第2章 高等部の教育の目標と教育課程
1 高等部の教育の目標
聾(ろう)学校高等部においては,中学部における教育の基礎の上に,聾(ろう)生徒の心身の発達と必要に応じて,高等普通教育および専門教育を施し,その教育の目標は,高等学校における教育の目標に準ずるものとする。
学校教育法第42条において,高等学校における教育の目標は次のとおり定められている。
二 社会において果さなければならない使命の自覚に基き,個性に応じて将来の進路を決定させ,一般的な教養を高め,専門的な技能に習熟させること。
三 社会について,広く深い理解と健全な批判力を養い,個性の確立に努めること。
聾(ろう)学校高等部の教育課程は,この目標の達成を目ざし.第1章に示すところに留意して,この時期における生徒の成長発達に即し,この段階における完成教育を施すという立場を基本とするものである。
2 高等部の教育課程の特性
聾(ろう)学校高等部における教育課程は,高等部の教育の目標の達成を目ざし,生徒の個性を伸長確立し,将来,国家社会の有為な形成者としての自覚と資質に必要な種々の知識や理解,技能や能力,態度や習慣の育成を図るものでなければならない。
このため,高等部の教育課程は,中学部の教育の基礎の上に,生徒の進路と特性に応じて,種々の課程を設け,各課程ごとにその課程の目標を達成するために必要な教科,科目を設定し,それそれの課程に応じてすべての生徒に進んだ程度の一般教養を得させるとともに,分化した学習を行ない,専門的知識や技能を習得させるように配慮して,編成され実施されなければならない。
3 課程の別と教育課程
聾(ろう)学校高等部の課程に,「木材工芸課程」,「印刷課程」,「被服課程」,「理容課程」,「農業課程」,「普通課程」,「その他の課程」をおく。
職業に関する課程においては,それぞれ専門とする職業に関する教科,科目に重点をおき,生徒の個性と進路に応じ,その教育課程は職業人として必要な資質を高めるため,一般的な教養を与えるとともに,専門的な技能に習熟させることに重点をおいて編成されなければならない。
普通課程においては,いわゆる普通教科,科目を中心として,その教育課程を編成する。
この課程を生徒に選択履修させる場合は,いわゆる普通教科が各科目にわたり分化した学習となるので,あらかじめ生徒の将来の進路と,その必要を見定めるとともに,個性の特徴,聴力障害の程度,教育歴等をじゅうぶんはあくし,学習上過度の困難をともなわないよう配慮することが必要である。
また,この課程に入学する生徒の間には,個性や進路にさまざまなちがいが見られる。したがって,その教育課程は個々の生徒の個性や進路の多様性に応ずることが望ましい。
4 教科,科目および特別教育活動の性格
高等部各課程の教科,科目は,第3章のとおりに定める。
教科は,それぞれいくつかの科目に分かれる。各科目は,教科のもつ一般的な目標および内容のうち,その特定の領域に重点をおいて,組織的,系統的に学習できるようにしたものである。しかし,ひとつの教科に属する各科目は,単に教科をいくつかに分割したその一部となるべきものではなく,目標において互いに共通点をもつと同時に,内容の組織と範囲においても,相互に深い関連をもつものである。
教科,科目については,それぞれの目標と内容の組織に応じて,その学習指導に要する時間数を想定し,これを各課程ごとに第3章の表に示すとおりに単位数によって表わしている。高等部の各課程の教育課程を編成するにあたっては,課程の特色を生かし,この点の考慮に基づいて,教科,科目の単位数は一種だけに限定せず,一定の幅をもたせて定めたのである。
高等部ではこれらの教科,科目について,各課程ごとにすべての生徒に共通に履修させるものおよび学校で選択配列して履修させるもののほか,生徒が個人差に応じて自由に選択できるものを含めて,その教育課程が編成されなければならない。
(2) 特別教育活動
特別教育活動は,教科,科目としては,組織されないが高等部の教育目標の達成に寄与する有効な教育活動であって,教育課程の一部として,教科の指導以外に,時間を設けて指導されるものである。
特別教育活動においては,一般的に次の諸目標に重点がおかれる。
ア 民主的な生活について望ましい態度と習慣を養う。
イ 公民的資質を向上させる。
ウ 健全な趣味や教養を豊かにし,将来の進路を選択決定するのに必要な能力を養うなど,個性の伸張を図る。
その活動の領域は広範囲にわたるが,年間を通して計画的,継続的に指導すべき活動としては,ホームールーム,生徒会活動およびクラブ活動などがある。
これらの活動については,学校は,生徒の自発的な活動が健全に行なわれるように,周到な計画のもとに,適切な指導を行なわなければならない。
高等部の生徒は,社会人となる時期を近く控え,社会の種々の活動や事象について関心をもち,特に直接,自己の将来との関連において,期待や不安等を強くもっている。
そのため上記の目標を達成するにあたっては,生徒に社会的な活動や事象の理解を増すよう留意するとともに,自主的,積極的な態度と強い意志をもち,豊かな情操をそなえるよう,種々の活動を通して適切な指導と助言を行ない,将来,社会人として健全な生活を営む自信と能力を与えるよう留意しなければならない。
5 高等部専攻科および高等部別科
聾(ろう)学校高等部には,通常の課程のほかに,専攻科および別科を置くことができる。
高等部専攻科は,高等部を卒業した者,または,これと同等以上の学力があると認められた者に対して,より精深な程度において,特別な事項を教授し,その研究を指導するものであって,その修業年限は1年以上とする。
高等部別科は,中学部の卒業者,または,これと同等以上の学力があると認められた者に対して,簡易な程度において,特別の技能教育を施すものであって,その修業年限は1年以上とする。
聾(ろう)学校高等部に専攻科および別科を設ける場合には,上に示すところに従い,教育課程を系統的,組織的に編成し,生徒の進路とその必要に応じうるように配慮しなければならない。