第5章 社会科世界史

1.目   標

 中学校社会科の歴史的内容を主とするものの学習は,日本の歴史に関するものをおもに取り扱っているが,これとの関連と比較において,世界史に関する内容を取り入れ,結果として,世界史の流れのあらましをもつかむことを目標としている。

 高等学校の世界史は,中学校におけるこれらの学習の成果をじゅうぶん生かしながら,世界史をより深く,科学的,系統的に理解させ,また世界の諸民族,諸国家が孤立してでなく,互に交渉をもちながら発展してきたことを認識させる。これらの理解や認識を通し,世界史の発展において,日本の占めてきた地位を明らかにするとともに,日本の民主主義社会の発展および世界平和に対する日本民族の責任を覚させることが,高等学校における世界史教育の究極の目標である。

 以上の趣旨を達成するためには,具体的には,次のような目標が考えられる。

 

2.内   容

 次に示した各項目は,高等学校のすべての課程を通じ,単位数の多少にかかわらず,履修させることが適当であると考えた内容の素材である。これらの内容の素材については,社会科および世界史の目標に基き,さらに各項目に付記した説明の観点や取扱方を考慮して,各学校において,適切な指導計画を立案することが望ましい。

 したがって,次の各項目の組織・配列は,単元の例を示すものではなく,また,それぞれの項目を,分解したり,相互に組み合わせで指導してもよい。各項目は,指導の上で,同等の重要さをもち,同量の時間数をこれにあてるものと考えたのでもない。

(1) 文明の成立と古代国家

 ギリシア文化,ローマ帝国の文化史上の役割,儒教・仏教・キリスト教などによる古代人の精神生活などに重点を置き,かつ,東洋と西洋の古代文化の性格の違いに着眼させ,また政治的変遷では,東洋と西洋の古代国家の違いのあらまし,西洋の古代民主政治と近代民主政治の違いなどを主として取り扱い,諸民族・諸国家の複雑な政治的変遷に深入りすることは避けるべきである。ここにいう中国の古典文化とは,漢までの文化をさしている。

(2) アジア諸民族の活動と東西交渉

 アジア諸民族の活動では,日本およびアジアの諸民族に大きな影響を与えた唐の文化に重点を置くべきである。ここにいうアジア諸民族とは,三国から唐にいたる中国の諸民族を中心としている。なお,ここでは,中国の歴史に偏することなく,アジアの他の地域についても,じゅうぶんに理解させる配慮が必要である。

 東西の文化交流では,海陸両路による東西の文化交流はもちろん,西アジアおよび南海諸国の政治の変遷や文化についてもふれるべきである。

 イスラム文化は,東洋と西洋のいずれにも深い関係があるから,じゅうぶん注意して指導することが望ましい。

(3) 中世ヨーロッパの社会

 中世ヨーロッパの社会では,制度・経済・文化等の発展に重点を置き,古代や近代のそれらと違っている点を明らかにし,政治の推移,戦争の経過等については,その意義をきわめる程度にすべきである。

 なお,ビザンチン文化については,中世文化との関連において,その意義を明らかにすることが望ましい。

(4) アジアにおける専制国家の変遷

 中国専制国家の特色および社会の変ぼうに重点を置くべきである。アジアの歴史については,西洋的な立場からのみ見るのではなく,それ自身の独自の価値を認めて,理解させることが必要である。

(5) 欧米における民主主義の展開と近代文化

 以上の内容は,現在の民主政治と密接なつながりをもっていることに留意し,特に,18世紀末以後は詳細に扱うべきである。また,西ヨーロッパの大国にかたよらず,東ヨーロッパ諸国・アメリカ合衆国・ラテンアメリカ,その他,現在,日本と関係深い国々についても,一応ふれるべきである。

(6) 欧米列強の世界進出とアジア

 欧米列強の世界進出の理由を明らかにし,アジアの植民地化とアジアの近代化への動きを重点的に取り扱うべきである。

 帝国主義の成立においては,対外政策が変化するばかりでなく,国内情勢にも,新しい問題が生ていることを明らかにしなければならない。日清・日露戦争においては,極東および世界の情勢との関連において理解させるべきである。

(7) 二つの世界大戦

 帝国主義政策の帰結である第一次世界大戦後,ヴェルサイユ体制に基いて,国際協力,世界平和への運動が進められていたが,しかし帝国主義政策はなお新しい形をとりながら存続し,世界恐慌を境として,平和への危機が深まり,ついに二度目の世界大戦に至ったことを理解させる。なお経済困難の打開に対する各国の対策が,民主主義のあり方により,それぞれ異なった形をとって現れていることにも留意する。世界大戦の原因については,できるかぎり正確・公正な資料に基き,客観的に検討するように努めなければならない。

(8) 第二次世界大戦後の世界

 この時代の事象については,特に解釈が多様に分かれているが,事実を忠実にとらえることに努めて,現代の歴史的地位を明らかにするとともに,現代世界の諸問題を客観的に認識し,批判する能力と態度とを養う。また,第二次世界大戦後,冷たい戦争と呼ばれる時代が続いたが,最近,世界平和の確立に向かって,各国が努力している事実に留意させることが必要である。

 

3.留 意 事 項

(1) この指導内容の各項目の配列や,東洋・西洋の組み合わせについては、ほかにもいろいろ考えられるであろう。しかし,東洋史と西洋史とを分離して取り扱い,別々の知識をただ与えるというような方法は,目標達成上,望ましくない。

(2) 東洋関係の歴史では,19世紀中ろ以後,欧米関係では18世紀以後の内容を詳しく扱い,それ以前に時間をかけすぎることのないよう留意すべきである。

(3) 低学年に履修させる場合と,高学年に履修させる場合とでは,他の科目との連絡をじゅうぶん考えて,社会科として一貫した指導計画をもち,そのねらいがよく達成されるようにすることが必要である。