(2) 日本において,明治維新のころから今日まで,政治・経済・産業・思想などの分野において民主主義発展のために努力した人々の顕著な・業績の理解を通して,その努力を今日に生かす方途や態度について考えさせる。
(3) 民主主義の発展は,歴史的条件や地域の特性,民族の性情などによって,それぞれ違ったかたちを示すものであることに着目させ,わが国において民主主義をいっそう進めていくには,どういう方法や態度がたいせつであるかについて考えさせる。
(4) 人間の尊厳を守ることが民主主義の根本であり,民主主義の基本的要素は「基本的人権」「自由・平等・責任」「寛容・協力」「公共の福祉」「問題の平和的解決」などにあることを身近な生活の経験を通して理解させる。
(5) 世の中が進歩するに従って,個人の自由や幸福が平等に守られていくものであるが,そのためには法や規律を守り,相互扶助・社会連帯の実があがらねばならないこと,また常に自分の属している集団全体の福祉と向上を念願して行動するのでなければ,自分自身の幸福も得られないということについて,日常生活に関係のある制度や事例を通して理解させるとともに,その精神を日常の生活に生かそうとする熱意と態度とを養う。
(2) 民主主義の政治は,主権者たる国民の自覚が伴わず,また政治にたずさわる人々の心がけのいかんによっては,短所も出てくるものであるが,過去の政治に比べてすぐれているものであることを理解させる。
(3) 今日の産業・経済のしくみやはたらきについて基礎的知識の理解をもととして,産業・経済の民主化のためにとられている諸施策のあらましを理解し,これについて自分たちも考えようとする態度を養う。
(4) 地理的,歴史的条件などとの関連において,わが国産業構造の特色のあらましや国民の生活水準などにふれて,これらを改善向上させる方途などについて考えさせる。
(5) 自我の発見,民主主義の発達,世界諸地域の結びつき,産業や貿易の進歩などが社会生活の様子を変えてきたことに着目させて,近代社会の特質を理解させる。
(6) 産業革命以来の近代産業の発進が,民主主義の発展と密接な関係をもっていることを理解させるとともに,今日の社会においては,人々は,なんらかの職業につくことによって,社会に貢献できることを理解させる。
(7) どんな職業に従事しても,それは全体としての社会生活につながっており,人々の幸福に寄与しているものであるから,職業に貴賎のないことを理解させ,自分の能力に応じた職業につくことは,自分にとっても社会にとっても幸福であることを自覚させる。
(8) 現在のいくつかの諸国家の構造などにふれて,国家とはどういうものであるかについて理解させる。
(9) 同じく国家といっても,それぞれの地理的,歴史的,民族的条件などによって,国家の組織や構造,国民の物の考え方などには,それぞれに特色があることを,世界のおもな国々のことにふれて気づかせる。
(2) 近代産業の発達,民主主義の発展などに伴って,労働者の社会的地位が向上したが,なお労働関係についての諸問題があることに着目させて,労働関係についての基本的知識を理解し,労働問題について考えていこうとする態度を養う。
(3) 近代産業の発達と交通・通信の進歩につれて,各地域や人々の相互依存関係はいよいよ増し,職場相互・職業相互・地域相互の連帯性が強くなって,孤立した人間の生活はゆるされなくなったことを理解して,社会保険などの社会保障制度がわれわれの生活に重大な意義をもっていることに気づかせる。また,不幸な人々や生活に困っている人々をひとしく人間として尊敬し,その人たちの幸福をはかることがわれわれの責任であることを自覚させる。
(4) われわれの生活が国内の資源や産業と密接な関係をもっていることを,身近な生活を反省させながら理解させ,資源の開発・保全はわが国全体のためだけではなく,世界の人々の幸福のためにもたいせつであるゆえんを自覚させるとともに,わが国では国の経済の自立のためには,特に貿易の振興が必要であることをわからせる。
(5) 日本の歴史的,地理的事情もてつだって,日本においては近代産業発達の反面には,中小企業や農業経営の面においていろいろの問題を生じていることに気づかせ,それらを合理化するにはどうしたらよいかについて考えさせる。
(6) 通信・報道機関の発達は,われわれの知見を広めてくれるものであるから,それらをじょうずに利用して,正しい世論を反映するようにみんなが考える必要があることと,また一面に,それらを批判的に受け入れようとする態度のたいせつであることを自覚させる。
(7) 交通・通信機関の積極的利用によって,世界の人々は互に未知の人々とも親しくなることができ,互に偏見を去って人間的愛情をもって結びつくことができるものであることを理解させる。
(2) 国際間の平和がなければ,個人の幸福も生活の向上も期待できないことや,国際連合その他の国際平和機関の活動について理解させ,世界平和に貢献した人々を尊敬し,その業績に学ぼうとする態度を養う。
(3) 国と国との関係は,個人と個人,集団と集団との関係と同じように相互に対等の立場で尊敬し合い,その自由や権利を尊重することによって,はじめて平和な関係を維持できるものであることを理解させる。
(4) 自分たちと人種・国籍・衣食住の様式・文化の相違している人々に対しても,同じく人間として尊敬し,偏見を持たないような態度や習慣を育てる。
(5) 世界の各国民はすべて自国を愛し,その平和と繁栄を願い,自国の文化を高めようとすることによって,世界の平和,人類の福祉に寄与するものであることを理解させ,日本の国民として,日本のためにその責任を果そうとする熱意と態度とを養う。
(2) すぐれた宗教家・芸術家・学者の思想や業績にふれて,文化発展のために尽した人々の業績をしのんでこれを尊敬するとともに,その作品や成果を愛護し鑑賞したり研究しようとする態度を養う。
(3) 外国の学問・芸術・宗教などの文化を摂取することに努めた個人や時代の努力のあとを考え,日本は外国の文化に対してどのような態度で接してきたか,また,それが国民の生活をどのように豊かにしたかについて理解させる。
(4) 学問・芸術・宗教などが,国境を越えて地理的,歴史的条件による困難をおかして広がった事実を考えさせながら,文化は人々の生活を国際的に結びつけていくものであることを理解させる。
(5) 文化には国家や民族の事情からくる持殊な性格をもちながら,すぐれたものほど国際性をもっているという事実を反省させて,自国のすぐれた文化の発展をはかることが,世界に貢献するということを理解させ,そのために努力しようとする態度を養う。
(2) 集団生活においては,人々の間に常に相互の愛情と尊敬が必要であることを考えさせ,習慣や礼儀の意義を理解させ,家庭や学校・近隣などにおいて,それぞれの立場の人々に対する礼儀や作法を身につけることが,民主的な社会生活をする上に重要な基礎となるものであることを自覚させる。
(3) 身近な生活において人々に親切にし,弱いものをいたわり,社会正義のために尽そうとする態度と心情とを育てる。
(4) 人間は本来社会的存在であること,人間はそれ自体,個人として絶対的尊厳性をもつとともに,自分の幸福を追求するものであることなどを考え,正しい意味で個人が確立されていて,はじめて民主的社会人となりうるものであることに気づかせる。
(5) 後世に影響を及ぼしたすぐれた宗教家・思想家の業績などにふれて,人類の幸福,人生のあり方などについて深く考えた先人の思索や行動のあとをたずね,それに学ぼうとする態度を養う。
(2) 家庭や学校などの日常生活を通じて,将来,国や地方の政治に正しく参与できるような資質を伸ばそうと努力する態度や習慣を養う。
(3) 自分の住む地方や都市の施設を正しく利用し,また,これをその地域の事情に即して,どう改善できるかなどについて考える習慣と技能とを養う。
(4) 身近な生活の経理などを通して,消費生活を合理化する技能を養い,それを社会全体の経済生活を高めようとする方途との関連において考えようとする態度を基う。
(5) 自分や他人の健康や安全について,細かい心づかいをし,衛生や安全を常に考えて,人命尊重のために尽そうとする習慣を身につけさせる。
(6) 動植物をいたわり,自然の恩恵や美しさを感じ,美しいものに心を寄せ,文化遺産を愛護するなど,豊かな心情を養い,品性の向上をはかろうとする習慣を身につけさせる。
(7) 政治的,経済的,社会的諸種の資料をできるだけ利用し,批判的にそれを解決し,それらの資料を研究のために整理したり,図表に表わしたりする技能を養う。
(8) 政治的,経済的,社会的諸事象に関する各種の事典・年表・年鑑その他の参考文献を有効に使用していく能力を育てる。
政治・経済・社会的分野の学習内容は,社会科学習においては,どの学年においても常にふれなければならない多くの事がある。しかしながら,学習指導の内容があまり多過ぎると,この分野の諸事項の説明に終始したり,生徒にとってこの分野の学習で特に必要な問題を,考えたり批判したりするための学習活動ができなくなるおそれもあり,また,地理的,歴史的条件を考えてはじめて理解できるような問題の学習を怠るような結果になりかねない。その意味において,いかなる指導計画を実施するにしても学習内容の精選ということについては特に配慮する必要がある。
自我の発見,科学・技術の進歩,近代産業の発達などが,個人の価値を自覚させ,人間の尊重とその自由・平等を確保しようとする社会の動きへと発展したことについて,文芸復興,啓蒙思潮,宗教改革,イギリス・アメリカ合衆国・フランスなどの民主主義革命や独立運動の歴史的事件やそのための人々の業績,また,日本の自由民権運動,開化思想,明治における政治的,経済的,社会的面の近代化への努力などの歴史的事実をふり返り,現在のわが国が民主主義社会の実現に努力していることの意義を理解させる。それとともに,民主主義社会実現の経過は,地域・国家・民族の事情によってそれぞれ特色をもったかたちを示すものであるということを考えさせるために,民主主義革命のいろいろな特色ある事実について学習させる。
民主主義の社会は,人々が基本的人権を尊重し,人間の自由・平等・責任について考え,公共の福祉のために人間の権利と義務を行使して,問題を平和的に解決しようと努力することによって実現するものでありそのためには,法律や規律をつくり,それを守ることがたいせつであることを理解させる。
2.近代における政治・経済・社会の構造と機能
日本国憲法における主権在民,基本的人権の保障,立法・行政・司法の三権分立の民主政治の原則や,平和主義や天皇の地位などの憲法の特色について理解させるとともに,国や地方の政治・行政・財政のしくみや運営などについても理解させる。生徒の理解を容易にするためには,身近な市町村などの地方自治体の仕事と自分たちの学校生活との関係などから学習させることもよい。このことと関連して,政党や選挙の意義などにふれて,国民が主権者であるということの自覚を促すことは特にたいせつである。また,民主主義政治の基礎をなしている多数決原理は,ひとりびとりの教養が高まって,多数者といえども少数者の意見を尊重するようにしないと弊害のでてくることもあることなどを,身近な体験から反省させながらも,人間尊重の立場からいって,民主主義政治は,けっきょく,これまでの政治に比べてすぐれていることを理解させることも必要である。
産業革命以後の世界経済の動き,わが国の産業革命の大要にふれ,わが国の産業構造の現状や特色と国民の生活水準のあらましを理解させ,また経済のはたらきとしての生産・流通・消費・金融・企業・市場・貿易・為替・保険などについて,具体的事実や生徒の経験に基いて理解させる。これらのことに関連して,勤労の価値や職業の意義を理解させるとともに,日本経済の自立のために,科学・技術の進歩や貿易の振興をはかることが特にたいせつなこと,そのために資源の愛護・保全・開発に心がけ,また国の経済も計画的に行い,個人の消費生活も合理化することが必要であることなどについて理解させることがたいせつである。
自我の発見,個人の尊重などの近代思想の発展に伴って,家庭や社会・国家の人間関係に大きな変化がもたらされ,個人の自由や平等がだんだんに保障されるようになるとともに,交通・通信の発達や社会の発展に伴って,われわれの生活は相互連帯的になり,また国際性をいよいよ帯びてきて,孤立した個人の生活は許されなくなったことを理解させる。また,報道・通信機関の発達は大衆伝達(マス=コミュニケーション)を容易にしたが,その機能をよく理解し,自主的な判断力をもって,これを受け入れることの必要なことをわからせる。
3.現代社会の諸問題
近代産業の発達や交通・通信の進歩,民主主義の進展などによって,人々の生活は向上したが,それに伴っていろいろな社会問題が発生したことに着目させることは,義務教育を終えようとしている生徒にとってきわめてたいせつなことである。すなわち労働問題や社会保障や公衆衛生に関する問題,また人間の身体や生命の安全に関する問題,都市と農村についての問題,人口に関する問題,また日本の特殊な事情からくる中小企業や農業経営の問題などについて,その問題の概略と現在構ぜられている対策のあらましを理解させる。
これらについての取扱は,生徒が従来これらの問題を自分自身の判断によって考えていこうとする場合の素材を提出するにとどめる配慮が必要で,できるだけ事例の客観的説明や法規の要点などを明らかにすることがたいせつである。
4.世界と日本
現在の世界諸地域は密接に結びついているが,これまでに世界の諸国家は,政治・経済・文化・民族・人口・領土などに関連して,しばしば相争ってきた事実を歴史的,地理的背景をも合わせ考えて反省し,今後の世界において人類はこのような争いを避けなければ,世界のすべての人々にとって最大の不幸がくることを理解させることがたいせつである。そのためには身近な生活における国際性や国際関係からくる諸問題のあらましを理解させるとともに,今までの争いの原因や国際平和機関の活動の様子にふれ,世界平和の実現はひとりひとりの心がまえと努力にあることを理解させる。この際,国際会議や国際交歓の事例などにふれることは有効な方法であろう。同時に現実世界には種々の国家や人種・民族があり,それぞれ存在の理由をもっているものであるから,各国・各民族の生活や文化を尊重し発展させ,国としても誠意に基く外交政策をとってはじめて世界平和が維持できることを理解させ,そのような観点から,日本国民としての責任やその使命の自覚に資するようにする。
5.文化と人間生活
学問・芸術・宗教などの文化は,人間の品性を高めその心を豊かにするものであり,同時に社会生活を向上させるということの理解をもととして,古くから今に至るまで生命をもっている宗教や芸術・学問の発生と,その広がりや発展を概観して,文化が民族や国家の地域的,歴史的事情によってできるとともに,すぐれたものは国際的に広がるということ,またそれを創造した人々の業績や思想について理解させる。
そのような文化の性格から,文化の創造だけではなく,それを日本に摂取した人々の努力のありさまを理解させ,文化を創造したり摂取することが人間の崇高な使命であるということを,事例に基いて自覚させる。外国の文化を摂取した人々とともに,今日のすぐれた日本文化を創造した人々の業績にふれることも必要である。これらに関連して,教育の意義や制度のあらましを理解させる。
このような意味で,すぐれた文化の愛護・鑑賞は,人類全体にとってたいせつであるということを,国の法規や世界の人々の協力の事例を通して理解させるとともに,教育のたいせつなことについての理解を深めることもまた必要である。
6.生活態度と人生
民主主義的生活は個人の自由や権利を保障するものであるだけに,個人が社会生活を正しく送るためには,深く自分の責任を感じ,自己を反省して真に尊厳に値する自己を確立することが必要であること,また社会は,それぞれ人間関係を円滑にするための慣習などをもっていることを理解させて,社会における対人関係を平和に進めていく生活態度の重要なことを考えさせる。そのためには,人間の社会的存在の本質や社会慣習の意義などについて,日常生活における事例などによって理解させ,作法などのたいせつなことに気づかせる。ことに具体的事象の学習を通して,正直・勇気・正義・独立心のような徳性を身につけることのたいせつなことを理解させ,進んで人生の意義などについて考えさせるようにする。このためには,国語の教材などにも関連して,中学生にふさわしい著名な人生論や文芸作品などにもふれて学習させることもよい方法である。