第4章 保健体育科保健
1.目 標
高等学校の「保健」においては,中学校の保健学習の基礎の上に立ち,個人および集団の健康・安全について系統だてて理解し,これらに関する問題を科学的に解決する能力を養い,これに基いて健康生活を自主的,計画的に実践し推進する能力・態度を養うとともに,人間の生命の尊厳性ならびに健康の重要性について認識を深めさせる。
さらに進んで,健康な生活に関係のある諸科学の進歩発展と関連を保ちながら,積極的に健康生活の向上をはかり,健康な生がいを目ざすとともに,社会全体の健康生活の向上に熱意をもたせる。
以上のようなことから,「保健」の目標を要約すると,次のようになる。
1 健康の本質について科学的に理解し,これに基いて保健問題を解決する能力・態度を養う。
2 集団の健康についての理解を深め,さらに集団の健康を推進する能力を養う。
3 健康の立場から自己を理解し,自己の健康を処理する能力・態度を養う。
4 健康生活ならびに健康障害について科学的に理解し,これに基いて現在および将来における健康生活を自主的に計画し,実践し推進する能力を養う。
このように高等学校の「保健」は,中学校の保健学習の基礎の上に立って行われるものであって,その関連を明らかにすると,次のとおりである。
中学校の保健学習は,国民個人個人の必要とする保健活動を行う能力を養うことに主眼をおき,保健活動についての理解を内容とする。しかし,高等学校の「保健」は,個人および集団の健康を実践し推進する能力を身につけることに主眼をおき,このために必要な体系的,基礎的な理解を内容とする。したがって,健康のための科学的な基本条件,健康生活の理論,健康の本質などについての理解を必要とする。
このように高等学校の「保健」は,中学校のものよりもいっそう科学的な根拠をもち,体系的になってくる。そして,正しい健康観を身につけ,これに基いて自己の現在および将来の保健問題を科学的に処理する能力と態度とを養うとともに,集団の健康についてもこれを推進する能力を養うことが目標とされる。
また,高等学校の「保健」では,保健についての科学的な学習が強調されるので,実習・調査・見学なども加えられる。
2.内 容
次に掲げる内容は,前述の「保健」の目標を達成するために適当と考えられるものであって,そのすべての領域にわたって学習させることが必要である。
(1)高等学校生徒の生活と健康
青年の身体的精神的発達と特性,青年の対人関係に見られる特性,青年期における心身の適応性と健康などを取り扱う。
高等学校生徒の生活時間,高等学校生徒の健康についての諸問題,自己の健康への関心と健康な生活の設計などを取り扱う。
高等学校生徒の生活と生がいの保健計画との関係,進学・就職と保健問題,健全な家庭建設と保健問題(育児問題を含む)などを取り扱う。
成熟と男女の性別,月経・妊娠・出産の生理,結婚と健康などを取り扱う。
1.この学習にあたっては,性の純潔に関する道徳を高めることをねらいとして指導にあたること。
2.この内容の取り扱いにあたっては,男女の性別を考慮して,慎重に指導すること。
高等学校生徒の生活について保健的な理解をもたせ,そこに存在する問題点を発見し,それを解決する能力を身につけさせるためのものであって,次のようなねらいをもっている。
(2)高等学校生徒の生活と健康障害
健康障害の諸問題,青年期に多い疾病,高等学校生徒のり病率と死亡率,高等学校生徒の災害事故などを取り扱う。
健康障害と医療,健康診断と体力測定,健康状態の反省などを取り扱う。
青年期に見られる健康障害の実態をはあくし,高等学校生徒としての保健活動を身につけるためのものであって,次のようなねらいをもっている。
1 自己の健康障書を科学的に理解し,判断する能力と態度
2 自巳の健康障害を適正に処置する方法を理解し,これを行う能力と態度
(3)精神とその衛生
健康な精神活動の意義と内容,精神的健康の診断などを取り扱う。
精神活動と大脳生理,精神活動と身体反応,身体の異常と精神活動などを取り扱う。
欲求とその満足,欲求を妨げるもの,適応機制などを取り扱う。
学習を楽しくする方法,青年の悩みとその解決,青年の非行と自己統制,青年の基本的欲求と理想などを取り扱う。
日常生活における精神衛生上の問題点を発見し,これを処理する能力を身につけるとともに,精神衛生について深い理解を与えるためのものであって,次のようなねらいをもっている。
2 1の理解に基き,日常生活における精神衛生上の問題点を発見し,これを処理する能力・態度
(4)疾病・傷害・中毒とその治療および予防
疾病の原因とその発生,症状とおもな疾病,疾病のなおり方・治療および処置,疾病の予防などを取り扱う。
傷害・中毒の性質と原因,傷害・中毒の後遺症とその医学的処置などを取り扱う。
健康管理の意義と必要,安全管理の意義と必要,健康管理ならびに安全管理の実際,学校における健康管理,学校における安全管理などを取り扱う。
疾病・傷害・中毒とその治療および予防についての体系的な理解を得させ,健康障害に対する保健活動を適切にするためのものであって,次のようなねらいをもっている。
1 疾病およびその他の身体的障害の治療および予防についての体系的な理解
2 1の理解に基き,疾病の治療および予防を適正にさせる態度・能力
(5)健康と生活活動
健康と生活の時間的構造,健康と自然環境,健康と経済的社会的文化的生活などを取り扱う。
体力の意義と内容,運動と体力増進,環境・休養・栄養と体力増進などを取り扱う。
生活設計と生活改善,生活活動の能率化,生活構造の調和と統一,年齢別および性別などによる生活設計などを取り扱う。
生活を健康的に推進するために必要な生活構造,および生活と健康との関係について基礎的な理解を得させるためのものであって,次のようなねらいをもっている。
2 1の理解に基き,生活を健康的に推進するために必要な理解・能力・態度
(6)公衆衛生
公衆衛生の定義と重要性,公衆衛生の内容と体系,公衆衛生の制度と活動,公衆衛生と社会保障・社会福祉,公衆衛生と国際協力などを取り扱う。
衛生統計の意義,衛生統計の内容,衛生統計の作り方と見方などを取り扱う。
伝染病の種類,伝染病の発生原因,伝染病の予防などを取り扱う。
都市生活の保健問題,農村生活の保健問題などを取り扱う。
個人および集団の健康を推進するために公衆衛生について体系的な理解を得させ,地域社会の健康状態を科学的に判断し,これを改善する能力を身につけさせるためのものであって,次のようなねらいをもっている。
2 地域社会の健康状態を科学的に判断するために必要な理解と能力
3 健康の立場から地域社会の生活環境の改善の問題を処理するために必要な理解・能力・態度
(7)労働と健康
職場の環境の特殊性,労働環境の衛生基準,労働環境の改善などを取り扱う。
労働時間と健康,作業強度と健康,作業姿勢などを取り扱う。
労働災害の原因・対策,安全管理の方法などを取り扱う。
労働者の健康と家庭生活・職場生活などとの関係などを取り扱う。
労働ならびに職業について,じゅうぶんな保健上の理解と健康な労働生活を実践する能力を得させるためのものであって,次のようなねらいをもっている。
2 健康な労働生活を実践するために必要な理解・能力・態度
(8)国民生活と国民保健
国民の死亡,国民のり病,国民の栄養,国民の発育,国民の体力などを取り扱う。
社会全体の健康生活の向上をはかるために,国民保健の実態をはあくし,その問題点を発見し,その問題解決に協力する態度・能力を得させるためのものであって,次のようなねらいをもっている。
2 1の理解に基き,国民生活の問題点を発見し,これを健康の立場から改善するために必要な理解・能力・態度
(9)健康の本質
社会の保健問題を正しく批判し,絶えず保健活動を向上させるためには,既習の内容において養われた理解の上に立って,さらに深く健康の本質についての理解を得させようとするものであって,次のようなねらいをもっている。
2 1の理解に基いて個人ならびに社会の保健問題を正しく批判する能力
3 1の理解および2の能力に基いて,すべての保健活動を推進する能力と態度
3.留意事項
(1) 生徒の保健活動などの経験をもとにして,学習を発展させ,医学や衛生学の体系や順序にとらわれることのないように考慮する。
(2) 理科・家庭科および社会科をはじめ他の教科ならびにホーム・ルームその他における健康指導,学校保健行事などとの関連をじゅうぶんに考慮する。
(3) 特別教育活動との関連を密にして,自発的,積極的な学習が行われるようにする。
(4) 学校における健康管理との関係を考慮して,これを学習にとり入れるとともに,学習の効果があがるようにする。
(5) 家庭や地域社会の日常生活における保健問題の解決に資するようにする。
(6) 「保健」の学習によって得られた衛生統計,救急処置などについての技能が,学校保健の実際や日常生活において活用できるように指導する。
(7) 学習指導に際しては,性別による保健上の区別をじゅうぶんに注意して指導する。
(8) 学習指導に際しては,次のような実習・調査・見学などを加える必要がある。
(ア)衛生統計の実習
(イ)生理的機能測定の実習
(ウ)救急処置の実習
(エ)環境衛生の調査
(オ)保健関係施設の見学および調査
(カ)会社・工場などの事業場の見学および調査
(キ)食品製造・加工施設の見学および調査
昭和31年1月7日 印刷
昭和31年1月10日 発行
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