1 盲学校の目的・目標
教育基本法第1条 (教育の目的)教育は,人格の完成をめざし,平和的な国家及び社会の形成者として,真理と正義を愛し,個人の価値をたっとび,勤労と責任を重んじ,自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
盲者は視力に障害があり,心身の発達上,種々の遅滞・偏向を招く傾向がある。このことから,広く,学習上に多くの困難をもっている。したがってその教育については,環境の調整と指導上の配慮が特に必要である。
そこで,以上のような必要を満たすために,都道府県はその区域内にある学齢児童・生徒のうち,盲者を就学させるに必要な盲学校を設置しなければならないこと,および盲学校には小学部・中学部を置かなければならないこと,また盲学校には幼稚部・高等部を置くことができることが学校教育法に規定されている。
盲学校の目的は,学校教育法に次のように定められている。
学校教育法第71条 盲学校,聾学校又は養護学校は,夫々盲者,襲者又は精神薄弱,身体不自由その他心身に故障のある者に対して,幼椎園,小学校,中学校又は高等学校に準ずる教育を施し,併せてその欠陥を補うために,必要な知識技能を授けることを目的とする。
すなわち,盲学校の幼稚部・小学部・中学部および高等部の目的は,幼稚園・小学佼・中学校および高等学校のそれぞれの目的に対応し,その教育については,前述のように視力障害およびそれに由来する種々の困難や欠陥に応じて,特別の配慮が加えられなければならないことを示している。
そこで視力の障害とそれに由来するいろいろな困難に伴う,盲者の特性を次の四つの面に分けて,盲学校における教育の目標との関連において考えてみる。
ア 身体的発達と調整
視力の障害は盲者の行動を著しく制限し,この行動の制限が身体の発達に大きな影響を及ぼすことになる。すなわち,動作は不活発で姿勢も悪く,身体の抵抗力が弱まって,虚弱・鈍感になりやすく,運動諸器官の調整も困難になる。特に全盲者は歩行に著しい制限を受けている。盲児童・生徒の行動の調整と安全のためには,特に留意しなければならない。
イ 社会的適応
視力の障害とそれに伴う行動の制限は,かれらの社会的関心や態度に影響を与える。すなわち自然に他人の助力に依存するようになり,盲目ということからくる強い劣等感をもったり,情緒に不安定をきたしたりして,他人に見られるのをきらい,家にこもり,人との交際を避けがちの傾向を生ずる。したがって盲児童・生徒の社会性の育成には特に留意し,かれらの円満な人格の形成を図り,明朗快活な気風を養わなければならない。
ウ 知識技能の習得
盲者は,知識の重要な窓である視覚が開ざされているから,視覚による経験によって知識・理解を得ることが当然制限される。特に明暗・色彩・距離・大きさなどの視空間概念を,直接はあくし理解することは困難である。したがって盲児童・生徒に対しては視覚以外の諸感覚を通して事象をできるだけ具体的にはあくし,理解させるようにしなければならない。
エ 職業的能力の自覚
盲者は社会生活に対して大きな不安をもっている。特に,将来の自活能力に対する不安と職業に対する劣等感をもつことが多い。それは,かれらの社会性の不足,職業に関する専門的能力の習得の困難,またかれらの職業が社会的に著しく制限されている事情などによる。このようなことは,また,かれらの人格の円満な調和的発達を阻害している。
ゆえに盲学校においては職業的陶やを重視することが特に必要であり,それによってかれらに自活能力の自覚を与え,生活に対する不安を一掃し,将来に対する希望をもたせるようにしなければならない。
このような盲児童・生徒の特性に基づいて,盲学校教育の目標を理解し取り扱うために,特に留意しなければならないことを指摘すれば,次のとおりである。
○自己の視力障害に対して正しく認識し,積極的な障害克服の精神と明るい生活態度を養う。
○視力障害から生ずる劣等感を克服し,豊かな情操と円満な人格の完成を目ざす。
○常に健全な人生観をもつようにし,豊かな社会性を身につけさせる。
○視力の障害を克服し,自主的に進んで物事を学ぼうとする強い意欲と正しい態度を養う。
○点字の習得,その他必要な手段によって経験を広げていくようにする。
○個性に即した進路を選択し,健全な職業生活を営む能力と自信をもたせる。
○交通の安全,危険の防止などについて正しい習慣を養う。
特に次の諸点については,じゅうぶんな配慮をすることが必要である。
○各部の教育課程は,互いに関連をもち,また発展的系統をもつようにされなければならない。
○幼児・児童・生徒の個人差はもとよりのこと,視力の程度,失明の時期,入学年齢などの条件を考慮して,個性の必要に応じうるようにしなければならない。
○職業に必要な知識・技能・態度を身につけさせ,将来の進路に応じうるようにしなければならない。
なお、教育の目標のすべてを,教科の学習だけでじゅうぶんに到達することは困難である。それゆえ,学校は教科の学習以外に道徳,教科以外の活動あるいは特別教育活動の時間を設け,児童・生徒に,個人的,社会的なさまざまな経験を豊かにする機会を与える必要がある。