第6章 数学科 応用数学
1.目 標
応用数学は,「数学Ⅰ」あるいは「数学Ⅱ」に続いて履修する科目であって,数学をよく用いる専門分野の学習を容易にするため,特にそこに必要な数学の部門について,その基本的なことを取り出して学習することがねらいである。
その目標は,取り上げる内容によって相違はあるが,次のような点は,いずれの場合にも共通である。
(1) 応用方面で必要な数学的概念,およびこの概念とそれが応用される事象との関連を理解し,これを用いての数学的な処理や計算の能力を養う。
(2) 記号の使い分けに対する理解を深め,応用方面で用いられている数学的な記号やその用法に慣れる。
(3) 取り上げに内容に密接な関連をもった数学的な考え方についての能力と態度とを高める。
実際にこの科目を指導する場合には,この科目を設ける必要性から,取り上げる内容と単位数とを検討し,それに応じて,上記の目標を含む具体的な目標を作成しなければならない。この場合,上記の目標も取り上げる内容に応じて,それぞれもっと具体的な形になるのが普通であろう。
2.内 容
(2) 各学校あるいは各課程においては,次のような観点から,以下に示された内容の中から適当なものを精選し,これについてはじゅうぶんな理解と能力を与えるように考慮しなければならない。
a 専門科目に用いられる数学的な内容の中でも,基本的で応用が広く,しばしば用いられるものであること。
b その数学的な意味や応用のしかたなどが,生徒が努力すれば理解しうる程度のものであること。
注 専門科目で必要であるからといって,何もかにも取り入れて盛りたくさんな計画を立てることは,適当でない。基本的で,発展性のある内容を精選することが必要である。専門科目の中で用いる度数の少ないもの,専門科目の中で説明したほうが理解しやすいものなどは専門科目のほうにゆずったほうがよい。
(3) 「数学Ⅰ」あるいは「数学Ⅱ」の指導や,専門科目での指導とじゅうぶんな連絡をとって,重複や飛躍を避け,生徒の学習が能率的,効果的になるよう配慮する。
注 専門科目で,いつごろからどんな内容が必要になるかを検討しておくことは有意義なことである。必ずしもすべての内容について数学科で指導してから専門科目でそれを用いるというようにはできないかもしれないが,できうるかぎりそうなるように,数学科ならびに専門科目の指導計画を調整することに努めるべきである。
(4) 取り上げる内容の扱いについても,課程によってかなり変化があってよい。次に示す内容では多くの場合に,その内容を取り上げるかぎり共通に扱われると考えられる内容を本文で,課程によって変化がある面を注として説明したが,必要があれば,ほかの扱いをすることもできる。
注 しかし,直接必要なことだけを指導したのでは,かえって真の効果は期持できない。ある内容を取り上げたなら,その内容について数学的に基本的な事項については,じゅうぶん理解させ,その上で応用にはいることが望ましい。
(5) 内容の扱い方については,「数学Ⅱ」「数学Ⅲ」での扱いを参考とし,取り上げた定理や法則の意味やその応用のしかたなどに指導の重点をおき,生徒が理解できることを主体とすべきで,必ずしも厳密な論理によって内容を展開する必要はない。
注 時には,結果をいきなり与えて,その意味,必要性,使い方などを説明し,練習するだけで,証明は省くようなことも考えられる。
内容とその説明
a 統 計
「数学Ⅰ」における統計および「数学Ⅲ」における確率・統計とほぼ同じ程度の内容に,必要あれば簡単な順列・組合せを含ませて扱う。
この内容の扱いは,専門科目での必要よりも,卒業後における必要を多く考えて程度を決める必要がある。課程によっては,相関関係を詳しく知るための方法としての相関線にふれることも必要であろう。また,調査のしかたについては,理論的な説明は無理であるが,数表や公式を利用して実際に処理したり,結果を用いたりする程度まで進めることも,課程によっては必要である。この場合,世論調査,品質管理などの実際についの説明も,必要であれば加えることが望ましい。
b 数列・級数
「数学Ⅲ」における数列・級数の程度を扱う。しかし,実用上必要のない数列や級数についての一般論にはふれなくてもよい。
定積分等への準備のために課す場合と,複利計算・年金計算等の基礎として課す場合とで,いくぶん扱いは異なるであろう。後者の場合には,各種の実用的な数表(たとえば現価表)についての指導も必要である。前者の場合には,積分の指導計画の中に含めてもよい。
c 複素数
「数学Ⅰ」の複素数の基礎の上に,次のような内容を指導する。
(2) 複素数の極表示(z=γ(cosθ+isinθ)となること)
(3) 複素平面上における四則の幾何的解釈
(4) ド=モアブルの定理(指数が正の整数の場合)
さらに必要のある課程では,exの展開などを利用してオイラーの公式を説明したり,複素平面上の図的解法を中心に指導したりすることも考えられる。
d 三角函数
「数学Ⅰ」「数学Ⅱ」における三角函数の内容のうち,必要なものを取り上げる。
「数学Ⅰ」における三角函数を履修している者といない者とで扱いが異なるであろうし,三角函数がどんな意味で必要であるかによって重点が異なるであろう。周期現象の表現として必要な課程では,測量的な扱いは簡単にしたり省いたりすることも考えられるし,測量的な応用が必要な方面では,一般角の三角函数の性質は簡単にして,測量公式とその検算法に重点をおくことも考えられる。
e 微分
「数学Ⅲ」における微分とほぼ同じ内容を扱うが,その場合に,微分の実際的な意味を知ったり,計算に習熟したりすることを中心とする。
なお必要な課程では,次のような事項を加える。
(1) 媒介変数による函数についての微分公式,ならびに逆函数の導函数。
(2) 自然対数および指数函数・対数函数の微分。(limn→∞(1+1/n)n をeと表わすことを知り,これをもとにして,logx の微分を知ること。
(3) 簡単な函数についてf(x)=f(0)+f
f 積分
「数学Ⅲ」における積分とほぼ同じ内容を扱う。
なお必要あれば,次のような事項を加える。
(1) 簡単な置数積分
(2) ez,1/xの積分
(3) 導函数と変数との間の関係を表わしたものとして微分方程式の意味を扱い,図によってその解の意味を明らかにする。(微分方程式の意味と図的解法)
g 計算法
実際的な数値計算に必要な数学的な事項を指導するのがねらいであるが,取りあげる内容は課程の必要性によってかなり変化がある。
多くの場合,図による計算(対数方眼紙の利用,計算図表を含む),補間法,誤差の扱いなどのうちから適当なものを選ぶことになろう。また,場合によっては,この内容を独立した項目として扱わず他の内容の中に含めることがあってもよい。
課程によって必要があれば,さらに実験式や近似公式を扱うことも考えられる。
h 図形とその方程式
「数学Ⅱ」における図形とその方程式とほぼ同じ内容を扱う。
課程によって必要があれば,さらに簡単に,極座標の概念を導入し,γ=kθの程度の曲線を扱うことも考えられる。また,「数学Ⅰ」の幾何的内容の扱い方によっては,この項目の中での解析的な扱いのほうを少なくして,画法幾何学的な扱いを中心にして指導することがあってもよい。
高等学校 学習指導要領 数学科編
MEJ2391
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