1 中学部の教育の目標
中学部においては,小学部における教育の基礎の上に,心身の発達に応じて,中等普通教育を施し,その教育の目標は中学校における教育の目標に準ずるものとする。中学校における教育の目標は,学校教育法第三十六条において,次のように定められている。
二 社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能、動労を重んずる態度および個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。
三 学校内外における社会的活動を促進し、その感情を正しく導き、公正な判断を養うこと。
2 教科と特別教育活動
(1) 教 科
中学部の教科は,これを必修教科と選択教科に分ける。必修教科は,国語・社会・数学・理科・音楽・図画工作・保健体育および職業・家庭を基準とし,選択教科は,外国語および職業・家庭を基準とする。
盲学校中学部における各教科の目標は,中学校における各教科の目標に準ずるものであるが,この目標を達成するためには盲生徒の特性にかんがみて留意すべき点が多い。以下,中学校の各教科の目標および留意事項を示す。
中学校における社会科の目標は次のとおりである。
2.日本の各時代の概念を明確につかませ,歴史の発展過程を総合的に理解させ,国家の伝統と文化について,正しい理解をもたせる。また,日本の歴史ばかりでなく,世界史的な内容も通して,日本史に関するものを主体としながらも,それとの関連において世界史の流れをとらえ,結果においては,その時代系列のあらましがつかめるようにする。そして現代のわが国における政治的,経済的,社会的な諸問題が,どのような歴史的背景をもっているかを理解し,国家の伝統と課題について,歴史的考察力を養う。さらにまた,歴史は,人間の自然環境に対するはたらきかけや,社会をよくしていこうとする人々のたゆまない努力によって発展するものであること,歴史的発展には地域や民族によって特殊性があること,また各時代・各社会の人々の活動には共通な人間性が見られることなどについても理解させ,それによって,社会生活の発達に対する自己の責任感や,人間相互の関係における協調の精神を養う。
3.政治的,経済的,社会的,国際的観点を小学校よりも強化して,日本や世界の各地域の生活の特色を,他地域との比較・関連において明確につかませ,その地域の生産その他の諸事象が相互に関連性をもつことや各地域が日本や世界の中で占めている地位について理解させる。なお世界の中でも,特にアジア=太平洋地域における諸問題についての関心を深めること,これからのわが国では国民が自然環境に対して積極的に働きかけること,国際的協調に対して努力することなどがたいせつであることについても,理解を深める。そして,地域相互の関係,人間と自然との関係を考察し,人々の生活は土地によって特色があるが,その底には共通な人間性が流れていることを理解して,わが国が当面している問題について地理的に考察する態度や能力を養い,国家や郷土に対する愛情を育てる。
4.小学校よりもさらに広く深い領域を学習させることにより,民主主義の諸原則についての理解をいっそう深め,それがわれわれの幸福にどのような関係をもっているかについて理解させ,これを実際の生活に生かしていく態度を養う。また,それぞれの具体的事象についての学習を通して,国を愛する心情や他国や他国民を敬愛する態度を養う。
中学校における数学科は,次のことを生徒の身につけさせることを目標とする。
2.明るく正しい生活をするために,数学の果している役割の大きいことを知り,正義に基いて自分の行為を律していく態度を養う。
3.労力や時間などを節約したり活用したりする上に,数学が果している役割の大きいことを知り,これを勤労に生かしていく態度を養う。
4.自主的に考えたり行ったりする上に,数学が果している役割の大きいことを知り,数学を用いて自主的に考えたり行ったりする態度を養う。
5.数学がどのようにして生れてきたかを理解し,その意義を知る。
6.数学についての基礎となる概念や原則を理解する。
7.数量的な処理によって,自分の行為や思考をいっそう正確に,的確に,しかも能率をあげるようにする能力を養う。
8.自分の行為や思考をいっそう正確に,的確に,しかも能率をあげるようにすることが,どんなに重要なものであるかを知り,これを日常生活に生かしていく習慣を養う。
9.社会で有為な人間となるための資質として,数学についてのいろいろな能力が重要なものであることを知り,数学を生かして社会に貢献していく習慣と能力とを養う。
10.職業生活をしていくための資質として,数学についてのいろいろな能力が重要なものであることを知り,いろいろな職業の分野で,数学を生かして用いていく習慣と能力を養う。
○暗算や珠算による計算の能力をいっそう高める。
理 科
中学校における理科は,次のことを生徒の身につけさせることを目標とする。
2.人と自然界との関係を理解し,さらに他の人々,いろいろな生物,自然力の恩恵を受けていることを理解する。
3.人体や,個人および公衆衛生についての基礎的な知識や理解を得,健康的な習慣を形成しようとする気持を起し,さらにその実現に努める。
4.自然の事物や現象を観察し,実際のものごとから直接に知識を得る能力を養う。
5.自然の偉大さ,美しさおよび調和を感得する。
6.自然科学の業績について,社会に貢献するものと有害なものとを明らかに区別し,さらにすべての人類に最大の福祉をもたらすように科学を用いなければならないという責任感をもつ。
7.科学の原理や法則を日常生活に応用する能力を高める。
8.一定の目的のために原料や自然力を効果的に,また安全に使う能力を高める。
9.科学的な態度とはどのようなものであるかを理解する。たとえば,いろいろな事実に基いて一応の結論が得られても,偏見を捨ててさらに多くの事実を探究し,じゅうぶんな証拠が得られるまでは判定をさしひかえる。さらに,こうして得られた結論でも別な事実にあてはめてみて深く吟味する。
10.問題を解決するために,科学的な方法を用いる能力を高める。
11.現代の産業および商業生活において,科学に関する知識や科学的な習慣が重要であることを認識し,またそれらを習得して職業の選択に役だたせる。
12.正確に観察し,測定し,記録する習慣を形成する。
13.道具をたくみに使いこなしたり,機械その他,科学的に作られたものを正しく取り扱ったりする技能や習慣を養う。
14.人類の福祉に対する科学者の貢献と,科学がどのようにして現在の文明を築くのに役だったかを理解する。
15.科学のいろいろな分野における専門家を尊敬する態度を養う。
16.他の人と協力して科学上の問題を解決しようとする心がまえをもつ。
中学校における図画工作科の目標は次のとおりである。
2) 日常生活を営むに必要な,造形品の実用価値や美的価値を判断し,有効なものを選択する能力を発展させること。
3) 造形品を有効に使用する技能を発展させる。
4) 美術品および自然のよさを鑑賞する能力を発展させる。
5) 前の各項と関連して,余暇を有効に過ごすための多くの興味や技能を発展させる。
2) 人間の造形活動の意味を理解し,その価値を理解する能力を発展する。
3) 造形の用具材料および造形品の使用を通して公民として必要な態度を発達させる。
4) 生徒の職業的な興味・適性・技能と,経済的生活の能力を発展させるために必要な理解と技能を養う。
体育学習は,小学部における体育科の基礎の上に立って,さらに程度を進めて指導する。
中学校における体育学習の目標は次のとおりである。
2.身体活動に対する経験を広げ,基礎的技能を発達させる。
3.情緒の安定を高める。
4.社会的態度を発達させる。
5.余暇活動の基礎を養う。
中学校における保健学習の目標は次のとおりである。
2.自己の健康について理解し,これに基いて適切な保健活動を行う習慣・態度・能力を養う。
3.病気やけがとその予防について理解し,病気やけがの予防や救急処置に必要な保健活動を行う態度・能力・技能を養う。
4.健康と学習や仕事との関係について理解し,これに基いて学習や仕事を健康的に行う能力・態度を養う。
5.健康な精神について理解し,これに基いて生活を楽しく進める習慣・態度を養う。
6.集団の健康について理解し,進んでその健康を高めることに協力する態度を養う。
○盲生徒の生活の特性に応じて,特に清潔に留意し,また性に対する正しい理解をもたせ,性の純潔に関する道徳に留意する。
職業・家庭科
この趣旨に基いて具体的に考えてみると,次のような目標をあげることができる。
2.産業ならびに職業生活・家庭生活についての社会的,経済的な知識・理解を得させる。
3.科学的,能率的に実践する態度・習慣およびくふう創造の能力を養う。
4.勤労と責任を重んじる態度を養う。
5.将来の進路を選択する態力を養う。
○視力の障害を克服して,自主的,能率的,合理的に実践する態度・習慣を養う。
○盲者の仕事についての理解を与え,個性と能力に応じて進路を選択しようとする積極的な態度と能力を養い,将来の職業生活に対する自覚を与える。
○選択教科として課する場合には,生徒の個性や進路に応じて特定の職業に必要な技能についての基礎的な指導を行うことができる。
外 国 語 科
この目標を達成するために,盲学校ではさらに次の点に留意しなければならない。
○外国語を点字で書く場合は,正しく書くとともに,特に略字の指導をすることが望ましい。
特別教育活動は,教科としては組織されないが,中学部における教育の目標の達成に寄与する有効な学習活動で,教育課程の一部として,教科の指導以外に時間を設け,すべての生徒に対して指導を行うものである。
特別教育活動における目標については,小学部における教科以外の活動の発展として,なおいっそう生徒の自主性,協同性を重視する。なお,将来の進路を選択決定するのに必要な能力を養い,個性の伸長をはかることは,この時期の生徒の重要な目標となる。
その活動の領域は,広範囲にわたるが,年間を通じて計画的継続的に指導すべき活動としてはホームルーム活動,生徒会活動およびクラブ活動がある。これらの活動については,学校は,生徒の自発的な活動が健全に行われるように,周到な計画のもとに,指導をしなければならない。
特にこの時期の生徒には,将来の進路の選択や,その他いろいろな問題や困難が多いので,個々の場合に即した,適確な指導のための資料を準備し,特別教育活動を通じて,生徒の健全な成長がはかられるよう常に適切な指導と助言を行うように努めなくてはならない。
(3) 指導時間数
中学部各学年における教科と特別教育活動の指導時間数,および総指導時間数は次の表のとおり定める。
\学年
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(5〜7) |
(5〜7) |
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(4〜6) |
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(3〜5) |
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(3〜5) |
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(2〜3) |
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(2〜3) |
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(3〜5) |
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(3〜4) |
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(2〜3) |
(2〜3) |
(2〜3) |
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(27〜32) |
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(3〜4) |
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(3〜7) |
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(30〜35) |
(30〜35) |
(30〜35) |
(1) この表は教科および特別教育活動に必要な年間の最低および最高の指導時間数ならびに総指導時間数を示す。また,あわせて1年間38週の指導を行ったとき,1週当りの平均指導時間数を()の中に示す。
(2) この表に示された時間数はすべて50分をもって1単位時間とする。ただし,これは指導を50分ごとにくぎるべきであるという意味ではない。
(3) 各教科および特別教育活動の指導時間の間に適当な休憩および昼食の時間を設ける必要があるが,これらの時間は,この表に示す時間数に含まれていない。
(4) 実際の指導にあたっては,教科の統合をはかるなど,実情に即して指導する場合においても,この表に示された時間数をもととしなければならない。
(5) 保健体育科の保健学習については,3年間のうちに合計76時間の指導を行うものとする。
これはいずれかの学年にまとめて実施してもよく,2年間又は3年間にわけて実施してもよい。
(6) 私立学校においては,この表に示された教科および特別教育活動のほか,その必要によって宗教に関する教科を設けることができる。
この場合,総指導時間数は,この表に示された時間数の範囲をこえてはならない。
学校における教育課程は,上に示したところに従い,第2章で示した留意事項にあわせて,次の点に留意して,具体的に編成されなければならない。
(2) 総指導時間数を週当り32時間以内で計画する場合にも,必修教科にあわせて選択教科を履修させることが望ましい。
(3) 学校は,個々の生徒の適性,環境,進路の希望等に関する適確な資料に基き,生徒に個性の自覚と社会への認識を深めさせ,選択教科の履修の決定その他進路について適切な指導を行わなければならない。
昭和32年3月10日印刷
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