第7節 農 業 土 木

 

第1.「農業土木」の性格と目標  「農業土木」は,農業の生産と生活の中に,土地と水とを最も有効に利用し,それにかなった工作物の改善とくふうをはかり,永続的に土地の生産力を高め,生産費を軽減し,農村の福利を増進させる手段と方法とを学ぼうとするものであって,その目標を細分すると次のようになる。 1.耕地の水と農業経営とがどのような関係にあるかを理解し,生産能率の高い経営の実現をはかる能力を養う。

2.耕地の水を農業経営にうまく利用するため,工作上の基礎的な技能を身につけるとともに,それを科学的にいっそう高めるために必要な知識・理解を養う。

3.農地の生産力を増進し,かつ農村生活の向上のために自然的条件の改善とくふうをはかる能力を養う。

4.労働の効率が高く,投下資本の回収速度の速い工事を施す能力を養う。

5.農業構造物を予算に応じて設計し,かつそれをじょうずに維管理し,さらにいっそう有効に利用する能力を養う。

6.農業土木の技術は,営農の発展と農村の生活文化の向上を促して農業の近代化をもたらす基本的なものであることを自覚し,これに打ち込む態度を養う。

 

第2.「農業土木」の具体的な到達目標

〔技 能〕
〔一般的な知識・理解〕
 (農業測量)

1.間なわや巻尺を使って状態に応じた田や畑の測量ができること。

2.平板等を使て農場や部落の測量ができること。

3.農地の製図や面積の計算が正確にでき,目的にかなった大きさの青写真を作ることができること。

4.コンパスを使って山の測量ができること。

5.トランシットを使って骨組測量が精密にできること。

6.縦横断測量によって計画線を入れ,土坪の計算や人夫の見積りができること。

7.トランシットを使って部落や農場の地形側量ができ,目的に応じた縮尺で,地形図の拡大・縮小ができること。

8.農道や水路の計画測量ができること。

9.簡単なトンネル測量がまちがいなくできること。

10.地下水探査器が使いこなせて,目盛の判定がうまくできること。

11.状況に応じた流れの速さを測定できること。

12.気象観測器械の操作ができること。

 

1.農業経営を有利に発展させるには,農業測量の技術の活用によって,農地のあり方を具体的に知ることがたいせつである。

2.農地の事情に応じて,測量のしかたが違う。

3.測点の選び方は,外業の能率や誤差に影響する。

4.平板測量器は,使い方によってあらゆる測量に利用できる。

5.広い地域の測量は折線(おれせん)測量がつごうがよい。

6.経緯距表や計算器は内業の能率を高める。

7.縦横断測量は,工事の計画を立てる手がかりになる。

8.地形図は,工事や村のいろいろな計画の道しるべになる。

9.計算尺は,測量値の大まかな点検につごうがよい。

10.大きい川と小川とでは,水の流れの測り方が違う。

ll.気象の露場は四方が開き,風通しがよく,日当りのよいことが必要である。

12.測量法は,公共測量を行う場合のことを規定している。

 (農業水理)

13.溜池(ためいけ)の付属構造物に作用する静水圧の計算ができること。

14.水銀マノメーターを使って,圧力の計算ができること。

15.水流の落下による馬力計算ができること。

16.水路の断面が一様でない場合の損失水頭が計算できること。

17.ピトー管の上昇水位と流速の関係とが計算できること。

18.必要量の水を流す孔口の設計ができること。

19.簡単な樋門(ひもん)の大きさを計算できること。

20.堰(せき)のかっとうに応じた流量計算ができること。

21.場合にかなった水路の最も有利な断面が決定できること。

22.サイフォンの流量計算が説明できること。

23.かんがいポンプの理論馬力が計算できること。

24.集水池の集水量が計算できること。

25.種類に応じた井戸の揚水量が計算できること。

 

13.水を農業にうまく利用するには,水の性質を理解することがたいせつである。

14.農業のための水利構造物の設計には静水圧の理解がもとになる。

15.かんがい・排水用のポンプには圧力測定機がついている。

16.ピトー管は流れの法則の簡単な応用である。

17.普通の水門の流量係数は0.6〜0.7の値をとる。

18.水門や樋門の流量計算には2/3乗表を用いると便利である。

19.広頂堰(こうちょうき)の流量係数は,堰頂の摩擦・厚さ・水頭等によって違う。

20.水路を流れる水の摩擦は潤辺周界によって違う。

21.開水路のクッター公式はN・D表を用いると便利である。

22.水理上,井戸はいろいろに分けられている。

 (農業造構)

26.材料の強度試験ができること。

27.ボルトや鋲(びょう)継ぎの設計ができること。

28.梁(はり)の断面を鉄筋コンクリートで設計ができること。

29.構造や荷重の状態に応じた梁の設計ができること。

30.鉄柱の断面の設計ができること。

31.鉄筋コンクリートの経済的な擁壁(ようへき)が設計できること。

32.鉄筋コンクリートでサイロの設計ができること。

33.暗渠(あんきょ)の大きさ,厚さが理論的に計算できること。

34.架樋(かけとい)の設計ができること。

35.土堰堤(どえんてい)の設計が検査できること。

36.場合に応じた堰の設計ができること。

37.予算に応じた土橋やコンクリート橋の設計ができること。

38.状態に応じた農道の設計ができること。

39.農作業や衛生・文化を重んじた農家の設計ができること。

 

23.材料はじょうぶでないと破損し,じょうぶにすぎると不経済である。

24.材に働く力は,合成したり分解して求めることができる。

25.継手の一つ一つにも計算がゆきとどいて設計されている。

26.材料によって,梁材のたわみの限度がある。

27.鉄筋コンクリートの擁壁(ようへき)は扶壁(ふへき)式にする。

28.サイロの埋草による内圧は水槽(すいそう)にならって設計すればよい。

29.設計に当っては,風圧力や地震力を考える必要がある。

30.水利構造物の設計は,水庄や浸透水・水圧・浮圧などを考える必要がある。

31.農道の有効幅員や勾配は,目的・農作物・地積経済・営農状態などによって違う。

32.木桁(きた)は,普通にはスパン7.0m限界である。

33.合理的な農家を設計するには,農村の生活と農業生産に対する体験が必要である。

 (土木施工法)

40.目的にかなった土木材料の選定ができること。

41.工事現場の地質の判定ができること。

42.地下水の調査ができること。

43.水質の判定ができること。

44.簡単な石積み・れんが工ができること。

45.コンクリートの配合計算と施工がじょうずにできること。

46.いろいろな土木機械の運転・修理・手入れができること。

47.簡単な工事の計画・監督および検査ができること。

48.工事の見積り計算ができること。

49.簡単な現場小屋の組立建築ができること。

 

34.目的にかなった材料の選択は,材の特徴をつかまなければできない。

35.現場における大地の構成は土木工事に関係が深い。

36.岩石を調べるには,割って中味を調べる必要がある。

37.地下水を調べるには,ありか・移動現象および採水方法を調べる必要がある。

38.地下水面の形状は,地形・帯水層・地表水などによって違う。

39.地下水の水質は土地の地質によって違う。

40.石積みは細工のしかたによって強さが違う。

41.目的によってコンクリートの配合は違う。

42.土木工事の作業は能率のよい順序で行う。

43.下水の水はけぐあいは衛生だけでなく,建物の寿命にも影響する。

44.すべての工事は図面に従って進めるのが効果的である。

 (かんがい・排水)

50.土の組成を見分けることができ,目的に応じてその適否が判断できること。

51.流域の水防設備が設計できること。

52.災害の原因を調査できること。

53.開田地の用水量を決定できること。

54.場合に応じた用水路の設計ができること。

55.水温上昇の施設が設計できること。

56.畑地かんがいの計画が立案できること。

57.頭首工(とうしゅこう)や溜池の位置が選定できること。

58.水量に応じた揚水機の選定,手入れおよび修理ができること。

59.排水量の計算ができること。

60.耕地の過湿の原因を見分けることができること。

61.排水計画ができること。

62.用排水設備の維持管理ができること。

63.機械排水の設計ができること。

64.ざる田や秋落ち田・鉱毒水田などの改良ができること。

65.客土の土量計算ができること。

 

45.土の性質は土層断面によって違う。

46.土の全水量は,植生や耕耘(こううん)・かんがい・排水に深い関係がある。

47.農業災害は気象と密接な関係がある。

48.作物の用水量は,気候・土地・作物の種類によって違う。

49.水稲の適温は水温32℃ぐらいである。

50.かんがい水は肥料分を多く含んでいる。

51.かんがいは用水量の周到な計算に基いて計画される。

52.田畑輪栽は作物の収量に大きく影響する。

53.畑地かんがいに伴って耕地の整理のしかたも違ってくる。

54.水利構造物の設計や位置を決めるには,費用が少なくじょうぶで効果の大きい場所をねらう。

55.農業用としては普通渦巻(うずまき)ポンプが適する。

56.地下水の流速は,薬品の投下や水位の変化によって測定できる。

57.排水は,土の性質,作物の生育や農作業に多くの効果をもたらす。

58.地表水と地下水とでは排水方法が違う。

59.排水路は底幅に比べて深さが大きい。

60.悪水は常に多量の沈澱(ちんでん)物を伴う。

61.暗渠の深さ・傾斜・間隔は,土や地形によって違う。

62.秋落ち田の客土に山土が使われる。

63.客土は2,3年に分けて行う。

64.床締めは水田の土層断面の状態によって効果が違う。

 (耕地整理)

66.郷士の土地利用図が作成できること。

67.開墾(かいこん)適地の判定と簡単な開墾のだんどりができること。

68.場合に応じた抜根作業を行うことができること。

69.郷土の地形と気象状態にかなった防風林の設計ができること。

70.苗木の選定が防風林・防霧林・防潮林の目的に応じてできること。

71.耕耘(こううん)や作付けによる水食(すいしょく)防止の設計ができること。

72.テラス工作,透水溝(とうすいこう)の設計ができること。

73.耕地の地力差を公平に調査できること。

74.営農の規模に応じた区画の大きさを決定できること。

75.地形に応じた用排水路と農道の配置ができること。

76.水田の状態に応じた水の分配ができること。

77.協同施設が便利な位置に選定できること。

78.住みよい農家のデザインができること。

79.美しくて健康な庭造りやかきねの計画ができること。

80.工事設計の目的にかなった営農調査ができること。

81.工事の設計書を書くことができること。

82.郷土の総合開発計画を立案できること。

83.土地改良法に基いた工事の手続が誤りなくできること。

 

65.土地改良事業は農村の繁栄をもたらす基本的なものである。

66.開墾工事は周到な用意とともに開墾後の利益計算がたいせつである。

67.抜根の方法には,焼却・火薬・機械および手動式抜根がある。

68.干拓地の締切工事のよしあしはその事業の成否にかかわる。

69.いねの直まき栽培は塩分に対する抵抗が強い。

70.潮風の防止にはまつがすぐれている。

71.防風林は形によって効果が違う。

72.水食(すいしょく)は,耕耘と施工,作物の耕作を計画的に行えば防げる。

73.20°以上の傾斜地には階段工を施す。

74.地力は,収穫量・土・日照・地形・経営状態等がその中に含まれる。

75.耕地の大きさや形態は,営農規模・土地経済・用水経済に関係が深い。

76.農地は,水路・道路・区画・宅地などを適当に組み合わせればいっそう有効なものとなる。

77.交換分合には,水利権・採草地・水利施設が含まれる。

78.住居や協同施設の配置は,村の機能をうまく発揮できるようにする。

79.土地改良工事は,周到な調査とともに工事終了後の利益計算がたいせつである。

80.土と水の利用は,流域一帯のつながりの中に立案できる。

81.土地改良は民主的な方法によって設立された土地改良区が行う。

 

第3.「農業土木」の教育内容

(農業測量)

 距離の測り方,側鎖側量・平板測量・コンパス測量・トランシット測量・面積計算,図の拡大・縮小,水準儀測量・等高線測量・土坪計算・スタデヤ測量・地形測量・路線測量・流量測定・トンネル測量・三角測量・青写真法・計算尺使用法とその原理,気象観測とその器械。 (農業水理)  農業と水,水の性質,静水圧・浮力・動水・孔口・堰(せき)・開水路・管路・衛画水・地中水・河川の水理。 (材料施工)  土木と地質,地下水探査,木材の選定と施工,竹の選定と施工,石材の選定と施工,土とその施工,コンクリート工,金属材料と施工,鉄筋コンクリートの施工,基礎工・橋脚工・暗渠工・拱(きょう)橋工・墜道(いどう)工・道路工・河川工,土木機械,仕様と工事費計算。 (農業造構)  材料の強さ,力の合成と分解,梁(はり)・柱・トラス・組合せ応力・鉄筋コンクリート梁・擁壁,暗渠・開水路と樋(とい),堰堤(えんてい),堰と水門,農具・農道橋・農村建築・設計製図。 (かんがい・排水)  土と作物,水と作物,農業と災害,水田のかんがい,畑地のかんがい,水源,かんがい工,排水量,開水路と暗渠,機械排水,土の改良,客土の床締め。 (耕地整理)  耕地整理の沿革,開墾,干拓と埋立,耕地の形態と組織,防風林,土の侵食,地力,区画整理,交換分合,村づくりと住まい,農村の衛生施設と美化,耕地整理の調査,設計および計画,設計書と仕様書,土地の改良法。

 

第4.地方の必要に応じた教育課程構成への適用

1.農業土木は,農村の生活や農業生産を対象として行われる事業であるから,学校における学習と合わせて,その地方の必要とする農業土木事業の実情を調査させ,そのことを通じて常に農村に密着し,農業土木の各分野の総合的なはあくを行わせるよう指導することがたいせつである。

2.農業土木課程は,初級技術者ならびに農業土木の実際的技能をもった,農村人の養成が目的であるから,「総合農業」をとらないで,耕種・農業工作,その他に分科された科目をとり入れて指導するか,または,第10学年に「総合農業」をとり入れることが望ましい。

3.農村の必要とする農業土木技術を習得するために,夏休みの実習には官庁・協同組合・土地改良や土木会社等の指導を受けて校外実習を行うことが必要である。また,最終学年(第12学年)には,農村を対象とした総合実習を課して一つのまとまった研究をさせ,総合的な計画設計のできる能力を養うことが必要である。