第1章 総則
第1 教育課程の編成
1 一般方針
(1) 学校教育法施行規則(以下「規則」という。)に定められている養護学校の教育課程に関する一般的な規定は,次のとおりである。
ア 「……小学部の教科は,国語,社会,算数,理科,音楽,図画工作,家庭及び体育を基準と……する。」(第73条の7第1項)
イ 「……小学部においては,前項に定めるもののほか,道徳を課するものとする。」(第73条の7第2項)
ウ 「……中学部の教科は,これを必修教科と選択教科に分ける。必修教科は……国語,社会,数学,理科,音楽,図画工作,保健体育及び職業・家庭を……基準とし,選択教科は……外国語及び職業・家庭を……基準とする。」(第73条の8第1項,第2項)
エ 「……中学部においては,前項に定めるもののほか,道徳を課するものとする。」(第73条の8第3項)
(2) 精神薄弱者を教育する養護学校(以下「養護学校」という。)の教育課程を編成するにあたっても上掲の規定によらなければならないことはもちろんであるが,しかし,精神薄弱者は,肢(し)体不自由者や病弱者とは異なり,次に示すような学習指導上の特性をもっているので,規則第73条の10第2項には「精神薄弱者を教育する養護学校(分校を含む。…)の小学部及び中学部の各学年においては,小学部にあっては第73条の7第1項に規定する教科,中学部にあっては第73条の8第2項に規定する教科の全部又は一部について,これらをあわせて授業を行うことができる。」という特別の規定が設けられている。
精神薄弱者の学習指導上の特性
ア 精神の発育が恒久的に遅滞し,そのため学習能力が著しく劣ること。
イ 精神の構造が未分化であり,応用,総合等の能力に欠けているため,知識・技能等の習得が断片的にとどまりやすいこと。
ウ したがって,具体的な生活の場面において,全部または一部の各教科の内容を統合して与えるのでなければ,生活に役だつ生きた知識・技能として,それを習得していくことが困難であること。
エ なお,同じ精神薄弱者であっても,その個人差がきわめて大きいから,それに応じるためにも全部または一部の各教科の内容を統合する必要があること。
(3) 養護学校の教育課程は,小学部にあっては規則第73条の7第1項に規定する教科,中学部にあっては規則第73条の8第2項に規定する教科(以下「各教科」という。小学部の場合も同じ。)ならびに道徳,特別教育活動および学校行事等で編成することを基本とする。
したがって,各養護学校においては,以上のことを基本としながら,必要に応じ全部または一部の各教科をあわせたり,各教科,特別教育活動および学校行事等の内容を統合したりするなどのくふうをして,適切な教育課程を編成するものとする。
(4) 各養護学校において,小学部および中学部の教育課程を編成するにあたっては,教育基本法,学校教育法および同法施行規則,養護学校小学部・中学部学習指導要領精神薄弱教育編,教育委員会規則等に示すところに従い,地域や学校の実態を考慮し,児童または生徒の知能その他の精神的特性,発達段階ならびに経験等に即応するとともに,下記の事項に関しても,特に留意しなければならない。
イ 精神薄弱教育において必要とする各教科,道徳,特別教育活動および学校行事等の内容は,児童・生徒が自らの力で身辺の生活を処理し,進んで社会生活に参加していく上に必要な最少限の具体的な経験に限られ,また,それは,児童・生徒の理解力とその発達にともなう生活領域の拡大に即応して,段階的に組織・配列しなければならないものであること。
特に,各教科の内容については,児童・生徒の精神の構造が未分化な状態にあればあるほど統合され,しかも,それは,できるだけ身近な生活の場面における具体的な学習活動を通して身につけさせるようくふうされなければならないものであること。
ウ 精神薄弱教育においては,それぞれの段階ごとに,それに応じた指導の重点を適切に定めて行なわなければならないこと。すなわち,一般的に,義務教育該当年令の初期の段階にあっては,基本的な生活の習慣を身につけさせるための指導を,中期の段階にあっては,その上に進んで集団生活に参加し,学級や学校等における社会的な活動を円滑に行なわせるための指導を,後期の段階にあってはさらに,それらの上に,職業や家事等にたずさわっていく場合に必要な知識・技能等を身につけさせるための指導を,特に重視して,重点的にその内容を選択・組織・配列しなければならないこと。
(5) 各養護学校がその教育課程を編成するにあたり,必要に応じて全部または一部の各教科をあわせる等,特別の授業を行なうような場合には,あらかじめその教育課程を当該養護学校の設置者は,市町村の養護学校にあっては都道府県教育委員会に,私立の養護学校にあっては都道府県知事に届け出なければならないことになっている。(規則第73条の10第4項)
また,国立の養護学校にあっては文部大臣に届け出るものとする。
2 授業時数の配当
(1) 養護学校小学部および中学部の各学年における各教科および道徳の年間の授業時数については,次の表に示すものを標準とする。
ただし,道徳の授業時数については,年間における最低授業時数とする。
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小 学 部 |
|||||
第1年生 |
第2年生 |
第3年生 |
第4年生 |
第5年生 |
第6年生 |
|
各教科 |
782(23) |
840(24) |
910(26) |
980(28) |
1,050(30) |
1,050(30) |
道 徳 |
34(1) |
35(1) |
35(1) |
35(1) |
35(1) |
35(1) |
計 |
816(24) |
875(25) |
945(27) |
1,015(29) |
1,085(31) |
1,085(31) |
|
中 学 部 |
||
第1学年 |
第2学年 |
第3学年 |
|
各 教 科 |
1,050(30) |
1,050(30) |
1,050(30) |
道 徳 |
35(0) |
35(1) |
35(1) |
計 |
1,085(31) |
1,085(31) |
1,085(31) |
(2) 上掲の表において,小学部の各学年の授業時数の1単位時間は45分,中学部の各学年の1単位時間は50分とし,かっこ内の授業時数は,年間の授業日数を35週(小学部第1学年については34週)とした場合における週当たりの平均授業時数とする。
ただし,授業の1単位時間には教室を移動したり,休憩したりするに要する時間は含まれていない。
(3) 上掲の表において,小学部および中学部の各学年における各教科のおのおのについての年間の標準的な授業時数ならびに特別教育活動および学校行事等についての年間の標準的な授業時数は,特に示していないが,しかし,これらについては,各養護学校は,小学校学習指導要領(昭和33年文部省告示第80号),中学校学習指導要領(昭和33年文部省告示第81号)の「授業時数の配当」のところに掲げられている各事項のそれぞれの意義を考え,その趣旨を尊重して,適切に定めるものとする。
(4) 各養護学校小学部および中学部における各教科および道徳についての各学年の授業は,年間35週(小学部第1学年については34週)以上にわたって行なうものとする。
(5) 以上のほか,各養護学校が各領域の指導のために,年間・学期・月および週ごとにそれぞれの授業時数を配当するにあたっては,特に季節およびその他の事情を考慮し,児童または生徒の知能その他の精神的特性や発達段階等に即応して,適切に行なうとともに,調和的・能率的な指導を行ないうるよう留意する必要がある。
3 特 例
(1) 私立の養護学校小学部および中学部においては,各教科,道徳,特別教育活動および学校行事等のほか,宗教を加えて教育課程を編成することができ,この場合,宗教をもって道徳に代えることができる。
また,道徳のほかに宗教を加えている小学部および中学部にあっては,宗教の授業時数をもって,道徳の授業時数の一部に代えることができる。
(2) 非常変災,伝染病等により,臨時に授業を行なわない場合で,定められた年間の授業時数を補うことができないような,やむを得ない事情があるときは,その定められた年間の授業時数をくだることができる。
第2 指導計画作成および指導の一般方針
1 各養護学校においては,下記の事項に留意して,全体として調和のとれた指導計画を作成するとともに,その円滑な実施によって,できるかぎり児童・生徒の生活の経験の拡充を図り,その組織化に努めなければならない。
(1) 指導計画の作成にあたっては,第2章以下に示すところに基づき,地域や学校の実態を考慮し,児童または生徒の知能その他の精神的特性,発達段階および経験等に即応して,それぞれの領域の指導の目標を明確にし,実際に指導する事項を選定し,配列して,効果的な指導を行ないうるようくふうすること。
(2) 第2章以下に示す各教科等の内容に関する事項は,知能指数がおおむね50から60の程度の児童・生徒が,将来社会的に自立していくために,最少限身につけなければならないと考えられる経験を,できるだけ具体化し,しかも,その具体化されたさまざまの経験を,教科の名称に従ってまとめるとともに,比較的単純な経験から複雑な経験へと学習し得られるよう,ある程度の系統を考えて,小学部低学年・中学年・高学年および中学部の4段階ごとに例示的に配列したものである。
したがって,各養護学校においては,児童・生徒ひとりひとりの知能の障害の程度やその発達の状態に即応して,特に必要がある場合には,第2章以下に示されていない指導すべき事項を加えたり,また,そこに示されている事項を取り扱うことが困難な場合には,その部分を除いたりして指導していくようにすること。
(3) なお,第2章以下に示す各教科の段階別に掲げる事項は,なるべく系統的になるよう配列してあるが,その順序は,そのまま指導の順序を示しているものではないので,各養護学校においては,各事項のまとめかたや順序をくふうして,弾力的で融通性のある指導ができるようにすること。
(4) 政治および宗教に関する事項を取り扱う場合においては,それぞれ教育基本法第8条および第9条の規定に基づき適切に行なうよう配慮すること。
2 各養護学校において児童または生徒に対する学習の指導を能率的,効果的に行なうためには,下記の事項について留意する必要がある。
(1) 精神薄弱の児童・生徒は,知的能力の障害を主徴候とするものであるが,それは単に知的欠陥のみならず,行動の面でもいろいろなゆがみをもっている。そのなかのあるものは,精神薄弱の原因に付随して生じるものもあるが,家庭その他周囲からの要求や期待に答えきれなかったり,自己の欲求が適切に受け入れられなかったり,また,しかられたり,侮辱などを受けて精神的な安定性を失い,その結果,非社会的,反社会的な行動傾向を示すものも少なくない。その上に,精神薄弱の児童・生徒のなかには,身体の発達が劣るものやその機能に欠陥を有するものが多く,病弱・虚弱であったり,肢(し)体不自由,言語障害,てんかん等の障害や疾患を合わせもっているものもしばしば見受けられる。したがって,その指導の前提として,児童・生徒をとりまく環境やそのひとりひとりの身体の状況,性格・行動の傾向等をよく見きわめて,その身体的,情緒的な側面の調整や安定化を図かっていくように努めること。
(2) 精神薄弱の児童・生徒は,その知的能力の欠陥や類型のいかんにより,その発達や経験のしかたが異なり,その個人差も実にはなはだしい。
したがって,その指導にあたっては,児童・生徒ひとりひとりの発達の程度や経験獲得の状況等をよく理解するとともに,その個人差に留意して,できるかぎりそれに応じた指導を行なうようにすること。
なお,児童・生徒の個性や能力は可能なかぎり伸ばしていくように努めること。
(3) 精神薄弱の児童・生徒は,一般に新しい経験を獲得していくことに対する欲求が乏しく,また,それに対する興味や関心も薄い。さらに,自主的,自律的に物事を処理していく意欲を欠き,何事をするにも他律的で依存的である場合が多い。
したがって,その指導にあたっては,飼育・栽培,音楽・リズム,造形,体育その他生産的作業や職業的訓練などの動的,情意的で具体的な生活場面において,児童・生徒の能力に応じた課題を与えるとともに,学習に対する目標をじゅうぶんはあくさせ,成就による満足感,成功感などを味わわせ,さらにそれにより学習に対する興味や関心を深め,長い目で気長にその自主性や自発性を高めていくようにすること。
(4) 精神薄弱の児童・生徒は,知的能力に欠陥があるばかりでなく,身辺のことがらを処理する能力や社会的適応性にも乏しいのが普通である。
したがって,その指導にあたっては,基本的な生活習慣をしっかり身につけさせるとともに,その所属する学級の一員として,その集団生活に参加し,それぞれの役割を果たしていこうとする意欲を高め,進んで学習活動にはいっていくように配慮することが必要である。
そのためには,学級における好ましい人間関係を育てたり,教室内外の整とんや美化に努めたりするなど,できるかぎりその生活環境を整えていくようにすること。
なお,登校・下校の途中や休憩時その他余暇の時間なども,精神薄弱の児童・生徒を教育していく上にたいせつな場や機会となるから,これらの時間等の指導についても,じゅうぶんに配慮すること。
(5) 精神薄弱の児童・生徒は,知的活動が未分化であり,また,識別,抽象,統合,推理,判断等のはたらきも劣弱である。
したがって,その指導にあたっては,なるべく画一的な一せい指導を避け,具体的で現実的な生活場面における直接的な体験を通して,その生活能力を高めていくことがたいせつである。そのためには,教科書その他の教材・教具等の使用についても絶えず研究し,くふうして,その活用のしかたを誤らないようにすること。
なお,視聴覚教材や学校図書館の資料等についても,児童・生徒の特性や能力等に合ったものを精選して,その活用に努めるようにすること。
(6) 精神薄弱の児童・生徒は,新しく経験したことがらを自ら生きた知識・技能として,日常の生活に役だたせていく能力に乏しいため,ささいなことがらについても常に反復練習をする必要があり,また,その継続的,発展的な指導も強く望まれる。
したがって,その指導にあたっては,その成果について絶えず評価するとともに,その改善についても努めていくようにすること。
第3 道徳教育
学校における道徳教育は,本来,学校の教育活動全体を通じて行なうことを基本とするものである。したがって,道徳の時間はもちろん,各教科,特別教育活動および学校行事等,学校教育のあらゆる機会に,道徳性を高める指導が行なわれなければならない。
道徳教育の目標は,一般に教育基本法および学校教育法に定められた教育の根本精神に基づく。すなわち,人間尊重の精神を一貫して失わず,この精神を,家庭,学校その他各自がその一員であるそれぞれの社会の具体的な生活の中に生かし,個性豊かな文化の創造と民主的な国家および社会の発展に努め,進んで平和的な国際社会に貢献できる日本人を育成することを目標とするものである。
したがって,各養護学校における道徳教育の目標も,以上の精神にのっとり,また,それに準じて定められなければならない。
道徳の時間においては,あくまで精神薄弱の児童・生徒の特性や能力等に即応した具体的な指導を適切に行なうとともに,各教科,特別教育活動および学校行事等における道徳教育と密接な関連を保ちながら,これを補充し,深化し,統合し,または,これとの交流を図り,児童・生徒の望ましい道徳的習慣,心情,判断力を養い,できるだけ道徳的実践力の向上を図るよう努めることがたいせつである。