧米の文化が取り入れられ,新しい学問と教育,科学と文化などが盛んとなり,憲法がつくられ,議会政治への道が開かれた。また近代産業もおこり,日清,日露の戦争や条約改正を経て,わが国の国際的地位は向上した。
(5) その後,第一次世界大戦が起こり,わが国も参戦した。第一次世界大戦後には,世界に平和を望む気持がひろまり,国際連盟が生まれ,軍縮会議などが行なわれる一方,赤十字,オリンピックなどの運動も活発となったが,それらの努力にもかかわらず,諸国間の対立が激化し第二次世界大戦となった。
(6) 第二次世界大戦の後,日本国憲法を制定し,復興と独立に力を尽して,国の再建と民主化を図ってきた。また,わが国も国際連合に加盟して国際社会の重要な一員としての責務を果そうと,いろいろの努力を続けている。
(7) 現在の政治や国民生活が行なわれるようになったのは,われわれの祖先が政治を改め,進んで海外の文化を取り入れ,国家や社会の発展に尽くしてきた努力の結果であるが,わが国の政治や文化はそれぞれの時代の特色をもちながらしだいに広く国民全般に及び,また世界の国々とのつながりも広く深くなってきた。
(2) 歴史上の人物を取り上げて指導する必要があるが,その場合には,人物教材の長所,たとえば生徒の歴史的理解を具体的にし学習に対する興味を高めることができる点などをじゅうぶん生かすとともに,時代的背景から遊離した取り扱いや人物中心の学習にはしりすぎないように留意すべきである。
(3) 特に文化の取り扱い方については生徒の能力をこえないように注意すること,したがって,たとえば内容(1)の文化の場合でもかな文字,大仏,その他著名な神社・寺院など親しみ深いものを効果的に取り上げることが望ましい。
(4) 時代区分は指導上の観点によっていろいろなものが考えられるが,細かな時代区分だけにとらわれて,その時代の社会の特色を見失わないように留意する必要がある。
(5) 内容の(4),(5),(6)に関連した学習のうち,政治的事項については,歴史史的ながれの中の位置づけを理解させるだけでなく第3学年における政治的事項の学習との関連を考慮して取り扱うものとする。
(6) 言語の能力の不足を補うために,指導にあたっては次のことに留意することがたいせつである。
イ 郷土の発展の跡を実地調査させたり遺跡,遺物を見学させることによって,わが国の歴史の発展を具体的にはあくさせるように努める。
ウ 歴史を正しく理解する能力と態度を養うために地図を読んだり,描いたり,また,年表や図表を使用したり作成させるように努める。
1 目 標
(2) 具体的な問題の学習を通して政治の働きと日常生活との関係について理解させ,今日の政治の基本的なしくみや考え方に気づかせ,あわせて生産,流通,消費,労働などの経済活動と,その相互関係のあらましを理解させる。
(3) 世界の主要な国々のようすやわが国とこれらの国々との関係などを具体的に理解させ,他地域の人々を偏見や先入観にとらわれないで,正しく理解しようとする態度や協調の精神を育てる。
(4) 国家や社会の一員としての望ましいあり方を理解させるとともに民主主義を家庭や学校をはじめ広く社会生活のうえに,具体化していくための基礎的な能力や態度を養う。
(2) わが国の現在の政治は国民全体の意見を政治に表すため,国民が選んだ代表者による議会政治のかたちをとっている。
(3) このような政治のしくみのおおもとのほか,国家の理想,天皇の地位,国民としてのたいせつな権利や義務などが,日本国憲法によって定められている。
(4) 生活に必要な物資の生産や流通は,各種の企業によって行なわれており,需要と供給,生産と消費などの関係によって物価や景気に変動が起こり,われわれの生活に大きな影響を与える。
(5) 現在地球上にはおよそ30億の人々が多くの国々をつくって,それぞれアジア,ヨーロッパ,アフリカ,南北アメリカ,オセアニア(大洋州)等の各地域に生活しているが,わが国にとって貿易その他の面で関係の深い国が多い。
(6) 世界の国々の中には,わが国とは古くから交渉が深く,現在のアジアにおいても重要な地位を占めている中国やインド,第二次世界大戦後独立の機会を得て,産業の開発や新しい国づくりに努めているアジアやアフリカの国々,古くから産業や文化の開かれた西ヨーロッパにおけるイギリスその他の国々,広大な土地や資源に恵まれ,現在の世界で重要な役割りを果たしているアメリカ合衆国,ソビエト連邦などがある。
(7) このような世界の国々は,最近のめざましい交通,通信,報道機関の発達などによって,互いに深く結びつくようになったが,一方国家間の利害の対立や紛争はなお絶えず,特に原子力時代といわれる今日では,これを戦争という手段によって解決しようとすれば,人類全体にとって恐るべき結果が予想されるので,人々の平和への願いはいっそう高まってきている。
(8) 第二次世界大戦後,国際連合というしくみがつくられ,世界の国々はこれに加盟して世界の平和や人類の福祉のために努力しているが,現在,わが国もその一員として重要な役割を果たしている。
(9) 家族は社会生活において最も基礎的な社会集団であり,家族生活を営む家庭は,人間の愛情によって結ばれた精神の安定の場所であり,社会的な人間形成の場所である。
(10) 民主的な家族生活を営むためには,家族同志が相互に愛情と尊敬と思いやりをもち,各人の立場をそれぞれ理解し尊重することがたいせつである。家庭生活の合理化や家族相互の話し合いによって明るい家庭生活が築かれる。
(11) 近代産業の発達に伴って組織化や機械化が進むにつれて現代の職業はますます分化し,専門化してきた。また,職業は個人生活および社会生活をささえるとともに,個人は職業を通して社会の進歩に役だつことになる。
(12) 明るい職場をつくるためには,職場における人間関係の改善に努めるとともに,個人生活を充実させることが必要になる。
(2) 内容の(5),(6),(7)等に関連した学習においては,国際理解,国際協調の精神を養うために必要な程度の基本的事項にとどめるべきである。なお,このような学習を通して,わが国の国旗をはじめ諸外国の国旗に対する関心をいっそう深め,これを尊重する態度などを養うことがたいせつである。
(3) 内容の(9),(10),(11)および(12)に関連した学習においては,内容(3)における日本国憲法の発展として,日常生活の具体的事例を通して民主的な人間関係のあり方について考えさせるように配慮することがたいせつである。
(4) 義務教育の最終学年であることに留意し,社会に関する基礎的知識を身につけるとともに時事問題等を通して現代の諸問題に目を開かせるように指導する必要がある。
(5) 指導にあたっては,生徒の日々の生活や思考・感情と結びつけて学習内容を具体的に理解させることや,生徒が現実の日常生活において,民主的な生活を実現していく態度や能力を養うように考慮することが必要である。
(6) 学習の全般を通して,各種の統計,年表,年鑑,新聞その他の資料を有効に使用する能力を育て,また,必要に応じて見学し調査させるなど,具体的事例に即して考えさせることや視聴覚教材を利用して,指導する事項を具体的に理解させることが望ましい。
第3 指導計画作成および学習指導の方針
1 各学年の学習は相互に緊密な関連を保って,それぞれ孤立した取扱いにならないように配慮しなければならない。そのために,3か年間の指導の見通しをつけ,その見通しのもとに,各学年の指導計画を作成して,相互の有機的な関連を図り,指導の発展の筋道を明らかにしておくことが特に必要である。
2 内容の各項目は,指導のうえで必ずしも同等の重要さをもつものではなく,同じ時数をこれに充てるものでもない。また,各項目の組織,配列は,必ずしもそのまとめ方や順序を示すものではない。したがって,「第1 目標」および各学年の目標に基づき,指導上の留意事項をじゅうぶん考慮して,適切な組織,順序をもった指導計画を作成して指導することが望ましい。
3 指導計画の作成や学習指導にあたっては,少なくとも次の諸事項を考慮することが望ましい。
(2) 生徒の当面する身近な問題との関連を考慮すること。
(3) 小学部の社会科ならびに中学部の他の各教科,道徳,特別教育活動および学校行事等との関連を図ること。
(4) 地域社会で学習に利用できる資料や施設の状況を調べておくこと。
そして学習活動に系統を与え,特に基本的な知識や技能などを確実に身につけさせるように指導しなければならない。
5 指導する事項の中に時事的なできごとを取り入れることは,その理解をいっそう具体的なものにするとともに,現実の社会に関心をもたせるうえにも大きな効果がある。しかし,これは,無計画に取り上げるのでなく,目標をじゅうぶん達成することができることがらを精選して取り上げるべきである。
6 学校における道徳教育において,社会科は,社会に関する正しい理解を得させることによって,道徳的判断力の基礎を養い,望ましい態度や心情の裏づけをしていくという点で,重要な任務を担当している。特に,社会科における指導によって育成された道徳的判断力が,道徳の時間において,生徒ひとりびとりの内面的自覚として深められ,これがふたたび社会科の学習にも具体的に生かされるようになることがたいせつである。