1.高等学校社会科の位置
(1)高等学校教育の目標と社会科
高等学校の社会科は,中学校の社会科の学習をさらに発展拡充させて,「高等学校教育の目的・目標」に基き,国家及び社会の有為な形成者として必要な資格を養うことを目ざすものである。高等学校教育の目標の一つとして掲げられている「社会について,広く深い理解と健全な批判力を養い,個性の確立に努めること」については,特に社会科は重要な使命をもっている。
(2)社会科と他教科との関係
社会科の学習内容を構成している素材の特色は,それが主として歴史学・人文地理学・政治学・経済学・社会学・倫理学などの社会科学(人文科学)の考え方や知識を背景としており,また,これらの科学の動向を強く反映している点にある。
社会科は,たとえ他教科と同じような事がらについて学習しているようなことがあっても,前述の社会科学に最も密接な関係のある性格をもっているのであるから,その学習の観点やねらいは,他教科の場合と当然違ったものがある。したがって,その指導にあたっては,他の教科との関連と相違を,明確につかんでおくことがたいせつである。
(3)中学校社会科との関係
中学校社会科では,科目に分化していないが,社会生活に関する地理的,歴史的,政治・経済・社会的諸事象について,かなり系統立てて理解させるとともに,現代社会においてどのような問題があるかについて目を開かせ,また,社会生活上の諸問題に対してどのような態度をとるべきかについての理解や能力を得させようとしている。
高等学校社会科では,中学校における教育の成果の上に,生徒の心身発達段階に応じて,中学校社会科の成果を次のように発展拡充させていこうとしている。高等学校では,生徒は理論的に組織的に考えていく段階に達するので、社会諸科学の考え方や知識を中学校における学習以上に系統的に深く身につけさせる必要がある。これがためには,社会科という共通基盤に立ちながらも,中学校と違って科目に分化させて,社会科の学習を行わせる。
現代社会の諸問題の政治的,経済的,社会的,歴史的,地理的,倫理的な理解は教育上重要なことである。しかし中学校程度の生徒の発達段階では,これを理解することについては困難なものが多いので,問題の所在点について気づかせる程度にすぎない。高等学校程度の生徒になると,これを理解することもやや容易になってくるので,高等学校の社会科では,現代社会の諸問題の理解ということを重要視して学習させる。この際,どこまでも社会諸科学の考え方や知識を通して、科学的に,総合的に理解させるように指導しなければならない。社会諸科学の系統的な知識も,現代社会の諸問題を取り上げて生き生きしたものとして理解し,単なる知識として終るのでなく,深く生徒の内面的な心的活動にまで結びつけられて,実際の生活に活用されるようなものでなければならない。
2.社会科の目標
高等学校の社会科では,中学校における学習成果を基礎として社会科の諸科目の学習を通して,人間関係や人間と自然との関係における現代社会の諸問題について,科学的な知識と批判的な思考力を養い,さらに人間生活の根本的なあり方について,反省と自覚を高め,これによって自分自身や現代社会に関する諸課題に正しく対処し,よりよい民主的な国家や社会の建設に努めようとする態度とそれに必要な能力とを養うことを目標とする。
以上の趣旨を達成するための目標は,具体的には,次のようになる。
2. 生徒のもっているいろいろの具体的問題や体験に連関させながら,人間生活についての価値や民主主義の理念などについての深い堀り下げを行い,社会生活をしている人間のあり方やその意義についての思索や反省を重ね,責任ある行動を通して,社会生活の向上を図ろうとする態度や習慣を養う。
3. 自分の属している集団やわが国の現実を,他の集団や外国のそれと比較したりして,具体的に理解することに努めるとともに,常に物事を,世界的視野に立ち,それぞれの歴史的過程や地域的条件に基いてはあくさせる。
4. わが国および外国の文化や生活の特色を理解して,そのすぐれたものを愛護し取り入れて,よりよいわが国の文化や生活の発展に尽くすとともに,進んで世界平和や人類の幸福と文化のために貢献すべき責任を自覚させる。
5. 自分自身や社会の生活をよりよくしようと努力する場合に,問題の発見や解決について,先入観や既成の考え方にとらわれず,まず,自分で考え自分でくふうするという自主的態度を養う。
6. 地図・統計・史料,その他の社会科の学習に必要な資料を批判的に解釈した上で,これを利用する態度や能力を養う。