第1 目 標
1 彫塑や絵画的なものなどの表現や鑑賞を通して,美術的な表現意欲を高め,創作の喜びを味わわせる。
2 形や地はだなどに関する学習を通して造形感覚を伸ばし,造形的な表現能力を養う。
3 自然や人工のものを観察させ,触覚による観察力を養う。
4 わが国および諸外国の美術作品を鑑賞させ自然に親しませて美術や自然を愛好する心情や鑑賞する力を養う。
5 美術の表現や鑑賞を通して,情燥を豊かにするとともに美術的な能力を生活に生かす態度や習慣を養う。
以上の目標の各項目は相互に密接な関連をもって,全体として美術科の目標をなすものであるから,指導にあたっては,この点を常に考慮しなければならない。
第2 各学年の目標および内容
〔第1学年〕
1 目 標
(2) 小学部に引き続いて自由な構想力を伸ばすとともに,観察による表現力もあわせて養う。
(3) 形や地はだなどを美術的に処理する能力や,デザインの能力の基礎を養う。
(4) わが国および諸外国の美術作品に親しませ,表現能力を養うことに役だたせるとともに作品のよさを味わい楽しむ態度や能力を養う。
A 内 容
(印象や構想などの表現)
印象や構想などの表現を,以下観察による表現と構想による表現とに分けるものとする。第2学年および第3学年の場合も同じとする。
観察による表現の指導においては,対象を観察し,対象物から受けた感動をとらえて表現する能力を養う。第2学年および第3学年の場合も同じとする。
構想による表現の指導においては,外界の対象や生活経験,物語詩などをもととし,記憶,想像,空想などを自由に表現する能力を養う。第2学年および第3学年の場合も同じとする。
小学部における学習経験の基礎の上に,第1学年においては,構想による表現の指導にやや重点をおくものとする。
生徒の必要や興味によって身近な自然や人工物の中から,美しさを見いだし,その印象を率直に表現させたり,対象を形をくわしく観察して表現させたりする。
対象物の立体的な組み立てを観祭し,量感を豊かに表現させる。
(ア) 表現題材は,動植物,人物,その他の具象物とする。
(イ) 表現材料は,繊維性塑材・粘土類,人工材料などの可塑材・木材・硬土類・人工材料などの彫刻材などのうちから適宜選ぶものとする。
(ウ) 表現方法は,浮き彫り,まる彫りとする。
イ 絵画的なもの
(ア) 表現題材は,身近な動植物,人物,人工物などとする。
(イ) 表現材料は,紙材,繊維性材・粘土類・自然物その他から適宜選ぶものとする。
(ウ) 表現方法は,浮き彫り的表現方法その他などとする。
記憶,想像,空想などによって構想を自由に表現させる。
(ア) 表現題材は,生活経験に関連のあるもの,科学的なもの,文学的なものなどとする。
(イ) 表現材料は,繊維性塑材・粘土類・人工材料などの可塑材,木材・硬土類・人工材料などの彫刻材などから適宜選ぶものとする。
(ウ) 表現方法は,浮き彫り,まる彫り,その他表現に適する任意な方法を選ぶものとする。
イ 絵画的なもの
(ア) 表現題材は,生活経験に関連のあるもの,科学的なもの,文学的なものなどとする。
(イ) 表現材料は,紙材,繊維材,粘土類,自然物その他から適宜選ぶものとする。
(ウ) 表現方法は,浮き彫り的表現方法その他などとする。
形体,材質感などによる構成練習を通して,調和の感覚を訓練し,彫塑や絵画的なものなどにおける表現やデザインの基礎的な能力を高めることを主とする。第2学年および第3学年の場合も同じとする。
第1学年においては,基礎的で比較的容易なものを扱い,生徒の興味と関心をよび起こさせる。
美しい形を見いだしたり,創作したり,また造形の美的秩序を研究させる。第2学年および第3学年の場合も同じとする。
第1学年においては,次の練習を通して,創造的構成の関心を高める。
自然物の形をもとにして,自由な形体を作り出させるものとする。
イ 抽象形をもとにした練習
簡単な幾何学的な図形や好きな抽象形を用いて,自由な組み立てをさせるものとする。
材料は,おのおの材料特有の性質と材質感をもつが,それらの材料が,美術的表現の材料となる可能性を感づかせ見いださせる。
第2学年および第3学年の場合も同じとする。
第1学年においては,次の活動を通して材料は造形上おのおの特有の性質と材質感をもつものであることを知らせ,材料についての興味を深めさせる。
イ 材料の扱い方をくふうして,いろいろな表現効果をためしてみる。
ウ 身近な材料で立体のおもしろい形をくふうする。
デザインの指導においては,使用目的およびそれに関連するいろいろの条件を考えて,創造的な活動を行ない,美的に総合して物を作り上げる能力を養う。第2学年および第3学年の場合も同じとする。
デザインの対象となるものは広い範囲に及ぶが,ここにいう美術的デザインの内容として扱うものは工的技術を主とした建築や工業的デザインを除いた分野のものとし,デザインの能力とみられる物の配置配合,環境の改善美化もここに加えて指導するものとする。第2学年および第3学年の場合も同じとする。
第1学年においては,生徒の経験や興味を生かし,次のような身近なもの,自由なものについてのびのびとデザインをさせる。
マーク,表紙,身近な日用品などから適宜選んで指導する。
(2) 物の配置配合
学校生活,家庭(寄宿舎)生活における室内のいろいろな用具日用品などの配置配合を適宜選んで指導する。
主として表現の指導に関連して,自然や人工の美を観察,鑑賞させ,また,美術作品などに親しませる。
3 指導上の留意事項
このために教師は,この学年の生徒にも感じ取られような美しい対象を用意したり,環境を整えてやることが必要である。
(2) 2A(印象や構想などの表現)の「(2)構想による表現」については,中学部生徒の年齢になると小学部児童ほど表現活動に自由さがなくなる傾向がみられるので,教師の適切な示唆により,生徒の想像力や,空想力を育て,表現内容に深みや豊かさをもたせるように指導することが必要である。
また,表現に移る前に表現の意図を明確にさせるようにする。
(3) 2A(形の基礎練習)の「(1)形の構成練習」において自然形をもとにした練習では,観察の態度や方法によっていろいろ異なった感じ方があることなどを,それに適した方法を講じて気づかせ,新鮮な感銘によって形を作り出すことのできるように指導する。さらに抽象形をもとにした練習では,自由にのびのびと扱うことを主旨とするが,その練習はあまり冗漫になったり,様式的にならないような注意がたいせつである。
(4) 2A(形の基礎練習)の「(2)材料についての経験」ではいたずらに材料の種類を多くしたり,それらを扱う方法について,深入りした指導をしないように留意する。
(5) 2A(美術的デザイン)については,よい構想を持ちながら,表示能力が伴わないために,デザイン学習に困難さをきたす生徒が多いので,表現の巧拙にかかわらずよい構想や口頭発表などを認めるようにし,また,よい構想に適切な表示方法を指導することがたいせつである。
また,配置配合の指導にあたっては,それらを単独に取り出して指導するのでなく,他の内容の扱いに関連して指導の機会を見いだすようにすることが望ましい。
(6) 2の「B鑑賞」における自然や人工の美の観察,鑑賞の指導は他の「A表現」の内容と関連をとって行なうものとする。また,美術作品などの鑑賞の指導にあたっては,生徒に親しみのある身近な作品,を選んで親しませるとともによく理解させることに重点をおき表現指導との関連を考えながら,いろいろな観点から扱うことが望ましい。
さらに美術品の扱い方や,作者や作品に対する尊敬の念を育てるように留意する必要がある。
1 目 標
(2) 観察的な表現力をいっそう伸ばすとともに,自由な想像力をも伸ばす。
(3) 第1学年における形や地はだなどの基礎練習や美術的デザインの学習経験を基礎にして,さらに意図的に自分の構想をまとめ,これを表現する能力を養う。
(4) 身近な生活環境を美術的に処理する態度や能力を養う。
(5) わが国および諸外国の美術作品に親しませ,表現能力を養うことに役だたせるとともに,作品のよさを味わい楽しむ態度や能力を養う。
A 表 現
(印象や構想などの表現)
第1学年における学習経験の基礎の上に,観察による表現を主とし,構想による表現も指導する。
対象の形体,材質などを観察して表現させたり,また全体的に関係的に対象を観察して表現させたり,さらに適切な構成をくふうさせたりすることによって,対象から受ける感動を表現させる。
対象物の立体の組み立てを観察し,均衡に留意して表現させる。
(ア) 表現題材は,動植物,人物,その他具象的的なものとし,複合体などのやや程度の高いものを扱う。
(イ) 表現材料は,粘土類・石こう・セメント・人工材料などの可塑材,硬土類・軟石類・人工材料などの彫刻材などのうちから適宜選ぶものとする。
(ウ) 表現方法は,第1学年2A(印象や構想などの表現)(1)の(ウ)に示したものに同じとする。
イ 絵画的なもの
(ア) 表現題材は,第1学年2A(印象や構想などの表現)(1)イの(ア)に示したものに同じとする。
(イ) 表現材料は,第1学年2A(印象や構想などの表現)(1)イの(イ)に示したものに同じとする。
(ウ) 表現方法は,第1学年2A(印象や構想などの表現)(1)イの(ウ)に示したものに同じとする。
記憶・想像・空想などによる構想をやや計画的に表現させる。
(ア) 表現題材は,第1学年2A(印象や構想などの表現)(2)の(ア)に示したものに同じとする。
(イ) 表現材料は,粘土類・石こう・セメント・人工材料などの可塑材,硬土類・軟石類・人工材料などの彫刻材などから適宜選ぶものとする。
(ウ) 表現方法は,表現に適した任意な方法を選ぶものとする。
イ 絵画的なもの
(ア) 表現題材は,第1学年2A(印象や構想などの表現)(2)イの(ア)に示したものに同じとする。
(イ) 表現材料は,第1学年2A(印象や構想などの表現)(2)イの(イ)に示したものに同じとする。
(ウ) 表現方法は,表現に適した任意な方法を選ぶものとする。
第1学年の内容として示したものを深め,形体,材質感などの総合的な練習も行なわせる。
形の構成練習において,次の練習を通して,自然の観察力を深めるとともに,構成力を養い,また材質感についても考えさせる。
自然形をもとにした練習では,自然物の形をよく観察して,形の特微を生かした新しい形体を構成させるものとする。
イ 抽象形をもとにした練習
抽象形の配置や組み立てにあたって,変化や統一などの構成に注意しながら行なわせるものとする。
第1学年2A(形の基礎練習)の(3)に示した内容に準ずるが,「(1)形の構成練習」と融合して扱うことに重点をおくものとする。
デザイン上の諸条件を考え,条件に適応して,次のようなもののデザインをさせる。
第1学年2A(美術的デザイン)の「(1)デザイン」に準ずる。
(2) 物の配置配合
第1学年2A(美術的デザイン)の「(2)物の配置配合」に準ずる。
第1学年「B鑑賞」に示したものに準ずる。
3 指導上の留意事項
「(1)観察による表現」においては,それぞれの生徒の個性を生かした指導をすることがたいせつである。
(2) 2A(印象や構想などの表現)の「(2)構想による表現」については時間的に制限あもり,生徒の関心の度合いにも差が生じてくるから,「(1)観察による表現」とあわせて指導してもよい。また,表現の技法も教える必要がある。
(3) 2A(美術的デザイン)の指導においては,デザインの目的や諸条件に適応して創造的な働きができるようにしていくことをねらいとするが,それには,デザインするものの使用目的や使用環境あるいは製作される過程などの条件をじゅうぶん理解,はあくさせるようにし,これらをもとにして,総合的に新しい考え方をくふうさせるようにする。
また,「(2)物の配置配合」の指導は,美術の時間の指導で終わるというのでなく,学校内外の生活で,生徒が興味と関心をもち,この能力を発揮できるように指導することが望ましい。
(4) 2の「B鑑賞」の指導にあたっては,わが国および当用諸国を中心として彫刻,工芸品などの作品の中で,生徒に親しみやすい,わかりやすいものを選び,じゅうぶんよさを味わせるとともに理解させる。
また,鑑賞の指導が,既成の概念や知的な理解に終わらないように各種資料を準備することが望ましい。
1 目 標
(2) 表現にくふうをこらし,自信と自由感をもって,表現する能力を養う。
(3) 第1学年や第2学年の形の基礎練習や美術的デザインの学習経験の基礎のう上に,これらをいっそう伸ばすとともに,総合的に応用する力を養う。
(4) 環境美化について関心をもたせる。
(5) わが国および諸外国の美術作品に親しませ,表現能力を養うことに役だたせるとともに,作品のよさを味わい楽しむ態度や能力を養う。
A 表 現
(印象や構想などの表現)
第2学年2A(印象や構想などの表現)の学習経験の基礎の上に,観察による表現を主とし,構想による表現も指導し,表現の深さを増すように指導する。
第2学年2A(印象や構想などの表現)の「(1)観察による表現」に示した内容の程度をさらに高めて,各自に適した表現の態度や方法を指導し,自信や自由感をもって表現させる。
対象物の立体の組み立てを観察し,動勢に留意して表現させる。
(ア) 表現題材は,第2学年2A(印象や構想などの表現)(1)の(ア)に示したものに同じとする。
(イ) 表現材料は,第2学年2A(印象や構想などの表現)(1)の(イ)に示したものに同じとする。
(ウ) 表現方法は,第2学年2A(印象や構想などの表現)(1)の(ウ)に示したものに同じとする。
イ 絵画的なもの
(ア) 表現題材は,身近な動植物,器物,人物,人工物などから適宜選ぶものとする。
(イ) 表現材料は,第2学年2A(印象や構想などの表現)(1)イの(イ)に示したものに同じとする。
(ウ) 表現方法は,第2学年2A(印象や構想などの表現)(1)イの(ウ)に示したものに同じとする。
第2学年における学習経験を深めて,記憶,想像,空想などによる構想を的確に表現させる。
(ア) 表現題材は,第2学年2A(印象や構想などの表現)(2)の(ア)に示したものに同じとする。
(イ) 表現材料は,第2学年2A(印象や構想などの表現)(2)の(イ)に示したものに同じとする。
(ウ) 表現方法は,第2学年2A(印象や構想などの表現)(2)の(ウ)に示したものに同じとする。
イ 絵画的なもの
(ア) 表現題材は,第2学年2A(印象や構想などの表現)(1)イの(ア)に示したものに同じとする。
(イ) 表現材料は,第2学年2A(印象や構想などの表現)(1)イの(ウ)に示したものに同じとする。
(ウ) 表現方法は,第2学年2A(印象や構想などの表現)(1)イの(ウ)に示したものに同じとする。
第2学年2A(形の基礎練習)の内容として示したものをさらに深めさせる。
立体における空間構成について関心を高める。
いろいろな形や材料を扱って,立体における構成,量,均衡,方向や律動などを考えて構成させる。
(2) 材料についての経験
第2学年2A(形の基礎練習)の(2)に準じ,「(1)形の構成練習」と融合して扱うことに重点をおくものとする。
デザインの諸条件を第2学年2A(美術的デザイン)に示したよりもさらに深く理解し,条件に適応し,かつ創造的価値の高いものになるように,次のもののデザインをさせ,また,その表示の能力も伴うように指導する。
第2学年2A(美術的デザイン)の「(1)デザイン」に示した内容に準ずる。
(2) 物の配置配合
第2学年2A(美術的デザイン)の「(2)物の配置配合」に示した内容に準ずる。
第2学年「B鑑賞」に示したものに準ずる。
3 指導上の留意事項
さらに材料,技法は生徒の能力,興味に適したものを取り上げあまり細かな技法を強制しないように留意する。
(2) 2A(印象や構想などの表現)の「(2)構想による表現」については,時間的にも制限があり,また生徒の関心の度合いにも差が生じてくるから,「(1)観察による表現」とあわせて指導してもよい。表現の技法もくふうさせ意図を明確に表現するように指導する。大きな立体に表現することを指導してもよい。また共同製作を課してもよい。
(3) 2A(形の基礎練習)(1)形の構成練習では,身近な材料を扱って指導し,立ち入った材料の組み立ての技法の指導は避ける。
(4) 2A(美術的デザイン)の指導にあたっては,学校行事等と関連をとり,その実際に役だつように配慮することが望ましい。
さらに,社会の環境の実態の上に立ってこれらを美化する基本的な事項を説明したり,指導することも考えられる。
(5) 2の「B鑑賞」の指導にあたっては,わが国および西洋の彫刻,工芸などの作品の中で,生徒に親しみやすいものを選び,じゅうぶんに味わわせるとともに理解させる。
また,鑑賞の指導が既成の概念や知的な理解に終わらないように各種の資料を準備することが望ましい。さらに,郷土に適当な美術作品があれば,適宜これを取り入れて指導することが望ましい。美術文化交流と国際親善についても適宜指導し,必要によっては美術の動向についても平易な指導をする。
第3 指導計画作成および学習指導の方針
1 各学年の内容は,A表現と,B鑑賞の二つの領域に大別し,A表現はさらに印象や構想などの表現形の基礎練習および美術的デザインの三つに分けてある。したがって,指導計画の作成や指導にあたってはそれだけの特性を生かすとともに相互の有機的な関連を図るように心がけなければならない。
2 指導する事項の扱いにおいては,この教科の性格上,生徒の発達段階に応じて同一の事項でも,これを質的に高めていくべき性格のものもあるから,この点に留意しなければならない。
3 各学年の2A(印象や構想などの表現)中の表現題材については,指導計画を作成するにあたって,全学年を通して生徒の発達段階などを考慮して,適切な計画を立てなければならない。
4 選択教科としての美術の時間においては,各学年の内容において示したものを深めるという取り扱いをする。深めるべき内容としては,すべての領域にわたって行なう。
5 指導計画作成にあたっては,特に技術・家庭科との関連を図ることが必要である。
6 指導計画作成にあたっては,学校の施設設備の状況,季節などを考慮して年間計画などを作成して,指導を計画的に行なうことが必要である。
7 指導する事項の取り扱いや指導法については,教師の興味に偏することなく,生徒の必要や要求に応ずるようにくふうすることがたいせつである。
8 指導を有効に進めるためには,造形に関する実物,模型,複製,標本など資料を精選してなるべく多く準備することが望ましい。