2.日本の歴史を世界史との関連や比較において考える態度を養い,日本の歴史の独特の発展の姿を理解させると同時に,広く世界各地の人類の歴史的活動の底には,共通な発展の姿や人間的感情や意欲があることを理解させ,今日の社会生活上の諸問題を,世界史的な広い視野から理解していく態度を養う。
3.世界における社会生活の発展は,時代により,地域によって,その姿はいろいろ相違していることを理解させる。
4.日本および世界の諸地域が,文化の発展,産業の発達,交通・通信の進歩につれてしだいに結合し,それによって,各地域の生活がさらに発展していくことを理解させ,したがって交通や産業,文化の交流が自由でないことは,人間生活にとって不幸であることに気づかせる。
5.現在のわれわれの生活は,先人の自然環境の利用や,社会生活をよくするための,たゆまない努力のあとであることを理解させ,今後のわれわれの生活を発展させる上に,それらの努力をどのように生かしていくかについて考えさせる。
6.日本および世界各地の歴史は,すべて政治・経済・文化などの各方面から見ることができるが,それらの一面からだけ見ることなく,歴史を総合的に見たり考えたりする態度を養う。
7.日本の歴史の流れ,世界における社会生活発展のあらましの学習を通して,政治・経済・文化などがそれぞれ人間生活において占めている役割を理解させ,よい制度や風習を作り,これを人々が正しく発展させるように努力しなければならないことを考えさせる。
8.社会生活は,歴史的に特色のある時代を作りながら発展してきたことを理解させ,それぞれの時代のもつ歴史的意義を理解させるとともに,各時代の生活が,今日のわれわれの生活にどのように影響しているかを考えさせる。
(2) 日本の国ができて,しだいに内容と形とを整えていくみちすじ,古代の日本の生活や文化の発展とその特色を,アジアの古代の歴史を背景に理解させる。
(3) 武士が勢を得て,社会が変っていくありさまを,外国と比較しながら,理解させ,あわせて,鎌倉・室町の幕府政治や,その時代の人々の生活や文化の特色を理解させる。
(4) 近世ヨーロッパ諸国家の成立とアジアへの進出のあらましの事情と比較しながら,近世の日本の封建制のできあがった事情と,その時代の人々の生活や文化の特色について理解させる。
(5) 日本が近代国家として誕生した明治維新の前後の事情について,ヨーロッパ近代国家の発足と比較しながら,その特質を明らかにし,その後の日本がどのような経過をたどって生活や文化を進めてきたかということを,ヨーロッパ諸国によるアジア植民地化の事情のあらましや,日本の国際的地位の変化などにふれながら理解させる。
(6) 第二次世界大戦前後の世界や日本の情勢を明らかにし,今日の日本が,その歴史的背景のもとで,どのような政治的,経済的,社会的問題をもっているかに着目させる。
(2) 近代的な産業や経済の発達によって社会がどのように変ったか,それによって日本の産業や経済がどのように変化したかということを理解させる。
(3) ヨーロッパの近代的社会が世界的に発展した事実を理解させ,近代化のおくれたアジアの諸地域はそのためにどのような影響を受けたか。またそのためどのような困難を経験し,現在どのような努力をしているかについて考えさせる。
(2) すぐれた人々の生み出した思想・学問・宗教・芸術などは,歴史的に社会に大きな影響を与えている事実について理解させる。
(3) 困難に耐えて外国文化の摂取に努めた人々をはじめ,日本において古来外国文化の摂取に努めた人々の業績を知り,これに学ぼうとする態度を養う。
(4) 各時代・各社会において,人々はそれぞれ特色ある生活や文化を築くものであるが,それらには,多くの人々の精神的,物質的幸福をはかろうとする共通な人間的な感情や意欲によるはたらきが秘められていることに気づかせる。
(5) 社会生活の発展には,常にできるだけ多くの人々に自由と幸福とを与えようとする人間の活動があることを理解させるとともに,それはその時の社会の様子や人々の考え方,教養などの程度によっていろいろな現れ方をすることに着目させる。
(6) 人間生活についての歴史的学習を通して,人々の自由や基本的人権が保障されないような状態は,時代の進歩に遅れているものであることに留意させる。
(7) 近代民主主義の政治が,他の形式の政治に比べてもっているすぐれた特色を理解させるとともに,民主主義を実際に日常の生活に生かそうとする態度と能力とを養う。
(8) 日本や世界において,人間尊重のために,また平和維持のために努力した人々の信仰・思想や業績に学び,それをどのようにして自分たちの生活に生かそうかということについて考えさせる。
(9) 条約改正の歴史的事実や,明治以後の日本の外交政策などの理解を通して,国家の独立ということが,自分たちの幸福のためにも,世界平和のためにも,いかに根本的な要件かということを考えさせる。
(10) 世界平和がわれわれの生活にとってどんなにたいせつであるかということ,平和は,他から与えられるものでなく,われわれが積極的に努力することによってのみ得られるものであることを理解させ,民族的偏見をもったり,国家が互いに疑ったりすることが,国際親善と世界平和を妨げるものであることを考えさせる。このようなことについては,近代における日本とアジア諸国間の関係について,特に考えさせる。
(2) 日本の神話や伝承などの内容を通して,古代日本人のもっていた信仰や,物の見方や考え方について考えるとともに,外国のそれらの一端にもふれて,その相違や共通点に気づかせる。
(3) 日本の文化の発達には,外来文化の影響が多いことを理解させる。
(4) 東洋・西洋の文化の特色や,その伝ぱ・交流の事実についての理解をさせるとともに,日本の鎖国下の例などにふれて,すぐれた文化は地理的条件による困難をおかして広がり,人々の生活や考えを,国際的に結びつけていくものであることに気づかせる。
(5) 各時代のすぐれた文化やその特色についての理解や鑑賞を通して,それぞれ自分のもつ能力を生かして,新しい日本文化の発展に努めようとする態度を養う。
(6) 貴重な人類文化を保存し発展させるためには,世界の人々の理解と協力とが必要であることをわからせる。
(2) 神話・伝承などを学問的に理解し,そのような資料の科学的取扱を通して,歴史の理解に資する態度や能力を養う。
(3) 歴史地図を読んだり描いたり,正確な資料によって年表や図表などをつくる能力や態度を養う。
(4) 広く過去の資料を集め,これを歴史的に整理したり,保存することへの興味と関心とを養い,またそのような資料について,総合的,発展的な立場から,批判的に見ようとする能力を芽ばえさせる。
(5) 歴史的諸事象について,各種の事典・年表・年鑑その他の参考文献を有効に使用していく能力を育てる。
中学校における歴史的分野の学習指導にあたっては,生徒の身近な生活環境の中にある歴史の姿を通して,日本史を主体としながらも,世界史との関連を考慮し,地理的,政治的,経済的,社会的観点から,総合的,立体的に取り扱うことが必要である。過去にあったような,歴史学習におちいることなく,あくまで,社会科の本質と目標・方法および歴史学の学問的研究成果にそうようにすることは,特にたいせつである。歴史学習は考えるためのものであるから,できるだけ総合的,発展的にものを考える力を養うようにするため,現在の社会生活上の問題の理解に資するように指導内容を組織づけることが必要であって,単に過去の史実だけについて学習させるようなことのないようにしなければならない。
歴史学習のための指導内容は,近代史に重点をおくことが必要であり,また,政治史に偏するようなことなく,広い意味の生活史の学習になるように考慮,小学校の社会科の目標・内容の基礎のうえに,学習が行われるようにすべきである。
日本史と世界史との内容の比率の目安は,おおよそ7:3くらいを適当と考えるが,日本史・東洋史・西洋史に完全に分離して,別々の知識を与えるというような方法は,目標達成上望ましくない。
時代区分は,指導上の観点によっては,いろいろのものが考えられるのであるから,唯一つの固定した方法だけしかないと考えることのないように望むとともに,一つの時代のなかでの発展的な動きや,時代から時代への推移について,特に留意して指導することが望ましい。
個々の内容について,それを取りあげる度合や,深度や,内容の取捨選択は,指導観点によって異なることのあるのは当然であるが,目標達成を効果的にし,また中学生の段階を考えた場合,できるだけ精選し,学習内容が多過ぎないようにすることはきわめてたいせつである。
以下に掲げる内容は,どのような指導計画をたてるに際しても,適当な素材だと考える。しかし,ここに示した六つのまとまりは,便宜的な一例であって,内容のまとまりのつくりかたは,いろいろなものが考えられるし,そのしかたは自由なわけである。
なお,特に歴史的分野の学習指導において考えるべきことは,教師の講義だけに終るような指導が少なくない事実にかんがみて,分野の全目標の達成に有効な,多様な学習活動が,随時適切に展開されなければならないということである。
人類のはじめ(言語・道具・火など),人種と民族,言語と宗教,文明発祥地域,オリエントの世界,ギリシア・ローマの文明,漢・インド(仏教の起源と発展)などの学習になるべく簡単にふれ,また文明の発祥,その発達の地理的条件の学習をも通して,人類文明の起りを理解させる。日本列島の位置,繩文式文化の時代とそのころの衣食住の生活,農業の発生,集落の発生,弥生式文化の時代などの学習を通して,日本人の始原の生活について理解させるとともに,このころの郷土はどんな様子だったか,また,このころと現代の生活や考え方との比較についても学習させる。
2.日本国家の成立時代
大和朝廷による日本の統一,大和地方の地理的位置,三国から唐への推移,民族大移動,東ローマ・サラセンなど,文化の交流と遊牧民族などの学習を通して,日本の国の成立とそのころのアジア・ヨーロッパのありさまを理解させる。
氏姓制度,大化の改新と律令制の確立,荘園制の発達(土地制度と経済の問題),摂関政治,隋・唐との国交などの学習を通して,日本古代国家の発展について理解させる。大陸文化の渡来,飛烏文化・奈良・京都の地理的考察,古代の交通・貿易路,唐風文化と国風文化などの学習を通して,日本古代文化の成長と大陸文化の影響について理解させる。
また,このころの郷土はどんな様子であったか,このころと現代の生活との比較や,今日への影響についても学習させる。
3.武士が社会に現れた時代
武士の起り,鎌倉・室町幕府の政治,ヨーロッパ封建社会の特色などの学習を通して,幕府政治の成立とその動きについて,外国と比較しながら理解させる。宋・元・明(元寇・勘合貿易など)との関係,都市の変遷とその地理的考察などの学習を通して,鎌倉・室町時代の日本とアジア大陸との関係について理解させる。鎌倉文化・東山文化と民衆文化の芽ばえ,京都と地方との関係などの学習を通して,鎌倉・室町時代の文化の発展について理解させる。
また,このころの郷土はどんな様子であったか,また,このころと現代の生活との比較や,今日への影響についても学習させる。荘園制から大名領国制への推移,各地の諸産業の発達,民衆生活の向上などの学習を通して,鎌倉・室町時代の社会・経済の発達と民衆の動きについて理解させる。
4.ヨーロッパ人が東洋に進出し始めたころの日本の封建社会の完成時代
ルネサンス,宗教改革,新航路・新大陸の発見,日欧通交などの学習を通して,ヨーロッパの近世の国家や文化の成立について理解させる。織豊政権,検地,桃山文化,江戸幕府の成立,鎖国などの学習を通して日本封建社会の完成について理解させる。身分制度,土地と主従関係,武士の学問と町人文化の発達,交通・通信機関と道路などの学習を通して,江戸時代の生活について理解させる。このころの郷土はどんな様子であったか,また,このころと現代の生活との比較と今日への影響についても学習させるとともに,この時代の封建制度の矛盾,貨幣経済の発展,江戸と大阪,当時の人口,幕府の改革,江戸文化の変遷,新しい学問と世界観などの学習を通して,わが国の封建社会のゆきづまりについて理解させる。
5.世界の諸国との国交に基く近代日本の成立時代
イギリス革命,アメリカ合衆国の独立,フランス革命,西洋近代民主主義の発達,産業革命とその影響などの学習を通して,西洋の近代国家の成立の過程と近代産業の発展について理解させる。
ヨーロッパ諸国の海外進出とアジア植民地化のあらまし,日本の国際社会への登場,明治維新とその歴史的意義などの学習を通して,近代化に踏み出した日本とそのころのアジアについて理解させる。自由民権運動,大日本帝国憲法,日本の産業革命とその特色,労働運動と社会主義思想の発生,政党政治と普通選挙などの学習を通して,日本の立憲政治と近代産業の発達について理解させる。
また,このころの郷土はどんな様子であったか,このころと現代の生活との比較と今日への影響についても学習させる。ヨーロッパ近代文化の発達,日本近代文化の特質などの学習を通して,日本における近代文化の発展,教育制度や科学・技術の進歩について理解させる。富国強兵,日清戦争,日露戦争,条約改正,第一次世界大戦とその前後の世界(中国辛亥革命,ロシア革命,国際連盟と平和への努力など)などの学習を通して,日本の国際的地位の移り変りについて理解させる。世界経済の不況,ファシズムのたい頭,軍部の政治への介入と日本の大陸進出,日華事変から太平洋戦争への推移,日本の敗戦などの学習を通して,第二次世界大戦の終結までの世界の情勢について理解させる。
6.第二次世界大戦後の世界と日本
国際連合と世界平和運動,米ソの進出(二つの世界),アジアの民族運動などの学習を通して,第二次世界大戦後の世界情勢について理解させる。ポツダム宜言,日本国憲法の制定とその精神,諸改革の精神とその内容,講和条約と日本の独立など,日本の民主化への動きについて理解させ,世界の動きと日本,文化国家の建設や世界平和への努力,日本の民主化を妨げるものの所在など,現代日本の課題について,政治・経済・社会的分野の諸問題の学習との連絡を密にする程度に考えさせるようにする。