1.目 標
中学校社会科の政治・経済・社会的内容を主とするものの学習では,それらの諸事象の理解に必要な一般的知識を,歴史的背景や世界的視野の裏づけのもとに与えることにより,現代日本における政治・経済・社会・国際関係などにおいて,どのような問題があるかについて目を開かせ,また個人の価値や人生の問題については,身近な生活上の問題を通して考えさせるようにしている。しかし専門的知識や現実社会の諸問題については,あまり程度の高いものに深入りしないようにしている。
高等学校社会科社会は,主として政治的,経済的,社会的および倫理的な観点から,現実社会の諸問題について,それを,それぞれの分野における諸科学の成果に基き,さらに世界的視野に立って,明らかにすることによって,当面する課題を科学的,合理的に批判し解決していくことのできるような能力や態度を身につけ,有能な社会人としての資質を育成しようとするものである。
以上の趣旨を達成するためには,具体的には,次のような目標が考えられる。
(2) われわれの社会生活は,政治のあり方によって大きな影響を受けるという認識のもとに,民主政治の意義をつかませ,またそれが各国においてどのような歴史的事情と思想的背景において形成されてきたかを理解させる。そして,日本の政治を民主主義の原理に照して,さらに向上させるためにはどのような問題があるかを,その機構や実態を通して理解させ,これを正しく批判し解決していくことのできるような能力と態度とを養う。また,国際政治の現状を理解させて,日本の政治を広い視野から考察する態度を養い,あわせて平和の確立に寄与しようとする熱意を養う。
(3) 経済に関する基本的知識に基き,経済生活における具体的諸事象を通じて国民経済を総合的に理解させるとともに,主として経済の民主化と自立の観点から日本経済の特質と問題点を明らかにして,日本経済の発展のために貢献しようとする態度と能力とを養う。また国際経済を展望して,それにつながる日本経済の地位を理解させ,経済生活を通して国際協力に寄与しようとする心構えを養う。
(4) わが国の社会生活や社会構造の特質を明らかにするとともに,社会生活の近代化がどのような条件のもとに行われ,またこの近代化に伴って,社会組織や社会生活にどのような影響がもたらされたかを理解させる。特に農村生活の向上や労働関係の改善,社会福祉の増進などが,わが国の近代化と社会生活の向上を図る上に,重要な意義をもつことを認識させ,その解決のためにどのような方策がとられているかを理解させ,また,それについて考えさせる。そして幸福で平和な社会生活を実現しようとする態度と能力とを養う。
(5) 青年期の心理や特質に応じて,人間生活の意義や価値を深く考えさせ,同時に,社会生活を営む個人の望ましいあり方を,倫理思想史上のおもな考え方を通して理解させ,また,人権と自由などの民主主義の基本的理念をはあくさせる。そして,日本社会の特色とそれに関連する日本人の考え方などについて考察を進め,各人が家庭・学校・地域社会・職場などにおいて,現実にどのような問題に当面しているか,それを解決していこうとするにはどのような態度をとるべきかについて考えさせる。さらに,学問・芸術・宗教・道徳・思想などの意義と価値を明らかにし,それに基いて積極酌に平和を促進し,文化を創造して,民主的社会の発展を図ろうとする態度と,それに必要な能力とを養う。
(6) 現実の生活に対して常に関心をもち,その諸問題を互に協力して科学的,合理的に研究し調査するとともに,専門書・研究報告・各種の白書・年鑑・新聞などの資料・統計を検討し整理し,それらを,問題を解決していくための手がかりとして,有効に利用できるような技能と態度とを養う。
2.内 容
次に示した各項目は,高等学校のすべての課程を通じ,単位数の多少にかかわらず,履修させることが適当であると考えた内容の素材である。
これらの内容の素材については,社会科および社会の目標に基き,さらに各項目に付記した説明の観点や取扱方を考慮して,各学校において,適切な指導計画を立案することが望ましい。
したがって,次の各項目の組織・配列は,単元の例を示すものではなく,また,それぞれの項目を,分解したり,相互に組み合わせて指導してもよい。各項目は,指導の上で,同等の重要さをもち,同量の時間数をこれにあてるものと考えたのでもない。
(1) 民主政治
政治と社会,政治と経済,法と政治,法と道徳などの関係についての問題を通して,政治と国民生活との関連を明らかにし,政治の意義と本質とを理解させる。
民主政治
近代における民主政治の基本的な原則がどのように実現されてきたか,また今日,どのような組織のもとにそれが運営されているかを,おもな国々について,その歴史的,社会的条件や,思想的背景を明らかにすることによって理解させ,民主政治の意義とその特質をはあくさせる。
帝国憲法の制定とその運営の過程を通して,日本政治の近代化の特質を明らかにし,さらに日本国憲法制定の意義とその内容について理解させる。その際,憲法の問題点については,日本国憲法の精神に対する理解を通して考えさせる。
日本の政治の諸問題
政党政治・選挙制度・三権分立・行政機構(公務員制度を含む)司法制度・地方自治・世論と宣伝などに関する問題を通じて,日本の政治の現状を明らかにし、これを民主政治の確立という観点から考えさせる。
近代国際社会の成立過程を明らかにすることによって,国際社会における国家の意義を理解させる。その際,国際法の意義やその重要な内容についてもふれる。
国際政治の動向と課題
国際連盟の成立と崩壊,国際連合の成立とそのはたらき,国連による以外の国際協力の動きなどの問題を通して,第一次世界大戦から今日に至るまでの国際政治の動向を理解させる。その際,国際政治の課題として,民族独立の問題,安全保障の問題,原子力管理の問題などを通じて,国際協調と世界平和の実現について考えさせる。
国際社会と日本
世界,特にアジアと日本の関係を明らかにし,世界の文化の向上と人類の福祉への寄与について考えさせる。
近代産業と資本主義経済の発達ならびにその特色と,その思想的背景を明らかにするとともに,社会主義経済についてもふれながら,経済生活の発達を理解させる。
国民経済の機構と機能
生産・流通・消費・企業・金融・貿易などの相互の関連を理解させ,国民経済の機構と機能を総合的にはあくさせる。
日本の資本主義経済の成立とその発達の過程ならびに,その特質を明らかにし,また近代産業の発達もこれに関連させて取り扱う。
今日の日本経済の課題
戦後の日本経済の状態とその推移を明らかにし,生活水準の向上,生産力の増大,貿易振興などに関する問題に関して,日本経済の民主化と自立・発展という観点から,どのような方策がとられているかを理解させ,また,それに関して考えさせる。その際,財政の現状と,それが国民経済に及ぼす影響について理解させる。
国際経済のしくみやはたらきを明らかにし,世界のおもな国々を中心とする戦後の国際経済の動向をつかませる。
国際経済につながる日本経済
国際経済と日本経済との関係を明らかにし,そのつながりが日本経済の自立と発展のために重要な意味をもっていることを理解させ,国際協力について考えさせる。
日本の農村の性格を明らかにし,それが日本の経済や社会においてどのような地位を占めているかを理解させる。また,日本の農村に対してこれまでにとられてきた施策や,農地改革の意義を明らかにする。
農村生活の改善
農村における人間関係や伝統的慣習などの特質を明らかにするとともに,今後の農村向上のためにどのような課題があるか,また,それについてどのような努力が必要であるかを理解させる。その際,農業協同組合,その他の団体の果す役割についても考えさせる。
資本主義社会の成立と,それに伴う労働問題の発生の要点を明らかにするとともに,諸外国ならびに国際的な労働運動を展望し,さらに日本の労働運動について,その発展の過程を明らかにする。その際,その背景をなす社会思潮にもふれる。
今日の労働関係
今日の労働関係について,適宜,労働法規の内容にふれながら,その現状を理解させ,労働組合のはたらきやその役割を考えさせる。
生活不安をもたらすものとして,たとえば失業・貧困・疾病・災害・犯罪などについて,政治・経済などとの関連のもとに考えさせる。
社会保障
諸外国および日本について,社会保障の歴史と現状の概要を理解させ,社会保障制度を確立するための条件を考えさせる。
青年期に特有な自我の目ざめを各人の具体的な生活や悩みと結びつけ,本能と理性,自愛と利他,独立と反抗,孤独と愛情などの問題を通して,人間性と人間関係についての関心をもたせる。
個人と社会のつながり
各人のもつ問題が,社会と密接なつながりのあることを理解させ,個人の成長と社会の発展をもたらすためには,人間としていかにあり、いかに生くべきかを考えさせる。その場合,個と全体,幸福と正義,意志と行動,理想と現実などの関係を,東西の倫理思想史上のおもな考え方に適宜にふれながら明らかにする。
日本の社会の性格を理解させ,それに関連して,日本人の,人間関係についての考え方や,諸集団,たとえば郷土や国への愛などについて,民主主義の理念に照して考えさせ,民主主義の理念を現実の生活に結びつけて,自分から考えていく習慣を養う。
また,家庭・学校・地域社会・職場など,身近な社会生活について,その制度や意義を中心に,親子・兄弟・夫婦・師弟・友人・同僚間の愛情や,規律と自治などの正しいあり方を考えさせる。
文化の創造
文化の創造が社会の向上発展のためにたいせつであることを明らかにし,生活に結びつけて,学問・芸術・宗教・道徳・思想などの意義を考え,読書や制作への関心を深めるようにする。そして,現代日本の文化の諸問題を民主的社会発展の立場から考えさせる。
3.留 意 事 項
(1) 社会科社会の学習は,単なる専門的知識の講義だけに終ったり,特定の領域の学習だけに片寄ってはならない。さまざまな基本的問題の学習を通して,社会科社会の目標がよく達成されるようにすることがたいせつである。また,中学校社会科との関連を考慮して学習が行われるようにすることも必要である。
(2) 単位時間数の少ない場合は,一般に,より重点的に素材の配列をくふうしたり,あるいは,学習活動の方法に配慮を加えるようにすることがたいせつである。
(3) 低学年に履修させる場合と,高学年に履修させる場合とでは,他の教科との関連を考慮するほか,社会科の他の科目との連絡をじゅうぶん考えて,社会科として一貫した指導計画をもち,そのねらいがよく達成されるようにすることが必要である。
(4) 学習環境の特色は,指導計画の中にできるだけ反映されなければならない。どのような問題にしても,それがそれぞれの学習環境といかに関連しているかを考えて,学習効果を高めることができるような計画を立てることが必要である。