どの科目でもそうであるが,ことに「総合農業」は,各学年に12単位ずつも配当するほどの大きな科目であるから,その科目の内容の年次計画についてはじゅうぶん考えておかなければならない。農業経営の実際的な能力を身につけさせることから考えても,ホーム・プロジェクトの実施を考えても,今年は畜産に関するもの,来年は作物に関するものというように一種類ずつかたづけていく方式は望ましくない。したがって,どの学年にも,耕種に関するものや畜産に関するものなどが平行に出てくるように排列するわけであるが,それもただ漫然と並べられるのではなく,合理的・計画的な順序を必要とする。
そこで,第3編に掲げている例においては,各学年の指導の重点をそれぞれ,「基本的な農業生産」・「特殊な農業生産」・「農業経営の確立」に置き,これらの重点から導き出されてくる作物・家畜・農産加工などの教育内容をそれぞれその学年に配当することにした。これはどこまでも例であって,地城社会の必要や生徒の事情,学校の事情によって重点のとり上げ方が違うことはいうまでもないが,重点の置き方は違うにしても,指導の重点を決めることは,教育内容の学年別配当を考えやすくするであろう。
そうして,教育内容を学年別に配当するには,まず具体的な到達目標の達成に必要な企業(エンタープライズ)をできるだけ厳選して重点的にとり上げ,そうして,そのおのおのについて,次に例示するような分析を行っておくことは,いろいろな点で便宜が得られる。また,このような分析は,次の項で述べる単元構成をも容易にする。
稲作の分析
2.栽培する品種の決定
3.種もみの準備
4.苗代(なわしろ)の準備
5.苗代の種まきと手入れ
6.本田の準備
7.田植え
8.草とり
9.穂の育つころの管理
10.病気・害虫やその他の災害の防除
11.収穫の予想
12.稲刈り
13.稲こき・もみすり
14.品質の鑑定
15.俵 装
16.貯 蔵
17.生産費の計算
18.販 売
19.わら・もみがら・米ぬかの利用
20.稲株・稲わらの処理
2.電熱温床づくり
3.苗代の種まき機
4.直まき機
5.いもち病発生の予察
2.麦間直まき栽培
3.おそまき・おそ植え栽培(晩化栽培)
4.冷害とその対策
5.いね,ことにおかぼのかんばつの害の対策
6.水田の裏作
7.水田の地力維特
8.いねの肥料の設計
9.労力分配のくふう
10.かんがい排水設備の改善
11.畜力・機械力の利用
12.種とり
教育内容が栽培・飼育のような季節的・継続的なものを含まない科目における学習のまとまりや順序の決定は,他の一般の教科と同様であって割合に容易であるが,「総合農業」とか「耕種」・「園芸」などのように,季節的・継続的な内容を多く含んでいる科目では,一単元ずつかたづけていくような単元をつくることは困難であるから,学習のまとまりや順序の決定はなかなか容易でない。農業教育が特に他の教育に比べてむずかしいといわれる点も,これまで農業教育が不振であった大きな原因もまたここにあったのである。
かって,このような科目の教育は,教室における授業と農場における実習とに二分されていた。そうして,教室においては,教科書や講義を中心として,各論的に,あるいは汎論(はんろん)的に,教科書のページを追って内容の一部分ずつを教え込み,一方,農場においては,作物・家畜中心に計画されたさまざまの栽培・飼育の仕事が,並行的に,季節を追って進められていたのである。
しかし,このような教室授業と仕事の分離は,生徒の自己活動を促す上の致命的な障害であって,これからの教育においては,この両者の一体化がはかられなければならない。ことに,「総合農業」においては,教室授業と学校農場の実習だけでなく,ホーム・プロジェクトや学校農業クラブの活動も,一つの体系の中に有機的に編成されなければならない。このたびの教育課程において,各科目の中に,実習が一体として入れられていることは大きな意味がある。
季節的・継続的な内容を含む科目において,教室授業と仕事とを一体とした学習指導計画を立てる手順の一例を示すと次のとおりである。
この配当を行うには,「稲作」とか,「麦作」とかいうような企業名を縦にとり,月別を横にとって,各企業を生産の順序に従って分析した項目をそれぞれの学習指導に適する月の欄に記入し,それに要する時間を付記する。
また,上記の企業に直接関係はしないが,ホーム・プロジェクトやクラブ活動などを進める上になくてはならない問題は,企業と並べて別に項目を設け,各月のもとに問題を記入し,必要な時間を付記するがよい。
ホーム・プロジェクトなどについて話し合う時間や,巡回指導の際に,特にそれを必要とする生徒に対して個別的に指導すべき事項は,それぞれ適切な場所に記入して参照する。しかし時間配当はしない。
このような問題は,前に出た各論的・具体的な学習の基礎の上に発展し,後に出てくる各論的・具体的な問題解決の背景となるものであるから,それを入れる場所は,前後の関係をよく考えて決めるべきである。また,このような問題の解決は,あまり分散することなく集中的にとり上げるがよい。
ひとしく単元といっても,その性格はさまざまである。それらはいわゆる教材単元と経験単元とに大別され,今日,単元といえば一般に後者をさすのであるが,実際にはその両者の中間のものが多いであろう。
農業教育における単元はどんな系列のものであるべきかを一概にいうことは困難であるが,それによって,教育内容がもれなく拾い上げられ,効果的に学習されるものであることがたいせつであるから,農業の学習においては「稲作」とか,「麦作」というような企業は,何といっても基本的なまとまりの一つといえよう。
「稲作」・「麦作」という教材のまとまりは,昔ながらの各論の教科書の題目と同じように見られるおそれがあるが,教室の学習と農場の実習とが一体となって,この形でとり上げられる場合は,決してかつての教材単元ではない。そうして,こういう単元をとり上げるときは,具体的・各論的な問題の中から,一般的・原則的なものに発展するような学習指導法をとり入れやすいであろう。
各作物や家畜などに配当される時間が少なくなると,個々別々にこれをとり上げることが困難であるから,同類のものを一括して「果樹」とか,「花」とか,「種とり」などのような形でとり上げ,その「果樹」・「花」に共通的・一般的な学習を進める間に,具体的・各論的な問題を引用する方式をとることもあろう。このように時間の少ない場合であっても,一つの「果樹」なり「花」なりを中心として,「果樹」や「花」の全体に及ぶこともあろう。
また,同類のもののうち,栽培の季節とか,栽培法とかを同じくするものを一括して「春の育苗」とか,「夏の野菜」とか,あるいは「冬越しの野菜」というような形でとり上げ,それを比較対称することによって,それぞれの特性を明らかにしたり,共通の点をまとめてとり上げて不要な重複を避けたりすることもあろう。
くわの栽培からかいこの飼育まで,一貫して「養蚕」のような形でとり上げる場合もあろうし,「畑の経営」・「水田の経営」というように,場所を中心としたまとまりでとり上げ,裏作としての麦作やなたねなどは地域の事情によって,畑と田のどちらか一方で重点的に扱ったら,他方ではその特異性だけをとり上げる程度にとどめるもよい。こういう場合は,土地利用の観点からの問題の解決が割合に容易になるであろう。しかし,今日の日本農業の改良は,土地の生産性を高めるとともに,労働の生産性も高めなければならないことを忘れてはならない。
また,ホーム・プロジェクトにまつわる諸問題の解決をねらう単元,クラブ活動の導入や方法を学ぶ単元などができてもさしつかえないし,また,「土と肥料」などのように,各論的な企業に関連する諸問題として扱っただけではふじゅうぶんなところを,やや論理的な体系をとり入れて学習を進めるような単元や,農業改良の重要な点を,ある時期に強力に集中的に指導するようなこともあろう。これらのまとまりは,常に,企業を中心としなければならないとか,場所を中心としなければならないとか,あるいは,時を中心として,一つ一つかたづけていかなければならないとかいうものではなく,いずれが効果的な学習を期待することができるか,いずれが不必要な重複や,重要事項を脱漏なく学習することができるかということである。
以上のような点を考慮して,前に作成した一覧表を見ながら,縦に並べた企業や問題などの項目を変形し,学習指導の実際を考えながら単元をつくる。
このとき,はじめにその学年に配当した教育内容でも,他の学年に移した方が効果の上がるものや,反対に他の学年からこの学年へ移したほうがよいものが現われてきたら,初めの案にこだわることなく,新しい立場で考えて処理する。また,特殊な技能の錬磨(れんま)や,当番制で行うべき作業,個々の生徒との話合いにまかすべき問題などは単元の外に出して,別に計画を立てたほうがよい場合もある。
2.ホーム・プロジェクト・個人分担・組分担・学級分担やその他の実習の経営や,郷土の農事の時期とにらみ合わせて,学習の時期が適当か。
3.各単元からのさまざまの小単元が組み合わせられた順序が,新しい一つの学習の流れをなすようになっているか。
4.各単元からくる同系列の内容のうち,集中的に指導したほうがよいことは,集中して指導できるようになっているか。
5.農場その他の施設や設備が,効果的に利用できるようになっているか。
6.教師の分担と協力がうまくできるようになっているか。
月 間 計 画 の 例
高等学校 教 諭
昭和 年度
農 業 1(畑作地帯)
4 月 (33時間)
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参考書または事例となる材料 |
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1農業の学習はどのように進めたらよいか。 |
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2自分の家ではホーム・プロジェクトをすることができるか。 |
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3ことし,この学級ではどのような範囲から生産プロジェクトを選んだらよいか。 |
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4郷土や自分の家に稲作が適するか。 |
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Ⅴ—1 |
5郷士や自分の家に豆類や雑殻の栽培が適するか。 |
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6郷土や自分の家にどんな夏野菜が適するか。 |
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ⅩⅤ—1 |
7郷士や自分の家にどんな中小家畜が適するか。 |
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8自分はことしどのような生産プロジェクトを選んだらよいか。 |
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9生産プロジェクトの初めの計画を立てる。 |
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10生産プロジェクトの精密な計画はどのように立てるか。 |
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11いねの品種の決定。 |
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12夏野菜の本畑の準備。 |
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13苗代づくり。 |
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14種もみの準備。 |
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