人間の成長発達は,一定の順序を踏みながら,継続的に進行する。もとより個人差や生活環境の相違があるから,たとえ同年齢のこどもであってもその成長発達の具体的な姿には差異がある。また,どんな人でも,赤ん坊からすぐおとなになるのではなく,幼児の時代,少年の時代を経て青年や成人になるという段階をたどるのである。そして、前の段階における成長のよしあしは,あとの成長に大きく影響する。しかも,この成長の過程にはくり返しがない。だから,人間のよりよき成長発達を望むならば,心身発達の各段階において,最善の成長が促されるように努力する必要がある。
ことに人間の一生において,幼児期の教育がいかに重大であるかということは,「三つ子の魂百まで」とも言われるように,昔からの常識になっている。発達心理学や教育心理学の研究は,この常識をいっそう科学的に裏づけている。したがって,幼児期の教育を受け持つ幼稚園は,特にこどもの性格形成の上からは非常に重要であるといわなければならない。
学校教育法第77条では,幼稚園の目的を規定して,「幼稚園は,幼児を保育し,適当な環境を与えて,その心身の発達を助長することを目的とする。」と述べている。すなわち幼稚園教育の目的は,幼児にふさわしい環境を用意して,そこで幼児を生活させ,望ましい方向に心身の発達がよりよく促進されるように指導することにある。しかし,この目的は,幼稚園教育の意図すべき一般的方向を指示したものであり,またきわめて抽象的,概括的である。そこで学校教育法第78条では,この一般的な目的を実現するための目標として,次の五項目を示している。
2.園内において,集団生活を経験させ,喜んでこれに参加する態度と協同,自主及び自律の精神の芽生えを養うこと。
3.身辺の社会生活及び事象に対する正しい理解と態度の芽生えを養うこと。
4.言語の使い方を正しく導き,童話,絵本等に対する興味を養うこと。
5.音楽,遊戯,絵画その他の方法により,創作的表現に対する興味を養うこと。
幼稚園の幼児は,次に述べるような具体的な目標を達成するように指導されなければならない。
○からだをじょうぶにし,いろいろな運動や動作が活発にできるようになる。
○伝染病やその他の病気にかからないようになる。
○けがやその他の災害から,身を守ろうとするようになる。
○自分の仕事を進んでやり,終りまでやりとげるようになる。
○友だちと,仲よく親切に交わるようになる。
○友だちといっしょに,仕事や遊びができるようになる。
○友だちとの約束が守れるようになる。
○親や教師のいうことを,注意して聞くようになる。
○幼稚園や家庭の生活,道路の交通,遊び場などのきまりが守れるようになる。
○自分や友だちの持物,幼稚園の物などをたいせつに使うようになる。
○世の中のために働いている身近の人々に親しみを感じ,その仕事に関心をもつようになる。
○幼稚園の行事,家庭や身近な社会の意義ある行事などに,興味をもつようになる。
○道具や機械の便利なことに気づくようになる。
○動植物に興味をもち,いたわるようになる。
○天候や昼夜,季節の変化などに気づくようになる。
○いろいろなものを集めたり,比べたりするようになる。
○簡単な数や量や形などに関心をもつようになる。
○道具や機械などに興味をもち,注意して見るようになる。
○簡単な道具を扱えるようになる。
○ひとの話や話合いを,じょうずに聞くようになる。
○童話を喜んで聞くようになる。
○興味をもって絵本などを見たり,絵について話したりするようになる。
○絵をかいたり,物を作ったりすることに興味をもつようになる。
○簡単な音や色,形などがわかるようになる。
○簡易楽器・クレヨン・はさみその他の用具や材料の使い方がわかるようになる。
○自分の考えや気持を,音楽リズムや絵画製作で,自由に表現するようになる。
○ごっこ遊び・劇遊びなどによって,生活感情を表現するようになる。