第4章 芸術科美術

 

Ⅰ 芸術科美術の目標

 

 「美術」は,中学校の学習経験の上に立って,絵画・彫刻・美術慨論などの学習を通して,次の諸項目の達成に努める。

(1)絵画・彫刻などの美的表現の体験を通して,創造力を盛んにする。

(2)美術的な感覚と感情を洗練する。

(3)美的な鑑賞力を高める。

(4)美的な表現や鑑賞を通して,個性の伸長を図る。

(5)美的な表現や鑑賞を通して,生活を明るく豊かにする能力を高める。

(6)わが国および諸外国の美術文化の伝統や動向を理解し,美術文化の発展に寄与する態度を養う。

(7)美術文化によって,国際間の理解を深める態度を養う。

 

Ⅱ 美術の内容

 

 「美術」は,その内容を絵画・彫刻・美術概論の三つとする。

 第1年次においては,絵画・彫刻・美術概論の三つの領域を主体として学習する。引き続いて履修する場合の第2年次以降においては,生徒の必要・興味・進路などを考慮して,その内容を分化し,程度を高める。

 これら絵画・彫刻・美術慨論のそれぞれについては,孤立せず相互に関連を持つように扱う。

 各年次の内容の扱いについては,以下掲げる「美術」の内容の指導目標および指導上の注意と,生徒の必要・興味・進路などを考慮して,適切に扱うことが必要である。

 

1「美術」の内容のおのおのの指導目標および指導上の注意

 

 絵画の指導目標

(1)絵画は,作者の思考と感情との統一された表現であって,感動に基いて芸術的に創造されるものであることを体得する。

(2)造形上の基礎的な要素について体得する。

(3)作品を鑑賞することによって,作者の表現を理解し,またそれを批判・共感などする。

(4)表現を通して体得した感覚や技術が,日常生活に生かされるようにいろいろな造形的経験をする。

 絵画の指導上の注意

(1)表現は,心身の発達段階や心理的傾向および素質・環境などによってそれぞれの相違が現れることを考慮しなければならない。

(2)表現では,芸術的表現と実用的表現のいずれも経験させることが望ましい。

(3)表現の内容および題材は,つとめて広い領域に求めるようにさせる。

(4)表現の形式や技法・材料は,常に新たなくふうや創造をするように努めさせる。

(5)鑑賞の指導では,すなおに作品に接して,その作品の美しさや,作者の精神にふれさせたり,また造形的な検討を行わせる。

(6)共同の制作その他の共同活動も適当に取り入れる。

(7)教室,備品および資材の管理に留意して,学習効果をあるようにする。

(8)自主的な学習ができるように施設・設備・備品を充実する。

 

彫刻の指導目標

(1)彫刻は,作者の思考と感情との統一された表現であって,感動に基づいて芸術的に創造されるものであることを体得する。

(2)彫刻では,立体感を深め構成力を伸ばす。

(3)制作を通して,量感・質感・形・動勢などに対する感覚を養い、表現力を高める。
(4)各種の彫刻について理解を深め,作品の鑑賞・批判をする。

(5)表現を通して体得した感覚や技術が,日常生活に生かされるようにいろいろな造形的な経験をする。

彫刻の指導上の注意

(1)彫刻の表現では,創造的表現を尊ぶように留意する。

(2)「彫刻の内容」に示した彫刻の表現に必要な事項については,できるだけ制作を通して扱うようにする。

(3)塑造は彫刻に比べて一般に表現が自由であるから,制作にあたっては,塑造に重点をおくほうがよい。

(4)広く材料を活用して,興味ある学習ができるようにする。

(5)制作・鑑賞の指導にあたっては,わが国の伝統的技法についても関心を深める。

(6)共同の制作その他の共同の活動も適当に取り入れる。

(7)教室,備品および資材の管理に留意して,学習効果をあげるようにする。

(8)自主的な学習ができるように、施設・設備・備品を充実する

 

美術概論の指導目標

(1)美術の内容・形式についての理解を深める。

(2)美術についての鑑賞力を伸ばす。

(3)美術の人生および社会に対する意義と価値の理解を深める。

(4)美術作品を愛護し尊重する態度を養う。

(5)鑑賞を通して,わが国および諸外国の美術の特質および美術文化の理解を深め,また,それによって,国際間の理解を深める態度を養う。

美術概論の指導上の注意

(1)美術概論の指導にあたっては,その内容や生徒の興味その他の条件を考え,講義のみに終ることなく,生徒の自主的活動を重視して指導する。

(2)指導にあたっては,できるだけ具体的な作品に即してその理解を深める。

(3)美術概論の内容で示した「美術と生活」はこれをいろいろな観点から取り上げ理解を深める。

(4)美術概論の内容で示した「美術変遷の概要」は,現代美術の理解という観点からこれを取り上げ,できるだけ鑑賞を通して指導する。

(5)郷の美術文化も学習に取り入れるようにする。

 

2「美術」の第1年次の内容

 

第1年次における絵画・彫刻・美術概論の内容の扱いについては,絵画・美術概論を主としたり,また彫刻・美術概論を主としてもよい。ただし前者の場合は,美術概論で彫刻の鑑賞などにふれるようにし,後者の場合は,彫刻に加えて絵画の表現学習を加味する。 以下ホす絵画・彫刻・美術概論の内容は,生徒の必要・興味などに応じ,適切な指導計画を立てる場合のために,その領域を示した。  第1年次の絵画の内容
項目
要              点
 

 

 

 

 

素描

彩画

1.写生画

 

2.構造画

   具象的

   非具象的

 

3.説明図

   図表

   解説図

   その他

 

 

 

その他

方向

大きさ

形体

明暗

濃淡

陰影

地はだ

調子

色価

その他

 

 

 

調和

均衡

律動

動勢

安定

その他

対象のはあく

 

 

 

 

表現の方法

 

 

 

 

効果の吟味

鑑賞
生徒作品・名作その他

注 (1) 表現の方法では,版画その他の新技法を取り入れる。

  (2) 表現の材料は,乾性材料・水性材料・油性材料その他。

 第1年次の彫刻の内容
 
項 目
要            点
 

 

 

写実的

彫 刻

 

表現材料

 粘土・木・石・

 セメント・金属

 ・紙その他

表現対象

 植物・動物・

 人物

表現の形式

 

 

空間

その他

 

調和

均衡

律動

動勢

安定

その他

対象の把握

 

 

表現の方法

 

 

効果の吟味

 

 

抽象的

彫 刻

表現材料

 粘土・木・石・

 セメント・金属・

 紙その他

表現対象

 非具象的なも

 の,その他

表現の形式

 

 

空間

その他

 

調和

均衡

律動

動勢

安定

その他

表現意図の確立

 

 

表現の方法

 

 

効果の吟味

鑑 賞
生徒作品・名作その他

  (1) 写実的彫刻の表現の形式については,浮彫・丸彫なども指導し,また石こうどりの方法も指導する。

   (2) 抽象的彫刻の表現の形式については,浮彫・丸彫などによる抽象構成を指導し,またこれを石こうどりする方法も指導する。

 第1年次の美術概論の内容
項  目
要         点
美術について

 

 

 

美術と生活

 

 

美術変遷の概要

芸術の分類

芸術の意味・使命

芸術鑑賞の態度

 

個人生活と美術

美術品の保護活用

 

現代美術の動向

日本美術

西洋美術

  (1) 第1年次の美術慨論は,美術についての一般概念を得きせるようにする。

 
(2)「美術変遷の概要」の扱いについては,絵画・彫刻を主とする。

 

3「美術」の第2年次の内容

 

 第2年次の「美術」の内容は,第1年次の「美術」の内容を履修した生徒を対象にするものである。

 したがって,第2年次の「美術」の内容は,第1年次の「美術」の基礎的な内容の履修によって,生徒の興味,能力などの方向も明らかとなるので,絵画・彫刻・美術概論のいずれに重点をおいて扱ってもよく,また第1年次と同様に扱ってもよい。

 絵画および彫刻の指導の効果的な方法は,その指導の対象である生徒の実態と,その他いろいろな物的条件を考慮して,直接生徒に接する指導者が現場に即した指導計画によって指導することである。この観点からいって,第1年次に引き続いた絵画および彫刻の内容を系統的に示すことは,実情にそわぬことになり,また絵画および彫刻そのものの性格より,困難である。

 したがって,第1年次の絵画および彫刻は,比較的広い範囲にわたって基礎的な内容を示したので,これを基礎にして,これらの内容を分化し,程度を高めたり,またそれぞれの内容を総合して扱う。

 第2年次の絵画の内容
項 目
要        点
 

素 描

彩 画

鑑 賞

第1年次の程度を高めたもの

内容の程度を高めたもの

内容の範囲を広めたもの

取扱方を変えて重点的にしたもの

第1年次の総合的な扱いによるもの

考え方を変えて分析し,総合したもの

「(第1年次の絵画の内容)30ページ参照」

 

第2年次の彫刻の内容
項 目
要          点
写実的彫刻

抽象的彫刻

鑑   賞

第1年次の程度を高めたもの

内容の程度を高めたもの

内容の範囲を広めたもの

取扱方を変えて重点的にしたもの

第1年次の総合的な扱いによるもの

考え方を変えて分析し.総合したもの

「(第1年次の彫刻の内容)30ページ参照」

 

第2年次の美術概論の内容
項  目
要            点
美術について

 

 

 

美術と社会

 

美術変遷の概要

美術の形式 

  壁画・軸物・座像・立像等

美術の様式 

  個人・集団・民族・時代の様式等

社会生活と美術 

  国際親善と美術の交流

美術の変遷(日本を中心にした東洋美術) 

  (1)飛鳥時代の美術   六朝の美術 

  (2)奈良時代の美術   初唐の美術 

  (3)平安時代の美術   盛唐の美術 

  (4)鎌倉時代の美術   北宋の美術 

  (5)室町時代の美術   元・明の美術 

  (6)桃山時代の美術 

  (7)江戸時代の美術   清の美術 

  (8)明治大正時代の   朝鮮・インド

    美術        その他の美術 

  (9)現代の美術

(1) 表中の「美術変遷の概要」の要点の示し方は美術史で一般に多く扱われる時代別によったものであるが,このほか,流派別・作家別・作品別・その他いういうな分け方も考えられるであろう。

(2)表現の学習と関連して考えた場合,また別な扱い方かくふうされるであろう。たとえば,絵画においては,人物・静物・風景を主にした場合,その他いろいろな角度からこれを取り扱うことができ,彫刻においても,いろいろな角度からこれを取り扱うことができよう。

(3)「美術変遷の慨要」の扱いについては,絵画・彫刻を主とする。

(4)第2年次の「美術変遷の概要」は,日本を中心にした東洋美術を扱うように示してあるが,つごうによって,第3年次に示した西洋美術を扱って,その内容を逆にしてもよい。

 

4「美術」の第3年次の内容

 

 第3年次の「美術」の内容は,第1・2年次に引き続いて履修する生徒を対象にするものである。

 第3年次の履修の生徒は,多くは最高学年であるため卒業後の進む方向がはっきりしてくるので,それらの生徒の希望や進路に応ずるように「美術」の内容を考える必要もある。

 第3年次の絵画の内容
項 目
要          点
素 描

彩 画

鑑 賞

第1・2年次の内容をさらに程度を高めたもの

 内容の程度を高めたもの

 内容の範囲を広めたもの

 取扱方を変えて重点的にしたもの

第1・2年次の総合的な扱いによるもの

 考え方を変えて分析し,総合したもの

「(第1・2年次の絵画の内容)30 32ページ参照」

第3年次の彫刻の内容
項  目
要          点
写実的彫刻

抽象的彫刻

鑑   賞

第1・2年次の内容をさらに程度を高めたもの

 内容の程度を高めたもの

 内容の範囲を広めたもの

 取扱方を変えて重点的にしたもの

第1・2年次の総合的な扱いによるもの

 考え方を変えて分祈し,総合したもの

「(第1・2年次の彫刻の内容)30・33ページ参照」

第3年次の美術概論の内容
項  目
要           点
美術について

 

美術と生活

 

 

 

 

 

 

美術変遷の概要

美術の価値

現代の美術思潮

美術と社会

美術と宗教

美術と政治

美術と生産

美術と他の芸術

民族と美術

時代と美術

美術の変遷(西洋美術)

(1) 原始時代の美術

     エジプト

(2) 古代の美術

     ギリシア

     ローマ

(3) 中世の美術

     初期キリスト教

     ビザンチン

     サラセン

     ロマネスクおよびゴシック

(4) ルネサンス時代の美術

     イタリア

     フランドル地方

     ドイツ

(5) 近代の美術

     バロック

     ロココ

(6) 最近代の美術

     印象派以前

     印象主義

     現代

 

(1) 表中の「美術変遷の概要」の要点の示し方は,美術史で一般に多く扱われる時代別によったものであるが,このほか,流派別・作家別・作品別,その他いろいろな分け方も考えられるであろう。

(2)「美術変遷の概要」の扱いについては,絵画・彫刻を主とする。

(3)「美術変遷の概要」は,西洋美術を扱うように示してあるが,つごうによって,第2年次に示した「日本を中心にした東洋美術」を扱って,その内容を逆にしてもよい。

 

Ⅲ 留意事項

 

1 指導計画の立案について

 「美術」の内容は,絵画・彫刻・美術概論の三つの領域で示したのであるが,それらは相互に密接な関係におかれているので,指導計画の立案およびその指導にあたっては,そのことを考慮に入れて扱うことがたいせつである。

 生徒が「美術」を履修するにあたっては,第1年次の内容を履修して終るものもあり,また2個学年に,第1・2年次の内容を履修して終るものもあり,さらに3個学年に,第1・2・3年次の内容を履修するものもある。このようにして「美術」の内容に多少の相違が生ずるが,第1年次の内容の取扱においては,基礎的な美術の教養が得られるようにくふうし,第2・3年次の内容の扱いにおいては,第1年次の内容を基礎として,それを分化しあるいは総合して程度を高める方針によって,さらに美術的教養が高められるようにすべきである。

 次に示す事項は,「美術」の指導上,要点になろう。

(1) 内容の扱いにおいては,科目の性格上,同一の内容でも,これを質的に高めていくべき性格のものもあるので,この点を忘れてはならない。

(2) 生活を豊かにするために,美術のよさを生活に生かすという観点から内容の取扱に留意しなけれならない。

(3) 「美術」の指導にあたっては,学校教育の使命の上から時代の動きとは別に必要な基礎的な内容があると同時に,絶えず時代の進運に眼をそそぎ,美術界の動きにもじゅうぶん留意して,それが指導の内容に反映するようにすることも必要である。

 

2 他教科・科目との関連  「美術」の指導計画の立案やその指導にあたっては,芸術科工芸・芸術科音楽・芸術科書道・社会科・国語科・外国語科・家庭科,職業に関する各科目との関連に注意する。