「音楽」は，中学校の学習経験の上に立って，高等学校芸術科の目標を達成するために，音楽の諸経験を通して次のようなことを目ざす。

１「音楽」の内容組織の基本的な考え方

　「音楽」の内容を構成するにあたって考えられる分野には，次の三つのものがある。

　すなわち，生徒の知的な面から行うもの，感性に訴えて行うもの，表現技能を通して行うものである。

　これら三つの分野にわたって行われる「音楽」の学習領域には，理論・鑑賞・表現があり、さらにそれぞれの内容としては，次のものがある。

　「音楽」の内容は，「音楽」の目標に照合しながら，生徒の個性・興味・必要および発達段階などに即応して，第１年次の２単位においては基礎的，教養的な面に主眼をおき，第２年次以後においては第１年次の内容をもととして分化し，その程度を高めていく。

　すなわち，次のような諸点に主眼をおく。

１　第１年次の指導目標，内容ならびに指導上の注意

　第１年次は，中学校と直接つながる段階であり，また，高等学校芸術科「音楽」の学習の基礎ともなる段階である。

　したがって，この両面からの考察をも勘案しながら，「音楽」の目標を達成するために第１年次においては次のようなことを目ざす。

(１)第１年次の指導目標 ａ　中学校で得た音楽表現の技能を伸ばし，より進んだ創造的表現の体験を得る。

ｂ　中学校で得た音楽の理論的諸知識を整理・補足し，より高い音楽理解の基礎を養う。
ｃ　表現や鑑賞について，個性的な解釈に基いた自発的学習態度を養う。

ｄ　音楽の種類および形態のうちおもなものを知り，その価値を理解感得する。

ｅ　鑑賞によって作者や演奏者の精神にふれ，美的感動の経験を持つ。

ｆ　音楽の変遷を文化史的背景に基いて慨観し，音楽文化に対する正しい理解を深める。
ｇ　音楽の美的価値を直観的，総合的にはあくする。
 

(２)第１年次の内容

　この段階における生徒の音楽に対する教養的立場と，将来の音楽生活への展開の基礎となる立場から，学習内容の組織にあたっては，理論・鑑賞・表現の各分野にわだって片寄ることなく行うことが必要である。

　次に示す内容は，第１年次において重点をおくべきものであって，これらの内容を中心として，生徒の興味や関心などに応して適切な指導計画を立てる必要がある。

　Ａ　理　論

ａ　音楽通論

鑑賞ならびに表現の裏づけとなる音楽構成要素

　音楽の鑑賞ならびに表現に必要な基礎的事項を，楽曲を通して整理・補足する。すなわち，

○楽典的事項の補足ならびに楽曲の中におけるリズム・旋律・和声など，各要素の機能およびそれらの相互関係

○　長調・短調ならびに種々の旋法の性格や機能

○　初歩の楽式

○　音楽の種類および形態のおもなもの

ｂ　音楽史

古代から現代に至る音楽の変遷の，文化史的背景に基いた概観

　音楽の変遷を，鑑賞と関連を保ちながら文化史的背景に基いて概観し，音楽に対する正しい理解を深める。たとえば，

西洋音楽

○　ギリシア文化，特に教育思想と音楽との関係

○　中世宗教音楽や世俗音楽とキリスト教との関係

○　アルス　ノヴァの音楽とルネサンス・宗教改革との関係

○　バロツク・古典音楽と啓蒙思想の出現および科学技術の発展との関係

○　ロマン音楽と産業革命・資本主義杜会の発展との関係

○　近代および現代音楽と第一次世界大戦前後の社会情勢との関係この取扱については，古典・ロマン・近代・現代など，各楽派の代表的作品にもふれるのであるが，作曲家中心の学習に陥らないようにする。

日本音楽 ○　王朝文化とその音楽

○　武士階級の台頭とその音楽

○　江戸時代の庶民生活とその音楽

○　洋楽の流入と日本の音楽

　Ｂ　鑑　賞 鑑賞法の基礎

　音楽通論ならびに音楽史との関連を保ちながら，次のような系列によつて音楽を鑑賞する方法の基礎を扱う。

すなわち，

○　音楽史的系列による聴取

○　音楽の諸要素が持つ機能や特徴，効果などの聴取

○　楽器論的系列による楽器の音色や演奏法などの聴取

○　楽曲の種類および演奏形態による聴取

　Ｃ　表　現 ａ　声　楽

合唱法の基礎

　同声または混声の平易な合唱曲を通して，合唱する喜びと楽しさを経験しつつ，合唱法の基礎を確立していく。

すなわち，

○全体の中に融合する発声と声色の統一

○正確なアタック・フレージング・ブレスなどの表出

○ハーモニー美の構成

○指揮への順応

○レパートリーの増加

ｂ　器　楽

鍵盤楽器の初歩的な操作

　学級を主体とした器楽の取扱においては，鍵盤楽器の初歩的な操作を中心とする。その程度は次のようである。

○　音楽通論を理解するための裏づけ

○　創作学習の実習

○　声楽学習の手がかり

　合奏は，つとめて全学級演奏可能な楽器によって編成して行う。

　生徒の個人的要求に対しては，弦・管・打楽器などの修得のための考慮も必要である。

　ｃ　創　作

　リ一ド形式による旋律作法

　音楽通論との関連のもとに，リード形式に基いて旋律作法を行い次のような諸点について学習する。

○　動機・楽句・楽節・楽段の構成

○　楽句・楽節・楽段間の均衡

○　楽曲全体における変化と統一

○　歌詞への旋律づけ

○　旋律作法の手がかりとして，リード形式についての分析学習も行う。

(3)第１年次の指導上の注意

　上掲の指導内容によって，各学校で第１年次の指導計画を立てたり，指導を進めたりするにあたっては，次のような諸点に注意することが必要である。

ａ　入学時においては，生徒の音楽経験や能力に，それぞれ相違のあることを考え，生徒の実態に基いた指導計画を立てること。

ｂ　この段階においては，音楽的一般教養という見地から，表現技術あるいは知的理解のみに片寄らないこと。

ｃ　学習活動の各領域にわたっての関連性と学習量の適正を考慮し、音楽的に豊かな経験を得るようにすること。

ｄ　過去の学習経験を組織的に整理し，常に新しい喜びをもって学習を展開する体系をとること。

ｅ　芸術的音楽を常に身近なものとして感じさせる配慮がなされること。

ｆ　現代のさまざまな音楽についても，生徒が持つ関心の程度に応じて適正な指導がなされるように配慮すること。

ｇ　音楽学習に関する特別な個人的興味や関心に対しても，じゅうぶんな機会と指導が与えられるよう，用意がなされること。

　

　第２年次においては，生徒の興味や関心の傾向もしだいに明らかになり、学習に対しても積極的，かつ意欲的になってくる。

　したがって，より進んだ音楽の理解のための学習が可能になってくる。すなわち，第２年次においては，「音楽」の目標達成のために，次のような事がらを目ざす。

　第３年次の「音楽」は，第１年次および第２年次において習得したものを基礎として，高等学校生徒としての音楽的教養を完成する段階である。したがって，その指導目標ならびに内容，また指導上の注意については，「音楽」の目標達成のために，以下のようなことを掲げる。

　「音楽」の各年次にわたる内容は，前節で理論・鑑賞・表現の各分野にわたって示したのであるが，これらは学習の場にあっては単独に成立するものでなく，常に相互に関連し合って行われることに注意しなければならない。

　たとえば，理論の学習にあって，実際に楽曲を聴取し，また表現を通すことによって，理論に対する理解は具体的になるし，また，声楽の学習にあっても，鑑賞による洗練された感覚と理論的諸知識によって，よりいっそう豊かな表現が可能となる。

　したがって，指導計画を立てる場合はもちろんのこと，指導を進めるにあたっても，常に上述のことに留意する必要がある。

　次に，全年次にわたる必要な留意事項を示そう。