第1節 道 徳
第1 目 標
人間尊重の精神を一貫して失わず,この精神を,家庭,学校その他各自がその一員であるそれぞれの社会の具体的な生活の中に生かし,個性豊かな文化の創造と民主的な国家および社会の発展に努め,進んで平和的な国際社会に貢献できる日本人を育成することを目標とする。
以上の目標を達成するため,道徳の時間においては,次の具体的な目標のもとに指導を行う。
2 道徳的心情を高め,正邪善悪を判断する能力を養うように導く。
3 個性の伸長を助け,創造的な生活態度を確立するように導く。
4 民主的な国家・社会の成員として必要な道徳的態度と実践的意欲を高めるように導く。
第2 内 容
それぞれの具体的な目標に,最も関係の深いと思われる内容は,次のとおりである。
この内容はおのおの,他の具体的な目標や内容とも関連するものである。
また,その配列は,指導の順序を意味するものではない。
実際の指導においては,いくつかの内容を関連づけて指導することが,効果的な場合が多いであろう。
(かっこ内の説明は,学年段階に応じて指導することが望ましいと考えられる内容の重点を示したものである。しかし,学年段階によって内容の重点に特に差異をつけなくてもよいと思われるものについては,説明を省略した。)
主として「日常生活の基本的行動様式」に関する内容
(2) 自分のことは自分でし,他人にたよらない。
(3) 服装・言語・動作など,時と場に応じて適切にし,礼儀作法を正しくする。
(4) 身のまわりを整理・整とんし,環境の美化に努める。
(5) ものや金銭をだいじにし,じょうずに使う。
(低学年・中学年においては,自他のものの区別をすること,ものや金銭をだいじに使うこと,公共物の愛護と使い方などを指導し,高学年においては,さらに,これらを関連づけたものを内容とすることが望ましい。)
(6) 時間をたいせつにし,きまりのある生活をする。
(低学年においては,決められた時刻を守ることを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに,時間の有効な使い方や時間を決めてきまりのある生活をすることなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(低学年においては,この心情の芽ばえを育てることを指導の中心とし,中学年・高学年においては,他人の気持や立場を尊ぶこと,人間の尊さを知ることなどを内容とすることが望ましい。)
(8) 自分の正しいと信ずるところに従つて意見を述べ,行動し,みだりに他人の意見や行動に動かされない。
(低学年においては,自分の考えをはつきり述べることや自分の考えを持つて行動することを指導し,中学年・高学年においては,さらに,みだりに他人に動かされないことなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(9) 自分の考えや希望に従つてのびのびと行動し,それについて責任を持つ。
(低学年においては,のびのびと行動することを指導の中心とし,中学年においては,さらに,責任ある行動をするということを指導し,高学年においては,自由と責任との関連をも考えさせることなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(10) 正直でかげひなたなく、真心を持った一貫性のある行動をする。
(低学年においては、うそを言わないこと、ごまかしをしないこと、約束を守ることなどを指導し、中学年・高学年においては、常に誠実に行動することを内容とすることが望ましい。)
(11) 正を愛し不正を僧み,誘惑に負けないで行動する。
(低学年においては,正を愛し不正を僧む気持を育てることを指導の中心とし,中学年においては,さらに,みずから正と不正を見きわめることや誘惑に負けないことなどを加え,高学年においては,これらを総括して内容とすることが望ましい。)
(12) 正しい目標の実現のためには,困難に耐えて最後までしんぼう強くやり通す。
(低学年においては,つらいことにも耐えることを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに障害や失敗にもくじけないで,ねばり強くものごとをやりぬくことなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(13) 自分を反省するとともに,人の教えをよく聞き,深く考えて行動する。
(低学年においては,あやまちや欠点をすなおに認めることを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに,常に言行をふり返ること,人の教えをよく聞くこと,深く考え落ち着いて行動することなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(14) わがままな行動をしないで,節度のある生活をする。
(低学年においては,わがままをしないことを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに,度を過ごさない生活をすることなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(15) いつも明るく,なごやかな気持で,はきはきと行動する。
(16) やさしい心を持つて,動物や植物を愛護する。
(17) 美しいものや崇高なものを尊び,清らかな心を持つ。
(低学年においては,他の内容に含めてこの趣旨を生かし,中学年・高学年においては,自分の特徴を知ることや長所を伸ばすことを内容とすることが事ましい。)
(19) 常により高い目標に向かつて全力を尽し,大きな希望を持つ。
(低学年においては,ものごとを熱心にやり,それを成し遂げた喜びを感じさせることを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに,目標に向かつて絶えず励むこと,志を立て,希望を持って進むことなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(20) ものごとを合理的に考えて行動する。
(低学年においては,よく考えて行動することを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに,事実に即して考えること,広い視野に立って,正しく批判し,判断して行動することを加えて内容とすることが望ましい。)
(21) 創意くふうをこらして生活をよりよくしようとする。
(低学年においては,くふうして仕事をすることを指導の中心とし,中学年においては,さらに,新しい考えや方法を生み出すことを指導し,高学年においては,創造的な生活をすることなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(22) 常に研究的態度を持って,真理の探究に努める。
(低学年においては,研究的態度の芽ばえを育てることを指導の中心とし,中学年・高学年においては,真理を尊び,常に研究的態度を持ってその探究に努めることを内容とすることが望ましい。)
(23) よいと思ったことは進んで行い,新しい分野も開いていく。
(低学年・中学年においては,よいと思ったことは進んで行うことを指導の中心とし,高学年においては,さらに,積極的に新しい分野を切り開いていくことなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(25) 自分や世の中のために尽してくれる人々に対し,尊敬し感謝する。
(低学年においては,自分の世話をしてくれる人々や,公共のために尽す人々に対し,尊敬し感謝することを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに,先人の遺業を敬うことなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(26) 互に信頼しあい,仲よく助けあう。
(低学年においては,友だちと仲よくし,励まし助けあうことを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに,正しい忠告をすることや,人を信頼し人の信頼を裏切らないことなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(27) 自分の好ききらいや利害にとらわれずに,公正にふるまうとともに,だれに対しても公平な態度をとる。
(28) 人の立場を理解して,広い心で人のあやまちをも許す。
(低学年においては,人のあやまちを許すことを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに,広い心を持って自分と異なる意見をも重んずることなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(29) 規則や,自分たちで作るきまりの意義を理解し,進んでこれを守る。
(低学年においては,きまりや規則を守ることを指導の中心とし,中学年・高学年においては,規則の意義を知ることや,自分たちできまりを作り,これを守り,さらに改善することなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(30) 権利を正しく主張するとともに,自分の果すべき義務は確実に果す。
(低学年・中学年においては,自分の果すべきことは確実に果すことを指導の中心とし,高学年においては,さらに,権利を正しく主張することや,権利と義務との関連を考えることなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(31) 勤労の尊さを知るとともに,進んで力を合わせて人のためになる仕事をする。
(低学年においては,自分の仕事に励むことを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに,勤労の意義や尊さを知ること,協力してみんなのためになる仕事をすることなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(32) 公共物をたいせつにし,公徳を守り,人に迷惑をかけない。
(33) 家族の人々を敬愛し,よい家庭を作りあげようとする。
(低学年においては,父母・きようだいに対して感謝の念や親愛の情を持つことを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに,家庭における自分の役割を果して,よい家庭を作ろうとすることなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(34) 学校の人々を敬愛し,りっぱな校風を作りあげようとする。
(低学年においては,先生や友だちに対して感謝の念や親愛の情を持つことを指導の中心とし,中学年・高学年においては,さらに,学校に対する愛情を持って,りっぱな校風を作ろうとすることなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(35) 日本人としての自覚を持って国を愛し,国際社会の一環としての国家の発展に尽す。
(低学年においては,国民的な心情の芽ばえを育てることを指導の中心とし,中学年においては,さらに,日本の国土やすぐれた文化・伝統をたいせつにすることを指導し,高学年においては,国家の繁栄を願い,国民としての責任を自覚して,国際社会の一環としての日本の発展に尽そうとする意欲を育てることなどを加えて内容とすることが望ましい。)
(36) 広く世界の人々に対して正しい理解を持ち,仲よくしていこうとする。
(低学年・中学年においては,国民相互はむろんのこと,外国の人々に対しても,偏見にとらわれないで親しみの情を持つことや,あたたかい心で助けあうことなどを指導し,高学年においては,さらに,進んで世界の国々と仲よくし,世界の平和と人類の幸福に役だつ人間になろうと努めることなどを加えて内容とすることが望ましい。)
第3 指導計画作成および指導上の留意事項
2 指導計画は,学校における道徳教育の全体計画,地域や児童の実態等を考慮して,具体的に立てる事が必要である。
3 指導計画は,固定的なものとは,考えず,児童の生活の中に起こる問題や時事的な問題等をも適宜取り入れ,修正を加えうるよう,弾力性を持たせることが特にたいせつである。
4 低学年における道徳の時間については,1単位時間を2,3回に分けて指導することもさしつかえない。
5 児童の道徳性に関係する家庭環境,生育歴,地域の特性や交友などについての資料は,指導計画作成のためにも,指導の効果をあげるためにも,できるたけ多く収集・整理しておき,これを活用することが望ましい。
6 指導の効果をあげるためには,家庭や地域社会との連絡を密接にするとともに,よい学級のふんい気を作ることが必要である。
7 指導にあたっては,できるだけ児童の自主性を尊重するとともに,また教師の積極的な指導が必要である。
8 指導は,広い角度から種々の場面・機会・教材を利用して行わなければならない。その際,話し合い,教師の説話,読み物の利用,視聴覚教材の利用,劇化,実践活動などの諸方法を適切に組み合わせて用い,教師の一方的な教授や単なる徳目の解説に終ることのないようにしなければならない。
9 児童の道徳性は年齢によって異なった発達を示し,同一年齢においても,児童によってある程度まで発達の様相を異にするのであるから,これらの発達の段階や個人差に応じた指導方法をとる必要がある。
10 児童の道徳性について評価することは,指導上たいせつなことである。しかし道徳の時間だけについての児童の態度や理解などを,教材における評定と同様に評定することは適当ではない