1.目 標
中学校社会科の歴史的内容を主とするものの学習では,日本史の発展過程を主体とし,それと関連づけながら,世界史の流れのあらましをもはあくさせようとしている。
高等学校の日本史においては,中学校よりも程度の高い歴史的知識を与え,日本史をより深く,科学的,系統的に理解させる。たとえば,政治上の事がらについては,その事実の底にある社会の構造と関連させながら,より広い視野のうちに,その歴史的意義を追求させる。また,各時代の文化については,中学生に理解させることがむずかしい思想や学問や宗教などについても,その時代の政治や社会との関連において深い考察をさせることができよう。諸外国の歴史との単なるつながりばかりでなく,広く世界史の動きの中に,日本の置かれていた位置を考えていく態度を養わなければならない。さらに,重要な史料にもふれさせることによって,歴史的事実を生き生きとした形で,具体的に理解できるよう,適切な学習活動が行われることが望ましい。
このような学習活動を通じ,日本の社会や文化がわれわれの祖先の努力によって進歩発展してきたものであることを認識し,日本の民主的な社会と文化の発展および世界平和に対する日本民族の責任を自覚させることが,高等学校における日本史教育の究極の目標である。
以上の趣旨を達成するためには,具体的には,次のような目標が考えられる。
(2) 具体的な史実の分析や総合を通じて,歴史を動かす諸条件を的確にはあくし,歴史における発展の概念を明らかにして,各時代のもつ歴史的意義を理解させる。
(3) 現代社会の諸問題を,その歴史的背景の理解に基いて,発展的,総合的に考察する能力と態度とを養う。
(4) 日本の文化を,それが創造された時代との関連において理解させ,現代文化の歴史的背景を明らかにし,さらに新しい文化を創造しようとする意欲と態度とを養う。
(5) 日本民族の発展のあとを科学的に理解させることによって,日本人としての自覚を高めるとともに,民族に対する豊かな愛情を育てる。
(6) 日本歴史の発展を常に世界史的な視野に立って理解し,現代日本の置かれている世界史的地位をはあくして,日本の民主主義社会の発展と世界平和の確立に進んで協力し,民主主義の実現と人類の幸福に寄与しようとする意欲と態度とを養う。
(7) 調査・見学・研究などの学習活動を通じて,資料を歴史的に理解する能力を育て,また,発表や討議に必要な技能と態度とを養う。
2.内 容
次に示した各項目は,高等学校のすべての課程を通じ,単位数の多少にかかわらず,履修させることが適当であると考えた内容の素材である。
これらの内容の素材については,社会科および日本史の目標に基き,さらに各項目に付記した説明の観点(中学校社会科の歴史的内容を主とするものとの違いを例示することに留意した)や取扱方を考慮して,各学校において,適切な指導計画を立案することが望ましい。
したがって,次の各項目の組織・配列は,単元の例を示すものではなく,また,それぞれの項目を,分解したり,相互に組み合わせて指導してもよい。各項目は,指導の上で,同等の重要さをもち,同量の時間数をこれにあてるものと考えたのでもない。
(1) 原始の社会
農業の始まりと社会の変化
(2) 大和国家の成立
古墳文化,大陸文化の摂取
聖徳太子の政治と飛鳥文化
(3) 律令国家の展開
奈良時代の社会と文化
平安初期の政治と文化
(4) 平安貴族の政治と武士の発生
摂関政治と貴族の生活
平安時代の文化
院政と平氏の政権
平安時代の文化についても,いわゆる国風文化の成熟を,貴族社会の変ぼうや当時の社会的諸条件などと関連づけて考察すべきである。
(5) 鎌倉政権の成立
鎌倉時代の社会と経済
鎌倉時代の文化
元寇については,世界史的な視野から,その経過を明らかにするとともに,わが国がその侵攻をまぬかれえた理由の一つとして,鎌倉武士団の成長を考えさせるべきである。
文化に関しても,鎌倉時代の文化が,公武の二重政治を反映して,伝統的な公家文化のほかに,新しい武家的要素が現れてきていることに注意させるべきである。鎌倉時代の新仏教の展開にしても,それがどのような時代の欲求に基いて生れたかを考えさせ,旧仏教との差異を明らかにすることが必要である。
(6) 荘園の崩壊と大名領国制の成立
室町幕府の政治と外交
経済の発達と庶民の台頭
室町時代の文化
大名領国制の形成
室町時代の文化についても,貴族文化の伝統とともに,それが庶民的性格を帯びてきていることについて,庶民生活の向上との関連において考えさせることが必要である。
(7) 封建制度の完成と鎖国
織豊政権と桃山文化
幕藩体制
町人の台頭と元禄文化
(8) 封建制度の崩壊
化政文化
産業・思想・学問における近代へのほう芽
幕府の衰退と開国
化政文化については,封建社会の行きづまりをどのように反映しているかを考えさせることが必要である。
(9) 明治維新と憲法の制定
富国強兵と文明開化
自由民権運動
憲法の制定と初期の議会
教育と文化
教育と文化については,明治初期の開明的な性絡と,それが漸次,国家主義的な性格を強めていったことを,この時代の動きの中から理解させることが必要である。
(10) 近代国家への成長
条約改正
日清戦争
日露戦争
社会主義運動の発生
近代文化の展開
文化については,西洋文化の著しい影響とともに,前代からの文化もなお依然として残っていることについて理解させ,この時代の社会や経済との関連において,その特質をつかませることが必要である。
(11) 二つの大戦と日本
第一次世界大戦後の社会と文化
政党政治の展開と軍部の台頭
第二次世界大戦と日本
第一次世界大戦後の社会や文化については,大正期のそれが,戦後の経済の発達や民主主義的風潮を反映していたことを理解させる。それとともに満州事変後には,社会や文化がどのように変化したかを考えさせるべきである。
(12) 第二次世界大戦後の世界と日本
戦後の民主化の諸問題
戦後の国民生活と文化
サンフフンシスコ平和条約と日米関係
世界平和と日本
3.留 意 事 項
(1) 目標にも示したとおり,日本社会の発展をいくつかの時代に区分して,その特質や推移を理解させ,時代の概念を明らかにすることは,高等学校日本史の学習においては,特に重要であることはいうまでもない。しかし,日本史を,原始・古代・封建・近代・現代という時代区分法によって固定することは,いろいろ論議もあることなので,この指導内容では,避けておいた。また,この指導内容において,奈良時代とか平安初期とかいう称呼を用いたところがあるが,これは指導内容を示すために便宜上用いたものである。
(2) 単位数の多少によって,取扱方はいろいろ考えられるであろうが,教師の講義だけで学習を展開することは望ましくない。3単位・4単位・5単位,それぞれの場合により,ここに示した指導内容の素材を,適切な学習活動によって取り扱う方法をくふうすべきである。
(3) 日本史の学習においても,新しい時代の内容を重視し,現代社会の歴史的意義を考察させることに適切な時間を配当することが必要である。その場合,他の科目(社会・世界史・人文地理)との連絡をじゅうぶん考えて,社会科として一貫した指導計画をもつことが必要である。
(4) 文化の取扱において,文学や美術作品などに親しむ態度を養うことはたいせつであるが,日本史の学習においては,それらの文化を生み出した歴史的条件を考えさせることを忘れてはならない。また,国語や芸術などの他教科との関連を考えて取り扱うことが必要である。
(5) 史料の取扱にあたっては,生徒の理解力に適合したものを選び,これによって史実の理解がいっそう具体化されるよう指導すべきである。いたずらに程度の高い史料を取り上げて,学習を混乱させないように注意しなければならない。