ここにかかげる具体目標というのは,中学校における社会科のいろいろな指導計画を作成する際の具体的な手がかりとして,社会科の目標をさらに具体的にわかりやすい形で示したものである。それを地理的分野,歴史的分野,政治・経済・社会的分野に分けて示した。しかし各分野の関係には,第1章で述べたような事情があるから,教師としては常に,三分野全部の具体目標を考えて,効果的な指導計画をつくることがたいせつである。
中学校社会科の目標を達成するために必要な指導内容については,指導計画によっていろいろなまとめ方があろうが,ここでは具体目標に応じて,地理的分野,歴史的分野,政治・経済・社会的分野に分けて一応示すことにした。ここに示されている内容は,いろいろな指導計画において,どのような観点に立ってまとめられ,組織・配列されようとも,中学校社会科の目標達成のためには適当な素材と考える。
(2) 日本の各地域における生産活動その他の生活様式には,他の地域に比べて,それぞれ特色のあることについて理解させる。
(3) 日本における人々の生産活動その他の生活様式には,外国と比較して,全体としてどんな特色があるかということについて理解させる。
(4) 世界の各地域は,わが国や他の地域に比べて,どのような特色があるかということについて理解させる。
(5) 各地域の人々の生産活動や,衣服・食物・住居・交通手段・言語・宗教・芸術・風習などの生活様式には,いろいろの違いがあるが,そこにはそれだけの理由があるとともに,その底には常に幸福を追求してやまない共通な人間性がひそんでいることに気づかせる。
(6) 人種や民族に対する偏見や差別観は,取り除かなければならないことを理解させるとともに,他国民のすぐれた特色を重んじ,その理想・信仰・道徳その他の生活様式に対して,尊敬・寛容・善意をもって見る態度を育てる。
(7) 各地域における現在の政治・経済・文化などは,それぞれ発達の姿が違っているが,そこには,そこに住んできた人々の過去からのたゆまない努力の結果としての歴史的背景があることや,また,これら各地域の特色のある姿も,常に変化していくものであることに気づかせる。
(2) それぞれ特色のある自然や,政治・経済・文化などの基盤をもった世界の各地域が,世界でどんな地位を占めているかということについて理解させる。
(3) それぞれ孤立していたいくつかの国や地域は,近代的な交通・通信機関の発達によって結びつきあうようになり,世界の各地域間の距離は,いちじるしく縮小してきたことを理解させる。
(4) 近代における産業革命の進展に伴って,世界の各地域,特にアジア=太平洋地域の産業や文化などに,どのような変化が起ってきたかということのあらましについて理解させる。
(5) 国家間の政治・経済・文化・領土などについての諸関係は,今までに幾多の変化を経てきたものであることに気づかせ,また国家に関する基礎的な地理的概念を理解させるとともに,これらの国家や国家相互間の諸関係に関する時事的な出来事や問題についての関心を深めさせる。特に日本とアジア=太平洋地域の国々との間には,現在どのような経済的,政治的,領土的などの問題が存在しているかということについて関心を深めさせる。
(6) 世界の国々の間にこれまでに起った戦争の原因や,現在見られる不和の原因がどんな条件によるものであるかということの理解や,世界平和樹立のため現在,国際連合などの国際機関は,どのような働きをしているかということの理解を通して,世界の各地域の特色について気づかせるとともに,国際協調の精神を育てる。
(7) 自分や家庭・学校,住んでいる市町村などの身近な社会や,日本における生活上の諸問題について,常に他地域や外国のそれと比較し関連させて考えていこうとする態度を養い,集団生活を営んでいく一員として,広い視野に立った郷土や国家に対する愛情を育てる。
(2) 日本の各地域の自然環境の諸条件は,その地域の特色ある生産活動その他の生活様式に,それぞれどんな関係をもっているかということについて理解させる。
(3) 全体としての日本の自然環境の特色,それと今日までの開発との関係,またそれと国民の生産活動や自然災害との関係などについて理解させる。
(4) 世界の各地域の生産活動その他の生活様式は,自然環境と密接な関係があることを見いだすとともに,日本の自然環境が,外国に比べてどのような特色があるかということについて理解させる。
(5) 人口や産業などは,自然環境との関係において,この地球の表面にどのように分布しているかということのあらましについて理解させる。
(6) 人々の生産活動その他の生活様式は,地域によってそれぞれ特色があるが,人々が自然環境に順応したり,自然環境の不利を補ったり,さらに積極的に自然環境を利用して,自分たちの幸福を絶えず求めている姿には,共通な人間性が流れていることに気づかせる。
(7) 資源の愛護・保全・利用ということについては,単に個人や特定の人々の立場からだけでなく,常に全体の立場から考えていく態度がたいせつであることを理解させる。
(8) 人間の自然に対する働きかけのしかたは,そこに生活する人々の意欲や活動に従い,時代的にも地域的にも違うもので,同じ自然環境のもとに必ずしも同じ人間生活の姿が見られるものではないから,自然は人間の生活を決定するものではない,ということを理解させるとともに,自然の不利を克服した,自然を積極的に利用したりすることに尽した先人の業績に対して,心から尊敬し,それらの人々が発揮した徳性に感銘し,自分の身近な日常生活や,郷土や国家における諸問題をうまく処理していくために,積極的に自然に働きかけていく態度を育てる。
(9) 人類の生活向上のためには,世界の人々が協力して自然に働きかけることがたいせつである諸問題のあることに気づかせる。
(10) 現在,世界においてどのような地域が未開発地域として残されており,どのようにして開発きれようとしているかということのあらましについて理解させ,このような問題が経済問題・人口問題・移民問題などに関する国際的な問題とも結びついていることに気づかせる。
(11) 世界の代表的な二,三の国々において,資源の開発に関して,どんな努力が払われているかのあらましを理解し,現在の日本における国土の総合開発計画に関する基本的な考え方について気づかせるようにする。
(12) 風景の美しさを鑑賞させたり,自然の恩恵を感じさせたりするとともに,明るい気持を育てる。
5.地図を読んだり,地図を描いたりする能力を育て,日常生活において地図に親しみ,よくこれを利用していく態度を育てる。
(2) 日本および世界の各大陸,おもな海洋の位置関係を,だいたいにおいて眼前に思いうかべることができる能力を育てる。
(3) 地球儀が地球表面の姿を最も正しく表わしたものであり,どのような地図でも丸い地球の全部あるいは一部の姿を完全に表わすことはできないことについて理解させ,各種の投影法の地図は,それぞれ特色をもっていることに気づかせる。
(4) 日本や世界の各地域の白地図に重要な地名や地理的事実を記入したり,産業や人口に関する分布図から地理的事実や特色を読みとったりする能力を育てる。
(5) 簡単な事象を地図に表わしたり,日本や世界の各地における時事的な出来事や歴史上の事件を理解するのに,常に地図を利用していこうとする態度を育てる。
(6) 5万分の1程度の縮尺の大きい地図の記号のあらましについて理解させ,その初歩的な取扱ができる能力を育てる。
(7) 遠足・修学旅行などにおいて,汽車の時刻表や各種の地図を利用して,事前に旅行計画をつくる習慣を育てる。
(2) 産業・人口・自然などに関する統計表から,いちじるしい事実・特色・傾向などを読みとったり,この結果を簡単な地図・グラフ・図表に表現する能力を育てる。
(3) 各地域の特色,地域間の相互関係,人間と自然との関係などにおける諸事象について,各種の事典・年鑑その他の参考文献を有効に使用していく能力を育てる。
(4) 野外調査の初歩的な要領をつかませる。
地理的分野に関する指導内容については,日本や世界の諸地域の特色について,他地域との結びつきや世界全体の立場から考えて理解させるということに重点を置き,結果においては,自然環境・経済・政治・民族・人口・集落(村落と都市)・国際関係などに関する諸事象についても,ある程度のまとまった地理的な考え方や知識・技能・態度が身につけられるということがたいせつである。
日本の諸地域については,地域区分をする観点が違うことによって,いろいろのものが考えられ,また,地方や学校の必要や考え方に従って,各地域の取扱の順序も決して一様ではない。しかし,いずれにしても結果において,各地域の生産活動その他の生活様式の特色がよく理解でき,各地域相互間の関連や比較がよくできるように,その内容の組織・配列を考えることが望ましい。また,日常使用されている地域名については,なんらかの方法において,その地域概念を理解させる必要がある。
各地域の内容として次のようなものがあげられる。
(2) 資源・産業
(3) 自然環境の特色
(4) 交通・集落・人口
(5) 他地域との関係
(6) 地図・統計・資料
各地域の特色について,あるがままの姿を記述していくことはもちろんであるが,小学校時代よりも,取り上げる地理的事象を多く選んで,これら諸事象間に見られる相互関係,その地域と他地域との関係や比較などの理解に重点を置いた指導内容を考えていく必要がある。さらに各地域の特色については,顕著ないくつかの事象について,その地域の特色が明確に理解できるような内容を選ぶことがたいせつである。この際その地域の現在から将来に向う動向や課題についても,若干の配慮をすることが望ましい。
2.全体としての日本
日本は世界のなかにおける一つの地域としても考えられる。社会科の目標を達成するためには,全体としての日本の特色や問題について,ある程度理解しなければならない。ここでは,次のような内容があげられる。
(2) 日本の自然災害の起る原因とこれに対処する方法(地震・風水害・その他の自然災害について)
(3) 日本の農業・牧畜業・林業・水産業・鉱業・工業などの生産業の特色とこれに関する諸問題,およびこれのら産業において日本の各地域の占める地位
(4) 食料・人口・移民などに関する問題(領土と人口の変化のあらまし,人口分布と密度,人口の産業別・年齢別・人口構成などにもふれる)
(5) 資源の保全・開発に関する問題(国土の総合開発計画の基本的な考え方などにもふれる)
(6) 交通に関する問題
(7) 都市や村落に関する問題
(8) 日本の貿易の特色と当面する問題
(9) 地図・統計・資料
「全体としての日本」の諸事象や諸問題に関する内容は,「日本の諸地域」と関連したり重複しているものが多く,また「世界の諸地域」や「全体としての世界」に関する内容とも関連したり重複しているものが多いことに注意しなければならない。
3.世界の諸地域
世界の地域区分については,経済・政治・文化・歴史などの諸要素を考慮して行うことがよいと考える。国際関係で重要な地位を占める国や,わが国と関係の深い国については,国別に取り扱う必要がある。ここでは次のような内容があげられる。
(2) 住民と人口
(3) 自然環境の特色
(4) 産業
(5) 資源の開発
(6) 言語・宗教・風俗・習慣・民族
(7) 主要国の政治形態と国際経済において占める地位
(8) 地図・統計・資料
4.全体としての世界
世界全体にわたる諸事象について,ある程度の全体的な理解が必要である。その内容は「世界の諸地域」の内容と重複するものが多いが,「世界の結合」という観点に立って,次のような内容があげられる。
(2) 世界の探検・発見・開発に伴う人口移動ならびに地図の発達
(3) 世界の交通・貿易の緊密化と物質の流動
(4) 世界各地における経済地域とその発達段階
(5) 近代における産業革命が世界の諸地域に及ぼした影響
(6) 資源の分布とその開発に関する各国間の関係
(7) 人種・民族・言語・宗教・人口の分布と特色
(8) 文化の地域的差異と近代化の世界への波及
(9) 世界における非自治地域と係争の多い地域
(10) 政治・経済・文化などに関する国際機関とその機能
(11) 国家の概念と世界の主要国間における国際的諸問題
(12) 地図・統計・資料
5.郷 土
郷土も日本の一つの地域である。
(2) 他地域との関係や比較
(3) 地理的諸問題
(4) 野外観察と調査
さらに中学校では,5万分の1程度の縮尺の大きな地図を中心として,野外調査の初歩的な要領を心得させたり,地図の記号の理解や読み方になれさせたり,統計やその他の資料の取扱方に習熟させたりするための実験場として利用して,これらについての知識や技能などを,小学校のときよりもさらに発展させるようにすることがたいせつである。
しかし,生徒に身近かな問題のなかには,遠く離れた土地の問題よりもいっそう複雑で,中学生としては理解に困難なものも多いので,その内容の質については,大いに選択を加え,その内容の量においても,日本や世界の他地域に関する重要な内容がぎせいになるような結果に陥ることのないように警戒しなければならない。