第1章 小学校家庭科の意義

 

 小学校教育の目標と家庭科

 小学校は「心身の発達に応じて初等普通教育を施す」(学校教育法第17条)ことを目的としている。この目的を実現するために,八つの目標が学校教育法第18条に掲げられている。家庭科はこれらの八つの目標のいずれにも関係を持っているが,中でも次に掲げる目標とは,特に密接な関係を持っている。

 もとより上の三つの目標は,ひとり家庭科だけで達成されるものではないが,これらの目標の達成に,家庭科の指導がもつ役割はきわめて大きいのである。

 小学校における家庭科は,家庭における親子・兄弟姉妹などの家族相互の正しいあり方を理解させ,進んで敬愛・信頼・感謝・協同というような精神や態度を養い,家族の一員として家庭生活を自律的に営ませようとするものである。また,この教科は家庭において日常経験する衣食住の生活について基礎的な理解を持たせ,技能を習得させ,健康で幸福な家庭生活を営ませようとするものである。

 このように,小学校の家庭科は,小学校の教育における諸目標を達成するために,きわめて重要な役割を果すものである。それゆえ小学校の家庭料においては,女児だけに,単に裁縫や調理の技能を機械的に授けようとするものではなく,男女の児童が,ともに家庭生活の重要な意味を理解し,家族の一員としてどのように行動したらよいかについて指導を行うことがたいせつである。家族の一員としての行動には,家庭生活に適応する面と,児重なりにこれを改善する面とかある。このような適応や改善のためには,家庭生活に必要ないろいろな知識・技能・態度を実践をとおして習得させるような指導を行わなければならない。家庭生活に必要な技能は,常に,家庭生活についての理解を背景とし,よりよき家庭生活を建設するための能力として習得きれるようにしなければならない。

 

 小学校の家庭科が第5,6学年に設けられている理由

 児童にとって家庭での生活は,小学校に入学してからも,大きな生活領域を占めている。それゆえ小学校においては,児童の家庭生活経験に対して,当然指導するための用意がなければならない。この指導に対して,家庭科以外の教科でも直接または間接にある程度の指導の機会が用意されている。また家庭生活についての日常的な指導は,必ずしも教科による指導だけに期待することはできない。たとえば,身なりを整えるとか,食前や用便のあとで手を洗うというような,家庭生活に必要な指導は,学校生活のあらゆる機会において習慣づけるほうが有効である。

 しかし,家庭生活についてこのような指導だけでは,小学校における教育の目標を達成するにはふじゅうぶんである。それゆえ,家庭における人間関係,児童の自主的な生活管理,日常主活における衣・食・住などについて,児童の発達に応じた系統的,総合的な指導の機会が必要になってくる。

 ここにこのような指導をいつから始めたらよいかが問題になってくる。この時期の決定には,三つの点から考える必要がある。第1は,みずから経験している家庭生活の諸事象を論理的に追究したり,その因果関係を分析したり,あるいは適切な判断をくだすことができるような知的発達段階に到達していなければならない。

 第2は,系統的に理解し,練習しなければならない家庭生活の技能の習得には,特に手指の巧ち性の発達にまたなければならないようなものが多い。家庭生活についてのこのような理解や練習に耐えるのは,児童後期に達した満10才ころが適当だといわれている。さらに,第3は,家庭生活についての系統的,全体的な理解や技能には,ある程度他の教科で学習した基礎的な理解や技能の総合的応用的な能力を必要とする。家庭科はこのような指導内容をもっていると考えられる。

 以上のことから家庭科の学習は,小学校の第5学年から課せられることになった。

 

 小学校における家庭科と他の教科との関係

 この章の初めに,家庭科は学校教育法に示された小学校教育のいずれの目標にも関係があることを述べた。したがって家庭科は,同じくこれらの目標を達成するために設けられた他の教科と相互に深い関係があることは明らかである。つまり家庭科は家庭生活という場を中心にして,これに必要な知識・技能を習得させ,よき家族の一員としての実践的な態度を身につけきせることをおもなねらいとするものである。それゆえ,他の教科との関係は,ある場合は,他の教科で学習したことを基礎にして,さらに家庭科においてそれを応用的に扱うという関係となり,ある場合には,他の教科で得た理解を,さらに家庭科で深めてゆくという関係となり,また,ある場合には,家庭科で養われた理解や能力が他の教科の学習に役だつというような関係となることもある。

 しかし,家庭科と他の教科との関係が,上の場合のいずれであるにしても,家庭科が他の教科よりも,価値が高いとか低いとかをいうのではない。それぞれの教科が相より相助けることによって,はじめておのおのの教科のねらいをじゅうぶん達成することになるのである。したがって,家庭科の指導は,他の教科の指導の成果によって達成することにもなるし,また,家庭科の指導がじゅうぶん成果をあることによって,他の教科の指導が目的を達することにもなるのである。このようにして,はじめて小学校教育の目標が達成されるのである。

 なお,小学校の家庭科は第5学年から置かれているので,それまでに学習した他の教科との関連を考える必要があるし,また,中学校の職業・家庭科との関係もじゅうぶん考慮しなければならない。