第2章 教育の目標

 

第1 教育の一般目標

 

 養護学校における教育の目標,すなわち各部における教育の目標は,それぞれ幼稚園,小学校,中学校および高等学校における教育の目標とその根本精神を同じくするものである。しかしながら,その目標の高さや深さについては,精神薄弱の児童・生徒が知能に欠陥をもち,社会適応に困難性をもつなどを考慮して決定されなければならない。すなわち,それは,精神薄弱の児童・生徒に対して,その能力に応ずる知識・技能を授けるとともに,その社会的適応性を助長するような具体的で総合的な指導を行ない,もって生活の自立をねらいとした人格の形成に努めるということに,焦点をしぼって定められなければならないであろう。

 精神薄弱の児童・生徒の特性や能力等から考えて,養護学校における教育の一般目標を端的に示せば,およそ次のようなものになるであろう。

1 健康・安全で自律的な生活を営むために必要な日常の生活習慣を養い,その能力をじゅうぶん発揮させるため,心身諸機能の調和的発達を図ること。

2 学校内外における集団生活に参加させ,人間相互の関係の理解と処理や集団生活に必要な規律等を習得させ,もって社会生活への適応性を養うこと。

3 身辺の生活および社会的事象に対する関心と理解を高め,日常生活に必要な衣・食・住および経済に関する初歩的な知識と基礎的な技能を養うこと。

4 郷土や国に対する理解と愛情をもたせ,また,世界の国々や人々に対して親しむ気持ちや関心をもつ態度を養うこと。

5 日常生活に必要な国語や数量的な関係を理解させ,それらを使用したり,処理したりする能力を養うこと。

6 自然界の物象に対する関心と理解を深め,自然を愛し,生活を豊かにし,合理化する能力を養うこと。

7 生活を明るく楽しくする音楽,造形,演劇,映画等に対する関心を高め,それらに関する基礎的な理解と技能を養うこと。

8 種々な作業および実習等を通して,職業生活に必要な基礎的技能と勤労を重んずる態度および進んで社会生活に参加していく能力を養うこと

 

第2 小学部・中学部における教育の具体目標

 

 養護学校における教育の一般目標は,要約すれば,精神薄弱の児童・生徒が,できるかぎり身辺の生活を確立・処理し,進んで集団生活に参加していくとともに,社会生活への理解を深め,しかも,経済生活および職業生活に適応していくための知識・技能を,かれらの知能の程度やその能力に即して身につけさせるということにつきる。

 そこで,この三つの観点から,さらに小学部および中学部に一貫する教育の具体目標を考えれば,だいたい次のようなものになるであろう。

1 身辺生活の確立と処理

(1) 健康で明るい生活を送るために必要な基本的な習慣や態度を身につけ,自分や他人の健康を守るようにすること。

(2) 自らの力で,進んで身辺のことがらを処理しようとする意欲や態度をもつようにすること。

(3) 道徳的感情が豊かになり,また,具体的なことがらについて,正邪善悪の区別がつくようにすること。

(4) 日常生活において,相手にわかるように話すことができ,また,相手のいうことも,だいたいまちがいなく聞き取ることがてきるようにすること。

(5) 日常生活にさしつかえない程度の簡単な読み書きができるようにすること。

(6) 日常生活において,簡単なものごとなら数量的に処理したり,数えたり,計算したりすることができるようにすること。

(7) 日常生活において,常に使用したり,しばしば見たり,触れたりするものごとについて,科学的な理解への関心をもたせ,また,それらを合理的に処理することができるようにすること。

(8) 自然の美しさがわかり,自然物をたいせつにするとともに,生物を愛護するようにすること。

(9) 絵をかいたり,歌を歌ったり,物を作ったりすることに喜びをもち,また,これらの活動を通して生活にうるおいをもたせるようにすること。

(10) 余暇を利用して,運動・競技に参加したり,その他の健全な娯楽を行なったりして,心身の健康の増進に努めるようにすること。

2 集団生活への参加と社会生活の理解

(1) 家庭および社会において,お互いの立場を認め尊びあって,楽しく明るい生活を送るようにすること。

(2) 家庭や社会のきまりを知り,進んでそれを守るようにすること。

(3) 生命のたいせつなわけを知り,自分や他人を危害から守るように心がけるとともに,公衆衛生にも注意するようにすること。

(4) 世話になる人々に感謝し,また,同情や親切な心をもって,人のためにも尽くすようにすること。

(5) 礼儀をわきまえ,人と仲良く気持ちよく交わるようにすること。

(6) 近隣や職場などでのよい集団の諸活動にできるだけ参加し,そこでの行動のしかたがわかり,また,協力者となってまじめに働くようにすること。

(7) 公私の区別をわきまえ,また,責任感を高めて,自己の役割を果たしていくようにすること。

(8) 他人の長所やりっぱな行ないをできるだけ認めるように努め,また,他人のよい意見や注意にすなおに従うようにすること。

(9) 身辺に起こるいろいろなできごとなどを通して,社会のしくみやはたらきなどに対する関心や理解を深め,また,必要に応じて公共の施設や機関などを利用できるようにすること。

(10) 社会の大きな事件や身近に起こるいろいろなできごとなどを通して,できるだけ政治や法律に対する関心をもたせ,公民としての責任も果たせるようにすること。

(11) 祝祭日やその他大きな国際的行事などを通して,国に対する愛情を深め,また,外国の人にも親しみをもつようにすること。

 

3 経済生活および職業生活への適応

(1) 日常生活や職業実習などを通して,生産・流通・消費の関係についてできるだけ理解を深め,生産生活に参加する態度を身につけるようにすること。

(2) 職業や家事についての初歩的な知識や基礎的な技能を身につけ,能率的に仕事ができるようにすること。

(3) 自分の個性や長所をできるだけ伸ばし,また,その能力にあった職業に就くことができるようにすること。

(4) 自分の仕事に誇りをもち,働くことに喜びを見いだして,かげひなたなく働くようにすること。

(5) 日常生活における物品の売買などを通して,経済生活に必要な基礎的な知識と態度を身につけるようにすること。

(6) 金銭や品物をたいせつに取り扱うとともに,これらを合理的に消費し,また,目的をもって貯蓄するようにすること。

 以上に掲げた養護学校の小学部・中学部における教育の具体目標は,いうまでもなく,第3章以下における各教科,道徳,特別教育活動および学校行事等のそれぞれの目標や内容等において,さらに具体化されていることに留意する必要がある。