1.目 標
中学校社会科の歴史的内容を主とするものの学習は,日本の歴史に関するものをおもに取り扱っているが,これとの関連と比較において,世界史に関する内容を取り入れ,結果として,世界史の流れのあらましをもつかむことを目標としている。
高等学校の世界史は,中学校におけるこれらの学習の成果をじゅうぶん生かしながら,世界史をより深く,科学的,系統的に理解させ,また世界の諸民族,諸国家が孤立してでなく,互に交渉をもちながら発展してきたことを認識させる。これらの理解や認識を通し,世界史の発展において,日本の占めてきた地位を明らかにするとともに,日本の民主主義社会の発展および世界平和に対する日本民族の責任を自覚させることが,高等学校における世界史教育の究極の目標である。
以上の趣旨を達成するためには,具体的には,次のような目標が考えられる。
(2) 世界の諸民族・諸国家の発展には,普遍的,共通的な傾向があることに着眼させるとともに,普遍性を基礎とした特殊性があることを理解させる。
(3) 世界史における各時代を,総合的,発展的に考察することによって,現代社会,特に現代アジアの歴史的地位を明らかにする。
(4) 社会と文化が各時代の民衆や個人の努力の集積によって進歩してきたことを,その生き生きとした過程を通して理解し,歴史の発展における人々の努力の価値を認識させる。
(5) 世界の文化を,それが生れた社会の事情と関連させながら理解し,文学・美術・音楽などのすぐれた作品に親しむ態度を養う。
(6) 現代日本の世界史的地位を理解することによって,日本民族の果すべき役割を自覚させる。
(7) 国際協力を正しくおし進める精神を養うとともに,世界平和を確立し,人類の幸福を増進しようとする意欲と態度とを養う。
(8) 調査・見学・研究などの学習活動を通じて,資料を歴史的に理解する能力を育て,また発表や討議に必要な技能と態度とを養う。
2.内 容
次に示した各項目は,高等学校のすべての課程を通じ,単位数の多少にかかわらず,履修させることが適当であると考えた内容の素材である。これらの内容の素材については,社会科および世界史の目標に基き,さらに各項目に付記した説明の観点や取扱方を考慮して,各学校において,適切な指導計画を立案することが望ましい。
したがって,次の各項目の組織・配列は,単元の例を示すものではなく,また,それぞれの項目を,分解したり,相互に組み合わせで指導してもよい。各項目は,指導の上で,同等の重要さをもち,同量の時間数をこれにあてるものと考えたのでもない。
(1) 文明の成立と古代国家
文明の成立
ギリシアの民主政治と文化
ローマ帝国とキリスト教
インド古代文化の発展
中国古典文化の成立
(2) アジア諸民族の活動と東西交渉
中国の貴族的文化の発展
東西の文化交流
イスラム世界の発展とその文化
東西の文化交流では,海陸両路による東西の文化交流はもちろん,西アジアおよび南海諸国の政治の変遷や文化についてもふれるべきである。
イスラム文化は,東洋と西洋のいずれにも深い関係があるから,じゅうぶん注意して指導することが望ましい。
(3) 中世ヨーロッパの社会
カトリック教会の発展と中世文化
十字軍とヨーロッパ中世都市
西ヨーロッパにおける国民国家
なお,ビザンチン文化については,中世文化との関連において,その意義を明らかにすることが望ましい。
(4) アジアにおける専制国家の変遷
蒙古帝国の成立と東西の交渉
中国における専制国家の発展
ムガール帝国の盛衰
(5) 欧米における民主主義の展開と近代文化
ヨ一ロッパ人の海外進出
宗教改革
ヨーロッパの絶対主義国家
市民革命の発展
産業革命とその影響
自由主義の展開
西洋近代文化の発展
(6) 欧米列強の世界進出とアジア諸国
帝国主義の成立
日清戦争・日露戦争
中国社会の動揺と辛亥革命
帝国主義の成立においては,対外政策が変化するばかりでなく,国内情勢にも,新しい問題が生じていることを明らかにしなければならない。日清・日露戦争においては,極東および世界の情勢との関連において理解させるべきである。
(7) 二つの世界大戦
ロシア革命とアジアの民族運動
ヴェルサイユ体制
世界恐慌と全体主義の台頭
第二次世界大戦
(8) 第二次世界大戦後の世界
大戦後の欧米諸国
アジア・アフリカ諸民族の解放運動
冷たい戦争と緊張緩和政策
現代の文化
3.留 意 事 項
(1) この指導内容の各項目の配列や,東洋・西洋の組み合わせについては、ほかにもいろいろ考えられるであろう。しかし,東洋史と西洋史とを分離して取り扱い,別々の知識をただ与えるというような方法は,目標達成上,望ましくない。
(2) 東洋関係の歴史では,19世紀中ごろ以後,欧米関係では18世紀以後の内容を詳しく扱い,それ以前に時間をかけすぎることのないよう留意すべきである。
(3) 低学年に履修させる場合と,高学年に履修させる場合とでは,他の科目との連絡をじゅうぶん考えて,社会科として一貫した指導計画をもち,そのねらいがよく達成されるようにすることが必要である。