第6章 理科 地学

 

1.目  標

 「地学」は,中学校の教育の基礎の上に,地球を中心とする気圏・水圏・岩圏における事物・現象,ならびに天体およびそこに見られる現象を取り扱い,高等学校の目的・目標に沿って生徒に科学的教養を与えるための科目である。

 「地学」では,上にあげたような各種の自然界における事象を学習の対象としている。したがって,そこに見いだされる問題や,それらを解決するための考え方や方法は多様である。それら個々の自然の事象をありのままに観察し,それぞれの特性をはあくすることが必要であると同時に,それらの間に見られる共通性に注目して法則を見いだし,さらにこれを他の地学的な事象にあてはめることもたいせつである。また,地学的な事物・現象を歴史的にながめ,現在に至るまでの過程を長い時間的尺度で考えることや,それぞれの地域の地学的な特殊性を考え,その上に立って地学現象を見ることの必要な場合が多い。このように,各種の自然の事象の学習を通して,自然の原理・法則を理解し,ものごとを科学的に考察したり処理したりする能力と態度を養い,生活を向上させていく基礎をつくることをめざすべきである。このような考えから,「地学」では主として次のことを目標とする。

 

(1) 環境にある地学的な事物・現象に対する関心を深め,問題を見いだしてこれをみずから解決しようとする態度を養う。

(2) 生活や産業に関係の深い地学的な事物・現象についての基礎的な事実や原理を理解し,これを生活に応用する能力を養う。

(3) 科学的な考え方や処理の方法を会得し,生活の中の問題を科学的に解決する能力と態度を養う。

(4) 自然の美しさや偉大さを認識して科学的な自然観を育て,あわせて真理を探究する精神を養う。

(5) 地域の自然環境を科学的に考察し,その環境に適応して生活を合理化する積極的な態度を養う。

(6) 地学の進歩が人類の福祉に大きな役割を果していることを知り,進んで科学の進歩に寄与しようとする態度を養う。

 

 「地学」の特色の一つは,地学的な事物・現象をそのままのすがだで観察する点にある。天体に関する事項については,それの観測を通してその現象を理解し,また,気象現象は,その土地における気象の変化の観察や観測によって得た事実が理解の基礎とならなければならない。鉱物・岩石・地形などについても,観察を通して理解していくことが必要である。

 このような観側や観察を科学的に行うためには,まず地学的な自然環境に対する関心が基礎とならなければならない。これによって,そこに問題が見いだされ,さらにこの問題を解決しようとする積極的な学習意欲が起ってくる。

 地学的な事物・現象は,生活や産業と密接な関係をもっており,これら生活や産業に関することがらを理解する上に必要な基礎的な事実や原理を会得させ,さらに進んでこれを生活に応用する能力を養うことは,重要な目標の一つである。

 生活の中の問題を科学的に解決し,よりよい生活を営むためには,基礎的な知識・理解が必要であると同時に,科学的な考え方や処理の方法を身につけることも重要なことである。地学現象は天文・気象・地質・鉱物などの各分野にわたり,その考え方や処理の方法も多様である。これら各種の考え方や処理の方法を身につけさせるとともに,これを生活上の諸問題と関連させて,これを広く応用する態度や能力を養うべきである。なお,「地学」の学習では,各種の機械・器具を使用するが,これを問題解決の手段として利用するだけでなく,これによって機械・器具を取り扱う技術や能力を養うことも必要である。

 また,生活を豊かなものにするためには,地域の自然環境の特性を理解し,それに適応して生活を合理化することが考慮されなければならない。この意味において,地学的な事物・現象が地域によってどのように現れるかを理解させ,さらにこれを生活との関連において考察させることが重要である。

 これらの地学的事象の学習においては,個々の事象の理解を得ることばかりでなく,それらを通じた認識をもつことが,「地学」においては特に重要である。したがって,地学的な事物・現象に接したり,そこに見られる法則を知ることによって,自然の美しさ,調和性および偉大さを認識させ,さらにこの認識を基にして科学的な自然観や真理を追求しようとする態度を養わなければならない。

 自然科学は地学的な事物・現象と密接な関連を保って発達し,地学の発達は,現代の高度の文化を築き上げる上に大きな役割を果してきている。このような理解を得させると同時に,みずからも進んで科学の進歩に寄与しようとする態度を養うこともあわせて考えなければならない。

 以上に述べたように,「地学」の目標は非常に広範にわたっている。3単位の「地学」においても,5単位の「地学」においても,これらの目標が調和のとれた形で達成されなければならない。

 

2.内  容

 「地学」は,多くの自然科学の部門に関連をもち,これを背景としているので,これに含みうるものは非常に多い。しかし,上に掲げた目標を基にして,効果的な学習がなされるように,つとめて重要なものだけを取り上げて,内容を整理することに留意した。

 これらの内容は,表現の便宜上いくつかの分野をあげ,これを具体化する形式をとったが,これは指導の組織や順序を示したものではない。指導にあたっては,後に示す内容の順序・組織の方針に基き,教育的な順序や組織を計画し,また,「指導上の留意点」によって,適切に取り扱わなければならない。

 なお,内容のいくつかの事項については,注釈・説明を加え,これらを参考のために「備考」として内容の末尾に示した。

 

(1) 5単位の内容

天体

太陽系(1) 太陽・惑星・月の概観,惑星・月などの運動,太陽系の天体の距離と質量の求め方(2),日食と月食 天球 天球と日周運動,天体の見かけの運動,天体の座標と星座,恒星時と太陽時(3),時と暦 恒星 恒星の等級・距離・絶対等級・スペクトル型(4),巨星と倭(すい)星(5),連星と変光星(6) 宇宙 恒星の数・分布・運動,星団と星雲,銀河系,宇宙観の変遷(7) 地球の概観 地球の形態・性質・構造 地球の形と大きさの決め方(8),水陸の分布,地球上の位置の決め方,地球の三圏とその構成物質(9),地球の質量・密度・重力(10),地磁気,地球の内部 地球の運動 自転,地軸の運動(11) 気圏 大気 大気の組成,気温・気圧・湿度,対流圏と成層圏(12),電離圏(13) 気象 風,気圧配置と風との関係,大気の循環,大気中の水蒸気とその状態変化,雲・雨・雪などの成因,高気圧と低気圧(14),気団,前線,天気図と天気予報 水圏 海水 海の広さと深さ,海水の塩分・温度・密度,波,潮汐と潮流,海流 陸水 川(流量,流速など)(15),湖沼,地下水 岩圏 鉱物 鉱物の性質(16),結晶および非結晶,結晶の特性(17),おもな鉱物の性質と産状 岩石 岩石の構成(鉱物成分・化学成分など).火成岩・たい積岩・変成岩の産状・成因・性質・種類 岩圏の現象(18) 岩圏における物質の移動と状態変化 大地の変化 大気と水の作用 岩石の風化,土壌の成因と性質,風・流水・地下水・氷河・海水による侵食・運搬・たい積,地形の変化(19) 火山 火山噴出物,火山活動,火山の形と構造,火山の分布,温泉 地震 地震波の性質,震源,地震の分布,地震に伴う現象(20) 土地の変動(21) 水準点・三角点の動き,土地の隆起と沈降 大地の成立(22) 地質構造 岩石相互の構造関係,整合と不整合,しゅう曲と断層(23),地質図(24),地質調査の方法,地質構造の解釈,鉱床の種類と成因,鉱床の探査 地史 層序,化石,地質系統と地質時代,先カンブリア代・古生代・中生代・新生代の概要

 

〔備考〕 (1) 太陽系については,その構造の概観も扱う。

(2) 太陽系の天体の距離と質量の求め方では,太陽の距離,月の質量を決める問題にはふれない。

(3) 恒星時と太陽時では,地球上の位置の決め方との関連を考えて扱う。

(4) 恒星のスペクトル型は,簡単に扱う。

(5) 巨星と倭星は,簡単に扱う。

(6) 連星と変光星は,簡単に扱う。

(7) 宇宙観の変還については,自然科学の進歩と関連させ,主流を扱う程度にする。

(8) 地球の形と大きさの決め方のうち,地球の形については重力との関係も扱う。

(9) 地球の三圏とその構成物質は,簡単に扱う。

(10) 地球の質量・密度・重力は,簡単に扱う。

(11) 地軸の運動については,簡単に扱う。

(12) 対流圏と成層圏は,簡単に扱う。

(13) 電離圏は,簡単に扱う。

(14) 高気圧と低気圧では,台風などに関連した防災の問題も扱う。

(15) 川については,洪水とその災害防止の問題も扱う。

(16) 鉱物の性質のうち,化学的性質は定性的に扱う程度にとどめる。

(17) 結晶の特性のうち,結晶の形態の数量的な取扱は簡単にする。

(18) 岩圏の現象では,主として火成作用,変成作用,交代作用を扱う。

(19) 地形の変化では,これに関連して地形図の見方にもふれる。

(20) 地震に伴う現象では,その災害と防止の問題を中心にして扱う。

(21) 土地の変動では,造陸運動にもふれる。

(22) 大地の成立では,その中の内容と関連させて日木の地質の概要にもふれる。

(23) しゅう曲と断層では,造山運動にまで発展させた取扱をする。

(24) 地質図については,その読図に主眼をおく。

 

(2) 3単位の内容

天体

太陽系 太陽系の天体(1),感星・月の運動,日食と月食 天球(2) 天体の見かけの運動,時と暦 恒星 恒星の等級・色,恒星の種類 宇宙(3) 恒星の分布,星団波星雲,銀河系 地球の概観 地球の形態・性質・構造 地球の形と大きさ(4),水陸の分布,緯度と経度,地球の三圏とその構成物質(5),地球の物理的性質(6),地球の内部(7) 地球の運動 自転,地軸の運動(8) 気圏 大気 大気の性質と高さによる変化 気象 風,雲,降水,天気(9) 水圏 海水(10) 海水の広さと深さ,海水の性質,海水の運動 陸水 (11),湖,地下水 岩圈 鉱物 鉱物の性質(12),結晶の特性(13),おもな鉱物の特性 岩石(14) 岩石の構成,火成岩・たい積岩・変成岩の産状・成因・性質・種類 岩圏の現象(15) 岩圏における物質の移動と状態の変化 大地の変化 大気と水の作用 風・流水・地下水・海水などの作用 火山 火山噴火と噴出物,火山の形と分布,温泉 地震 地震波の性質,地震の分布,地震に伴う現象(16) 土地の変動(17) 水準点・三角点の動き,隆起と沈降 大地の成立(18) 地質構造(19) 岩石相互の構造関係,地質図(20),地質構造の解釈,鉱床 地史 層序,化石,地質系統,地質時代の概要

 

〔備考〕 (1) 太陽系の天体では,惑星の各論は簡単に扱う。

(2) 天球では,時と暦に関する基本的な事項を中心に扱う。

(3) 宇宙では,銀河系に重点をおき,他は簡単に扱う。なお,ここで宇宙観にもふれる。

(4) 地球の形と大きさでは,これを決める方法を中心に扱う。

(5) 地球の三圏とその構成物質は,簡単に扱う。

(6) 地球の物理的性質は,簡単に扱う。

(7) 地球の内部は,簡単に扱う。

(8) 地軸の運動は,簡単に扱う。

(9) 天気では,天気図を読みとることに重点をおいて扱う。

(10) 海水では,その運動に重点をおき,他は簡単に扱う。

(11) 川については,洪水や災害予防の問題を中心にして扱う。

(12) 鉱物の性質では,物理的な性質に重点をおいて扱う。

(13) 結晶の特性のうち,形態に関する数量的な扱いは簡単にふれる程度にとどめる。

(14) 岩石については,代表的なものに限定し,これを中心にして扱う。

(15) 岩圏の現象では,火成作用・変成作用・交代作用に簡単にふれる程度にする。

(16) 地震に伴う現象では,震災とその防止を中心にして扱う。

(17) 土地の変動では,造陸運動にも簡単にふれる。

(18) 大他の成立では,日本の地質にも簡単にふれる。

(19) 地質構造では,造山運動にもふれる。

(20) 地質図は,その見方について扱う程度にする。

 

3.留意事項

1.内容の順序・組織について

 上に示した内容は,前にも述べたように,教育的な順序や組織を示すものではない。「地学」において,その指導を効果的に行うためには,内容を教育的な観点から順序づけ,組織だてることが必要である。そのためには,特に次に述べるような方針に基いて順序や組織を考えなければならない。

(1) 生徒の身近かなものや興味のあるものから始め,これを基にして,しだいに関連した事項に発展させるようにする。

(2) 生徒の経験を基礎にし,これから帰納的に原理・法則あるいは結論を導き出すようにする。

(3) 学問的な体系にとらわれることなく,理解していくための段階や,結論を導き出す過程を重視し,このような学習を通して体系が得られるようにする。

(4) 季節との関連を考慮し,天文や気象の観測や野外の観察・調査などが,適切な時期に効果的に行いうるようにする。

(5) 地域における地学的な事物・現象を有効に利用しうるようにするとともに,地域性との関連を考慮して内容の重点のおき方などを計画する。

(6) 内容が全体としてまとまりをもち,内容相互の関連を保ちながら発展していくようにする。特に「地学」においては,内容や学習方法が多岐にわたることを考え,全体としての有機的なまとまりを失わないように配慮する。

(7) 学校の施設・設備との関連を考慮する。

(8) 履修学年や生徒の能力を考慮し,これに応じた効果的な学習ができるようにする。

(9) 生徒の個人差を考え,これに応じうるようにする。

(10) 理科の他の科目や他教科との内容の関連や履修状況を考慮し,それらとの調整・連絡を図る。

2.指導上の留意点  「地学」の指導にあたっては,常にその目標が効果的に達成されるように努めなければならない。このような観点から,指導上特に次のような点について留意することが必要である。

(1) 「地学」の指導においては,実験・観察・観測・野外調査などの学習活動を通して自然の事物・現象にふれ,このような直接経験を基にして理解を確実にし,問題解決の方法を会得することがきわめて重要である。したがって,できるだけ実験・観察・調査などを学習に取り入れるように努めなければならないが,それには次の方針によってその選択を行うことが必要である。

a.重要な知識・理解を得るために必要なものを選ぶ。

 地学的な事物・現象には,観察や調査を通してはじめて理解され,身についた知識となるものが多い。このようなものには,たとえば,岩石・鉱物の種類や性質,地質構造・地形などの観察,天体の状態や運行の観測,気象要素の観測などがあげられる。

b.できるだけ広い分野のものを取り上げ,特定のものに偏することのないようにする。

 「地学」の内容は広い分野にわたっており,その方法も多肢である。したがって,特定の分野や特定の方法のものだけに偏しないように留意して選択することが必要である。

c.「地学」に関する問題の解決に基本的に必要な考え方や方法を会得するのに役だつものを選ぶ。

 「地学」に関する問題を解決するための考え方や方法には,直接地学的な事象を取り扱うことによって会得されるものが多い。たとえば,地質構造を解釈するためには,個々の事実をありのままにみる態度や,これらを総合して結論を導く考え方や方法が必要である。

d.できるだけ各種の科学的な方法の経験を与えることができるように選ぶ。

 科学的な方法には,たとえば個々の観察や実験を通して結論を導く方法,あらかじめ結論を予想してこれを実証する方法,分析したり,総合したりすることによって結論を導く方法などがある。したがって,これら各種の方法を身につける上に,特に効果的な実験や観察などを選択することが望ましい。

e.各種の技能の習得に役だつものを選ぶ。

 天体の観測,気表観測,野外調査,岩石・鉱物・化石などの採集や整理などは,それぞれその方法に差異があり,また,使用する器械・器具も異なっている。したがって,このようないろいろの経験を通して,できるだけ各種の技能を養うようにすることが必要である。

f.学校の施設・設備を考慮し,それらが無理なく,有効に利用できるような実験・観察・調査を選ぶ。

g.地域の自然環境を基礎とし,これらが有効に利用できるようなものを選ぶ。

h.生徒の能力に応じたものを選ぶ。

(2) 生活に関係の深いものや興味の深いものから始め,しだいにこれを発展させるように学習を展開する。

(3) 生徒の能力や履修学年を考慮して,学習内容の取扱や発展のさせかたを適正にする。

(4) 他教科や理科の他科目との関連をはかり,学習の効果があがるように留意する。

(5) 変化に富んだ学習活動を適宜取り入れて,学習に興味を持たせ,学習活動を活発にする。

(6) 常に地域の自然環境との関連を考え,これを学習に有効に取り入れるようにする。

(7) 地学に関する時事的な問題を適宜に取り入れ,学習に興味を持たせ,学習意欲を盛んにする。

(8) 学習環境を整備し,生徒の自発的,積極的な学習が行われるようにする。
 
 

 
高等学校 学 習 指 導 要 領 理科編
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