第2節 社     会

第1 目  標

1 具体的な社会生活の経験を広め,自他の人格の尊重が民主的な社会生活の基本であることを理解させ,自主的,自律的な生活態度を養う。

2 家庭,学校,市町村,国その他いろいろな社会集団につき,集団における人と人との相互関係や,集団と個人,集団と集団との関係について理解させ,社会生活に適応し,これを改善していく態度や能力,国際協調の精神などを養う。

3 生産,消費,交通その他重要な社会機能やその相互の関係について基本的なことがらを理解させ,進んで社会的な協同活動に参加しようとする態度や能力を養う。

4 人間生活が自然環境と密接な関係をもち,それぞれの地域によって特色ある姿で営まれていることを,衣食住等の日常生活との関連において理解させ,これをもとに自然環境に対応した生活のくふうをしようる態度,郷土や国土に対する愛情などを養う。

5 人々の生活様式や社会的な制度,文化などのもつ意味と,それらが歴史的に形成されてきたことや盲人の生活とその推移をも考えさせ,先人の業績やすぐれた文化遺産を尊重する態度,正しい国民的自覚をもって国家や社会の発展に尽くそうとする態度などを養う。

 上に掲げた社会科の目標は,相互に密接な関連をもつものであるが,特に,社会科はわが国における民主主義の育成に対して重要な教育的役割をになう教科であり,障害をもつものにも,民主社会の一員としての自覚をもたせる意味から,各学年における具体的な学習が,主として目標2から5までのいずれかにかかわる場合においても,常にその指導の根底には目標1が考慮されなければならない。

 社会科は,社会生活に対する正しい理解を得させることによって,児童の道徳的判断力の基礎を養い,望ましい態度や心情の裏づけをしていくという役割をになっており,道徳教育について特に深い関係をもつものである。したがって,社会科の指導を通して育成される判断力が,道徳の時間において児童の道徳性についての自覚としていっそう深められ,この自覚がふたたび社会科における学習に生きてはたらくように指導することが望ましい。

 以下に示す各学年の目標は,次のような盲児童の発達段階と特性に応じた社会科の特性を考慮して作成したものである。すなわち,低学年では,児童の日常生活における諸経験を整理,発展させながら,個々にとらえた事物を総合して空間を構成的に理解する能力を養い,身近な社会生活をささえている人々の仕事や事物のはたらきなどに着目させ,これらの意味を正しく理解させることを通して,社会生活に対する正しい見方,考え方の基礎や集団の一員として障害を克服して自主的,自律的に生活する態度の芽ばえを育てることが重点であって,社会事象に対するあまり立ち入った解釈や批判をしいてもたせようとすることは適切ではない。学年が進むにつれ,ものごとを系統的に考える力や,社会事象相互の関係を追求したり,批判的に考える力などもしだいに発達してくるので,このような特性をじゅうぶん生かしながら,社会科の目標を有効に達成するように配慮したものである。
 
 

第2 各学年の目標および内容 〔第1学年〕

 1 目  標

(1) 学校や家庭の生活をささえるために行なわれているいろいろな仕事の様子や,自分たちとの関係について理解させ,これらの仕事に伴う苦心やくふうに気づかせる。

(2) 学校や家庭,その他の身近な生活におけるいろいろなきまりや行事,施設などの意味について理解させ,みんなが健康でしあわせな生活ができるように苦心が払われていることに気づかせる。

(3) 学校を中心に身近な地形,事物の位置関係や場所的相違,あるいは家庭の暮らしなどにみられる季節的変化,事物の新旧の違いなどを観察,理解させ,空間や時間についての意識を育てる。

(4) 学級や家庭などにおける人間関係に目を開かせ,これらの生活も自分たちの協力やくふうによって,いっそう楽しくなることを考えさせ,集団生活に進んで参加しようとする態度を養う。

 2 内  容 (1) 学校の校舎や運動場,その他学級園などの配置やその利用のしかたを理解する。

(2) 学校では先生はじめいろいろな人々が,それぞれの仕事を通して力を合わせながら,自分たちのために働いてくれている。

(3) みんなで使う道具や施設の使い方,行事への参加のしかたなど,学級や学校で決めたことをよく守れば,みんなが楽しい学校生活を送ることができる。

(4) 自分から進んでくふうし,みんなのためになることをすれば,気持ちよく楽しい学級の生活ができる。

(5) 集団生活では,互いに自分の意見や希望をすなおに述べあったり,人の立場や意見も考えて行動したりしなければならない場合が多い。

(6) 家の職業は,家族の生活をささえるもとになっているたいせつなものであり,友だちの家と比べてみても,いろいろな職業があることがわかる。

(7) 家庭で衣食住の準備や世話をしてくれる人の仕事は,忙しく苦労が多いが,そのほかの家族もめいめいたいせつな役割をもっている。

(8) 人々の仕事には,季節や時刻,人手の関係などで特に忙しいことがある。

(9) 家庭では,みんなが仕事の上で協力するばかりでなく,いろいろくふうして,楽しい時間や行事をもつように努めることがたいせつである。

(10) 人々は,いろいろくふうして,土地を田や畑にしたり,道路にしたりなどして,暮らしに役だてているが,その様子は場所によって違っている。

(11) 自分たちの周囲には,いろいな道路があり,また各種の乗り物が走っていて,人や物を運ぶたいせつな役割を果たしているが,その利用には危険も伴うから,登下校などには常に注意が必要である。

(12) 自分たちの周囲には,公園,あき地,遊園地などもあり,遊び場その他に役だっているが,その利用のしかたについてもいろいろな注意やくふうが必要である。

(13) 家庭の衣食住,自分たちの遊びや生活のしかたなどには,季節によって,さまざまな違いが見られる。

(14) 道路や建物などには古いものと新しいものがあり,また道路工事が行なわれたり,新しい建物ができたりなどして,近所の様子も変わっていく。

(15) みんなが健康に暮らすことが楽しい生活のもとになるので,学校や社会では病気やけがを防ぐためのきまりをつくったり,行事を行なったりしており,両親や先生も常に気を配ってくれている。

 3 指導上の留意事項 (1) この学年の社会科は,特に道徳の時間における指導との関係が深い。しかし,社会科としては,たとえば健康,安全のための習慣形成とか,世話になっている人々への感謝の気持ちを育てることなどだけがねらいではなく,具体的な社会生活の中で人や事物がどんなはたらきをしているか,そのはたらきはどんな条件にささえられているか等についての認識を育てながら,その発展として上記のような習慣形成や心情の育成をも目ざすのである。このような社会科の特性を生かした単元構成とその指導を行なうべきである。

(2) 内容の(6),(7),(8)等に関連して,家族の人たちの仕事について学習を行なう際,単にいろいろな仕事を列挙するだけでなく,いわゆる家計の基礎である職業的活動として行なわれている仕事と家族の衣食住の世話にあたる仕事などとの間には,「仕事」という同じことばで呼ばれても,そこにはかなりの意味の違いがあることに気づかせ,かつそのような職業を通して家庭の生活もより広い社会につながっていることに気づかせておくことが,第2学年の学習の基礎として重要である。ただし,職業の種類については,学級の児童の家庭の職業として取り上げられる範囲にとどめ,それ以上にわたる必要はない。

(3) 内容の(10),(11),(12)等の学習を通して空間的意識を育てることがたいせつであるが,その場合には内容の(1)とともに児童の日常の生活経験を考えて具体的な観察の観点を明確にし,経験の確かなもので,はあくの徹底を期することがたいせつである。また,簡単な模型等の有効な活用に努め,地図に対する基礎的な空間理解の能力を養うことが特にたいせつである。

(4) 内容の(13)および(14)は,児童の時間的意識を育てるものとして重要な意味をもっている。しかし盲児童の経験と観察には特色があるので,教材の選定に留意するとともに,この学年としては,これらを単独に切り離して単元を構成するのではなく,学校や家庭生活等に関する具体的な学習と関連して取り扱うことが望ましい。

〔第2学年〕

 1 目  標

(1) 世の中には,生活に必要な物資の生産や,その輸送等に従事している人々の活動があり,これによって自分たちの生活がなりたっていることを理解させ,物資の利用のしかた等についてくふうできるようにする。

(2) 人々の生命財産を守るための各種の仕事やその意味について具体的に理解させ,自分たちが日常安心して生活できるようなしくみが考えられていることに気づかせる。

(3) 天候と人々の仕事との関係,自分たちの生活が遠い地方の人々とも関係をもっている事実,人々の使う道具や機械が進んできている事実などの一端を理解させ,空間や時間についての意識を深める。

(4) 学校や家庭ばかりでなく,世の中でも多くの人々がそれぞれの仕事を分担しあっている事実を理解させ,これらの人々に対する協力や感謝の気持ちを育てる。

 2 内  容 (1) どんな職業の家庭でも,他の人の作った物資を買って,その仕事や生活に役だてている。

(2) 近所の位置関係や様子をとらえ,人々は互いに協力して不時の災害に備えたり,共同施設の改善を図ったりなどして,安全で住みよい環境をつくる努力を続けている。

(3) 田畑を耕して米や野菜などを作っている農家の人々,山の木を切り出したり,炭を焼く人々,海で働く人々などはすべて自然と関係の深い仕事をしている。

(4) 工場では,大ぜいの人々が,生活に必要ないろいろな品物を機械を使って大量に作り出している。

(5) 店の人々は生産者と消費者とをつなぐ役割を果たしているが,問屋や市場から品物を仕入れる仕事その他にいろいろなくふうをしている。

(6) 交通,運輸の仕事に携わっている人々は,安全にしかも早く人々や物を運ぶために努力している。

(7) 天候の変化は,人々の仕事にいろいろな影響を与えるが,特にあらしなどで田畑が荒らされたり,交通,通信機関などが止まったりすると,その復旧には多くの苦労が伴う。

(8) いろいろな仕事をする人の使う道具や機械を見ると,便利になってきたものが多い。

(9) 警察官,消防官,医師などは,盗難,けが,火災,病気等の不幸からみんなの生活を守るための仕事を休みなく続けているが,自分たちとしてもこれらの事故を未然に防ぐくふうをしなければならない。

(10) これらの人々の仕事の特色は,いつでも仕事にとりかかれるように用意しており,時にはその仕事に生命の危険伴うことなどである。

(11) 人々は郵便,電報などを利用して,よその土地の人々と必要な連絡をしているが,郵便局などで働いている人々は,それらが確実に早く相手に届くよう努力している。

(12) 働く人たちは身なりやことばづかいは違っていてもそれぞれたいせつな仕事を受け持っていることを考えたり,これらの人々の働きで作られた品物をたいせつに使うくふうをすることなどが必要である。

 3 指導上の留意事項 (1) この学年の社会科は内容の(3),(4),(5),(6),(9)および(11)によって明らかなように,自分たちの生活のささえになっている重要な仕事の代表的なものをとらえ,これらが社会的分業のかたちで行なわれていることに気づかせ,それぞれの仕事の様子や自分たちとの関係などを,人の働きを中心として理解させようとするものである。しかし職業的活動相互の関係については,児童の理解しやすい事例に限定して扱い,あまり多くを期待すべきではない。

(2) この学年の内容を取り扱う場合,具体的な場所については,常に自分の学校や家庭との位置関係等についての配慮のもとに,学習を進めるよう留意することがたいせつである。

(3) 特に内容の(3)および(4)については,地域によって,それぞれ働く人の様子を実際に観察したり,調べたりすることの困難な場合や,経験的にとらえられないものもあろう。しかし,そのような場合でも,教科書,説明,録音の利用その他の方法によって,これを有効に学習させるようにくふうしなければならない。

(4) 内容の(8)の取り扱いについては,内容の(3),(4),(6),(7),(10),(11)等に関する具体的な学習の中で,児童に理解しやすく,できれば実際に比較観察することのできる道具や機械の事例を取り上げていくのが望ましい。時代の順を追ってこれらの変遷を扱うような学習を行なう必要はない。

〔第3学年〕

 1 目  標

(1) 村(町)で人々が行なっている生産その他の重要な諸活動とそれら相互の関連について理解させ,村(町)の公共施設や資源をたいせつにする態度を養う。

(2) 村(町)の人々の仕事は,その地形,気候,資源,交通条件などと深い関係をもって営まれていることを観察,理解させ,自然環境と人間生活の関係についての関心を高める。

(3) 村(町)の生活には,今昔の違い,歴史的な移り変わりがいろいろな姿でみられることを理解させ,先人の努力について考え,これを尊重し,感謝する気持ちを育てる。

(4) 自分たちの村(町)にも今後くふうや改善を要するいろいろな問題があることを知り,その解決や村(町)の発展を願う気持ちを育てる。

 2 内  容 (1) 村(町)の中には,田畑や森林の多い所,住宅,商店,工場などがそれぞれ集まっている所などがあり,その様子は場所によって違う。

(2) 村(町)の人々はいろいろな職業に携わっているが,その中には自分の村(町)で働いている人と,他の村(町)に働きに行く人とがある。

(3) 村(町)の人々の仕事や暮らしは,その土地の地形,気候,資源,交通条件などと深い関係をもっているが,かんがいのための各種の工事を行なったり,協同組合を作ったり,水道を引いたりなどして,いろいろくふうをしている。

(4) 村(町)では,みんなの健康を守ったり,火災や水害などの災害を防いだりするために,保健所,診療所,消防団,水防団などをつくってさまざまな活動を行なっている。

(5) 村(町)では,村(町)の人々によって選ばれた議員や村(町)長が,村(町)全体の人々のために必要な仕事を計画したり,行なったりしている。

(6) 村(町)の人々は学校,公民館,図書館,公園などの公共施設を利用して,生活の向上に役だてている。

(7) 村(町)の人々は,昔から神社や寺院などを中心として祭りその他の行事を催し,楽しみをともにしてきた。

(8) 村(町)の人口や集落の状態,人々の仕事の種類や方法,道路の様子などをみても,父母や祖父母のこどものころに比べて変わった点が少なくないが,そこには鉄道やバスの開通,道路や港の改修,工場の設置など村(町)の人々のいろいろな努力があった。

(9) 村(町)の人々の仕事や暮らしには,電信,電話や各種の交通機関などによる他地域との通信,往来,物資の輸送等もたいせつなはたらきをしている。

(10) 自分のことばがりでなく,村(町)の人々全体のことを考え,みんなが協力しあえば,村(町)の生活も改善される面が少なくない。

 3 指導上の留意事項 (1) この学年の村または町についての学習では,行政区画としてのそれを取り上げる必要のある場合,たとえば内容の(5)と,むしろそのような区画にとらわれず,児童の日常の生活に最も密接な関係がある地域的範囲を,指導の目標や内容に即して決定したほうがよい場合とがある。単元構成や指導の実際にあたっては,この点じゅうぶん留意すべきである。

(2) 内容の(1)については,その地域の位置関係等を明らかにし,村(町)の全体的な認識をさせるよう注意すべきである。また,内容の(3)については,地域によって具体的な取り扱い方が異なってくるが,いずれの場合にも,具体的な観察や事実の認識に基づいて,自然と人間生活との基本的なつながりに目を開かせるようにすべきである。したがって学習に模型や地図を利用する機会をできるだけ多くし,実際の場と地図との関連を明らかにして,基礎的な地図記号や方位等についても的確な指導をしておくことが望ましい。

(3) 内容の(5)に関連した学習においては,村(町)の政治や行政組織等に関する程度の高い学習にはしりすぎないように特に注意する必要がある。村(町)の人々全体の福祉をめざし,そのために必要な仕事が村(町)の人々の税金などをもとにして行なわれるようなたてまえになっていることを理解させることができればよい。

(4) 内容の(7)および(8)に関連した学習を行なう場合,この学年の児童の能力を考え,歴史的資料(史跡,記念碑などを含む)についても児童の興味に応じた取り扱いについて配慮する必要がある。

〔第4学年〕

 1 目  標

(1) 自分たちの村(町)の生活が,より広い地域や遠い地方とも密接な関係をもって営まれていることを具体的事実に即して理解させ,われわれの生活が地域的に孤立してはなりたたないことに気づかせる。

(2) 国内の特色ある土地について,自然環境と人々の衣食住その他の生活などとの関係を理解させ,人間生活と自然との密接な関連について考えさせる。

(3) 人々の自然への積極的な働きかけが,現在いろいろなかたちで行なわれているばかりでなく,先人の努力やくふうを通じて今日まで積み重ねられてきたことを理解させ,自分たちの生活の歴史的背景についての関心を深める。

(4) 郷土の生活を現在の状態にまで発展させてきた先人の苦心や,他地域の人々の暮らし方などに学びながら,郷土の発展に尽くそうとする気持ちを養う。

 2 内  容 (1) 自分たちの村(町)の人々は,近くの村(町)に働きに通ったり,物資の売買や病院その他の施設の利用のために出かけたりする場合も多いが,このような付近の町村との関係は交通その他の条件に影響されている面が少なくない。

(2) 県庁の所在地は,県の政治の中心地であるばかりでなく,各種の重要な施設も多いので,自分たちの村(町)の生活も,これと深いつながりをもっている。

(3) 自分たちの村(町)で作られる物資の中には,遠い地方や大都市などへ大量に送り出されて,自分たちの村(町)の人々の生計をささえるもとになっているものもある。

(4) 新しい土地や道路の開発,災害の復旧,公共施設の整備などは,一つの村(町)の力だけでは困難な点もあるので,多くの村(町)の協力あるいは都道府県や国との協力で進められることが少なくない。

(5) 自分の村(町)のことだけでなく,さらに広く他の地域との結びつきに目をそそぐと,国内各地で,それぞれの地形や気候などの条件のもとにいろいろくふうして特色ある生活が営まれていることがわかり,郷土の特色や今後の発展を考えるうえに多くの点で参考になる。

(6) 自然が人間の生活に役だっている一面として,すぐれた自然景観に恵まれた土地があり,その美しさを保護するためにいろいろな努力が払われている場合も少なくない。

(7) 国内には,さまざまな特色をもった地域,たとえば暖かくて雨の多い土地,冬が長くて雪の多い土地,高地,平地,海岸,離島などがあり,衣食住や生産など生活の上で人々はいろいろな苦心やくふうをしている。

(8) 自然への働きかけや暮らしのくふうは,大昔の人々の衣食住の様子や生産のしかた,さまざまな用具なども,いろいろな形で見られ,その様子は現在の自分たちの生活と比較して大きな違いがある。

(9) 郷士の人々は土地の開拓,用水路,道路の開削,新しい産業の導入など,自然の制約を克服しながら生産や生活の向上に努めてきたが,このような事例は他の土地にも多く見られる。

(10) 人々の旅のしかたや物資の輸送のしかた,江戸時代と明治以後とでは,道路の発達や新しい交通機関の出現,世の中の変化などに伴って著しく変わり,便利になった。

(11) 自分たちの郷土を発展させることが,日本の発展の基礎になることを考え,先人の経験を生かして郷土の生活の改善のしかたなどについてくふうすることがたいせつである。

 3 指導上の留意事項 (1) この学年からは,地図帳を使用させることになる。その効果的な利用のしかたについては,ひとり社会科の時間ばかりでなく他教科の指導等においてもくふうをこらし,盲児童の地図に対する親しみを深めることが重要である。そのためには,海と陸,山地と平野,鉄道と都市等の,単純な地図で基本的な配置の状態を徹底的にとらえさせ,学習の発展に基礎的な役割を果たすようにすることがたいせつである。

(2) この学年では,郷土という語を,自分たちの村(町)より広い地域をさす場合に用いているが,その地域的範囲は,行政区画としての都道府県と一致する場合と,一致しない場合とがあることにじゅうぶん留意すべきである。

(3) 内容の(3)に関連した学習を行なうにあたって,特に他地方へ大量に送り出しているような生産物資のない地域(たとえば都市の住宅地区など)の学校では,消費物資の面から他地方とのつながりを理解させるような方法を講ずることが望ましい。

(4) 内容の(6)および(7)の取り扱いにおいては,それらの土地や生活の特色が,具体的にとらえられるよう録音その他の資料の用意が特にたいせつである。いたずらにら列的な観光地巡りや国立公園巡りのような学習に陥らないようにし,郷土の生活との比較や関係などについても必要に応じて指導することがたいせつである。

(5) 内容の(8)に関連した学習においては,日本の歴史上にみられる具体的な人々の生活を取り上げるようにし,人類一般の文明発祥の歴史の学習などにはしらないように留意すべきである。また内容の(10)に関連した学習においては,その地域的範囲を必ずしも郷土だけに限定することなく,それぞれの時代の交通の特色やその変化などを,児童に最も効果的にはあくさせるようにくふうすべきである。また,それぞれの時代の盲人の職業や旅の様子などにふれ,苦難の中に生きた先人の努力を考えさせるようにするのもよい。したがって,これらの学習においては,特に資料や歴史年表などの活用がたいせつである。

〔第5学年〕

 1 目  標

(1) 農業生産の意義やその特色を中心にしながら,この国土で営まれているおもな産業の様子について理解させ,資源の開発,保全や働く人々への関心を高める。

(2) わが国における工業生産の現状やその発達が国民生活全般に及ぼした影響等について理解させ,わが国の発展と科学,産業などとの関係について考えさせる。

(3) わが国の地理的環境の特性をはあくさせるとともに国内各地における生産活動の条件として重要な役割を果たしている交通,商業,貿易などについても目を開かせる。

(4) 日常生活の身近な問題でも国全体としての生活に結びついている場合が多いことや,自分が国民のひとりとして生活している事実に気づかせ,国土に対する愛情や国民的自覚の基礎を養う。

 2 内  容 (1) アジア大陸の東の端に沿って,南北に伸びた日本の各地で,約9,000万の人口の半数に近い人々が各種の職業に従事して働いているが,これらの人々の活動の結果が,国民の生活や文化をささえるもとになってる。

(2) 四面を海に囲まれ,山がちの日本の国土の特色に関連して重要な意味をもつ水産業,林業,鉱業のほか,農業,牧畜業,工業,商業など,国民生活をささえる産業の種類はきわめて多く,これらの産業は相互に密接な関連をもって営まれている。

(3) わが国では地形その他の条件のため,国土の2割たらずの土地が耕地として開かれているにすぎないが,この狭い耕地でできるだけ生産を高めなければならないので,わが国の農業には他国にみられない特色があり,いろいろな苦心が払われてきている。

(4) 野菜や果樹や工芸作物の栽培,養蚕,酪農等もそれぞれ重要な役割を果たしているが,夏の温度が高く雨量の多い気候を生かして発達してきた米の生産が農業生産の根本になっており,毎年の米や麦の生産高の多少が国民生活に大きな影響を与える。

(5) 農家の人々の労働やこれに伴う苦心は,土地の条件によって異なるが,一般に各種の災害対策,土地の改良,土地に適した品種や肥料や進んだ農機具の導入,経営のしかたなどについて払われる苦心が大きい。

(6) 現在のわが国では,いっそう農業生産を高める必要があるので,個々の農家の努力ばかりでなく,国の立場からも,新しい土地の開発,生産技術や経営の改善などの仕事が進められている。

(7) わが国の工業は,国民の衣食住や産業の基礎になる資材の生産などの面ばかりでなく,貿易の上からもきわめて重要な役割を果たしている。

(8) 今日の工業は,一部の特殊な手工業を除いて大部分が機械生産に移っているが,機械生産は手工業生産と比べて新しい動力や機械の利用,分業のしくみ,大量生産などの点で著しい特色をもち,わが国では明治以降特に発達したものである。

(9) 明治以後,最初は繊維工業などを中心に発達したわが国の工業は,しだいに重工業方面にも及び,アジアにおける重要な工業国としての地位を高めてきたが,この間,新しい技術の導入や改善,発明や発見,その他生産の向上のために払われた努力はきわめて大きかった。

(10) わが国の近代工業は,これまでいわゆる四大工業地帯を中心に発達してきたが,最近ではこのほかにも新しい工業地域が各地におこり,すぐれた工業製品もしだいに多くなりつつある。

(11) 工業の著しい発達は,国の経済力を高め,国民生活を向上させるばかりでなく,人口の分布,農林水産業などにも大きな変化と影響を与えた。

(12) 産業の発達に伴い国内国外各地からの原料の入手,あるいは製品の販売等が重要になり,市場,問屋,小売店などがたいせつなはたらきをしているが,このような商業のしくみはしだいに発達してきたものである。

(13) また国内の陸上交通や海上交通もしだいに整備,発達し,今日では主要な鉄道幹線や国内航路,さらには航空路等が国内各地の生活をますます緊密に結びつけ,国民生活全般のたいせつな基礎となっている。

(14) わが国の工業は,多くの原料を外国から輸入し,また製品の市場を広く海外に求める必要があるので,諸外国との貿易が行なわれており,そこにはいろいろな苦心が払われている。

(15) 国民生活の発展は科学の進歩や産業の発達などにまつところが大きいから,それらに深い関心をもつとともに,その成果を国民全体の福祉のために役だてようとすることがいせつである。

 3 指導上の留意事項 (1) この学年においては,前学年までの郷土その他の学習を通して養われた自然環境のもつ意味や地域の特色などについて考える力を,さらにいちだんと深めながら,国土全体の特色やそこに展開されている国民生活についての理解を与え,第6学年の基礎として役だつように適切な指導を行なうことが,特にたいせつである。

(2) 特にこの学年ごろから,各種の統計資料やグラフを利用する学習が多くなる。したがって,その際に必要な基礎的知識や技能については,算数科との関係などを考えながら,適切な指導を行なうべきである。

 統計やグラフの利用にあたっては,あまり細かな数字にとらわれず,その概数をはあくさせること,全体的な傾向を理解させることなどが重要である。特にグラフについては触覚の特性を考慮した指導がたいせつである。

(3) また,利用する地図の種類もふえ,地球儀を使う必要性も多くなる。このようなことと関連して,たとえば等高線,等温線,経度,緯度などのおおまかな意味や分布図の読み方等の指導についても留意する必要がある。

(4) 内容の(12)に関連した学習においては,この学年の児童の能力をじゅうぶん考え,詳細な商業史にわたることのないように特に留意すべきである。

〔第6学年〕

 1 目  標

(1) 具体的な問題の学習を通して政治のはたらきと日常生活との関係について理解させ,今日の政治の基本的なしくみや考え方に気づかせる。

(2) わが国の政治のしかたや国民生活は,それぞれの時代の特色をもちながら今日に及んでいることを具体的に理解させ,国家や社会の発展に貢献した人々やすぐれた盲人の業績などについて考えさせる。

(3) 世界の主要な国々の様子やわが国とこれらの国々との関係などを具体的に理解させ,現在のわが国が世界の国々から孤立しては存在できないことに気づかせる。

(4) わが国の文化や伝統に対する正しい理解やこれを尊重する態度などを深め,進んで世界の平和や人類の福祉に貢献しなければならないわが国の立場について考えさせる。

 2 内  容 (1) 地方や国の政治のはたらきが身近な公共施設や道路の改善,その他郷土や家庭の日常生活に反映し,影響を与えている場合が少なくない。

(2) 現在の政治は国民全体の意見を政治に現わすため,国民が選んだ代表者による議会政治の形をとっている。

(3) このような政治のしくみのおおもとのほか,国家の理想,天皇の地位,国民としてのたいせつな権利や義務などが,日本国憲法によって定められている。

(4) このような現代の政治や国民生活が行なわれるようになったのは,われわれの祖先が政治を改め,進んで海外の文化を取り入れ,国家や社会の発展に尽くしてきた努力の結果であるが,わが国の政治や文化は,それぞれの時代の特色をもちながらしだいに広く国民全般に及び,また世界の国々とのつながりも広く深くなってきた。

(5) わが国では,農耕生活が始まってから,しだいに人々の生活も高まり,大和(やまと)朝廷による国家の統一,大化の改新による政治の改革などを経て,朝廷を中心とする貴族の政治が,奈良(なら)や京都を都として栄えたが,その間,大陸の文化も取り入れられ,独特の日本文化がつくられた。

(6) やがて地方に起こった武士が政治の実権をにぎり,その政治は,鎌倉(かまくら)幕府の創立,蒙古(もうこ)襲来等を経て室町幕府に及んだが,その間,武士は農村に住んで地方の開発に努めたので,商業も盛んになり,村や町も発達し,都の文化も地方に広まった。

(7) 戦国の世の中がほぼ統一された前後には,ヨーロッパとの交渉が始まり,日本人の海外発展も盛んになった。やがて江戸幕府が武士を中心とする社会のしくみを固めたり,鎖国を行なったりしたので,わが国は世界の進展から遅れることになったが,その間,国内の諸産業や都市が発達し,町人の経済力や文化が高まり,武士の支配はしだいに弱くなっていった。

(8) 開国後やがて明治維新が行なわれ,四民平等の世の中に移っていったばかりでなく,その後の政府や民間の先覚者たちの非常な努力によって,欧米の文化が取り入れられ,憲法がつくられ,議会政治への道が開かれた。また近代産業も起こり,日清(しん),日露の戦争や条約改正を経て,わが国の国際的地位は向上したが,その後第二次世界大戦における敗戦を経て国内の事情も改まり,民主的な国家として新たな発展を遂げつつある。

(9) わが国発展の過程において盲人の生活は迷信と苦難の中から,先人の努力と生活や職業の開拓によって,社会的な地歩を築いてきた。そして,民主政治のもとで社会福祉の実があげられつつある。

(10) 現在地球上には二十数億の人々が多くの国々をつくって,それぞれアジア,ヨーロッパ,アフリカ,南北アメリカ,オセアニフ(大洋州)等の各地域に生活しているが,わが国にとって貿易その他の面で関係の深い国も多い。

(11) 世界の国々の中には,わが国とは古くから交渉が深く,現在のアジアにおいても重要な地位を占めている中国やインド,第二次世界大戦後独立の機会を得て,産業の開発や新しい国づくりに努めているアジアやアフリカの国々,古くから産業や文化の開かれた西ヨーロッパにおけるイギリスその他の国々,広大な土地や資源に恵まれ,現在の世界で重要な役割を果たしているアメリカ合衆国,ソビエト連邦などがある。

(12) このような世界の国々は,最近のめざましい交通,通信,報道機関の発達などによって,互いに深く結びつくようになったが,一方,国家間の利害の対立や紛争はなお絶えず,特に原子力時代といわれる今日では,これを戦争という手段によって解決しようとすれば,人類全体にとって恐るべき結果が予想されるので,人々の平和への願いはいっそう高まってきている。

(13) 第二次世界大戦後,国際連合というしくみがつくられ,世界の国々はこれに加盟して世界の平和や人類の福祉のために努力しているが,現在,わが国もその一員として重要な役割を果たしている。

 3 指導上の留意事項 (1) 内容の(1),(2)および(3)に関連した学習においては,児童会,学級会活動などの自治的な集団生活に関する諸経験をできるだけ生かすよう努めるとともに,制度や機構調べに終始したりしないようにし,日本国憲法については,平明に取り扱うように配慮することがたいせつである。

(2) 内容の(5),(6),(7),(8)等に関連した学習においては,

ア 前学年までに児童が習得した歴史的理解との関連をじゅうぶん図るとともに,単に歴史的事象をもうら的に記憶させるのではなく,特に内容の(4)に示したようなわが国の歴史についての全体的なはあくができるように配慮することがたいせつである。

イ 歴史上の人物を取り上げて指導する必要があるが,その場合には,人物教材の長所,たとえば児童の歴史的理解を具体的にし,学習に対する興味を高めることができる点などをじゅうぶんに生かすとともに,時代的背景から遊離した取り扱いや人物中心の学習にはしりすぎないように留意すべきである。

ウ 特に文化の取り扱い方については,児童の能力をこえないように注意すること。したがって,たとえば内容の(5)の文化の場合でも,かな文字,大仏,その他著名な神社,寺院など,児童に親しみ深いものを効果的に取り上げることが望ましい。

エ 歴史的事象もできるだけ具体的な地理的位置や環境などと結びつけて指導することがたいせつである。

(3) 内容の(9)については,必ずしも独立して扱うものではなく,歴史の流れの中で,各時代における盲人生活の実態やすぐれた盲人の業績とその意義を明らかにし,点字の使用や教育への関心等,その努力と善意が児童に感謝と自覚をよびおこすように取り扱うことがたいせつである。

(4) 内容の(10),(11),(12)等に関連した学習においては,中学部における世界の諸地域に関する学習との関連をよく考慮し,ここでは国際理解,国際協調の精神を養うために必要な程度の基本的事項にとどめるべきである。なお,このような学習を通して,わが国の国旗をはじめ諸外国の国旗に対する関心をいっそう深め,これを尊重する態度などを養うことがたいせつである。
 
 

第3 指導計画作成および学習指導の方針 1 どの程度具体的な指導計画をあらかじめ作成しておくことが効果的であるかは,個々の教師の経験や能力によって異なる。  しかし社会科の場合は,単元という内容,学習経験の具体的なまとまりをくふうし,これに基づいて指導を進めていくのが原則であるから,少なくとも,

(1) 具体的な単元名とそれぞれの基本的ねらい。

(2) 単元相互の関係。

(3) 各単元における展開のあらすじと所要時間の概略。

等については,第2に示した各学年の目標,内容を全体としておおうようなかたちで,あらかじめ計画をたてておくべきである。なお,第2に示した内容の順序は,必ずしも学習の順序を示すものではない。

2 社会科における単元は,その学年で扱う内容の単なる便宜的区分ではなく,児童がどのような能力や経験をもち,身のまわりの社会的事象をどうとらえ,どのような疑問や問題をもっているか等の実態と教師の指導目標を結びつけて考えたとき,具体的に決定できるものである。  以上のことから,

(1) 盲児童は経験が狭いことや,社会性の発達が遅滞している傾向があることなどを考え,基本的な教材に重点を置いて,指導の徹底を図るように努めることがたいせつである。

(2) 同じ社会科の単元でも,一般的に,高学年になるほど,一つの単元に含まれる内容・学習経験が豊富になり,所要時間も多くなるのが望ましい傾向といえよう。しかし,一つの単元が二つの学期にまたがることは望ましくない。

(3) 学習指導要領に基づいて作成された指導計画に関する地域的参考資料を利用する場合にも,単にこれを機械的に模倣するのでなく,じゅうぶん研究検討を加えたうえ,学級児童の実態に適合した指導計画を作ることが望ましい。

3 特に,地図,年衷や写真図版などの利用が困難な点については,次の留意が必要である。 (1) 地図利用への過程として,低学年から学校を中心に校舎と運動場,学級園などの位置関係,あるいは,学校周辺の各種の施設等を簡単な模型などの利用によって構成的にとらえる能力を養い,地図を理解する素地をつくっていくことがたいせつである。

(2) 土地の高低,特色等も,他の条件と総合して理解していく態度を養うようにすることが必要である。

(3) 海と陸,山地と平野,鉄道と都市など基本的な地図をもとに豊富な内容を構成的に理解させるように指導する。

(4) 年表については,基本的な事項と年代をもとにして,全体的,発展的に指導すべきである。

(5) 直接経験をこえた土地や生活の特色については,写真や図版にかわるものとして,放送や録音の利用など具体的にその様子をとらえさせるくふうがたいせつである。

4 なお,指導計画作成および学習指導のうえで,留意すべき重要な事項をあげれば次のとおりである。 (1) 特に教科の性格上,単元としての目標や内容の範囲がいきおい広がりすぎ,他の教科や教育活動と無用の重複を生ずる傾向も少なくない。社会科本来の目標が個々の単元において,あいまいにならないようにじゅうぶん注意すべきである。

(2) 単元学習の趣旨から考えて,学習の目標を児童自身に効果的にはあくさせるくふうが,特に重要である。それぞれの単元の導入段階などの指導計画や学習指導には,このような配慮がじゅうぶん払われていることが望ましい。

(3) 社会科で行なわれる各種の学習活動のうちには,盲児童には特に見学とか野外調査などを必要とするものが多い。その場合,事前によく検討し,綿密な準備や計画を考えておかなければならない。指導の直前になってあわてて予定を変更したり,漫然と児童を校外に連れ出して時間の浪費に終わることのないように留意すべきである。

(4) 習得した知識の整理をしたり,結論を確かめたりする終末の段階の学習になると,時間が足りなくなって指導を急いでしまう場合が少なくない。

 しかし,この段階は単元学習としても重要なものであるから,このような傾向に陥らないよう,指導計画を作成する際にも,また実際指導にあたっても,じゅうぶん留意すべきである。