第1章 水産科の目標

1.高等学校における水産教育の目標

 高等学校の水産教育は,中学校における教育の成果を基盤として,さらに一般教養を高め,国家社会の有為な形成者としての普遍的な資質を養うとともに,わが国の水産業界を進歩発展させる上に必要な水産に関する専門的な知識・技能を習得させ,水産人として正しい自覚と誇りとを持った自営者および中堅技術者の育成を目ざすものである。

 これがために次の各項の達成を目標とする。

(1) 水産業がわが国産業経済の発展および国民生活の向上の上に果す役割を正しく理解させる。

(2) わが国の地理的環境と水産業の重要性を認識し,水産資源に対する理解を深め,これを愛護する科学的な根拠を確認させる。

(3) 水産業の各分野における現場作用を対象として,それぞれの分野で必要な基本的知識と技能とを習得させる。

(4) 水産に関する諸法規を理解し,法に従う態度を養う。

(5) 水産業の経営管理にあたっては,合理的かつ能率的に処理する能力と習慣を養う。

(6) 現場作業にあたっては,旧来の慣習にとらわれず,原理となるものを求め,これを科学的に検討究明して,これを合理化しようとする態度を養う。

(7) 激しい労働と困苦に耐える強じんな体力と,おう盛な気力をかん養する。

(8) 責任を重んじ,他と協調していく心構えを養う。

(9) 正しい勤労観と,くふう創造の能力を養う。

(10) 広い視野に立って業界の実状を観察し,これを批判していく総合的な能力と,これの改善進歩を図る積極的な態度を養う。

 以上は専門教育としての水産教育の目標を述べたのであるが,(1)〜(4)の目標は,濃淡の差はあるにしても,普通課程において行う,一般教養としての水産教育の目標ともなるものである。

 

2.水産に関する各課程の目標

 水産教育の目標を各課程について,やや具体的にあげると次のとおりである。

 

 (1) 漁業課程

 漁業課程においては,将来漁業生産の現場に働く中堅技術者や,漁業経営者および海技免状を取得し漁船に乗り組む幹部職員の養成を目ざし,わが国の漁業の発展に寄与することを目的として,次の各項の達成を目標とする。

1) 水産業の現状および漁業が,産業構成中に占める地位や重要性を認識し,合理的に漁業に従事し,経営する能力を養う。

2) 漁具・漁法・漁期・漁場ならびに漁獲物の鮮度保持と,さらに水産関係法規等,漁業に関する基礎的な知識と技術を習得し,水産資源量の考察に基いて科学的に漁業に従事し,経営管理する能力を養う。

3) 漁船の構造や設備および航海・運用・海事法規等,漁船運航に関する知識と技術を習得し,漁船を安全かつ経済的に運航し,操業する能力を養い,あわせて海技免状取得の技能を養う。

4) 漁業経営の自然的・社会的・経済的諸条件を理解し,特に地域社会における経営の実態をはあくし,現状分析の上に立って総合的に批判できまた漁業の合理化に寄与できる能力を養う。

5) 実習によって,海上労働の特異性を認識し,強じんな身体と敏速正確な行動および,おう盛な研究心と,協調和合し,規律と責任を重んずる態度を養う。

 

 (2) 水産製造課程

 本課程においては,水産生物の特異性に対し,資源の有効適切な完全利用が,わが国水産業の発展の基盤となることを自覚させ,水産製造技術者として正しい勤労観と科学的考察力を習得させる。また将来自営者および水産製造工場における機械技術者または現場作業の指導監督者,あるいは企画運営部門に従事する中堅技術者等を養成するため,次の目標の達成を目ざすものである。

1) 水産製造原料の生物的・化学的特異性を認識し,これが環境の変化に伴う諸現象を理解し,さらにこれに準拠する適正な水産製造技術の科学的根拠を確認し,水産製造の進歩改善に寄与する技能を養う。

2) 水産物の第一次的加工法,あるいは第二次的加工法としての冷凍・冷蔵・かん詰・油脂工業をはじめ,各種製造加工に必要な知識・技能を習得させる。

3) 冷凍機・かん詰機械・汽かんをはじめ各種電動機・原動機・ポンプ等水産製造工業に用いる機械器具の取扱や調整・修理・試験等に従事するために必要な技能を習得させる。

4) 水産製造工場の経営管理に関する基礎的な知識を理解し,工場の科学的管理を実践する技能を養う。

5) 工場関係法規を理解し,これを遵守して食品衛生・災害防止に対する科学的態度を養う。

6) 水産製造の社会的・経営的意義を理解し,進ん働く態度および不とう不屈の精神ならびに研究的態度を養う。

 

 (3) 水産増殖課程

 本課程においては,水産業界における増殖事業の重要性を理解し,増殖を行うに必要な知識・技能を習得させ,将来現場作業の指導監督,養殖場の経営管理,水産資源の調査研究等各部門に従事する中堅技術者および自営者を養成し,わが国の増殖事業の発展に寄与することを目的として,次の目標の達成を目ざすものである。

1) 水産資源の維持培養に必要な科学的知識と技術を習得し,研究的・計画的な活動を行うことのできる能力を養う。

2) 水産生物の人工ふ化,品種改良ならびに飼育等に関する方法を科学的に改善するに必要な知識と技術を習得させる。

3) 水産生物の増殖事業に必要な機械器具の操作・調整等の技術を習得させる。

4) 水産増殖生物の処理・加工・冷蔵・冷凍等に関する基礎的な知識・技能を習得させる。

5) 水産増殖事業の経営管理に関する基礎的な知識を理解し,水産経営者としてまた水産行政担当者として活動しうる能力を養う。

6) 健康および忍耐力ならびに責任感の増進に努め,積極的に研究くふうする態度を養う。

 

 (4) 水産経営課程

 本課程においては,水産業の経営に必要な知識・技能を習得させ,将来水産業の経営事務にあたり,水産業の合理的な経営を行い,これを健全な事業とする自営者および中堅技術者等を養成するため,次の目標の達成を目ざすものである。

1) 水産業がわが国の経済復興と国民生活の向上に果している役割を理解させる。

2) 水産資源の特質を理解し,これを愛護利用する心構えを養う。

3) 水産生物の特徴とその生活環境について理解させる。

4) 水産業の経営に関連して,海洋と気象について理解させる。

5) 漁業・水産製造・水産増殖のそれぞれの分野に関する基礎的な知識・技能を習得させる。

6) 水産経営の条件となる自然的・経済的および社会的事情について理解させる。

7) 水産業に関する法規上の手続きを理解させる。

8) 水産経営の規模および企業形態を理解させる。

9) 簡易な水産経営の計画と管理の能力を養う。

10) 水産業を安定した産業として経営面に安心感を与え,生産経営に関する知識・技能を習得させる。

11) 水産簿記の知識を活用して水産経営の合理化を図る態度を養う。

 

 (5) 水産課程

 本課程においては,水産業全般にわたる基本的な知識・技能を習得させ,将来その地域に適応した水産業の自営者あるいは中堅技術者となる者を養成するため,次の目標の達成を目ざすものである。

1) 水産業の社会的・経済的意義を理解させる。

2) 海洋の状態や水産生物の形態・分布・習性等を理解し,実験・観測・調査の基礎的技能を養う。

3) 水産資源の特質を理解し,これを愛護・発展させる心構えを確立させる。

4) おもな漁業の漁具および漁法・漁期・漁場・漁船等について理解し,操業・操船に関する基本的な知識・技能を習得させる。

5) 水産物の貯蔵・保存の方法と主要な食品および工用品等の製造に必要な基本的知識と技能を習得させる。

6) 水産に関する諸法規を理解し,これに従う態度を養う。

7) 水産生物の増殖について,その方法および水質と餌料,施設とその管理方法について,基本的な知識・技能を習得させる。

8) 水産物の販売方法,ならびに国内需要および貿易について理解させる。

9) 簡単な水産経営の計画と管理の能力を養う。

 

 (6) 機関課程

 本課程においては船舶の機関の操作・運転・修理等について必要な知識・技能を習得し,将来船舶職員として漁船に乗り組む者を養成するため,次の目標の達成を目ざすものである。

1) 水産に関する一般常識と,漁業ならびに漁船に関する実際的な知識・技能を習得させる。

2) 舶用機関の設計・製作に関する基本的な知識・技能を習得させる。

3) 漁船機関の運転・修理ならびに保全に必要な知識・技術を習得させる。

4) 漁船の運航に伴う機関の確実かつ経済的な取扱の技術を習得させる。

5) 漁船の操業に従事させ,機関部員の占める位置と役割を正しく認識し,漁船の操業に協力する態度を養う。

6) 船内勤務を通じて,勤労に対する確固たる信念と,正しい職業観をはあく,確立させる。

7) 困苦に耐え,責任を果す強じんな体力と,おう盛な気力を養う。

8) 常に科学的精神を堅持し,創意くふうをこらし,研究を怠らない態度を養う。

 

 (7) 無線通信課程

 本課程においては,無線通信の送受および機器の操作・修理等について必要な知識・技能を習得し,電波法に基く第2級無線通信士以上の資格を得て,将来船舶職員として漁船に乗り組む者を養成するため,次の目標の達成を目ざすものである。

1) 水産に関する一般常識と,漁業無線に関する実際的な知識を理解させる。

2) 無線通信機器に関する知識・技能を習得させる。

3) 無線関係法規を理解し,これを遵守してその運用を適性にさせる能力を養う。

4) 無線通信機器の設計・製作・修理に関する基本的な知識・技能を習得させる。

5) 通信術に関する知識を深め,通信技能に習熟させる。

6) 無線通信機器の実際的な操作・故障・修理・保守についての技能を習得させる。

7) 無線測位機器の取扱について習熟し,船の運航に協力する態度を養う。

8) 船内実習を課し,勤労に対する確固たる信念と自信をもたせ,正しい職業観をはあくさせる。

9) 常に科学的精神を堅持し,創意くふうをこらし研究を怠らない態度を養う。